musasabi journal
発行:春海二郎・美耶子
第77号 2006年2月5日 

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寒い日は続いているのですが、少なくとも日が長くなったので嬉しい気分です。それにプロ野球のキャンプも始まったし・・・。毎度、むささびジャーナルです。その昔、ジョージ・バーナードショーという劇作家(アイルランド人?)がいて、Minority could be wrong. Majority is always wrongと言ったそうです。「少数(意見)にも間違いはある。ましてや多数(意見)はいつも間違っている」というわけです。Majorityを「常識」、 Minorityを「非常識」という日本語に置き換えるともっと分かりやすいのでは?で、「人の心は金で買える」というホリエモンの言葉を間違っているという意見は、今の日本ではMajority?それともMinority?

1) The Economistのホリエモン騒動観
2) 教育改革の四苦八苦
3) 英国でも「格差」が広がっている?
4) 短信
5) 編集後記

1) The Economistのホリエモン騒動観

The Economistの2月4日号の社説が、日本のホリエモン騒動をについて語っています。題してSaving Japan from the shadows。「日本を様々な影から守る」と訳してもイマイチ分からないけれど、記事の内容からすると、日本におけるビジネスのやり方の訳の分からない部分、不明瞭な部分(shadows)を払拭しようという意味のように思えます。記事はJapanese firms really are cleaner, more determined and more focused. But they need better regulation(日本企業はクリーンだし意志が強くて目的意識もはっきりしている。彼らに必要なのはよりよい規則だ)というイントロで始まっています。

The Economistによると、「何か大きなことをやるのでは」と期待させて自社の株価を吊り上げるという堀江氏のやり方は、キャピタリストによる「自信ありげなふりをするトリック」(confidence-trickery) という手法で、昔からどこでも行われているものだが、堀江氏の場合はこれを「不明朗な会計と市場操作」(obscure accounting and market manipulation)という、極めて日本的なやり方と組み合わせて行ったとのことで、過去20年間の日本における金融スキャンダルは大体この手法が絡んでいる(Virtually every Tokyo financial scandal of the past 20 years has featured those arts)と指摘しています。

同誌によると、堀江氏はまた日本の証券取引法の弱点とその適用における遅さをも利用したとのことで、彼の行った時間外取引とか株分割などは「完璧に合法」かもしれないが、金融市場が適性に規制さえされていれば許されなかった類の行動だとされています。日本では、過去20年間にわたって政官財が非公式に市場を支配するというやり方から、明確な法律とそのオープンな施行というやり方に変わってきているが、さまざまな分野でより適切な規制が行えるような改革が必要であるとしています。その例として、証券取引監視委員会や公正取引委員会におけるスタッフの数の大幅な増員が必要だとしています。

規制強化といっても、小泉さんによる「小さな政府」を目指す「改革」と矛盾するものではないというのがThe Economistの主張です。同誌によると、公務員の数とか公共投資の額などからいって、日本の政府は他の先進国のそれに比べても十分に小さい。問題なのは日本の場合、ルールを明確に定め、これを施行するのではなくて、政府が勝手に(at will)金融市場その他に「干渉」することであるとのことです。

で、ホリエモンが没落したり、規制が強まったりすることで、日本には若手の起業家が育たないのではと心配する向きがあるが、The Economistは、日本には90年代にリストラされた若手のサラリーマンがentrepreneursとして復活しようとしている例が沢山あるし、企業も余計な関連企業をそぎ落として利益中心の体制になりつつある。で、The Economistは「ライブドア事件から学ぶべき教訓」として次のように結論づけています。

A new mood is abroad in corporate Japan, but it is a mood that craves clarity: clarity about what the rules governing corporate behaviour actually are, about whether those rules will be enforced, and whether the courts can be appealed to efficiently during disputes. That, above all, is the lesson of livedoor. (今の日本の企業社会には新しいムードがあるが、そのムードが求めているのは物事を明確にするということである。今の日本企業に必要なのは、企業活動を縛る規則とは何かを明確にすることであり、そうした規則がしっかり施行され、裁判も効率的に行われるということである)

  • ところで、The Economistは「堀江氏やライブドア幹部が何をしたのかということが全くはっきりしていないし、起訴もされていない」としたうえで、メディアの報道について次のように伝えています。 "without a hint of independent inquiry, the Japanese press recycles each day what it has been spoon-fed, off the record, by the Tokyo district prosecutor's office.(一辺の独立した調査もなしに、日本のプレスは東京地検によってオフレコでおこぼれに預かる情報を毎日毎日リサイクルするように使っている)"。このようなメディアの報道ぶりによって、起訴もされていないのに既に有罪扱いされているのは問題だ、という日本の弁護士の意見を伝えています。

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2) 教育改革の四苦八苦

ブレア政府が議会に提出しようとしている教育改革法案(Education Reform Bill)が、労働党内の「造反」(rebels)に遭って四苦八苦しています。公立の中学教育に「委託学校」(trust school)という種類の学校を作ろうというものなのですが、学校の運営をこれまでのように地方自治体の教育委員会の管理下におくのではなく、NPO、企業あるいは既存の学校のような「外部」の組織や機関に「委託」しよう言うものです。

