musasabi journal

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 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
504号 2022/6/19

上の写真、GENIC という雑誌のサイトから拝借してきました。ここ、どこだと思います?ベトナムの首都ハノイの中心部から歩いて30分ほどのところにある、「トレインストリート」という町の一角だそうです。線路を挟んで両側には生活感漂う住宅がズラリと並んでいる。すごい風景だなぁ!昔は東京にも路面電車が走っていたのよね。憶えていますか?高校生だったむささびは、毎日のように新宿から秋葉原方面への都電に乗っていました。それにしてもベトナムのこの電車ですが、右側に立っているのは乗客なのですよね!?

目次
1)スライドショー:Wildlife is Wild!
2)この戦争で得している人たち
3)ロシアのエリート階級は今
4)セコハン時代のロシア人
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
7)俳句


1)スライドショー:Wildlife is Wild!



インターネットを見ていると、野生動物に関する情報や写真が実にいろいろと出てきますよね。思わず唸りたくなるような美しい姿もあるけれど、「残酷」なものも実にいろいろです。「残酷」と言ってもそれは人間であるむささびの感覚でそう感じているだけで、動物たちにとっては当たり前の風景なのですよね。

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2)この戦争で得している人たち


国際問題の専門誌、フランスのルモンド・ディプロマティーク(Le Monde Diplomatique)の英文サイト(6月1日)に "The windfalls of this war" という見出しの記事が出ています。「この戦争の思わぬ拾い物」という意味ですよね。「この戦争」とはもちろんウクライナ戦争の話です。記事を書いたのは同誌のSerge Halimi(セルゲ・ハリミ:発音が正しいかどうか自信はない)という編集長なのですが、メモ書きによると、原文はフランス語で書かれたものを英文に直したもののようです。それにしても、ウクライナ戦争の何が誰にとっての「拾い物」だと言うのでしょうか?記事の書き出しは次のようになっている。
  • On 10 February, two weeks before the Russian invasion, President Joe Biden told Americans in Ukraine to get out within 48 hours.  今年の2月10日(すなわちロシアによるウクライナ侵略が始まる2週間前)、アメリカのバイデン大統領がウクライナ在住のアメリカ人に、48時間以内にウクライナを出るように伝えた。


ほぼそれ以来ずっとアメリカはウクライナにかかりっきりとなっている。アメリカは、プーチン自身が生み出した惨劇・悲劇を利用しながら「戦術的な得」(strategic gains)を手に入れている、しかもアメリカ兵の犠牲は一切なしに、であるというわけです。その間、ロシアの弱体化は誰の眼にも明らかであるし、中国でさえも思わぬ成り行きに戸惑いを隠せない。それだけではない、NATOそのものがフィンランドとスウェーデンの加盟によって強化されようとしている。しかもアメリカの穀物生産者やガス生産者、武器メーカーなどには思いもよらぬ「注文」が舞い込んでいる。この間、西側メディアは声をそろえて米国防省のプロパガンダに舞い上がっている…。アメリカの政策担当者にしてみれば、これほど結構な戦争を終える理由はない…かな?Why would US strategists want such a fortuitous war to end?

ここ何週間もの間の観察によると、アメリカにとって、この戦争の真に歓迎すべき終わり方は、モスクワの中心部を西側の軍隊が勝利の行進を行い、バイデンが演壇からこれを見物し、プーチンは鉄の檻に入れられているという状態だろう。「ロシアの弱体化」というアメリカにとっての本来の目的の達成に向けて、バイデン政権は着々とウクライナへの最新鋭の武器を提供し続けている。過去3か月間でアメリカ議会は、ウクライナに対して540億ドルの援助を行うことを承認している。「540億ドル」と言えば、ロシアの防衛費の8割にあたる額なのだそうです。


