musasabi journal

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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
第56号 2005年4月17日 
春爛漫の季節になりました。ウチの近所でも桜の花が明るく咲き乱れています。むささびジャーナル56号をお届けします。

目次

@DVの件数が減っている理由
A労働党左派の「戦術的投票」のすすめ
B中国の反日デモとThe Economistの社説
C森嶋通夫さんの本
D短信
E編集後記


@DVの件数が減っている理由

英国法務省(Home Office)のサイトによると、DV(Domestic Violence:家庭内暴力)は暴力犯罪のうち16%を占めており、今でも1週間平均二人の女性がDVで命を失っているそうです。 尤も英国犯罪調査という機関の調べによるとDVの件数は10年前に比べると半減しているのだとか。

The Economistの最新号にDVが減った背景についての記事が出ています。一つには警察の関与がある。この記事によると、警察はDV犯人に対してはtea and sympathy approach(お茶でも飲みながら話を聞こうというソフト戦略)で臨んでいたのですが、最近は態度を厳しいものに変えてきている。「奥さん(パートナー)に対して暴力を振るうものは他人に対しても暴力を振るう傾向がある」という理由によっています。

ただDVの件数が減ったについては英国社会そのものの変化に起因するところが大きい、と同誌は指摘しています。例えば女性が経済的に独立すると同時にDVを許さないという態度をとるようになったことがある。 しかし最大の変化は、犠牲になる「妻」(wife)という存在そのものが少なくなったことです。1991年から2001年までの10年間で普通に結婚している夫婦の数が90万も減った(イングランドとウェールズの数字)のだそうです。

その一方で、結婚はしていないが一緒に暮しているという同棲カプルの数は110万組から200万組にまで増加している。つまり正式に結婚する前に同棲するというケースが非常に増えているとうことです。DVは一緒に暮らし始めてから1年くらいたってから出始めるケースが多くその場合、「離婚」(divorce)よりも「同棲解消」(to dissolve a cohabiting relationship)の方が女性にはやりやすい、とThe Economistは言っています。 DVに関するHome Officeの統計によると、30才以下の女性が一番犠牲者になりやすいのだそうです。理由は相手の男が若いから。年配者より若い方が暴力を振るうケースが多い。

またDVは女性の妊娠に伴って悪化する傾向にもあると言う専門家もいる。妊娠中の女性や生まれたばかりの子供の母親が犠牲になりやすいとかで、結婚年齢が上がり、女性の出産年齢があがるとDVの犠牲になりやすい女性の数も減るということです。30才前に子供を産む女性の数は過去10年間で27%減っている。

結婚件数が減り、「安定した関係」にある若いカプルの数が減るということが、シングル・マザーとか若い男の無責任な行為など、「病んでいる社会」の原因のように言われてきた。しかし最近のDV件数の減少を見ると、男女がお互いに不干渉の関係にあることは、こうした傾向にもいい点はある(non-commitment does have its advantages)というのが記事の結論。


A労働党左派の「戦術的投票」のすすめ
英国の総選挙が5月5日(木曜日)におこなわれます。英国の選挙は何故か木曜日に行われるのを常とします。過去に例外が二度あったらしい。1918年(土曜日)と1931年(火曜日)です。

で、何故木曜日なのか?一度調べたことがあったのですが分からなかった。木曜日でなければいけないという法律があるわけではないのに、何故かそうなっている(というようなことは英国にも日本にもわりと多い)。週給制が一般的な英国の場合、木曜日は給料日の前日でありイチバン懐が寂しい日なので、遊びに行かずに選挙に来る人が多いからだという説明もありました。

それはともかく今回の選挙で争われる下院の議席数は646.三大政党の現在の勢力図はというと、労働党413議席、保守党166、自民党52となっています。今回の選挙でもブレアさん率いる労働党が勝つことは間違いないようですが、問題はどのような勝ち方をするのかとされている。少なくとも前回のように圧倒的な勝ち方はしないだろうとされています。そのあたりのことについては過去のむささびジャーナルで何回か報告させて貰いました。

