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 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
545号 2024/1/14

むささびジャーナルの読者の中には上の写真のことを知っている人も多いかもしれない。女性が掲げている “SO-LONG BOBBY”(さよなら、ボビー)というメッセージの“Bobby”はアメリカの司法長官だったRobert F Kennedyのことで、彼は1968年の大統領選挙に民主党の候補として出馬、選挙運動を行っていた時にロサンゼルスで暗殺されてしまった。6月6日のことだった。彼の遺体はニューヨークでの葬式後、6月8日に列車に乗せられてワシントンDCのアーリントン墓地へと運ばれたのですが、沿線には多数の国民が詰めかけてそれぞれに別れを惜しんだ。その様子をLIFE誌のカメラマンとして列車に乗り込んだポール・フスコ(Paul Fusco)というカメラマンが撮影したのがこの写真だったというわけ。56年前に暗殺されたケネディ長官の息子であるRobert F Kennedy Jrが2024年の大統領選に「独立派」の候補者として立候補しようとしています。詳しくは本号の3つ目の記事で触れられています。

目次

1)スライドショー:「触覚」を「視覚」で示すと…!?
2)アメリカ人と民主主義
3)再びケネディ…?
4)再掲載:13年前、英国人記者が見た避難所生活
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
7)俳句

1)スライドショー: 「触覚」を「視覚」で示すと…!?

BBCのサイトを見ていたら、読者に「"texture" という言葉をテーマに写真を送ってください」というメッセージが出ていました。"texture"という言葉はCambridgeの辞書によると
  • the quality of something that can be decided by touch
と定義されている。

「触れることによって分かる(決まる)ものの質」というわけですよね。でもこのサイトの言葉が要求しているのは「写真」です。つまり「視覚」に訴えるもの。この写真コンテストはテーマ設定からして矛盾しているわけですが、そんなことはBBCの担当者が知らないはずがない…というわけで、この矛盾に満ちたテーマに応じて集まったのがこのスライドショーである、ということです。

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2)アメリカ人と民主主義

世論調査機関のギャラップ(Gallup)のサイト(1月5日)に、ちょっと気になる記事が出ていました。見出しは次のとおりです。
  • Record Low in U.S. Satisfied With Way Democracy Is Working アメリカにおける民主主義の稼働ぶりについての評価がかつてないほど低くなっている
アメリカ人を対象に「民主主義」についての意識調査を行ったもので、調査は2023年12月1~20日で行われたのだそうですが、質問は
  • Are you satisfied or dissatisfied with the way democracy is working in this country? あなたはアメリカにおける民主主義の稼働ぶりに満足ですか?不満ですか?
というものだった。それに対して「満足」と答えたのは28%に過ぎなかったというわけです。


ギャラップでは同じ質問によるアンケート調査を1984年以来9回行ってきており、一番最初の1984年では「満足」という答えが61%を占めていた。また1991年にも60%を記録している。

その数字が1992年になって36%へと急落した。1992年はアメリカの政治史の中で「怒れる有権者の年:year of the “angry voter”」と呼ばれるのですが、共和党のジョージ・ブッシュ(父親)大統領の下で経済政策が失敗、政治スキャンダルも含めて、政府に対するアメリカ人の欲求不満が高まる中で、大統領選挙が行われ、ビル・クリントン(民主党)、ジョージ・ブッシュ(父親・共和党)と並んで第三政党のロス・ペローも参加する3人の候補による選挙となり、クリントンの民主党政権が誕生することになった。同じ年に行われた下院議員選挙の投票率もかつてない低さとなった。


2023年現在の支持政党別の民主主義満足度を見ると、民主党支持者が38%と最も高く、共和党支持者は17%とかなり低い。ただそれらの数字を2021年のものと比較するといずれも下落していることが分かる。

アメリカ人の民主主義への満足度は1994~98年になると半数以上の有権者が「満足」と答えるまでに回復している。この期間中はアメリカ経済の成長も著しかったし、政治的には下院がクリントン大統領を弾劾するなど、有権者の怒りを反映したような出来事も相次いだ。

その後、ギャラップによるこのアンケート調査は2021年まで行われなかったのですが、CNNが同じような調査を2010年と2016年の2回行っており、民主主義に対する満足度は40%だった。必ずしも高いものではないけれど、経済的には財政赤字、社会的には銃暴力・人種間の緊張・違法移民の増加などの背景によるのではないかとされている。

 
▼う~ん、「民主主義の稼働ぶり(the way democracy is working)」というのはどのような状態を意味しているのですかね?その国の人びとが、自分たちの意見がどの程度政府や政治家のやることに反映されているか…ということに疑問を抱いているということ?日本や日本人はどうなのですかね。

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3)再びケネディ…?
 