バイデンは当初、ウクライナを直接的に援助することは第三次世界大戦に繋がると危惧していた。しかし彼はロシアによる「核の脅威」は脅しにすぎず、自分たち「西側」はロシアの軍事力を過大評価しているのではないかと思い始めているようにも見える。つまりロシアは簡単に追い込める(can safely be backed into a corner)ということだ。その意味においてバイデンは、共和党のネオコン人間たちと同じで、拡張主義のプーチンに妥協するのは、人食い人間に金を払って自分たちを食べるのを止めにしてもらおうとというのと同じなのだ。バイデンはアラバマ州にあるロッキード社のジャベリン対戦車ミサイル製造工場の労働者を前にウクライナのある夫婦が自分たちの子どもにジャベリンという名前を付けた話を大喜びで聞かせたりしている。

ウクライナのゼレンスキー大統領は5月21日に発言して、この戦争は外交交渉のテーブルにおいてのみ終了するだろうと語っている。しかし外交交渉が停滞する中でロシア軍は着々とウクライナ国内の町を破壊・占領し続けている。その一方でアメリカの政治家たちは、戦争の拡大によって大いに利益を得ている。



一方のヨーロッパは、どちらかというと受け身の態度に見える(looks passive)。一方に「ロシアを孤立させた平和はあり得ない」(peace cannot be built by humiliating Russia)とするマクロン仏大統領がいて、もう一方にはエストニアのカヤ・カラス首相のように「プーチンに出口を用意するなどとんでもない」(We should not offer Vladimir Putin a way out) とする反ロシア派がいる。カラス首相によると「軍事的な解決以外に戦争の終わり方はない。ウクライナは勝利しなければならない」(The solution can only be military. Ukraine must win this war)ということになる。

というわけで、編集長によるならば
  • いまヨーロッパで糸を操っている人形師はワシントンの人間たちなのだ For the moment, it’s Washington’s puppeteers who are pulling the strings in Europe.
ということになる。

日経ビジネスのサイト(5月31日)にフランスの歴史人口学者・エマニュエル・トッド氏とのインタビューが出ており、ウクライナ戦争をどのように終わらせるべきなのかを議論しているのですが、平和交渉を実現するためには、欧米・ロシアの双方に「精神的、道徳的、また倫理的な努力」が必要である、と強調しています。具体的には、双方とも相手が「怪物であるというような表象をやめる」である、と。つまりメディアによる相手側の非難合戦を止めるべしということですよね。

▼トッド氏は、戦争拡大の危険性を取り除くために、アメリカ主導のウクライナ支援とは別にフランス、ドイツ、日本が重要な役割を担っているとしています。日本は「欧州の地ではないが価値観を共有する」という意味で重要で、この3か国こそが「第三次世界大戦に参戦するのか、阻止するのか、熟慮すべき」と」言っているのですが、今のところ日本の眼はアメリカにしか向いていない。

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3)ロシアのエリート階級は今


ビジネス誌であるThe Economistの姉妹誌に "1843 magazine" という名前の文化誌があります。実際に1843年創刊なのですが、最初の頃はThe Intelligence Lifeという名前だったらしい。その6月8日号のサイトに
  • Holiday dilemmas of the Russian elite ロシアのエリート・ファミリー、休日の悩み
という見出しの記事が出ています。ある英国人女性(30才前後?)が、家庭教師としてロシアのエリート・ファミリーの家に住んでいるのですが、その彼女が接したエリートたちのウクライナ戦争への態度の変化をエッセイとして書いているものです。筆者の名前は "Anonymous"(不明)となっている。かなり長い記事であることも理由ですが、それより記事内容からして、むささびがポイントだけをピックアップして紹介するのは難しい。というわけで、全文をそのまま訳して紹介させてもらいます。