New Statesmanは左派系の政治誌の老舗として有名ですが、そのウエブサイトを見ていたら読者に対して「戦略的投票」(tactical voting)なるものを呼びかけていた。労働党左派を支持するこの雑誌はイラクへの派兵に反対であるのみならずブレア政権が推進している病院や大学の「民営化」(というほどではないけれど、少なくともこれまでのように中央政府が何から何までコントロールするのはやめようという政策)にも反対している。

New Statesmanが「不満だらけの労働党支持者」(disgruntled Labour voter)に対する呼びかけ文は「イラク戦争に反対であるアナタもブレアの大学・病院政策に反対するアナタも出来ればゴードン・ブラウン(現大蔵大臣)に首相になってもらいたいと思っているアナタも、保守党には勝ってもらいたくないはずだ」というわけで、「理想的な結果」として次のような状態がいいとしています。
  • Ideally, you'd like a Labour majority over all the other parties of about 60, so that Blair is damaged personally, but Labour still has the strength to help the poor and put money into public services.
労働党と他党との議席数の差を(現在の)247から60にまで縮める。そうすればブレアが個人的にダメ−ジを受ける一方で、労働党は貧乏人を助け、より多くの金をパブリックサービスに回すだけの権力を保つことができる・・・。

というわけで同誌は全国の選挙区における労働党の候補者を徹底的に調査して「落とすべき候補者」をリストアップしているのですが、その理由の説明が面白い。
  • こいつはイラク戦争に喜んで賛成した(cheered loudly for Iraq war)
  • ブレアの忠実な支持者である(Blair loyalist)
  • 賭博場の合法化に賛成している(introduced plans for super-casino)
  • 野望一杯のブレア主義者(ambitious Blairite) 等など。
労働党左派の反ブレア感情はかなり厳しいものがあるようです。彼らが望んでいるのは労働党が勝ってブレアば負けること・・・即ちブレアに比べれば左派的なゴードン・ブラウンという人を首相にすることのようです。 それにしてもちょっと皮肉なのは現在の下院における議員の平均年齢。イチバン年寄りが労働党で50才、次いで保守党の48才、イチバン若いのが自民党の47才だそうです。保守党が案外若いんですね。いずれにしても日本の議員さんとは違いますね。


B中国の反日デモとThe Economistの社説
4月16日付けのThe Economistが「東アジアの衝突」(A collision in East Asia)というタイトルの社説記事を掲載しています。言わずと知れた中国国内の反日デモについての記事なのですが、主なポイントはむしろ日本の国連常任安保理事国入りについて書かれています。社説記事(leader)ですから、単なる事実の報告ではなく雑誌としての意見を述べるものとなっているのですが、There should be no enlarged Security Council without Japan(日本ヌキで安保理事会拡大はすべきでない)というイントロで始まっており、どちらかというと中国側に批判的な記事になっています。 例えば記事の始まりは次のようになっています。
  • YOU can be sure that a march of 10,000 protesters through the heart of Beijing would have been halted by China's security services if they had been marching for democracy. Since they were marching instead to denounce Japan, for its supposed failure to apologise for historical crimes, and for its temerity in seeking permanent membership of the United Nations Security Council, China's authorities allowed the demonstration to go ahead.
反日デモについて「これが民主化要求のデモであったら鎮圧されていたであろうが、反日デモだっただけに当局もこれを許した」というニュアンスで書いています。

私が興味を持ったのは、反日の理由について "its supposed failure to apologise for historical crimes"と書いてあることです。(英語解釈で私に誤りがなければ)特にsupposedという言葉が気になりました。これが単にits failure to apologiseとなっているのなら「日本が歴史上の犯罪について謝っていない」となるのですが、supposed failureとなっていることで、「謝っていない(とされている)」という風に、ちょっとクールというか皮肉めいた感じで語られているように思えたということです。

で、日本の国連常任安保理事国入りについては「(経済大国である)日本は国際的な舞台でも二流国扱いされることをよしとしなくなっている」として、日本がアメリカに次いで2番目に大きな国連への資金提供国であり、最近では平和憲法の制限下においても世界の平和維持にますます重要な役割を果たしていることを理由に、常任理事国入りする資格があると信じていると紹介して、「それは正しい」と社説としての意見を表明しています。
  • It (Japan) believes it deserves a permanent seat in any enlarged Security Council. And it is right.
と書いています。 私のウンチクによるとAnd it is right.というふうに、一旦前の文章を切ったうえで、大文字で始まるAndを使って意見を述べるというのは極めて断定的で、このあたりがThe Economist風な気がするわけです。

