musasabi journal

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287号 2014/2/23
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書

今年の雪にはほとほと参りました。埼玉の山奥には1メートルも積もっており、我々の手にはとても負えない。と思っていたら、梅が咲き始めました。春は来ているのですね!

目次

1)ビッグマックの値段が語るもの
2)キャメロンの「女性問題」!?
3)シャイの自己主張
4)米国の言うとおりにして疎まれる?Shinzo Abe
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
*****
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1)ビッグマックの値段が語るもの

The Economistが毎年発表するBig Mac Index(BMI:ビッグマック指数)については、むささびジャーナルでも何度か紹介したことがあります。世界中にある、あのマクドナルドで売っているビッグマックの値段の国際比較です。最近(2014年1月23日)のBMIは次のようになっています。
それぞれの国におけるビッグマックの値段を米ドルに換算して比較したものなのですが、実際には56カ国が比較されています。ビッグマック指数は本来、為替レートの相場を考える際の目安とするものなのですが、それはむささびには荷が重すぎるというわけで、単に値段の比較だけを紹介することにします。

あなたがアメリカへ旅行してマクドナルドに入り、ビッグマックを注文すると4.62ドルとられる。1月23日現在の円ドル交換レートは1ドル=104円だったから、ビッグマック一つが480円強ということになる。でも日本で買うと310円。かなり違う。いちばん高いノルウェーへ行く人は気を付けた方がいい。ビッグマック一つだけで7.80ドル(813円)もとられます。そのかわりインドだと160円ですむ。

ここをクリックすると56カ国すべての値段が分かるのですが、日本は56カ国中の42位だからビッグマックの値段に関する限りかなり安い部類に入る。ちょっと興味深いのはビッグマックの値段と国民一人当たりの総生産(GDP per person)の相関関係ですね。ノルウェーの国民一人当たりの総生産は97,607ドルで、最も高い。スイスは83,073ドルで3番目です。南米のベネズエラとブラジルの一人当たりの総生産は、13,000ドル台なのになぜかビッグマックの値段はやたらと高いのがミステリーです。

いずれにせよ国民一人当たりの総生産が上位に入る国ほどマックの値段は高くなっているのですが、日本(45,870ドル)と似たような数字であるフランス(44,007ドル)におけるビッグマックの値段(5.15ドル)は相当に高いですね。英国(38,811ドル)では4.63ドルだからアメリカとほとんど同じ。要するに日本におけるビッグマックの値段は、いわゆる「先進国」の中では異常に安いということになる。

このあたりのことについて、龍谷大学の竹中正治教授は「ファストフード業界の競争が日本では厳しいことを意味するのだろうか?」としたうえで
  • アメリカとの比較で言うと、確かにカジュアルなランチ類の価格は日本の方がずっと安くて質が高いと経験的に思う。安くて美味しい国、日本ですな・・・(^_^;)
と言っています。

▼雑学ですが、世界中にあるマクドナルドの数は119カ国にざっと33,000軒。一番多いのは当然アメリカで14,146軒ですが、アメリカ以外で最も多いのは日本の3,096軒で、英国は1,344軒だそうです。私と妻の美耶子の体験的観察によると、英国におけるマクドナルドは日本に比較すれば影が薄いという感じだった。

▼気になるのは龍谷大学の竹中先生のコメントです。日本ではファストフード業界の競争が激しくて、その分だけ値段が安く質の高いランチが楽しめる・・・というので先生は(^_^;)マークなんか入れて面白がっているけれど、おそらく「ブラック企業」が多くて、働いている人たちが超低賃金で使い捨てにされているということも、安いビッグマックの背景の一つなのではないのか?だとすると「安くて美味しい国、日本ですな」とか言って、ヘラヘラ笑っている場合か!と言いたい。

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2)キャメロンの「女性問題」!?
 

