musasabi journal

2003 2004 2005 2006 2007 2008
2009 2010 2011 2012 2013 2014
 2015 2016        
347号 2016/6/12
home backnumbers uk watch finland watch green alliance
美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
ついに2016年も6月になってしまいました。もうすぐあのくそ暑い夏・・・。上の写真にも見るとおり、ワンちゃんというのは何故かどんな人間とも仲良く暮らせます。ポイントは食べ物。おそらく左端の小さなイヌは何かの食べ物を放ってもらって喜んでいるのではないか。右の2匹は「ね、アタシたちにもちょうだいよ」と言っている。ワンちゃんのすごいところは、食べ物をもらえなくても恨むことがないということ。もらうと大喜びですが、もらえないときは?諦めて忘れてしまうだけ・・・。

目次

1)オバマと折り鶴
2)ショートショート:老人とイヌ
3)「普通の人」が信頼される社会
4)英国(の武器)がイエメンの村を破壊している
5)国民投票と外国暮らし
6)ドイツから英国人へ:INはIN、OUTはOUTだ
7)トランプとは戦うしかない
8)どうでも英和辞書
9)むささびの鳴き声


1)オバマと折り鶴


もうずいぶん昔のことのように思われるけれど、オバマ大統領が広島を訪問した際に、平和記念資料館を訪問、折り鶴を贈呈したことが結構話題になりましたよね。そのことについて、ジャーナリストの前澤猛さんが自身のFacebookで記事を書いているのですが、これがメディアというものを知るうえで(むささびは)非常に面白いと思うので紹介します。前澤さんはまず、この話題を伝える読売・毎日・朝日の各紙の記事の切り抜きを掲載、「折り鶴」の件についてのそれぞれの記事を次のように紹介しています。
  • 読売新聞:同行した安倍首相が「自分で折ったのか」と尋ねると、オバマ氏が「少し手伝ってもらったが、自分で折った」と応じた。
  • 毎日新聞:「少し手伝ってもらったけれど、私が作りました」とにこやかな表情を見せた。
  • 朝日新聞:「少し手伝ってもらったけれど、私が作りました」。白と淡いピンクの2羽を小中学生2人に1羽ずつ手渡した。
「自分で折った」とオバマさんが言ったというわけですが、これらの記事を書いた記者たちは、オバマさんがそのように言ったということを誰から聞いたのか?「この談話のニュースソース(談話の取材源)は「『誰』、あるいは『どこ』なのでしょうか?」というのが前澤さんの疑問であり、
  • 大袈裟に言えば、アメリカの大統領が原爆投下に対して謝罪、あるいは哀悼の意思表示をしたとして、歴史に残る記念品であり証言といってよいでしょう。その発言の出所が分からないのでは、ニュースの信頼性はどう担保されるのでしょうか。
と言っているわけです。「談話の取材源」がはっきりしないような記事には信頼性がない、と。

これらの記事を何の知識も先入観も持たずに読んだら、オバマさんが「私が作りました」と言ったのを記者たちが傍で聴いていて記事にしたとしかとれませんよね。でもその場所がどのようなスペースの場所なのか、むささびには分からないけれど、オバマの広島訪問を取材していた記者やカメラマンの数を想像すれば、報道陣がそれを直接聞いたということはあり得ない。となると、この「オバマ談話」は、誰かが別の場所で報道陣に対して説明する中で出てきたものと考えるのが自然ですよね。だとしたら(例えば)「その場に居合わせたXX氏によると・・・」という書き方にするべきなのではないのかということです。


では、オバマによる折り鶴贈呈を日本以外のメディアはどのように伝えているのか?むささびが調べた範囲に過ぎないけれど、次の3つの記事が目につきました。
  • Los Angeles Times:Obama gave two of his own to local schoolchildren, and then left two more alongside his inscription in the museum guest book.
  • Reuters: He left two paper cranes alongside his inscription, the White House said.
  • ABC News: The White House said Obama visited Sadako's memorial and presented paper cranes to two local school children. Then, after signing the guest book, he left two more paper cranes alongside his inscription.
どの記事にもオバマさんが「自分で折りました」と発言したなどとは書いていない。単に持参した4羽のうち2羽をそこにいた小中学生2人にあげ、残りの2羽をゲストブックの自分の署名の傍に置いたと書いてあるだけです。2番目のロイター通信と3つ目のABCニュースの記事は、それについても「ホワイトハウスによると」(the White House said...)と書いている。つまりロイターもABCも記者たちが見たことではなくて、後からホワイトハウス(の担当官)から説明されたと書いているのと同じです。ロサンゼルス・タイムズの記事が "two of his own"(自分自身の折り鶴2羽)と書いてあり、無理やり想像するならば、この「自分自身の」という言葉が「自分で折った」と解釈できないこともない。そのロサンゼルス・タイムズにしてからが、毎日新聞のように「にこやかな表情を見せた」などと、まるで記者がその場に居合わせて見ていたかのような書き方はしていない。単に折り鶴贈呈という事実を書いているだけです。