記事はまた拡大常任理事国の「自然な候補国」として日本・インド・ブラジル、そして南ア、エジプトなどをあげています。ドイツについてはEUの一員であることが問題かもしれないといっています。既に英国とフランスというEUの国が入っているのだからということ。 候補国はいろいろあるであろうが、安保理拡大にあたって日本を入れないということはあり得ないとして、
  • to exclude Japan would not only constitute an egregious insult to the Japanese but also make a nonsense of the whole exercise
日本にとってのタイヘンな侮辱になるだけでなく安保理拡大そのものが何の意味もなくなる。と断定しています。 それなら安保理拡大そのものを止めにしたら?という意見については「ある種の国にとっては好都合かもしれない」としてアメリカもその中に入れています。ただ「そのようなことになるとしたら何と残念なことであろう(what a pity that would be)として次のように結論しています。
  • But what a pity that would be. The UN system will never be perfect, but it can be improved to reflect the world more as it is today, not as it was at the end of the second world war more than half a century ago. The Japanese belong in an enlarged Security Council-not least so the Chinese come to understand that they cannot have everything their way in East Asia's future.
国連の制度は完全なものにはならないかもしれないが、第二次世界大戦が終わった半世紀以上も前ではなく、現在の世界を反映するために改善することはできるはずである。日本が拡大された安保理に所属することによって、東アジアの未来は何から何まで中国の思い通りになるものではないということを、中国も理解するようになるであろう)・・・ということです。


C森嶋通夫さんの本
中国で「反日デモ」が荒れ狂った日、私は昨年亡くなった経済学者でロンドン大学(LSE)の教授であった森嶋通夫さんが書いた「なぜ日本は没落するか」(岩波書店・1999年)という本を読んでいました。単なる偶然。その中で彼は「北東アジア共同体」なる構想について非常に熱心に書いていました。日本・中国・韓国・北朝鮮などを含めた「共同体」を作ろうというものです。

森嶋さんが提案したものなのですが「日本では殆ど注目されなかった」と残念そうに書いています。 このアイデアについて私などがどうこう言えるような知識も経験もありませんが、一箇所だけ紹介します。森嶋教授が「北東アジア共同体」というアイデアについて「21世紀の関西を考える会」で講演したときのことで、聴衆の一人(30歳後半の男性)が次のように発言したそうです。
  • 日本は中国で残虐行為をしたから、一緒に共同体をつくりましょうという気持ちにはなりません」
この発言について森嶋さんは次のように書いています。
  • 私はびっくりした。その逆のことを言う(つまり"残虐行為をしたから罪滅ぼしにでも今後は仲良くしたい")のなら話は分かるが、彼の言葉には耳を疑った・・・。
で、教授はその発言者に次のように聞き返したそうです。
  • 「それなら言いますが、日本はアメリカに対しても残虐行為や不法行為をしています。真珠湾を(たとえ意図的ではなく、結果的にそうなったとしても)無警告攻撃し、フィリピンのコレヒドールでは米軍の捕虜に死の行進をさせました。だけど日本はアメリカと仲良くしています。アメリカとはできてもどうして中国とはできないのですか?」
質問者は怒ったような顔をして何も言わずに着席したそうです。 もう一つ、教授は1998年に中国の江沢民主席が来日したときに、共同体構想のようなものが少しは前進するのではないかと期待したのに、日本政府が中国に対する「おわび」を口頭で述べるにとどまり「文書化せよ」という中国の要求を拒否した、と残念そうに書いています。

そういえばそんなことありましたね。その時、私はロンドンでBBCのスタジオ見学をやっていたのですが、ニュース番組の放送風景を見ていたら、江沢民訪日のニュースが結構大きく扱われていたのを覚えています。報道のニュアンスとしては「日本は相変わらず自らの過ちを認めようとしない」というもので、その場にいた日本人である私はかなり居心地の悪い思いをしたものです。