2月10日付のファイナンシャル・タイムズ(FT)のサイトに
という見出しのエッセイが出ています。書いたのは左派系週刊誌、New Statesmanのヘレン・ルイス(Helen Lewis)編集長。エッセイの趣旨はキャメロンが党首を務める保守党にはもっと女性が必要だということなのですが、2月5日の下院におけるエド・ミリバンド労働党党首とキャメロン首相のやりとりにインスピレーションを得ている。

英国下院(House of Commons)のサイトにHansardというコーナーがあります。議事録ですね。その日に行われた審議のいろいろが速記録として文字で読むことができる。ちょっと可笑しいのは、発言中のヤジがうるさくて聞こえない場面が結構あり、そのたびごとに議長が「静粛に・静粛に(order, order)」と割って入り、場合によっては特にヤジがうるさい議員を名指しで「アンタ、いい加減にしろよ」という注意を与えたりしている言葉まで忠実に再現されていることです。

で、2月5日のやりとりですが、まずミリバンド党首が
  • 首相は、2014年には女性の社会的平等に向けて指導的な役割を果たしたいと述べていますが、保守党内の女性の平等はどうなっているのか?
    The Prime Minister said that in 2014 he was going to lead the way on women’s equality. Can he tell us how that is going in the Conservative party?
と質問する。

これに対してキャメロン首相は、女性の平等が「わが国にとって素晴らしくも重要な問題だ」(fantastically important for our country)と前置きしたうえで
  • 自分としては女性の議員が17人から48人にまで増えた党のリーダーであることを誇りに思っているが、もっと増やさなければと思っている。
    I am proud of the fact that while I have been leader of the party the number of women Conservative MPs has gone from 17 to 48, but we need to do much more.
と答える。さらに自分が首相になってから働く女性の数がかつてないほどに増えている、1100万の女性のために減税もやっている、年金支給における女性差別を廃止した・・・いろいろやっているではないかというわけです。その後、議場内がヤジのうるさい状態が続く中でキャメロンが放った次の言葉がさらなるヤジを招くことになる。
  • ひとこと言っておきたい。それは、保守党こそが女性の首相を生んだ政党である事実であります!
    Let me make this point: this party is proud of the fact that we had a woman Prime Minister!
これに対するミリバンド党首の反応は:
  • 首相はサッチャー夫人のことを述べたけれど、(キャメロン)首相と違ってサッチャー夫人は保守党の党首として何度も選挙で勝っています。
    The right hon. Gentleman mentioned Lady Thatcher. Unlike him, she was a Tory leader who won general elections.
というものだった。確かにサッチャーさんは1979年、83年、87年の3回、保守党を率いて選挙で勝っており、キャメロンは2010年の選挙で単独過半数をとることができなかったのだから、ミリバンドの言うことは事実には違いない。が、国会における党首討論とも思えない揚げ足取りのようなやりとりです。それとサッチャーさんは女性首相・党首であったかもしれないけれど、彼女が首相の座にあった11年間で女性の閣僚はたった一人だけだったのだから、キャメロンがサッチャーを持ち出すのは失策だった、とヘレン・ルイスは指摘している。

英国における次なる総選挙は、2015年5月7日に行われることに決まっているのですが、今のところの支持政党に関する調査では大体において労働党が有利となっており、特に女性有権者の間では約10ポイント差で保守党がリードを許している。
  • 有権者の半分である女性に対して、女性のことを真面目に考えていると納得させようと思えば、キャメロンがやっているように、単に自分が女性の味方(フェミニスト)であると言っているだけでは充分ではない。言葉は政策や閣僚への(女性の)起用によって支えられる必要がある。
    It takes more than calling yourself a feminist, as the prime minister does, to convince half the electorate you take women seriously. You have to back it up with policies and promotions.
とヘレン・ルイスは言っている。現在の内閣には女性の閣僚が4人いるのですが、ルイスによると、保守党は女性閣僚の存在を「我慢して受け入れるべき存在」として扱っている。現在のところ労働党の全議員(255人)のうち31%(86人)が女性であり、14人が影の内閣の閣僚として登用されている。304人中48人の保守党とはだいぶ違う。