2番目の記事(『アメリカ人と民主主義』)は、最近のアメリカ人が自分たちの民主主義について倦怠感めいたものを感じているということを述べており、その根拠とされているのが世論調査機関であるギャラップによるアンケート調査の結果だった。

そのギャラップが、今年(2024年)秋行われるアメリカの大統領選挙を意識した候補者の人気調査を行ったところ次のような結果が出ている。調査は昨年12月初めに行われ、約1000人のアメリカ人参加している。

大統領候補の人気

Gallup

ここに名前が出ているDonald TrumpとJoe Bidenは(言うまでもなく)前大統領(共和党)と現大統領(民主党)であり、Nikki Haley(女性)は共和党でサウスカロライナ州下院議員、州知事、国連大使などの要職を体験している。年齢は51才。Ron DeSantisは45才という若さながら現職のフロリダ州知事(共和党)ですでに大統領選への出馬を表明している。

が、何と言っても話題の主はこのアンケート調査でトップの人気を獲得したRobert F Kennedy Jrです。父親のロバート・F・ケネディが、14歳の時に暗殺され、9歳の時に叔父ジョン・F・ケネディ(大統領)が暗殺されるという余りにも悲劇的な運命を背負っている。1954年生まれだから今年で70才になる。

ケネディは有権者の中でも「サブグループ」といわれる特化した傾向を持つ人びとの間で圧倒的な人気がある。例えば女性の地位向上・人種差別反対のような運動に取り組んでいる人びとです。これらの有権者の間では共和党だの民主党だのという党派と関係なく人気がある。

ただ(ギャラップによると)大統領選挙における投票となったときに「独立派」の候補者としてどの程度の票を集められるのか?という疑問符を付けざるを得ない。要するに「バイデンは飽き飽きだがトランプも嫌だ(resistant to Biden but are also not sold on Trump)という人たちがどの程度いるのか?ということです。ケネディを支持する人びとの主張はKENNEDY24というサイトの中で述べられていますが、サイトの最初のページに次のようなメッセージが載っています。
  • We will end the forever wars, clean up government, increase wealth for all, and tell Americans the truth. 終わりのない戦争を止め、政府をきれいに掃除し、みんなを豊かにする。そしてアメリカ人に真実を語る…。
 
▼1968年という年は、アメリカ社会にとって異常な年だった。RFKが暗殺されたのは6月ですが、その2か月ほど前(4月4日)には黒人解放運動の指導者だったマーチン・ルーサー・キングJrがテネシー州メンフィスで殺された。

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4)再掲載:13年前、英国人記者が見た避難所生活

能登地方の地震の報に接した際に、関東在住の多くの人は2011年の東日本大震災のことを想いだしたかもしれません。あれから13年が経つのですね。あの震災については、むささびジャーナルにもいろいろな関連情報が掲載されたのですが、むささび自身が最も鮮やかに記憶しているのは、あの頃、東京特派員をやっていたThe Timesのリチャード・ロイド・ペリーという記者が書いた記事だった。震災後間もなくして彼が訪問・取材した仙台の避難所の様子をレポートした記事で、掲載されたのは地震から約一週間後の3月17日だった。レポートは
  • 「最悪の事態が起こったとしても、この粘り強い国の対応は世界の模範となるであろう」(If the worst happens, this resilient nation’s response will set an example to the world)
というタイトルだった。以下はその抜粋です。

粘り強い国の地震・津波・原発

リチャード・ロイド・ペリー
日本社会の強さ 原発は必要だったのか?
親切心も忘れていない 共に暮らすことの誇り
むささびジャーナル(号外)2011年3月17日

日本にとってのこのボディ・ブロー(大地震+津波+原発事故)はどのような効果をもたらすのだろうか?日本をノックアウトさせてしまうのだろうか?あるいは、日本人はかつて何度もそうであったように立ち向かって、団結心、目的意識、そして最も日本的なものである「敢闘精神」をもって暗黒の時代から再び蘇るのだろうか?
  • What, then, will be the effect of the recent body blows? Will they force a reeling nation to its knees? Or will the Japanese react as they have so many times and emerge from this dark hour with unity, purpose and that most Japanese of virtues, “fighting spirit”?
日本社会の強さとは