むささびがなぜ前澤さんの問題提起を紹介する気になったのかというと、折り鶴に関する記事(たぶん朝日新聞)を読んだときに、あまりいい感じがしなかったことを憶えていたからです。「『禎子の鶴』 オバマ氏の祈り」、「平和を思いそっと2羽置く」のような大きな見出しに、新聞による「押し付けの感動物語」を感じてしまったということです。これを書けば読者は感動するに決まっている・・・というわけです。こんな風に思うのはむささびが人並み外れて「ひねくれ根性」を持っているからなのであろうと思うけれど・・・。


▼で、前澤さんの指摘を読んだわけですが、ひょっとするとむささびが持ってしまった違和感の理由の一つとして、記事としての落ち着きのなさのようなものがあったのかもしれない。「落ち着きのなさ」を別の表現で言うと「安っぽさ」ということになる。朝日新聞には悪いけれど、「新聞記者、見てきたようなウソを書き」という川柳が当てはまってしまうように思うわけです。そしてその理由が「オバマ談話」の出所が書かれていないということにあったのかもしれないということです。一読者にすぎないむささびは、「何だか妙だなぁ」と感じるだけですが、ジャーナリズムのプロにはその理由が分かってしまうということです。

▼ついでに言っておくと、読売新聞は「安倍首相が『自分で折ったのか』と尋ねると・・・」と書いていますよね。この記事もおかしいと思いませんか?安倍さんは、何故あえて「あんた、それ自分で折ったんですか?」なんてことをオバマさんに聞いたんですか?折り鶴を持ってきたというのだから、それでいいじゃん!? 安倍さん、あんた本当に聞いたんですか!? なぜそれを読売だけが書いたんです?

▼前澤さんによると、新聞記事における「~によると」というのを英語では "attribution" というのだそうですが、これが日本のメディアにおいては案外いい加減なのだそうです。つまり"attribution"のない新聞記事も結構見られるということです。彼が書いた "WATCHDOG" という本に書いてある。むささびジャーナルの場合は、どの記事もすべて「~によると」とか「ここをクリック」となっている。

▼オバマの折り鶴について、本当にオバマさんが新聞が伝えるような発言をしたのかどうか、本人に確かめたくてホワイトハウスへメールを打ちました。1週間ほど前に送ったのですが、いまのところ返事が来ていません。返事がきたら「オバマ大統領によると」という"attribution"が書けるのですが・・・バラクのヤツ、何やってんだ、このお!

back to top

2)老人とイヌ
Facebookを見ていたら、ある老人とイヌの話が投稿されていました。ちょっと変わった短編小説のような文章だったのですが、次のような書き出しになっていました。
  • 老人がひとり、イヌを連れて道を歩いていた。彼は周囲の景色を楽しみながら歩いていたのであるが、突如として思い出した。自分は死んだのだ・・・。
    A man and his dog were walking along a road. The man was enjoying the scenery, when it suddenly occurred to him that he was dead.
以下、このストーリーをそのまま日本語にして紹介します。