「女性問題」もさることながら、現在の保守党にとって頭痛のタネとなっているのが年代ギャップです。保守党員の数は年々減っており、党本部の発表では約13万人とされている。ヘレン・ルイスのエッセイによると保守党員の平均年齢は68才。なのに保守党の国会議員になろうかという活動家には30~40代が多い。例えば同性愛者の結婚とかワーキングマザーの福祉のようなハナシになると、党員と立候補者の間でかなりの意見の隔たりが出てくる。キャメロンが39才で党首になったのは2005年、それ以来党員の数が激減、本当は10万人を切っているのではないかとも言われている。つま若い党員を増やさない限りり保守党に未来はないということになる。

▼国際議会連盟(Inter Parliamentary Union)のサイトに190カ国の議会(下院・衆議院)における女性議員の比率表が出ています。最も高いのはアフリカのルワンダで63.8%(80人中の51人)、次いでフランスとスペインに挟まれたところにあるアンドラ公国が50%(28人中14人)、キューバが48.9%(612人中299人)などとなっています。それ以外ではスウェーデンが45.0%(349人中157人)、フィンランドが42.5%(200人中85人)、中国23.4%(2987人中699人)、英国22.5%(650人中146人)、アメリカ17.8%(432人中77人)、韓国15.7%(300人中47人)などとなっています。日本ですか?190カ国中の121位、8.1%(480人中39人)というのだからお笑いですよね?

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3)シャイの自己主張
 

上の写真(クリックすると大きくなる)は1986年1月にパリで撮られたものなのですが、背中を押されている男性はファッション・デザイナーのイブ・サンローラン。その夏の春・夏ものの発表会で彼の作品がバカ受けというわけでステージに無理やり上がらされようとしているのですが、イブ・サンローランはファッション・デザイナーだというのにシャイ(shy)な人で、ステージに上がるのを非常に嫌がったのだそうですね。

shyという言葉は「シャイ」という日本語にもなっていますが、ちょっと興味深いと思うのは、英和辞書で見ると「恥ずかしがり」 「内気」「はにかみ」「引っ込み思案」etcというぐあいにいろいろと訳語らしきものが出ているのに、Cambridge Dictionaryには "nervous and uncomfortable with other people"(他人と一緒にいることに神経質で落ち着かない思いをする)とだけしか出ていない。英語の場合はどちらかというと否定的な感情・感覚として説明されているけれど、日本語の「内気」「はにみ屋」は必ずしも否定的な説明とは思えない。

英国リバプール・ジョン・ムーアズ大学のジョー・モーラン教授は自分自身をシャイな人間と考えているのですが、その彼によると
  • シャイであるということは人間であることの一部であり、シャイがないと世の中は無味乾燥で創造性もない場所になる。
    Shyness is a part of being human. The world would be a more insipid, less creative place without it.
のだそうです。aeonというサイトに寄稿した「透明な壁」(The crystalline wall)というタイトルのエッセイに出ています。自分で自分をシャイだと思っている人によるシャイ論も珍しいと思うのでなるべく簡単に紹介します。ここでは教授が使っている"shy"とか"shyness"という表現をカタカナで「シャイ」とさせてもらいますが、意味としては「他人とうまく付き合えない性格」というような、欧米の常識では「できれば直したい」性格の代名詞のようなものを意味すると考えてください。

社交パーティーに招かれたのに遅れてしまい、「3杯目に入った」(about three glasses in)ころに会場に到着したときのような気分・・・つまり先着のゲストたちが飲み物をやりながら会話をはずませて3杯目に入るころには充分に打ち解けて、会話もそれなりに面白いものになってくる。その頃に到着すると、なかなか会話に加わるのが難しくて、何となく仲間外れになったような気分になる・・・モーラン教授によると、それがまさに「シャイである」(being shy)状態なのだそうです。

進化論を唱えた、あのチャールズ・ダーウィン(Charles Darwin)は、シャイは人間にとって何の利益ももたらすことがない(no benefit to our species)にもかかわらず人間が引き継いでいるものであり、その意味では「奇妙な心の状態」(odd state of mind)だと表現している。アメリカの心理学者の研究によると、幼児の10~15%が「生まれつきシャイ」(born shy)なのだそうです。すなわち怖がりで、社会性・社交性に欠け、ちょっとした緊張状態にもすぐに心臓がどきどきし、血液中のコルチゾールと呼ばれる成分が増えてしまう。ジョー・モーラン教授は、欧米では「シャイである」(being shy)ことが、場合によっては薬によって治癒すべき「病(やまい)」であると考えられているとしている。