ところで森嶋通夫さんは英国について面白い本を沢山書いていますね。既にお読みの方も多いと思いますが私が持っているのは「イギリスと日本」(2巻)、「サッチャー時代のイギリス」「思想としての近代経済学」(全て岩波新書)・・・いずれも傑作ですね。


D短信
見えないペンがバカ受け

中国のティーンエイジャーの間で、いまバカ受けなのが「見えないペン」なのだそうです。何かというと、これを使って紙に何か書いても、ペンについている特殊なミニ・ランプで照らさないと見えないという商品。例えば試験のカンニングペーパーに使えるし、ラブレターにも・・・。尤もある校長先生は、このペンについて「子供たちの精神衛生上好ましくない」というわけで禁止令を出したりしている。親に見られたくない日記をこのペンでつけているという子供もいるらしい。

▼これ、日本にもありますか?面白いですよね。

ソースの中から指輪

料理用のソースの中から12,000ポンド(約240万円?)相当の指輪が見つかったというニュースを英国の大衆紙、The Sunが伝えています。Chicken Tonightというブランドのソースを使って料理をしていたKevin Luetchfordという人が見つけた。「何とか持ち主に返したい。きっと家宝に違いない」と言っているのですが、そもそもソースの中にどうやって指輪が入り込んだのか、メーカーであるユニリバー社が調査しているそうです。

▼これがニュースになるんですね、The Sunの場合・・・

J-walkerにタックル

J-walkってご存知ですよね。横断歩道でもないところを横切る、あれ。ドイツのドレスデンで26歳になる男がこれをやってしまったところ、77才になるおばあさんに咎められた。にもかかわらず横切り続けた。で、カンカンに怒ったこのおばあさん、路上でいきなりこのJ-walkerにタックル。倒れた男の上に馬乗りしながら男の髪の毛をむしり続けたのだそうです。通行人の知らせで警察が駆けつけ、男はJ-walkの罰金を食らったのだとか。

▼本当、ついてないですね、この男の人。


E編集後記
▼個人的な思い出ですが、英国大使館というところで広報誌を作っていたときに森嶋通夫さんに寄稿をお願いしたことがあります。確か英国の教育事情についてだったと思います。もちろんダメモトの心境です。そしたら何とご本人から丁寧な手紙が来ました。「自分は忙しくて書けないが家内が書くということではどうか」ということでした。もちろん二つ返事でオーケー。私が感激してしまったのは森嶋さんの律儀さについてでした。こういう人が亡くなるというのは(人間必ず死ぬと分かっていても)本当に惜しいです。

▼先日、地下鉄に乗っていたら中国の反日デモや韓国の竹島問題に焦点をあわせたかのような「週刊文春」の中吊り広告が目に入りました。二大特集記事の見出しが特大の活字で躍っている。
  • 日本人処女30人を陵辱した在日韓国人レイプ牧師の正体
    中国・韓国歴史教科書のデタラメ部分を全公開
▼私の前に座った団塊の世代と思われるオッサンがその週刊誌を読んでいた。口を真一文字に結んでおり、上の特集記事を読みながら「中国人も朝鮮人も許せねぇ!」と思っていた(ように私には見えた)。日本には報道の自由があって雑誌が何を書こうが自由ですが、あの雑誌の編集者は何を想いつつあの特集記事を企画・掲載したのだろう。中国人や韓国人が心底憎たらしくて、彼なりの「正義感」に駆られたのか、それとも「これをやれば売れる!」と思ったのか。その両方かも?いずれにしても、自由というのは結構疲れるものですね。

▼ダイアナさんが亡くなったときに、ある普通の英国人が「アンタらのような『はきだめ新聞』(gutter press)が彼女を殺したんだ」と新聞記者に語ったという記事が出ていたのを思い出します。英国の大衆紙と日本の週刊誌は中身の点では似ていますね。

▼全然関係ありませんが、Life is unfairということは英国人がよく言いますよね。それから(これも全く関係ないけれど)impersonatorという英語は「そっくりさん」という意味です。というわけでそこそこ面白いと思ったジョーク:"If life were fair, Elvis would be alive and all the impersonators would be dead."。

▼今回も長々とお付き合いをいただき有難うございました。

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