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musasabi journal

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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 前澤猛句集
 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
546号 2024/1/28

あまりにもひどいことが起こりすぎる中で、2024年も最初のひと月が過ぎ去っていきます。上の写真を写したのはトルコの写真家なのですが、場所がどこなのかが分かりません。それでも子供たちの賑やかな笑い声だけは聞こえてくるような気がしませんか?その意味で素晴らしい作品だと…。

目次

1)スライドショー:アメリカの小さな町で
2)英国の選挙とReform UK
3)派閥政治を「説明」する
4)再掲載: ダライ・ラマ:祈りでテロはなくならない
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
7)俳句

1)スライドショー: アメリカの小さな町で

むささびジャーナル543号でアレッサンドラ・サンギネッティ(Alessandra Sanguinetti)というアメリカの女性写真家の作品によるスライドショーをお見せしました。あの際のテーマはパレスチナの子どもたちだったのですが、派手なセンセイショナリズムに陥ることなくガザの様子をしっかり写していたのが印象的でした。実は今回も同じ写真家の作品をお見せしたいのです。但し舞台が全く違います。アメリカ中西部のウィスコンシン州にあるBlack River Fallsという、人口4000人以下という小さな町で暮らすアメリカ人の生活です。
 
サンギネッティ本人はニューヨーク生まれでウィスコンシンとは全く違う場所で育ったのですが、Black River Fallsのことを「時間が止まったようなアメリカの僻地」(an eerie and timeless portrait of rural America)と呼んでいます。むささび自身は知りませんが、アメリカにはこのような町が数多くありますよね。

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2)英国の選挙とReform UK

日本のメディアでは2024年の「選挙」というとアメリカの大統領選のみが語られがちですが、実は英国でも今年中に下院の選挙が行われる可能性が大きいのです。法律的にも遅くとも来年(2025年)1月28日までには選挙をしなければならない。ただ1月14日付のDaily Telegraphによると
  • Tories facing 1997-style general election wipeout 現政権の保守党が1997年の選挙のような大敗を喫する可能性に直面している。
となっている。その1997年の選挙ですが、ジョン・メージャー首相率いる保守党(政権党)とトニー・ブレア党首の労働党が対決、ブレアの労働党が大勝してブレア・ブームを呼ぶきっかけとなった。


1997年の選挙ではトニー・ブレアの労働党が大勝した

で、今年の選挙ですが、世論調査機関のYouGovの調査では、サー・キーア・スタ-マー(Sir Keir Starmer)率いる労働党の大勝が予想されている。英国下院の議席数は650、YouGovの調査は14,000人の有権者を対象に行われたものなのですが、それによると保守党(現有議席:349)は169議席にまで減り、労働党(197)は385議席にまで増えるのではないかとされている。

前回の選挙は5年前(2019年)に行われており、保守党は365議席を獲得しているけれど、今回の選挙では196議席を失うのではないかとされている。そうなると1997年にジョン・メージャーが失った178議席をさらに上回る敗北ということになる。


2020年4月から2024年1月までの支持率の推移です。2020年2月の時点では保守党支持が49%、労働党支持が30%だったのに、2024年1月では労働党支持が49%もいるのに保守党支持者は20%しかいない。

Telegraphによると、今回の選挙で最も注目を浴びるのがReform UKという政党だそうです。前回選挙(2019年)直前の2018年11月23日に、英国のEU離脱を推進するために設立された政党なのですが、設立当初はBrexit Partyという名前であったことからも分かるとおり、英国のEUからの離脱のみを政策とする「単一論点政党」だった。2019年の選挙では議席獲得はならなかったけれど、2020年からの新型コロナウイルス感染症の流行後はロックダウン(都市閉鎖)に反対する政策を掲げている。

Reform UKが2022年の時点で得ている政治的な「パワー」は、英国における地方自治体議会の全議席(19,481)中のわずか3議席に過ぎないけれど、これを支えているのがEU離脱(Brexit)の際に活躍したナイジェル・ファラージ、 キャサリン・ブライクロックのようなメディア人であることを考えると、全くバカにならないというわけです。
 
▼Reform UKのロゴを見ると、Make Britain Great という言葉がモットーとして使われている。どこかアメリカのトランプを想わせる。彼のスローガンはMAGA(Make America Great Again)ですが、大西洋を挟んで右派ポピュリストたちが集まっているという感じです。

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3)派閥政治を「説明」する
 

The Economist誌が不定期で載せるものに "The Economist explains" というのがあります。「The Economistが説明する」というわけで、「話題になっていることは知っているけれど、詳しくは分からない」という話題についての解説記事です。1月25日付けの同誌が解説しているのは
  • The factions at the heart of a scandal in Japan’s ruling party 日本の与党内部で進行中のスキャンダルの核心部分を占める派閥とは
という話題です。この見出しには "Promises to disband them may turn out to be hollow"(派閥解散の約束は空しいものに終わるかも…)という注釈めいた見出しがついている。全文を直訳してみます。「派閥」という、日本の読者にとっても得体のしれない現象を外国の読者がどのような感覚で見ているのかが少しは分かるかもしれない。


内閣支持率は下 派閥政治の重要性
党内の党 いずれは復活?