また、いまから40年以上も前にスタンフォード大学の心理学の教授が約1万人もの人々に面接してシャイ加減に関する調査をしたことがあるのですが、それによると8割以上もの人が「人生の中でシャイな状態であったことがある」と答え、4割が「いま現在シャイだと思う」と答えたのだそうです。この教授はその後もシャイ調査を続けたのですが、いまから15年前(1999年)の調査では、自分がシャイであると思っている人が6割にまで増えたのだそうです。スタンフォード大学の教授はその現象をインターネットの発達と関係していると考えており、現代は人間同士の生身のコミュニケーションが存在しない新しい氷河期(a new ice age of communication)なのだと言っている。すなわちシャイは「個人の問題」(individual problem)から「社会的な病」(social disease)になったのだと主張しているわけです。

シャイと似たような性格にintrovertというのがある。「内向的」という意味です(反対語はextrovert)。一昨年、アメリカで話題を呼んだ本に"Quiet"というのがある。むささびは読んだことがないのですが、サブタイトルが「おしゃべりを止めることができない世の中における内向的人間のパワー」(The Power of Introverts In a World That Can’t Stop Talking)となっています。会話上手とか社交性のような性格が重宝がられるいまの世の中ですが、内向的人間は、物事を慎重に考えて行動し、金や社会的なステイタスも気にせず、他人のことを考える思いやりがあり・・・というぐあいに、この本では「内向的」であることが大いに称賛されている。

シャイ人間であるモーラン教授によると、「シャイ」と「内向的」とは似て非なるものなのだそうです。内向的人間(introverts)というのは、多くの人々と長い時間接すると脳に刺激がかかりすぎて疲れてしまうような性格のことを言う。しかし人間嫌いというわけではないし、他人との交わりを拒否するわけではない。「外向的人間」(extroverts)のように派手派手しい社交性のようなものは苦手であるというだけのことです。

それに対してシャイ人間は、他人との交わりを渇望しているのに恐怖心や「場違い感覚(awkwardness)」が邪魔をしてそれが出来ない。そして外向人間たちが楽しげに会話を楽しんでいるのを見ると「表面的に言葉のやりとりをしているだけ」で社交的な世界を「口先だけ」(glib)と考えたがる。自身がシャイであると思っているモーラン教授によると、シャイであることに積極的な意味はないのだそうです。つまりシャイ人間は思いやりがあるとか考え深いなどということはない。
  • 殆どの場合(シャイであることは)単に苦痛であり、自分にとっても負担でしかないのだ。
    Mostly it is just a pain and a burden.
と言っている。

それでも人間との交わりを渇望しているのにそのことに恐怖心を持つ、というシャイ感覚は人間であることの一部となっている。相手の心やアタマの中へ入ることはできないのだから、人間関係に曖昧さや不安が伴うのは当たり前である・・・ということをシャイが教えてくれる、と教授は言います。人間とのコミュニケーションを試みるということは暗闇に向かって身を躍らせるようなもので、相手に理解してもらえるという保障などどこにもない。
  • それが厳然たる事実なのだから、人間、少々のシャイネスは充分に理解できるものなのだ。
    Given this obdurate fact, a little shyness around each otheris understandable.
と教授は主張します。人間関係を怖がるということは、程度の差こそあれ誰にでもある。シャイは自意識(self-consciousness)というものがもたらす極めて人間的な現象なのだとして教授は次のように結論を書いています。
  • 人間には親密な関係を必要とする部分はあるかもしれないが、世の中と相対するときは究極的には独りであり、他人の生活や心のうちに入ろうとするとそれなりの努力が必要となるし、困難さも伴う。シャイであるということは私を他人から引き離すものではない。むしろそれは我々をつなぐ共通の糸のようなものなのだ。
    For all our need for intimacy, we ultimately face the world alone and cannot enter another person’s life or mind without effort and difficulty. Shyness isn’t something that alienates me from everyone else; it’s the common thread that links us all.
シャイであることを「病気」とまでは言わないにしても「避けるべきこと」としか考えない「自分たちの文化」(欧米の文化)に対するシャイ人間の自己主張です。