いつもと違う夏 「戦争賛成派」の強気
徴兵をどうする? 子どもたちの硬化現象
「くだらない戦争」? 乳母・タチアナの不満
プロパガンダにうんざり

休日に家族を連れていけそうな場所(国)を知らないか?とボス(父親)に聞かれたときはちょっと戸惑った。トルコかそれ以外の「アジア」がいいと言う。なぜ戸惑ったのかというと、この人にそんなこと聞かれたことがなかったからだ。私は英国人の英語教師、彼は商品を売買するロシアのビジネスマンだ。
  • むささび注:ここでいう「ボス」は筆者が家庭教師をしているロシア人家族の父親のことであり、いわゆる「勤務先」の上役ではありません。
いつもと違う夏

私はボスの家に住み込んで英語を教えているし、私立学校でも教師をやっているけれど、お陰でたくさんのロシア人と知り合いになった。私が暮らしているのはモスクワ郊外の金持ちエリアだが、一緒に暮らしているロシア人のホスト・ファミリーは、夏休みにはサントロペのような外国の保養地で暮らすのが普通だった。彼らに言わせると、トルコは「普通の人たち」が休暇を過ごす場所だった。「普通の人たち」とは「貧乏人」と言う意味である。


私のホスト・ファミリーのような金持ちロシア人にとって、今年(2022年)の夏は好きなところで隠れて過ごすことはできない夏となっている。プーチンのウクライナ戦争のせいだ。ロシアからの飛行機に対してはヨーロッパの空は事実上閉ざされているようなものであり、ビザの取得もタイヘンだし、クレジットカードさえも使えない状態が続いている。夏休みともなると、普段ならロシア人の親が私に「ギリシャやマイアミでの休暇中に子供たちが読むべき本を教えて」と言ってくるけれど、今年はそれもなさそうだし、親にしてから海岸に寝そべって読書にふけるということもなさそうなのだ。

徴兵をどうする?

私のボスは、今年4月のイースターに家族をドバイへ連れて行った。ウクライナ戦争が始まってひと月ほどしてからのことだ。「ドバイはとても暑くて参った」とのことで、夏休みの休暇先には別のところを選びたいと言っており、友人にジェット機を借りて行きたいとのことで、あちこちと電話をかけまくっている。

私のボスのようなエリート族が夏休みの過ごし方を心配している一方で、他のロシア人たちにとっての気がかかりは徴兵である。現在、春の徴兵審査の最中で、合計13万人を超える人間が一年間の軍役に服さなければならない。18才から27才までの男は誰でもこれに引っかかることになっているけれど、実際には健康を理由にこれを忌避するケースもあるし、勉学中を理由にする人もいるし、賄賂を払って免れることもある。政府の言葉を信用するならば、徴兵されてもウクライナに派遣されることはないが、この言葉を信用しないロシア人は沢山いるし、昔ながらの徴兵忌避は難しいことも分かっている。


噂によると、今年の徴兵は強制的な色彩が濃いらしい。自宅を訪れた徴兵担当官が、徴兵される男性の妻や母親と入口で議論しているビデオがSNSを通じて出回っている。自分の息子を連れ去ろうとする担当官に対して母親と思しき人物が「あなたになんの権威があるのよ」と叫ぶ姿が何度も見せられる。

くだらない戦争?

この種の場面について、私は自分の知り合いのVladislavaという名前のロシア人女性の意見を聞いたことがある。彼女の答えはたった一言「くだらない戦争よ:Fuck this war!」というものだった。彼女には徴兵年齢のボーイ・フレンドがいる。名前はテーマ(Tema)なのだが、彼女の両親はテーマを好きではなかったらしい。「彼ら(徴兵官たち)にはテーマを渡さないわ」というのが彼女の口癖だったので、私が「だったら彼に赤ん坊を作ってもらったら?」という冗談を言い合ったりもした。

ロシア人たちは今、徴兵逃れの方法について考え始めている。ロシア国内で学生でいるより、外国留学の方が安全らしい。Vladislavaとボーイフレンドはアメリカ留学を申し込んだ。「でも授業料が高いのでは?」と聞くと「彼が書類を作れるから」というのが答えだった。それはそのボーイフレンドが銀行関連の書類を偽造できるということだった。