原子炉やオーバヒートし、がれきの下に遺体が埋もれているというときに、わずか5日間で、そのような壮大な判断を下すのは不可能なことである。しかし、原発危機について日本政府がどのようなパフォーマンスを見せようが、普通の日本人が素晴らしい成績を残したことは明らかであり、ここでもまた例外的とも言える日本社会の強さを見せつけたことも明らかなことである。それは目に見えるような形で示せるようなクオリティではない。起こっていない事柄の中に極めて明確に見ることができるようなものなのだ。たとえば、これまでに深刻な店舗における略奪行為は報告されていない。食糧、水、石油、ガソリンなどが不足しているにもかかわらず、それらの価格は先週(震災前)とほとんど同じようなレベルなのだ。店舗やガソリン・ステーションには長い行列が見られるけれど、誰も列を乱したり、口げんかをしたりすることがない。イライラしてクルマの警笛を鳴らしたり、ということもないのだ。
  • It is impossible to make such grand judgments after five days, with the reactors overheating and the bodies still lying under the sodden ruins. But whatever the performance of the government on the nuclear crisis, it is clear that ordinary Japanese people have emerged with outstanding credit and demonstrated once again the strengths of their remarkable society.They are undemonstrative qualities, which become most obvious in the things that are not taking place. There have been no reports of significant looting. Despite the shortages of food, water and petrol, prices are at much the same levels they were last week. In the queues at shops and petrol stations, no one shoves or argues or sounds his car horn.
親切心も忘れていない

日本的な親切も全く失われていない。仙台においては、市役所が帰るべき家がない旅行者のための避難所として開放されている。そこで私は見ず知らずの人々からお菓子をもらった。無理やり私に押しつけて行ったのだ。塩釜の避難所では、1000人もの被災者のための夕飯を見つけるのに四苦八苦であるにもかかわらず、この私にまでかまぼこをいくつかくれた。どうしても持って行けと言うのであった。
  • Japanese hospitality is uneroded. In Sendai, the City Office was opened up as a dormitory for homeless travellers, and I left with several packets of biscuits pressed on me by solicitous strangers. This became positively uncomfortable at the evacuation centre in the town of Shiogama where, despite struggling to find dinner for a thousand refugees, they would not hear of me leaving without a couple of fish sausages.

原発は必要だったのか?

日本が地震と津波から立ち直ることを疑いがないし、おそらく世界を驚かせるようなスピード回復するであろう。原発における放射能漏洩は、津波や地震とは違った性格の危機であり、きわめて複雑な問題である。地震国であるにもかかわらずこれほど多くの原子力発電所を作ったことで、日本は全くもって誤った選択をしたことを世に示したことになった。これから政府が、情報を共有する率直さと必要な避難を実施するだけのスキルを持って対応するということは、政府にとっては大変なチャレンジであると言えるし、その能力が容赦なく問われることになる。
  • There is no doubt at all that Japan will recover from the earthquake and tsunami, and will do so at a pace that will impress the world. The nuclear leak is a different kind of crisis, infinitely more complicated by comparison. By building so many nuclear power stations in such a seismically active country, Japan has been proven to have shown disastrously bad judgment. The way that the government handles the next few days and weeks, the frankness with which it shares information and the skill with which it executes any necessary evacuation, will be immense challenges that will test its competence unforgivingly.
共に暮らすことの誇り

しかしながら、たとえ最悪の事態となって、大量の放射能がばらまかれ、大混乱の脱出劇につながったとしても、それは世界のどの場所におけるよりも、醜悪さ・混乱・恐怖などの少ない脱出となるであろう。この数日間で日本人は再び日本人らしさを見せつけたのである。そのような人々とともに生きていることに、私は誇りを覚えるのである。
  • However, even if the worst happens and a mass radiation leak leads to a panicked exodus, it will be less ugly, chaotic and frightening than it would be anywhere else in the world. Once again, the Japanese have shown their singularity in the past few days. I feel proud to live among them.