▼「シャイ=ダメ人間」という考え方は、ここ20年~30年の日本にもあるのでは?大きな声で理路整然とした語り口で自己主張をすることが人間として優れているかのように思われるという習慣です。特にテレビメディアの発達によってその種の評論家やジャーナリストが歓迎される。話の中身ではなくて話し方で評価されてしまう。おそらくアメリカではもっと古くからそうであったのだろうと想像しますが、それに対する反発もまた結構あるのもアメリカですね。

▼このシャイ教授は大学で文化論を教えているのですが、シャイであるにもかかわらず学生の前で講義をすることは全く平気なのだそうです。苦手なのは学生との質疑応答なのだとか。教授の感覚では、講義の部分はいわば「演技」(performance)であって自分はそこにいないという気分なのに対して、何を聞かれるか想像がつかない質疑応答では「本当の自分が暴露されてしまう」(I will be found out)という気分に陥るらしい。

▼ここで紹介されているQuietという本の著者サイトに、あなたが外向的人間(extrovert)なのか、内向的(introvert)なのかを診断する質問が出ています。その中に「話す前に考えるタイプだ」(I tend to think before I speak)という文章があって、それを自分と同じだと思うかどうかで、外向的か内向的が分かるというわけです。あなたはどうですか?この続きは「むささびの鳴き声」で触れさせてもらいます。

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4)米国の言うとおりにして疎まれる?Shinzo Abe

 

2月19日付のファイナンシャル・タイムズ(FT)のサイトに掲載されたコラムニスト、デイビッド・ピリングの記事は次のような見出しになっています。
この中にあるregretsという言葉のお陰で見出し全体が日本語に直しにくいのですが、むささびが訳すと
  • ワシントン(アメリカ政府)は正に自分が望んだ「安倍晋三」を手に入れたのに、これに手を焼いている
となります。regretは「後悔する」とか「情けなく思う」ということです。別の言い方をすると、安倍首相になって良かったと思ったのに「こんなはずではなかった」ということ。見出しの意味するところを説明するかのように、記事のイントロは
  • The US fears that Japan’s departure from postwar pacifism will provoke Beijing
    アメリカは日本が戦後の平和主義から決別しようとしていることが中国を刺激するだろうと怖れている
となっています。

ピリング記者によると、安倍晋三の日本と習近平の中国の関係を推し量ることは簡単だそうです。すなわち、お互いが嫌い合っていて、安倍も習も政策遂行のためにナショナリズムの高まりを利用しており、お互いが相手の国に「手ごわいヤツ」(tough man)がいてくれた方が好都合だと思っているということです。中国にしてみれば、妙に物わかりのいい人間が日本の首相であるよりも、箸にも棒にもかからないような人間の方が中国国内をまとめやすいということ。同じことが安倍さんにも言える。

ピリング記者にとって分かりにくいのが日米関係です。これまで日本はアメリカにとってアジアで最も重要な同盟国であり、平和憲法の存在にもかかわらず、たくさんの米軍爆撃機と兵隊を受け入れてきた。そしてアメリカは日本が防衛面での「ただ乗り国家」(freeloader)であるとしてたびたび文句を言って来た。そんなことが何十年も続いた挙句、日本の防衛力を強化することを口にする安倍晋三が登場したのだから喜んでいいはず。なのに・・・
  • 長い間にわたって自分たちが追求してきたもの手に入れたというのに、ワシントンはびびっているような様子を見せているのだ。
    Yet having attained what it has long been after, Washington is showing signs it is getting cold feet.
アメリカ政府が安倍政府に違和感を持ち始めたことを象徴したのが、安倍さんの靖国訪問に関して使われた“disappointed”という言葉だった、とピリング記者は言います。日本語の"shitsubo:失望"は(ピリングによると)厳しい(harsh)響きを持っており日本側もぎょっとした。他にもある。バージニア州議会が教科書で日本海とともに東海という言葉を併記することを決めたことは、アメリカの政治家たちが安倍さんの歴史観に憂慮の念を抱いていることを示しているとピリングは言います。