私自身はこの町で徴兵担当官と会ったという人に会ったことがないけれど、だからと言って彼らが自分の家のドアをノックする日が来ないとは言えない。徴兵されるのが嫌で、遠く離れたカザフスタンからリモート勤務をしている人を知っているし、自分の家族が持っている別荘に隠れている人間がいるのも知っている。とにかく皆が徴兵逃れに懸命になっている。自分が勤務している企業が、一定数以上の人間を雇えば、その社員である自分は兵役を逃れることができると考えている人間も。また徴兵事務所が暴徒に襲われると言う事件もあちこちで起こっているし、SNSでは徴兵逃れに成功した人間がヒーロー扱いされることもある。

プロパガンダにうんざり

徴兵には関係のない人たちの中には政府による絶え間ないプロパガンダにうんざりする人たちも増えている。多くのロシア人が自分の携帯電話に情報保護機能(VPN)を付けており、3月になって政府が禁止した後でもインスタグラムにアクセスすることができる。つまり外国のニュースサイトを見ればにロシア軍が攻撃を仕掛ける様子がわかってしまう。防衛大臣のセルゲイ・ショイグが不正を働いたというジョークも頻繁に流れている。

その一方で(西側による)制裁措置が効き目を表している。レストランのメニューもお粗末になっており、サツマイモのような輸入品目がメニューから消えてしまったケースもある。給料の遅配も起こっている。私が仕事をする私立学校では学生たちがカフェテリアで行列を作りながら、ヨーグルトがいつまで続くのかについての賭けをやったりしている。


私のボスでさえも最近ではピンチを感じているようだ。最近、彼の乗っているベンツのフロントガラスに石が当たってひびが入ってしまったにも拘わらず、まだ直してもいないのだ。おカネがないからなのか、部品が手に入らないからなのか、よく分からない。毎朝、私はそのクルマに乗せてもらってジムに通っているけれど、そのひび割れについては見て見ぬふりをしている。彼のベンツは常にぴかぴかでキズなどない(ことになっている)のだ。

「戦争賛成派」の強気

人によってはこの戦争に賛成する人もおり、賛成派がますます強硬な態度を示すようになっている。先日、私は「友人の友人」が主催するカクテルパーティーに参加してきた。その人は学校の管理者のような仕事をしている人物だった。パーティーではみんなちょっと酔っ払い加減になっていた。中には(戦争に関連して)ロシア政府への不満をぶち上げる者もいた。グラスを合わせながら、私は思い切って(しかし静かな口調で)「ウクライナ万歳」(slava Ukraini!)と言ってみた。これが間違いだった。相手(女性)は私がなぜウクライナの戦争屋たちを支持などできるのか、とつっかかってきた。

私はウクライナの戦争狂いを支持しているつもりはなく、ウクライナが有しているはずの国際法における自己防衛の権利を支持しているだけだと伝えた。彼女の主張によると、この戦争はウクライナのエリート連中が好き好んで始めたものだ。それが証拠にドンバスとロシアとの国境地域ではウクライナ人がロシア側へ逃げてきているではないか、と。「あの(ウクライナの)難民たちはロシアを侵略者などと思っていませんよ」とも主張した。私は話題を変えることにして「ロシアでは(ウクライナ戦争のおかげで)この冬に食べ物も燃料もないという人たちが存在する。ウクライナなどにいて何を得ることができるというのか?」聞いてみた。「あんたは何を言いたいの?凍り付くのはヨーロッパ全体なんですよ:What’s your point? Europe will freeze too.」と、彼女はイラついたように言い返してきた。