1月26日に日本の国会が召集されると、与党内におけるある危機が議題のトップに来るだろう。1955年の結党以来ほぼ常に日本を支配してきている自由民主党(LDP)の内部における派閥は、ごく普通のこととして基金集め目的とした集まりを開催しているが、その際には集会のチケット販売による収入を詳しく記録していない。つまり税金を逃れているということだ。派閥の中でも最大の規模を持つ「清和政策研究会:Seiwakai」などは過去5年間で5億円(350万ドル)という資金(slush fund)を集めて派閥の会員の何人かに配布したりしていると非難されている。
  • When Japan’s Diet reconvenes on January 26th a crisis inside theruling party will top the agenda. Factions within the Liberal Democratic Party (LDP), which has governed the country almost continuously since its formation in 1955, routinely held fundraising events without fully recording ticket sales, thereby evading taxes. The largest faction, Seiwakai, is accused of amassing a slush fund of ¥500m ($3.5m) over the past five years and redistributing the money to some of its members.
内閣支持率は下落

検察が何人かの議員を起訴しており、今月初めには一人を逮捕までしている。このニュースが明るみに出て以来、日本の内閣の支持率は20%以下にまで落ち込んでいる。そのようなことは岸田文雄首相が政権を樹立して以来初めてである。それに応じて岸田氏は宏池会という自らの派閥を解散することを明らかにしており、宏池会以外に3つの派閥(Seiwakaiも含む)がこれに倣っている。これらの派閥はどのようにして日本の与党を形作ってきたのだろうか?派閥の権力は解体によって弱体化するのだろうか?
  • Prosecutors have indicted several ldp lawmakers and arrested one earlier this month. Since the news broke, the approval rating of Japan’s cabinet has fallen below 20% for the first time since the prime minister, Kishida Fumio, took office. In response Mr Kishida said he would disband his faction, Kochikai; three others, including Seiwakai, followed suit. How have factions shaped Japan’s ruling party—and will their breakdown endanger its grip on power?


党内の党

自民党の派閥は本質的には党内の党(parties within the party)であると言える。派閥は自民党そのものと同じくらい古いものなのである。自民党自体が、社会主義に反対する二つの保守党が合体して出来上がったものなのだ。合体した二つの政党の内部にはそれぞれグループが存在しており、それぞれが独立した組織やスタッフを有していた。Seiwakaiはかつては安倍晋三をリーダーとしていた.安倍氏は日本で最も長く首相を務めた人物であったが、退任2年後の2022年に殺害されたのであるが、彼は安全保障の点でタカ派として知られていた。
  • LDP factions are essentially parties within the party. They are as old as the LDP itself, which was formed through the merger of two conservative parties united in opposition to socialism. Each party contained several groupings; these maintained distinct identities by forming institutionalised factions with independent offices and staff. Seiwakai, which was once led by Abe Shinzo, Japan’s longest-serving prime minister—-who was murdered in 2022, two years after leaving office—has traditionally been known for its hawkishness on security.
宏池会はよりハト派的とされているが、思想的な相違は薄いものとなっていた。岸田氏の防衛政策は安倍氏のそれと同じであるとされていた。選挙制度の改革、議員の世代交代などの要素によって、派閥自体の構成員に対する締め付けも弱体化していった。が、とはいえ派閥は自民党という組織にとって欠かすことのできない部分を構成し続けていた。最近のごたごたが起こる前には376名の自民党議員の8割が、6つある派閥のどれかには属していたのである。 
 
  • Kochikai is seen as more dovish. But those ideological distinctions have faded over time (Mr Kishida’s defence policies, for example, are a continuation of Abe’s); electoral reforms and generational change have gradually eroded the factions’ hold on their members, too. But they have remained an essential part of the party’s structure: before the latest scandal, nearly 80% of the ldp’s 376 lawmakers belonged to one of its six factions.