老人がひとり、イヌを連れて道を歩いていた。彼は周囲の景色を楽しみながら歩いていたのであるが、突如として思い出した。自分は死んだのだ・・・。彼はまた自分と一緒に歩いているイヌも死んでいることを思い出した。イヌは自分が死ぬ以前に死んだのだった・・・。でも、ここはどこなのだろう?この道はどこへ続いているのだろう?そう思いながら歩いていくと、道路いっぱいに金(ゴールド)が敷き詰められている場所に来た。そこには大理石でできた立派なゲートがあり、ゲートには真珠がたくさん飾られていた。そして周囲は高い塀に囲まれている。ゲートは閉まっていたけれど、中に男がひとり坐っているのが見える。老人が塀の中の男に呼びかける。
  • 「すみません・・・ここはどこなんです?」
    Excuse me, where are we?
    「ここは天国ですよ」
    This is Heaven, sir.
    「へえ~、天国ですか、すごいなぁ・・・で、水を一杯飲ませてもらえません?」
    Wow! Would you happen to have some water?
    「もちろんですよ。どうぞお入りください。いま氷も持ってきますから」
    Of course, sir. Come right in, and I'll have some ice water brought right up.
目の前の立派なゲートが開き始める。そこで老人が後ろにいるイヌを指さして男に尋ねる。
  • 「これは私の友だちなんです。一緒に入ってもいいですか?」
    Can my friend come in, too?
    「残念ですが、当方ではペットはお断りしております」
    I'm sorry, sir, but we don't accept pets.
そう言われた老人は、しばらく考えた末、中に入ることなく、イヌと一緒に、いま来た道を歩き始める。
そしてしばらく歩いて行くと、埃だらけの田舎道にさしかかり、農家のような家があった。門はあるけれど、閉まっている様子はないし、塀もない。老人が近づいていくと、男がひとり、庭の木に寄りかかって本を読んでいるのが見える。
  • 「すみません、水をもらえませんか?」
    Excuse me! Do you have any water?
    「ああ、いいよ。あそこに井戸があるだろ?勝手に入って飲んで行けよ」
    Yeah, sure, there's a pump over there, come on in.
    「あのぉ、私のこの友だちは・・・?」
    How about my friend here?
とおそるおそる尋ねたが、男はそれが聞こえなかったようだった。
  • 「井戸のそばに茶碗があるはずだ」
    There should be a bowl by the pump.
老人とイヌが門を入っていくと、確かに古ぼけた井戸があって、傍に茶碗が置いてあった。老人は水を汲むと美味しそうに飲みほしてから、イヌにも飲ませる。水を飲み終わって老人とイヌが木のそばにいる男のところへ行く。
  • 「ここは何という場所なんです?」
    What do you call this place?
    「ここは天国だよ」
    This is Heaven.
    「おかしいな、あっちの方の家では、あそこが天国だと言っていましたよ」
    Well, that's confusing. The man down the road said that was Heaven, too.
    「ああ、あのゴールドで舗装した道路のところにある、真珠の飾りがついた門の、あの場所のことかい?違うな、あそこは地獄だよ」
    Oh, you mean the place with the gold street and pearly gates? Nope. That's hell.

    「でも、あちらがあなたの名前(天国という名前)を使っているのは不愉快じゃないんですか?」
    Doesn't it make you mad for them to use your name like that?

    「いや、そんなことはないな。あそこのおかげで、自分の一番大切な友だちをほったらかしにするようなヤツらがここへ来ることがない。それで結構ってことだよ」
    No, we're just happy that they screen out the folks who would leave their best friends behind.oo.

と、これでお終いです。

ここをクリックすると、このストーリーの原文を読むことができます。
back to top

3)「普通の人」が信頼される社会


これまでにも何度か紹介したけれど、Ipsos MORIという世論調査会社が毎年行っている「職業別信頼度指数」(Veracity Index:Trust in Professions)を見ていると、英国という国の「いま」が見えてくるようで非常に興味深いのであります。どのような調査なのかというと、調査員が裁判官、警官、教師、牧師など24種類の職業(professions)を示して、それぞれが「真実を伝えていると思うか?」と質問する。2015年版の調査結果が出ているのですが、17才以上の英国人990人と対面式の調査を行ったものです。それによると、最も信頼されているのは医者(doctors)で、信頼度最低は「政治家一般」(politicians generally)となっている。


Ipsos MORIではこの調査を1983年以来行っているのですが、政治家に対する信頼度は常に低いのだそうです。2015年の「21%」などはまだいい方で、政治資金の使い方をめぐるスキャンダルが発覚した2009年には「13%」だった。


信頼度の下落が目立つのは「聖職者」(clergy)で、2015年は67%の第8位だったのですが、この調査が始まった1983年では85%で信頼度ナンバーワンだった。