子どもたちの硬化現象

ウクライナに関する態度の硬化現象は、私が教えている子どもたちの多くにも言える。戦争が始まったころは、ウクライナの話をしようとすると話題を変えようとするか、どこかぎごちない表情になったものだった。今は違う。最近、クラスで国旗のことが話題になったことがあるけれど、11才の男子が「ウクライナは大嫌いだ:I hate Ukraine!」と言い放った。「なぜ4400万人もの人がいる国が嫌いなの?」と聞いてみた。答えは「だってヤツらは化学兵器を持っていたりするから」と苦々し気なものだった。あの子の言っていることは半分は当たっている。ロシア政府の主張によると、西側諸国は大量破壊兵器の開発をウクライナにある秘密の研究所で行っているらしい。尤も正確にはそれは生物兵器であり、化学兵器ではないらしいけれど。

最近では国営テレビで使われる言葉が子どもたちの遊びの世界にまでしみ込んでいるようで、かつてはラップ音楽の決まり文句は “your Mum” というものであったはずなのに、今では公園で遊ぶ子どもたちの口からでるのは “oni protiv Rossii?” すなわち “Are they against Russia?”(彼らは反ロシアか?)というものに決まっている。

 

乳母・タチアナの不満

私が家庭教師をしているロシア人家族にはタチアナという名前の乳母がいる。彼女は、ウクライナ戦争に関する限り、この家の子どもたちには徹底的に政府の言い分を叩き込んでいる。子どもたちがご飯を食べ残したりすると、「東ウクライナの子どもたちはロシア語を話すけれど食べるものもない状態なのよ。それもみんなナチのウクライナ軍のおかげなの」と言ったりしている。実際の母親がこれを耳にすると「タチアナ、止めなさい。子どもたちがそれを聴く必要はないのよ」と口止めする。タチアナは台所へ引き下がるけれど、その際には「最近の子どもたちは学校で本当のことを教えられないのですよ。教師がみんなアメリカ人だから」とぶつぶつ言っている。

ただ、この忠実なプーチン贔屓(タチアナのこと)でさえも、ロシア人がウクライナでは戦いたくないということは認めざるを得ないらしい。この家の子どもの一人が宿題をさぼっていたところ「勉強して大学へ行かずに、どうやって徴兵を逃げようと言うのです?If you do not study and get into university, how will you avoid conscription?」と言っていた。これが殺し文句なのだ。 

▼この記事を読んでいると、現代のロシア人はどのような社会に住んでいるのか、と否定的に考えざるを得ない。この筆者はロシア人に英語を教えることで生計を立てている(そのような給料を貰っている)のですよね。雇い主であるロシア人の「ボス」はプーチンの政治をどのように思っているのか?

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4) セコハン時代のロシア人



この前の記事(『ロシアのエリート階級は今』)では、現代ロシアのエリート層がウクライナ戦争に関連して何を感じているのか?を英国人による観察を通じて語ったものでした。世の中全体が愛国主義に凝り固まっている社会では、成員全体が住みづらい想いの中で生きていると言う感じがします。「住みづらい」という意味では、それまで70年続いた「ソ連」という国が消滅した1991年12月、ロシア人たちは何を感じていたのか?現在のウクライナはソ連の崩壊とともに独立した国であり、その意味で、あのソ連消滅抜きには現在の戦争さえも考えられない出来事であるのかもしれない。

さらに言うと、報道によれば、プーチンは自分のことを17世紀末~18世紀のロシア皇帝、ピョートル1世の跡継ぎであると考えているとのことです。そのことの良し悪しはともかく、プーチン(および彼の支持者)のアタマの中に占めるロシア革命という20世紀の出来事の重要性はどの程度のものなのか?そもそもロシア人のアタマの中では革命の結果出来上がり、70年も続いた「社会主義ロシア」はどのような存在感を有しているものなのか?