法案の基になっている教育白書(昨年10月に発表)によると、trust schoolは「独立・公立学校」(independent state school)と表現されています。「独立・公立」という言い方自体が自己矛盾のように響きますが、ブレアさんの意図としては、学校教育を政府の手からもっと自由にして「自主運営」の範囲を広くということです。

昨年の教育白書の中でブレアさんは「優れた学校」について次のように定義しています。

The “best state schools” are those with a special ethos, a clear sense of purpose, strong leadership, energetic sponsors, and motivated parents and pupils…「最も優れた公立学校とは、特別な精神(エトス)、明確な目的意識、強力なリーダーシップ、情熱のあるスポンサー、そしてやる気のある両親と生徒を有した学校のことである」

要するに、教育熱心な両親と勉強好きの生徒から成る学校をあちこちに作ることによって中学教育全体のレベルアップを実現しようということで、privatisationという言葉こそ使っていないけれど、教育に従来の教育界以外の人々のアイデアを導入しようということなので、「民営化」に近い発想であることは間違いない。

これに対して反対派は「教育熱心な両親と勉強好きの生徒から成る学校」とは事実上「金持ち階級の学校」を意味し、教育における差別につながると批判しています。反対派が特に怒っているのは、ブレアさんのいう「自主的な学校運営」という考えのなかに、生徒の入学(adimission)については学校が自主的に選ぶ権利があるという部分です。それを許すと、学校は「いい学校」になるために「勉強の出来る子」「金持ちの子弟」などを選んで入学させることになり、これが学校格差を生むというわけです。

BBCの調査によると、現在でもいわゆる「出来のいい学校」は金持ちクラスが多く住んでいる地域に多いようで、「無料給食サービス」を受けている子供が多い学校は成績も芳しくないという結果が出ているようです。

反対派は、中学教育は従来の学区制を基に「イチバン近い学校」に通わせるべきだと言っています。反対派は、優れた教育とは「貧乏人も金持ちも、出来のいい子も悪い子も、ミックスして行うべきものだ」と主張しています。これに対してブレアさんらは、そのような「平等主義」が教育のレベルダウンを招いていると言い張っているわけです。

労働党の反対派は90人を超えており(労働党の議員数は??)、このままでは成立が難しいので、ブレアさんとしては何らかの「妥協」を考えている、とBBCなどは伝えています。皮肉なのは、ブレア案には保守党のキャメロン党首が支持を表明していることで、保守党の力を借りれば議会は通ります。しかし労働党政府の法案成立に保守党の力を借りることについては、党内で反対意見が強い。いずれにしても2月中に法案提出が行われることになっています。

  • なかなか興味深い議論だと思いませんか?ブレアさんは、口にこそ出さないけれど、反対派の「平等主義」が教育のレベル低下を生んでいると信じて疑わないようです。彼の発想が保守党に受けているというのもブレアらしいといえますね。
  • ブレアさんは、学校教育には親の意見を取り入れるべきだ、とかなり熱心に考えているようです。私の記憶によるとサッチャーさんも同じようなことを言っていました。The Economistなどもブレアさんのアイデアには好意的です。
  • 先日ラジオを聴いていたら、日本では公立の「中高一貫教育校」なるものが現われていて、これが大変な人気で、倍率が極めて高いそうですね。私は自慢じゃありませんが、昔も今も学力は全くダメです。倍率の高いが学校なんて絶対に受かることはありませんでした。だから「中高一貫教育校」にも受かりっこない。けれどこんなものに右往左往する親が情けないですよね。

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3) 英国でも「格差」が広がっている?

2月4日付けのThe Independent紙によると、英国における経済的な格差が広がる傾向を示すような数字が出ています。暗い方の数字から挙げると、昨年10−12月の3ヶ月間で、借金がかさんで破産を宣告された人の数は20,461人、昨年同期比で何と51%の増加だそうです。2005年全体の数字は約7万人で2004年に比べると57%も増えている。

さらに深刻なのは住宅ローンの支払いを3ヶ月遅らせた人の数が2004年比で21%増加しており、昨年1年間でローンが払えなくて家を失った人は10,200人。これは2004年比で70%増だそうです。

一方、Centre for Economic and Business Researchという機関の調べによると、ロンドンの金融街シティはやたらと景気がいいようで、金融関連の企業の幹部クラスのボーナスは最低で100万ポンド、中には1000万を超える人もいるのだそうです。幹部でない人々(トレーダー、ブローカー、ディーラーなど約33万人)でさえも平均で23000ポンドのボーナスをもらえているのだとか。