が、何と言っても面白いのは「ヘアドレッサー」ですよね。警官、テレビ・キャスター、聖職者などよりも信頼され、堂々の信頼度第5位に入っている。間違っていたら謝るけれど、ヘアドレッサーというのは床屋さんのようなものですよね。なぜそれがそんなに信頼されるのか?自身が24年間ヘアドレッサーをやっているニーナ・ポーテルがGuardianに寄せたエッセイによると、いちばん嬉しいのは「いいようにやって。あなたを信頼しているから」(just go ahead, I trust you)と言われるときなのだそうです。


あるとき夫を亡くしたばかりで落ち込んでいる女性がヘアドレッシングにやってきた。夫が死んで以来生活がメチャクチャになってしまい、この際気分転換のための「ニュールック」をしたくてやって来たのだという。ただニーナ・ポーテルには、その客がそれほど急にドラマチックに変わってしまうことを求めているわけではないことが分かった。そこでごく目立たない程度に少しずつ変えていったのだそうですが、その客が来店のたびに生きることに自信を回復していることが見て取れるようになった。5年後に新しい夫と来店した彼女は、如何にニーナによって救われたかを語りながら涙ぐんでいたのだそうです。

ニーナによると、ヘアドレッサーは、芸術家、心理療法士、エンタテイナー、手品師などを一緒にしたような職業なのですが、ヘアドレッシングをやりながら家族の秘密を打ち明けて泣き出す客もいるのだそうです。もちろん客の秘密は絶対厳守なのですが、
  • 他人の人生を変えたことはあるし、自信回復の役に立ったこともあるけれど、それは客が私のやることを信頼してくれたおかげでもある。
    I know that I’ve changed someone’s life or restored their confidence because they’ve trusted me to do what I do.
と言っている。

▼英国で1年間暮らしたミセス・むささびにもお気に入りのヘアドレッサーがいたのですが、自宅に呼んで食事を一緒にするまでになっておりましたね。つまり友だちのようになっていたということですが、それもあのヘアドレッサーが客の信頼を勝ち取るという点でプロであったということの証なのかもしれないですね。美耶子がさらに気に入っていたのは英国の美容院の名前で、"Philosophy" "Concept" "Chapter"のような思想めいたネーミングが多いらしい。日本だと「美容室みゆき」、「大久保美容院」、「カットルームむらやま」なんてのが多くて、いまいち夢がない、と。「ビューティーパーラーむささび」なんてのは・・・ダメかもな?


上のグラフは「信頼度」に加えて「不信感」の度合いも示しています。例えば医者や教師に対しては信頼度の高さも目立つけれど、不信感を持っている人の割合の低さも際立っている。「ジャーナリスト」に対しては信頼度も低い(25%)けれど、積極的に不信感を持っている人の割合は相当に高い。その割には「ニュースキャスター」(TV News Reader)への信頼度が高いのですね。テレビの画面で毎晩語りかけてくるキャスターは新聞記者よりも信頼度が高いってことですかね。但し「ニュースキャスター」に対する「不信感」も決して低くはない。

ちょっと興味深いのは「普通の人たち」(ordinary man/woman in the streets)に対する信頼度が警察官と同じくらい高い(68%)ということ。24職種中の第7位の信頼度です。「普通の人」という職業はもちろんないわけですが、普通の人たちが自分たちと同じような人びとをどの程度信用しているかはその社会の安定度を示すものとして注目されてもいい数字だと思いませんか?Ipsos MORIによると、2001年の9・11テロ事件の後に行った調査では「普通の人びと」に対する信頼度はかなり下落したけれど、最近のパリやブラッセルでのテロ事件にもかかわらず信頼度は上がっているのだそうです。

▼注目すべきだと(むささびが)思うのは、「教師」に対する信頼度の高さです。サッチャーさん以来、学校の先生が政治家やジャーナリストに褒められることはまずない、どころかいつも批判の対象にされている。なのに普通の英国人の間では圧倒的な信頼度を誇っている。言い換えると、教師をけなす政治家やメディアが全く信頼されていないということにもなる。

▼これはむささびの推測であって、数字的・客観的な裏付けがあるわけではないのですが、「ジャーナリスト」が信用されていないのに「ニュースキャスター」についてはかなり信頼度が高いのは、要するにBBCの存在がものを言っているのではないか。「ジャーナリスト」というのはおそらく大衆紙の記者たちのことだろうと推測はするのですが、英国の場合、いわゆる「高級紙」の記者だからと言ってそれだけで尊敬を集めるということはない。むしろ高級紙は高級紙なりに批判的な読者が多いということです。普通の英国人にとってBBCへの信頼感は圧倒的なのでは?