ただ、最近の状況を日本側から見るならば、
  • もはやアメリカ政府は日本に対するサポーターとしては信頼することができない、という声が高くなっているということを口にする日本の政府関係者は一人や二人ではない。
    More than one official in Tokyo speaks of a growing sense that Washington can no longer be relied upon to support Japan.
とピリング記者は報告します。

例えば中国が防空識別圏を発表したときにも、アメリカは申しわけ程度に爆撃機を飛ばしたりしたけれど、バイデン副大統領が北京を訪問した際にはさしたる話題にはならなかった。オバマ大統領の側近にも「ジャパン・ハンド」と言われる知日派の人物がおらず、ほとんどが中国よりの人間だけである、と日本の政府関係者は不満をもらしている。

安倍さんにしてみれば、このような状況は皮肉としか言いようがない面がある。終戦後の1947年に現在の憲法がマッカーサーの命令で作られたけれど、そのインクも乾かないうちにアメリカは日本から「交戦の権利」(the right of belligerency)を取り上げたことを後悔し始める。そして日本占領を終了する際に日本に対して30万~35万人程度の軍隊を作るように強く求めた。中国が共産主義となり、アメリカも朝鮮戦争を戦う中で、東アジアに非武装中立国家なんぞ要らない・・・とアメリカは考えた。
  • あれから60年、日本はアメリカの言うことを言葉通りに受け取るリーダー(安倍晋三)を持っているではないか。
    Now, six decades later, Japan has a leader willing to take the US at its word.
なのにアメリカにはケリー国務長官のように日本を「何をするか分からない危険な存在」(unpredictable and dangerous)と呼ぶ声も出ている。日本のナショナリズムが中国の反発を呼ぶことに神経質になっているわけですが、ピリングによると、オーストラリア国立大学のヒュー・ホワイト教授(安全保障)は
  • アメリカは中国と対立するリスクを負うよりも日本の利益を犠牲にする方がいいと思っている。
    America would rather see Japan’s interests sacrificed than risk a confrontation with China.
と述べている。

ピリング記者は、安倍さんは靖国訪問によってアメリカにある種のメッセージを送りたかったのではないかと考えている。
  • アメリカの希望に反して靖国を訪問することで、日本はいつもいつもワシントンの言う通りにはならないというシグナルを送ったということだ。
    Going to Yasukuni in defiance of US wishes is one way of signalling that Japan cannot always be relied upon to do Washington’s bidding.
ピリング記者によると、日本の右派勢力の奇妙なところは、日米同盟を熱烈に支持する一方で、敗戦国・日本に対してアメリカが行ったさまざまな「押し付け」には反発することなのだそうです。 

いうまでもなくワシントンは安倍さんの何から何までが気に入らないというわけではない。彼の経済成長政策はいいと思っているし、安倍さんは長年にわたって日本の首相が解決できなかった沖縄の米軍基地問題を解決している。さらにこれまで日本が自分に課してきたGDPの1%以下という防衛費まで増やそうとしている。どれもこれもアメリカの期待通りだ。が、それにはちゃんと「値札」(price tag)がついている。すなわちアメリカが嫌う歴史修正主義とナショナリズム(revisionist nationalism)という値札である、とピリングは言います。

前述のオーストラリア国立大学のホワイト教授は、中国が大きくなると日本はそのパワーについてますます不安を覚える一方で、アメリカが自分たちを守るということへの信頼感はますます低くなる・・・としたうえで次のようにコメントしています。
  • アメリカは日本の中核的な利益を保護することにはっきりとコミットするか、1945年(終戦)以後に日本が放棄した戦略的独立を再度手に入れることの手助けをするか・・・どちらかを選ばなければならない。
    The US must either commit itself unambiguously to defend Japan’s core interests or help Japan regain the strategic independence it surrendered after 1945.
「アメリカは日本の対中国防衛にもっときっちりコミットするのがイヤなら、70年も前の敗戦で日本がギブアップした独立国家としての資格を取り戻すことに協力しなければならない」と言っている。どっちつかずはダメだと言っている。この文章の中の「戦略的独立」(strategic independence)とただの「独立」とどう違うのか?むささびには不明です。