今から約10年前(2013年)に出版された「セコハン時代:最後のソ連人たち」は、社会主義・ソ連の時代を生きたロシア人たちが、何を考え、何を感じながら生きていたのかを事細かく報告しています。むささびジャーナル357号で詳しく紹介しているのですが、ここでは当時、ロシア共産党三等書記官として生きていた人物の述懐を再度掲載させてもらいます。



社会主義は間違っていない
47才 地区共産党三等書記官

私は憶えておきたいのよ。自分がどんな時代を生きてきたのかってことを理解しておきたいの。自分の生活だけじゃない、皆のソ連時代の生活のこと。私はね、自分の国の人間なんて大した人たちじゃないと思っているの。共産主義者たちや共産党の指導者たちについてもね。特に最近(ソ連消滅後)の共産主義者はひどい。みんなちっぽけなブルジョアになってしまった。「甘い生活」「グッド・ライフ」を求めて、消費して消費して消費して・・・何でも手当たり次第自分のものにしたがる。

昔の共産主義者は、ああじゃなかったのよ。今じゃ、百万長者の共産主義者がいるのよ。ロンドンにアパートを持って、キプロス島に御殿を構えてさ。あれでも共産主義者なの?あの人たちは、何を信じているの?そんなこと、あの人たちに尋ねてみなさいよ、何を言われると思う?「ソ連時代のおとぎ話なんがするんじゃない!」とくるのよ。彼らは偉大な国を破壊して安値で売り渡したのよ!で、ヨーロッパをぶらぶら旅しながらマルクスの悪口を言って歩いてる。今はスターリン時代と同じくらいひどい時代よ。私はね、自分の言っていることは全部正しいと思ってるの。だから私の言うことはみんな書き取っておいてね。でもあんたも信用できないわね。

もちろん共産主義者にだって、真面目でちゃんとした人はいたわよ。例えば私の父。彼は共産党員ではなかったけれど、共産主義者だった。党に入りたかったのに断られてしまったの。傷ついたわよ、もちろん。でも党と国を信じてた。毎朝、プラウダを隅から隅まで読んでいたわ。ソ連には共産党員ではない共産主義者がたくさんいたのよ。党に入った人だって世の中で出世するために入ったわけじゃない。みんな良心から入党したのよ。でも私が知っている、ちゃんとした共産主義者は誰も大きな町には住んでいなかった。

親友が一人いてしょっちゅう議論をするの。彼女によると社会主義が要求するのは「完ぺきな人間」(perfect people)。そんな人間いるわけがない。だから社会主義なんて「狂った理想主義」(crazy ideal)以外の何物でもない・・・と彼女は言うのよ。でも私は違う。私は人間は社会主義(つまり正義:justice)に向かって歩んでいると思っている。ドイツをご覧なさいよ、フランスやスウェーデンも。正義に向かって進む、それしかないのよ。ロシアの資本主義のモットーって何?金儲けしてベンツを乗り回していないようなヤツはくだらない人間だってこと?

▼以前にも書いたと思うけれど、社会主義・ロシアの民主化を図ったゴルバチョフは、結局、ロシア政治の表舞台から姿を消すことになるけれど、最近の彼の現在について報道したドキュメンタリーの中で、ゴルバチョフは「私は社会主義者だ」と明言している。おそらくこの「元共産党三等書記官」も同じような感覚で現代ロシアを生きているのでしょうね。彼女ような思想の持主がプーチンの「愛国主義」をどのように見ているのでしょうか?
 
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5)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら


impostor syndrome:インポスター症候群

「インポスター症候群」などという日本語、聞いたことあります?むささびは聞いたことない。ネット情報によると
  • インポスター症候群とは、仕事で成功し評価されているにも拘わらず自分自身を過小評価しネガティブに捉えてしまいがちな人々のことを指します。
となっている。だったら「インポスター」などというカタカナを使わずに「引っ込み思案」とか「謙虚」のような日本語を使えばいいのに…と思いながら "impostor" という単語の意味をケンブリッジの辞書で調べたら、次のように説明されていた。
  • a person who pretends to be someone else in order to deceive others:他人を欺くために自分とは違う人間のふりをする人
そうなると確かに「引っ込み思案」や「謙虚」とは違うなぁ…と思いながら例文を見たら
  • He felt like an impostor among all those intelligent people, as if he had no right to be there. 
と書いてあった。「そのような賢人たちに交じって、彼は自分がその場にいる資格がない(即ちimpostorである)かのように感じた」という意味ですよね。そうなると「謙虚」に近いってことになるかなぁ…と思いつつ、YouGovのアンケート調査を見たら「英国人とインポスター症候群」(How many Britons display signs of impostor syndrome?)というテーマのアンケート調査が出ていました。「他人からの高評価や賞賛を受容するのを難しいと思うか?(Do you find it difficult or easy to accept compliments and praise from other people?)」という問いに対する答えは次のようなものだった。