▼いずれにしても、政治家をアホ呼ばわりするジャーナリストも世間的には大して尊敬はされていないという図式はいまも昔も変わっていない。かつてジャーナリストのアンソニー・サンプソンが、メディアと政治の関係について「メディアが政治家を叩きまくると、世の中の有能な人材が政治の世界に進まなくなる」というわけで、それが民主主義の危機を招くと言っていたのは当たっている。

▼政治家がメディアによってケチョンケチョンにけなされるというのは日本も同じですよね。だからテレビで街頭インタビューをすると「政治家なんて、誰だって同じじゃないんですか?」と皮肉る人が多い。ただ、その視聴者や読者がどの程度テレビや新聞を信頼・信用しているのか?是非知ってみたい。

back to top

4)英国(の武器)がイエメンの村を破壊している

5月28日付のObserverに英国の武器輸出に関する記事が出ています。それによると武器の輸出先として、英国の外務省自身が "human rights priority countries" として問題視している国がかなり多く入っている。human rights priority countriesは日本語に直すと「人権蹂躙重要国」ということになるけれど、要するに国内において重大なる人権蹂躙が行われている疑いがある国という意味であり、2015年に外務省が発行した "Human Rights and Democracy Report 2015" という報告書の中でアフガニスタン、中国、コンゴ共和国など30か国が名指しされている。

Observerが伝えているのは、昨年(2015年)1年間で30億ポンド相当の英国製の武器が、これら30か国の中の21か国に対して輸出する許可が下りているということです。Observerによると、例えば次のような国々です。
  • サウジアラビア:現在イエメンに対する空爆の中で戦争犯罪にも相当する人権蹂躙が行われている。
  • バーレーン:「アラブの春」のデモ隊を軍隊で鎮圧している。
  • ブルンディ:国連によって人権蹂躙が調査されている。
  • モルジブ:昨年、かつて大統領を務めたモハメド・マシード氏を13年の禁固刑に処する決定をしているが、明らかに政治的な動機に基づく刑であるとされている。
実は2014年における「人権蹂躙重要国」への武器輸出ライセンスは1億7000万ポンドだった。それが2015年になると30億ポンドにまで増えている。尋常な増え方ではない。なぜそこまで増えたのか?Observerによると、サウジアラビアへの武器輸出が大幅に増えたことが原因となっている。2015年の対サウジの武器輸出許可の内訳は戦闘機(17億ポンド)、空対空ミサイル(9億9000万ポンド)、爆弾(6200万ポンド)となっているのですが、これら3件の輸出許可が下りたのは、いずれもサウジアラビアがイエメンへの爆撃を始めた2015年3月以後のこと。この爆撃は民間人の建物を狙って行われたもので、人権蹂躙の疑いが濃いとされているのだそうです。

サウジアラビアへ輸出されているのと同じ型のジェット戦闘機「タイフーン」

Observerによると、武器輸出のことになると、どうも政府の態度が一定しないのだそうです。例えば2015年にはエジプトへの8400万ポンド相当の武器輸出の許可が下りているのですが、エジプトは3年前の2013年7月に軍のクーデターによって民主的な選挙で選ばれたはずのモルシ大統領が追放され死刑を宣告されたりしている。外務省の報告書でもエジプトは「人権に関する状況はお粗末で、いまでも悪化の一途を辿っている」(human rights situation remained poor and continued to deteriorate)とされており、機関銃や小火器などの輸出許可も下りていなかった。にもかかわらず昨年7月にはなぜかライフル、ピストルなどの輸出許可が下りている。武器輸出に反対するCampaign Against Arms Trade (CAAT)のアンドリュー・スミス氏はこのことについて「言うこととやることが違う、政府のダブルスピークの典型例」だと言っている。


ストックホルムの国際平和問題研究所(SIPRI)の資料(2010年~2014年)によると、英国の武器輸出先としてのサウジアラビアは輸出全体の41%を占めるダントツの1位で、2番目のアメリカ(12%)、3番目のインド(11%)を大きく引き離している。サウジへの輸出は英国の武器輸出企業にとっては命綱のようなものであるわけです。一方、サウジアラビアはインドに次いで世界で2番目の武器輸入国となっているのですが、最大の輸入元が英国(36%)で、2位はアメリカ(35%)、3位はフランス(6%)などとなっています。