で、ピリング記者のエッセイは
  • (アメリカが直面するこのようなディレンマに対する)日本なりの答えは、これまで以上にしっかりとアメリカにかじりついた上で、離れて行くということなのである。
    Japan’s answer to that dilemma is to hold on ever tighter to America - and to pull away.
という文章で終わっています。

▼最後の結論の意味するところですが、日本と中国に挟まれアメリカがおたおたしている一方で、日本はこれからも日米同盟にしっかりとこだわっていくけれど、いずれはアメリカから離れて行くだろうと言っているようにとれる。違います?むささびジャーナル284号に掲載した「いま第一次世界大戦を考える意味」という記事ではThe Economistが考える今後の日本・中国・アメリカの関係と第三次世界大戦の可能性を紹介しましたが、その中でも東アジアの安定にアメリカが積極的な役割を果たそうとしていないのが嘆かわしいということを言っていましたね。

▼コラムニストのデイビッド・ピリングがFTに入ったのがほぼ25年前の1990年。現在はFTのアジア担当エディターとなっているのですが、2002年から2008年までFTの東京支局長だった。この記事の原文をお読みになるときは、ぜひ読者からのコメントもお読みになることをお勧めします。ピリングを「日本寄り」と非難する意見もあるし、「よく言った」と言う意見も大いにあります。この種のコメントがどの程度「世論」を反映しているのかは分からないけれど、それなりの影響力のようなものはあるのではないかと思います。やじ馬の声としての影響力です。

▼もう一つ、アメリカのギャラップが行った世論調査によると、中国を好意的に(favourably)に見ているアメリカ人は43%、快く思わない(unfavorably)人は53%に上っています。2014年2月20日に発表されたものなのですが、ここをクリックするとアメリカ人の中国観の移り変わりが出ています。34年前(1980年)の数字によると、「好意的」が64%、「快く思わない」が25%となっています。
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5)どうでも英和辞書
 A-Zの総合索引はこちら 

disappointment:失望

上に載せたデイビッド・ピリングのエッセイの中でピリングは、昨年12月末の安倍さんの靖国訪問に対してアメリカ政府が“disappointed”という言葉を使ったことに触れ、日本人は「ぎょっとした」(taken aback)と言っています。なぜなら日本語の「失望」が厳しい響きを持っているから・・・というのですが、「失望」という日本語にはそれほど「厳しい」響きがあります?それはともかくdisappointmentという英語はどのようなニュアンスを持つ言葉なのでしょうか?例文を二つほど挙げてみます。
  • There can be no deep disappointment where there is not deep love. 深い愛情が無ければ深い失望の念もない。
    これはマーチン・ルーサー・キング牧師の言葉です。
  • America is a great disappointment to me. As I said in one of my books, other societies create civilisations; we build shopping malls. アメリカには大いに失望する。私の本でも書いたとおり、他の国の社会で文明が生まれるところに我が国にはショッピングモールが出来るのだから。
    これは作家のビル・ブライソンの言葉です。それほどharshですか?
安倍さんの靖国訪問に関するアメリカ大使館の声明は、まず「日本はアメリカにとって貴重な同盟であり友人である」(Japan is a valued ally and friend)と言ってから
  • Nevertheless, the United States is disappointed that Japan's leadership has taken an action that will exacerbate tensions with Japan's neighbors.
むささびにはそれほど「厳しい」とは思えないのですが。もちろん批判には違いないけれど・・・。
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6)むささびの鳴き声
▼三つ目の「シャイ」に関する記事の中に、シャイとは似て非なる概念として内向的(introvert)というのがあると書いてあります。反対は外向的(extrovert)です。この件について、心理学の専門家に聞いてみたところ、「ユングの性格心理学」というのがあって、それによると外向的な人間は「外的なところ(他人との対話や交流など)」にエネルギー源を求めるのに対して内向的な人は「内的なところ(自分自身の内面)」にエネルギー源を求めるのだそうです。