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6)むささびの鳴き声
▼思いつくままに…。月刊『創』という雑誌の篠田博之編集長が、元日本赤軍・重信房子さんが獄中から「支援通信」につづってきた諸々を報告しているエッセイがヤフーニュースに出ていました。題して『20年ぶりに出所した元日本赤軍・重信房子さんがこの1年近く、出所に備えてしてきたこと』。かなり長い記事なのですが、その中に「ウクライナ侵攻について」という部分がある。日付は2月25日となっているから、プーチンによるウクライナ侵略戦争が始まった翌日に書いたものらしい。重信さんはざっと次のようなことを言っています。
  • ロシアのプーチン大統領は、世界を敵にまわす覚悟で戦争を始めたので、かなり世界が変わるでしょう。<中略>でも今回の決断は、プーチン政権の崩壊の始まりでは?軍事的に勝っても長期的には崩壊へと向かうと考えられます。
▼重信さんは1945年9月生まれだから、むささびより4つ若い。1952年生まれのプーチンはそれよりさらに7つ若いんだ…!ついでに(失礼!)言っておくと、ゴルバチョフは1931年生まれだから、むささびよりちょうど10才上ということに。

▼これもヤフーニュースですが、立憲民主党の議員有志が「自衛隊員応援議員連盟」なるものを立ち上げたのですね。会長は枝野幸男前代表。共同通信によると「参院選を見据え保守層にアピールする狙いがある」とのことですが、枝野さん本人は「最前線で汗を流している隊員の皆さんが誇りと自信を持って仕事できる環境をつくることは、政権を目指す政党として大事な責任だ」と言っている。枝野さんのいう「最前線」とはどのような所を指しているのでしょうか?原発事故や風水害の現場に駆け付ける自衛隊に有難いと思わない人なんています?ちなみに枝野さんは1964年生まれの58才です。

▼むささびがこれまでに度々引き合いに出してきた、北九州・東八幡キリスト教会の奥田知志牧師が6月12日(日)の礼拝で、ウクライナ戦争に関連して、聖書における「マタイによる福音書 5:43-48」と呼ばれる部分のことを語っている。この部分ではイエス・キリストが人びとに対して「敵を愛し、自分を迫害する者のために祈れ」とか「天の父が完全であられるように、あなたがたも完全な者となれ」という「命令」を下している。ウクライナ人もロシア人も、相手を愛し、相手のために祈ることによって「完全な者」になるように努力しろと言っているのですが、奥田牧師はまず次のように言っています。
  • しかし、イエスは無茶を言う―現実に合わせると何も変わらないどころか、どんどんと悪くなります。
▼殺られる前に殺っつける、さもないと敵に殺られてしまうだけだ、それでいいのか?というわけだ。いいはずがない、けれど…というわけですよね。それでは「殺られる前に殺っつける」ことで生き延びようとするのがいいのか?それだっていいはずがないけれど殺されるよりはまし、かな?お互いに「まし」を求める「現実主義」にこだわることで、実際にはお互いの武装を推進することになるのでは?つまり、どこかで、誰かが「マタイ」のいわゆる「完全な者」へと舵を切らない限り世界はますます悪くなるだけ、ということなのではないか?というわけで奥田牧師は1963年生まれだから、立憲民主党の枝野さんより1才だけ年上ということに。

▼だらだらと、くどいんだよね。失礼しました!

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