The Independentの記事は26歳になる独身サラリーマンの破産のケースを伝えています。彼の年収は43000ポンドだったのですが、父親が死んだときに40000ポンドの遺産を残してくれた。「それを自分が使っていい金だと思ってしまった」というわけで2年間で使い果たしてしまっただけではなく、遊ぶ金を借りるようになり、これが42000ポンドにまでふくらみ、2004年4月に破産宣告となってしまった。「その間、金を借りた金融機関からの電話が毎日かかってくるようになり、家にいられなくなって、近所のバス停に腰掛けてじっとしていた時期もあった」とのこと。

で、現在は可処分所得の半分(約400ポンド)を毎月ローンの返済に充てており、これが来年4月まで続くのだそうです。「昔住んでいた家に比べると、ひどいところで暮らしていますし、以前に比べれば自尊心も小さくなってしまった」と肩をすくめています。「でもローン屋からの電話はかからなくなったから(But the calls have stopped)」と、それだけでもほっとした様子です。

破産のようなケースの相談に乗っているCitizens Adviceという組織によると、2005年の1年間で、借金について相談に来た人の数は123万人、これは一昨年比で26%増なのだそうです。

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4) 短信

オームのお見合い所

ベルリンに住むRita Ohnhauserさん(女性)が経営しているオームのお見合い所が好きもの間で話題を呼んでいます。これまでに1300羽のオームのツガイ作りに成功しているんだそうです。彼女によるとオームという鳥はひとたびツガイを組むと絶対に別れないだそうです。「野生のオームは生涯の伴侶を求めてそれが見つかると絶対に離れないくらい仲良く暮らしますが、ペットのオームは独身で暮らすケースが多く、しかも鬱にかかりやすい」のだそうです。ウワサを聞いたマニアがOhnhauserさんのところへオームを持ち込むのですが、現在は150羽いるそうです。「遭った途端に一目ぼれというケースもありますが、極端に慎重なオームもいて、然るべき「関係」に入るまでに3ヶ月もかかることが多い」のだそうです。

  • オームって人間の言葉を喋りますよね。Ohnhauserさんのオームはドイツ語を喋るのでしょうか?でも相手のオームのドイツ語は多分わからないでしょうな。尤も150羽のオームが一斉にIch liebe dich...I love youなんて鳴くってのも気持ち悪い!?

トイレで凍死寸前

ドイツのLichtenauという町での出来事ですが、高速道路のサービスステーションでトイレのドアが凍り付いて開かなくなり、中に入った男が、1時間以上閉じ込められた。ついてないこの人は、チェコのトラック運転手で、当日はマイナス20度という温度だったので、「寒さで死ぬと思った」のですが、助けを呼ぶ彼の声に気がついたほかのトラック野郎が力をあわせて凍りついたドアを壊すことに成功したのだそうです。

  • マイナス20度って、どんな温度なのでありましょうか?

1月23日に注意しよう

今年はもう過ぎてしまったけれど、1年でイチバン憂鬱なのは1月23日なんですってね。ウェールズにあるカーディフ大学のクリフ・アノールという心理学の先生がそう言っております。先生がいろいろな人にインタビューして調査したらしいのですが、何故1月23日なのかというと、「天気が憂鬱」「クリスマスは遠くへ去ってしまった」「新年の近いも破ってしまった」「借金が増える」等などの理由が挙げられるのだそうでございます。で、Community Service Volunteersというボランティア組織によると、鬱気分を払拭するイチバンいい方法はボランティア活動に参加することなのだそうです。この組織の調査では、ボランティア活動に精出した後は半分以上の人が「ストレスが小さくなった」と感じるのだそうです。

  • これ、多分日本には当て嵌まりませんね。1月下旬は寒いかもしれないけれど天気は暗くない。でも憂鬱の原因の一つが「新年の近いを破ってしまったこと」というのは楽しいじゃありませんか。分からないのは「借金が増える(mounting debt)」という理由。何で1月下旬だと借金が増えるのでしょうか?
5) 編集後記

●「人の心は金で買える」に拍手喝さいを贈る気にはならないけれど、これってそれほど目くじら立てて非難するようなコメントですか?この言葉を即座に「間違っている」という意見が間違っていることは間違いない(ややこしい!!)●新聞を読んでいたら「こういう人間がいる日本は実に嘆かわしい」ということで「武士道」なるものの復活を訴えている数学の先生がいました。マジメにそうお考えのようです。私、むしろこのような精神論がまかり通る(つまりメディアに取りあげられる)ことの方がよほど嘆かわしいと思っております●前回のむささびジャーナルで、ホリエモンの逮捕に絡んで、何故メディアのカメラマンたちは、ああもタイミングよく検察の家宅捜索の現場に整列できるのか、と言いました。いま気になるのは、何故、取調べを受けるライブドアの幹部たちの「供述」が、こうも頻繁かつ詳細に報道されるのかということですよね●検察当局が記者会見でもやっているのですか?だったらそれを中継して欲しいですよね。それともオフレコ・ブリーフィング?だったらそんなものを信憑性を持たせて報道するのは間違っているんじゃありませんか?

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