派閥政治の重要性

派閥というものは、それによって「ひいき」(patronage)と「カネ」と「権力」が手に入ることに存在価値がある。派閥に加わると、選挙や財政面における便宜を図ってもらえるだけでなく、望ましい大臣の椅子が約束される。その代わりに首相の座を目指した党内の指導権争いに際しては自分の派閥のリーダーを支持することが期待される。1955年の設立以来、自民党は2回(1993-94年・2009-12年)しか権力を譲ったことがない。派閥政治(factional politics)は常に日本の指導者を決定するのに重要な役割を果たしてきた。日本における政治権力は政党間の争いではなく派閥間の争いを通じて変わってきた。新しい政府は、ある意味で派閥争いに沿った閣僚の椅子の譲り合いによって生まれるともいえるのである。 
  • Factions are mostly about patronage, money and power. Members receive electoral and financial support, as well as the promise of plum cabinet posts, in exchange for backing their faction leader in the party’s internal race to become prime minister. Because the ldp has only lost power for two brief periods, in 1993-94 and 2009-12, factional politics have consistently played a key role in deciding Japan’s leadership. Instead of resulting from competition between parties, changes of power tend to happen through intraparty battles between factions. Each new government is formed in part by allocating cabinet jobs along factional lines.


岸田文雄氏は自分の党(自民党)が派閥政治からは完全に脱却すると約束している。自民党は資金調達を目的とする行事を禁止し、閣僚の地位決定に向けた派閥の関わりを禁止することを提案している。しかし派閥解消に向けた似たような試みはこれまでにも為されてきている。1988年に起こったハイレベルの世界における汚職事件(リクルート事件)をきっかけとして、派閥は形式的には解消されたが、後になって再度復活している。 
  • Mr Kishida has promised that his party will “completely depart” from factional politics. The ldp has proposed banning fundraising events and factional interference in deciding cabinet positions. But similar talk about abolishing factions has been heard before. Following a high-level corruption case in 1988, factions were formally dissolved—only to be reinstated soon after.
いずれは復活?

現在選挙が行われても負けることはなさそうな自民党にとっては、(政治の)深い部分における構造上の変革を遂行するだけの動機が見当たらないのだ。最大の野党である立憲民主党(Constitutional Democratic Party)は、世論調査の支持率はわずか4%であり、スキャンダルに揺れる与党よりも人気が低い。自民党の指導者争いが行われるのは9月とされており、ほんの少しの間姿を消すかもしれない派閥もそれまでには復活している可能性が高いと言えるのである。
  • There is little incentive for the ldp to undertake deep structural change, as it faces virtually no threat at the ballot box. The Constitutional Democratic Party, the main opposition, is even less popular than the scandal-ridden incumbents, polling at just 4%. As the ldp’s next leadership race approaches in September, its factions—even if they disappear briefly—are likely to come back.

 
▼The Economistは「派閥」という言葉に "faction" という英語を当てている。で、"faction"は別の英語で説明するとどうなるのか?Cambridgeの辞書によると "a group within a larger group, especially one with slightly different ideas from the main group"(大きなグループの中のグループだが、大きなグループとは考え方がわずかに異なるグループ)だそうであります。

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4)再掲載: ダライ・ラマ『祈りでテロはなくならない 』

今から約10年前の2015年11月にパリで発生した連続テロ事件のことを憶えています?フランスにとって第二次世界大戦以降で最悪の事件と言われたもので、市内のコンサート会場やレストランなどで銃撃や爆弾攻撃が相次ぎ、130人が死亡した、あの事件です。過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出したのですが、イスラム系の組織による(とされる)テロ行為は今でも続いています。

パリにおけるこの事件がきっかけなのですが、ドイツ国際放送(Deutsche Welle)が2015年11月16日付の自社のサイトに国際的に知られた仏教徒であるダライ・ラマとのインタビュー記事(英文)を掲載、それがむささびジャーナルの333号で紹介されています。ダライ・ラマは1935年生まれ、チベット仏教の最高指導者で、1989年にはノーベル平和賞を受けている。