▼その専門家の言うことで非常に面白いと思ったのが、内向人間と外向人間の思考プロセスの違いです。内向人間は「しゃべる前に考える」けれど、外向人間は「考える前にしゃべる」ということ。別の言い方をすると、「考える」という作業を自分の頭の中でするか、言葉として口に出すことで自分の外に出して「考える」かの違いであるとのことであります。

▼むささびが特に興味深いと思ったのは、「考える前にしゃべる」というのを「言葉を外に出して考える」という捉え方をするということです。言い換えると「外向人間」は自分の「考えらしきもの」がアタマに浮かぶと、ついそれを口に出して他人に投げてしまう。投げられた相手も「外向人間」であった場合、すぐに投げ返してくる。さらにそれを投げ返して・・・という過程を経ることが「考える」ということになる。しかし相手が内向人間であった場合は「なるほど、そうだねぇ・・・」ということで直ぐに返事が返ってこない。しかし返ってきた場合は、外向同士のキャッチボールの3~4回分にあたるくらいの思考を経たものになっている。

▼どちらがいいというハナシではないし、誰でも両方の要素を持っているものだと思うけれど、外向人間=軽薄なお喋り野郎というわけではないという意味にはなる・・・と、考えたいわけです、外向人間的色彩が強いむささびとしては。で、あなたはどちらですか?しゃべる前に考えますか、それとも反対?


▼四つ目の"Shinzo Abe"に関するデイビッド・ピリングの記事について、語りたいことはわんさかあるのですが、ありすぎてまとまらないので一つだけ言わせてもらいます。アメリカ政府の当局者たちが、現在の日本は「何をするか分からない危険な存在」と言っているそうですが、日本人であるむささびも安倍晋三、石原慎太郎、tamogami-what's-his-nameのような人たちにそれを感じます。あいつらオレたちのことをなめてやがる・・・という劣等感に凝り固まった人たちは日本の専売特許ではない。中国や韓国には彼らバージョンのShinzo Abeがいると思うのですが、それは彼らの問題であって日本人には何もできない。しかしJapanese Shinzo Abeは我々の問題です。

▼今回もお付き合いいただいたことに感謝します。
 
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ラーメン+ライスの主張
「選挙に勝てる党」のジレンマ
オークの細道
ええことしたいんですわ

人生は宝くじみたいなもの

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イラクの人質事件と「自己責任」

英語教育、アサクサゴー世代の言い分
国際社会の定義が気になる
フィリップ・メイリンズのこと
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新聞の存在価値
幸せの値段
新聞のタブロイド化

2005
やらなかったことの責任

中国の反日デモとThe Economistの社説
英国人の外国感覚
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2006
The Economistのホリエモン騒動観
捕鯨は放っておいてもなくなる?
『昭和天皇が不快感』報道の英国特派員の見方

2007
中学生が納得する授業
長崎原爆と久間発言
井戸端会議の全国中継
小田実さんと英国

2008
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犯罪者の肩書き

British EnglishとAmerican English

新聞特例法の異常さ
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小田実さんと受験英語
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「日本型経営」のまやかし
「異端」の意味

2010
英国人も政治にしらけている?
英国人と家
BBCが伝える日本サッカー
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東京裁判の「向こう側」にあったもの


2011
「日本の良さ」を押し付けないで
原発事故は「第二の敗戦」

精神鑑定は日本人で・・・

Small is Beautifulを再読する
内閣不信任案:菅さんがやるべきだったこと
東日本大震災:Times特派員のレポート

世界ランクは5位、自己評価は最下位の日本
Kazuo Ishiguroの「長崎」


2012

民間事故調の報告書:安全神話のルーツ

パール・バックが伝えた「津波と日本人」
被災者よりも「菅おろし」を大事にした?メディア
ブラック・スワン:謙虚さの勧め

2013

天皇に手紙? 結構じゃありませんか

いまさら「勝利至上主義」批判なんて・・・
  
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