▼2024年のいま、この記事を読み返してみても、最後の一言が最も強く心に響きます。"I feel proud to live among them." この記者は自分が眼にした避難所の人びとと一緒にいるということに「誇りを覚える」というのです。

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5)どうでも英和辞書
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flawless:非の打ちどころがない

日航機と海上保安庁の航空機が羽田空港で衝突した事故英国メディアでも大きく報じられていることは、日本でも伝えられている。BBCのサイトは、日航機の乗務員がとった行動が乗客の命を救ったとしているのですが、その際に使った言葉が "flawless evacuation" という表現だった。「非の打ちどころがない避難行動」というわけです。何がそんなに「非の打ちどころがない」のか?それはそれは避難する乗客が自分の荷物を手にすることを一切許さなかったということ。

つまり専門家によると、この奇跡は「普段の避難訓練で手に入れた技術・経験をそのまま実行に移した乗務員(staff on board putting their rigorous training into practice)、そしてその乗務員の伝える安全規則をそのまま受け入れた従順な乗客(passengers who obeyed safety protocols)」の二つが嚙み合ってこそ実現したものである、と。

むささびは "flaw" という言葉が「欠陥」とか「弱点」を意味することは知っていたけれど、それに否定の接尾語である "less" がついた "flawless" が「非の打ちどころがない」という積極的な意味を持っていることは知りませんでした。

BBCの記事は、この出来事に関するあるアジアの航空会社のパイロットの次のようなコメントを掲載しています。
  • I must say it was amazing. You really don't have time to think in a situation like this, so you just do what you were trained to do.
アタマよりも身体が憶える技術ということですね。

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6)むささびの鳴き声
▼「ケネディ」に関連して、むささびの個人的な思い出話をお許しを。長男のジョン・F・ケネディ(大統領)がテキサス州ダラスを遊説中に暗殺されたのが1963年11月22日。むささびは大学4年生で、友人宅で遊んでいたときにラジオがそれを伝えた。あれから60年経つのですねぇ!あの日、一緒にいた友人たちはどうしているのか?

▼ケネディ大統領暗殺についてはあまりにも腑に落ちない点が多すぎましたね。暗殺犯とされて逮捕されたリー・ハーヴェイ・オズワルドは2日後にダラス警察署でジャック・ルビーなる人物によって銃撃されて死亡してしまった。つまり大統領暗殺犯であるはずの人間が法廷で裁かれることもなく、しかも白昼に多くの人々が見ている前で銃で撃たれて死んでしまった…!彼が大統領暗殺の犯人であったとしても、何故そのような犯罪に走ったのかということが永久に分からないままになってしまった。
▼ロバート・F・ケネディ(RFK)が撃たれたのは1968年6月5日、ロサンゼルスのアンバサダー・ホテルにおける演説の直後に多くの人びとが見守る中で撃たれ、翌日死亡したのですが、犯人はサーハン・ベシャラ・サーハンという名前のパレスチナ移民(24才)の若者だった。彼は(ネット情報によると)アラブ人キリスト教徒で、ユダヤ民族主義者(シオニスト)に強い憎しみを抱いていた。でもRFKはシオニストではないのですが、サーハン・サーハンは後日あるジャーナリストに「ロバート・ケネディと私のつながりは、イスラエルを支援したこと、50機の爆撃機を送り込んでパレスチナ人を痛めつけようと企んだことだけだ」と語ったりしていた

▼彼がRFKを撃った1968年6月5日はイスラエルと近隣アラブ諸国との間で第三次中東戦争が始まった日、即ちシオニストによって自分たちパレスチナ人が痛めつけられる日であり、RFKもそのようなイスラエルに加担しているアメリカ人である、と。

▼(話題は全く変わるけれど)能登半島地震に関連したSNSを見ていたら、むささびの知り合いが被害を被っていることが分かりました。その人の地域は断水状態なのですが「静岡県の沼津市や浜松市から水道課の職員が給水車で駆けつけ、交代で給水活動をしてくれていました。静岡は曽てから東海地震に備え、こうした車両が何十台もあり、充実していることが窺えました」とのことでした。これを読んで、ほんの少しとはいえほっとしました。このメッセージを発してくれた知り合いに感謝・感謝です。
 

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