祈りでテロはなくならない

ダライ・ラマ
むささびジャーナル333号
ダライ・ラマはまず前世紀(20世紀)において2億人以上もの人が戦争や争で命を落としたことに触れて「21世紀のいま、我々は20世紀に流された血の滴りを目にしている」として、
  • 人間が平和達成のために真摯な努力をしない限り、20世紀に経験した惨劇をこれからも見ることになるだろう。 Unless we make serious attempts to achieve peace, we will continue to see a replay of the mayhem humanity experienced in the 20th century.
と語っている。
ダライ・ラマはパリの事件について「テロリストは近視眼的な見方しかできず、それが自爆テロに結びついている」と語ったのですが、むささびが「なるほど」と感心してしまったのは、次の発言です。ちょっと長いけれど全文を引用します
  • (テロや戦争のような)問題をお祈りだけで解決することはできないのですよ。私は仏教徒であり、祈りというものを信じている。しかし現代の問題を作ったのは人間ですからね。なのに我々は、神に問題解決を求めている。理屈に合わない。神は言うでしょうね、「あなたたちが自分で解決しなさい。あなたたちが作った問題なのだから、と。 We cannot solve this problem only through prayers. I am a Buddhist and I believe in praying. But humans have created this problem, and now we are asking God to solve it. It is illogical. God would say, solve it yourself because you created it in the first place.
ダライ・ラマは人間社会にとって最も大切なものとして「一つであること」(oneness)と「調和をとること」(harmony)を挙げており、そのために「システマチックなやり方」(systematic approach)が必要だと強調しています。

▼人間が作り出した問題は人間が解決しろ・・・というのが面白いとむささびには思えるわけ。お祈りでは物事は解決しない、と。ご尤もであります。ここをクリックすると『ダライ・ラマ14世』というドキュメンタリー映画についての情報を得ることができます。

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5)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら


eligible:ふさわしい
1月14日付のBBCのサイトに次のような見出しの記事が出ていました。
  • Brunei: Asia's most eligible prince formally marries in 10-day celebration
Bruneiのことはよく知らないけれど、"Asia's most eligible prince"(アジアで一番eligibleな王子) とは何だ?"eligible" という単語は聞いたことがない。というわけで、むささびが好きなCambridgeの辞書を引いてみたら、次のような説明がでていました。
  • having the necessary qualities or satisfying the necessary conditions
つまり "eligible" というのは、何かについて「必要な資質を有している」とか「必要な条件を満たしている」…ということですよね。この記事の場合、 "eligible" なのは "prince" もしくは "Asia's prince" ということ、つまり「アジアで最も<王子>と呼ばれるにふさわしい」存在ということ。それが具体的に何を指すのか(財産?外見?歴史?頭脳?etc)は「ケースバイケース」というわけ。要するに最初から具体的にしてしまうと、その資質が浅いものになってしまう。それを防ぎながら「ふさわしさ」を堅持したいときに "eligible xxx" と。

なるほど…例えば「大谷翔平」は "the most eligible baseball player" である、と。

で、BBCの記事は「アジアで最も王子らしい存在」について書いているのであり、それが何を指すのかは記事を読んで分かる、ということ。で、ブルネイという国ですが、ネット情報によると「ボルネオ島にある小さな国で、マレーシアと南シナ海に囲まれた 2 つの領土に分かれている」のだそうです。人口は約45万だそうです。むささびの無知をお許しください。

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6)むささびの鳴き声
▼上に掲載してあるのは、大塚拓という自民党の衆議院議員のポスターです。この人は選挙区が飯能市近辺だと見えて、むささびが暮らす飯能市内でも同じポスターをあちこちで見かけます。大きな文字で『未来に挑む!』と叫び、小さな文字で「変化を恐れない勇気 安全を守る覚悟 あなたの暮らしのために全力で闘います」と語りかけている。この人は今年で50才だそうです。

▼下に載せたポスターは英国における2010年の選挙の際に使われたポスターで、人物はゴードン・ブラウン首相(労働党)で、メッセージは "I TOOK BILLIONS FROM PENSIONS. VOTE FOR ME"(あたしは国民年金から数十億(ポンド)というお金を頂戴しました。あたしに投票してください)言っているわけ。このポスターは労働党のイメージダウンを狙って保守党が制作して街角に掲げたものです。
▼大塚氏のポスターとG・ブラウンのそれと、どちらの方が選挙民に受けるでしょうか?むささびは保守党(G・ブラウン)のものの方が政党が掲げるポスターとしてはまともだと思っている…というより大塚氏のそれの方が選挙民をバカにしていると考えてしまう。政治家本人が「未来に挑む」だけのやる気があるかどうかなんて、むささびにはどうでもいいことです。そのようなことを大きな文字で叫ぼうという、この人の神経はどうなっているのか?でも…日本の保守政治家のポスターはどれも同じですね。

▼最後にもう一枚。下のポスターはいつ作られたのか分かりませんが、サッチャーのイメージを使って「こんな人、復活させちゃダメ!Be Afraid. Be very afraid.」と訴えている。下に小さく "Vote Labour"(労働党に投票を) というメッセージが掲載されている。
 

▼なんだかあっという間に1月が終わってしまいましたね。先ほど地震があり、飯能市も少しだけ揺れました。お元気で!

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