▼上の写真はイエメンの首都、サナアのスラム街にたたずんでいる子供。背後の建物がすべて破壊されていますが、これはサウジアラビアを中心とする「有志国」によるイエメン空爆の一環として行われたものです。英国はそのサウジに対して戦闘機や爆弾などを輸出している。実はオランダはサウジでの武器輸出を禁止したし、EU議会でも極端な神権政治を行っている国(サウジ、イランなど)への武器輸出を禁止する決定を行っているのですが、最大の輸出国である英国とフランスがこれに従っていない(3月16日付Independent)。

▼SIPRIなどの資料を見ていても、武器輸出に関連する部分には「日本」の名前が全く出てこないのですが、2014年4月にそれまでの武器輸出三原則に代わる『防衛装備移転三原則』なるものが「閣議決定」されたのですよね。要するに他国と同じように武器輸出で金を稼げるようになった。「これもアベノミクスの一環だ」などと言うのでしょうね、シンゾウは・・・。

back to top

5)国民投票と外国暮らし
 

前号のむささびジャーナルで、世界的な人の流れについての記事を掲載しましたよね。その中で、「英国生まれ」の約500万人が外国で暮らしている(日本人は80万)と紹介しました。6月4日付のThe Economistが伝えているのは、6月23日に迫ったEU関連の国民投票と「外国暮らしの英国生まれ」の関係です。いかにも英国らしくかなりいい加減なやり方できているらしい。


この記事が特に問題にしているのが、仮に英国が「EU離脱」となった場合、EU加盟国で暮らしている英国生まれの人たち(とりあえず「英国人」と呼んでおきます)はどうなるのか?ということです。特に英国人が多く暮らすEU加盟国としては、スペイン、アイルランド、フランス、ドイツ、イタリアなどが挙げられるのですが、全部で約130万人が大陸のEU加盟国にいるんですね。The Economistによると、最近ベルリンにあるパブのようなところに集まった英国人に「もし英国がEUを離脱した場合、ドイツの市民権を申請しようと考えている人は手を挙げて」と聞いたところ、そこに集まった英国人のほとんどが挙手したのだそうです。これと同じような集まりがハンブルグ、ケルン、コペンハーゲン(デンマーク)などでも催されている。


自分が現在暮らしている国の市民権を申請するまではいいとしても、実際にそれが与えられるのか?現在はドイツで「自営業」(self-employed)で暮らしている英国人の場合、離脱後はドイツ政府からの労働許可証をもらう必要があるのか?そもそも外国暮らしの英国人はどうやって国民投票に参加するのか?・・・分からないことだらけというわけです。

The Economistの記事によると、英国籍を有している人が現在どこで暮らしているのかを記録するような中央官庁がないのだそうですね。オランダの場合はこれがあるから、海外投票についてもそのお役所から海外のオランダ人に投票用紙が郵送され、投票者はそれをそれぞれの住民登録がなされている地方自治体に送るというシステムになっている。英国出身者にはそれぞれ住民登録がなされている地方自治体から投票用紙が送られるシステムになっているのですが、海外の送付先に関する情報が必ずしも正しくないということもあって、6月4日現在、この方法で投票のための登録を済ませたのは、外国にいる500万のうちたったの20万なのだそうです。


The Economistによると、離脱派(Leave)も残留派(Remain)もお互いに罵り合うだけで、外国暮らしの英国人のことなどほとんど考えていない。

離脱派によると、「条約法に関するウィーン条約」(Vienna Convention on the Law of Treaties)というのがあって、現在暮らしている国において獲得した権利(vested rights)は国と国との間で結ばれた条約よりも優先することになっている。現にグリーンランドが1985年にEUから離脱した際にはEU加盟国で暮らしていたグリーンランド出身者の地位には影響がなかったのだそうで、それが英国出身者にも当てはまる(だから離脱となっても心配するな)というのが離脱派の言葉なのですが、スペインの首相などは「英国がEUを離脱した場合は、スペインで暮らす英国人の権利も失われることになる可能性もある」などと発言している。

というわけで、もし6月23日の投票で離脱派が勝利した場合、EUとの離脱交渉にあたって在留英国人の地位の保護が確保されなければならなくなる。しかしそんなことは可能なのか?最近、離脱派が「離脱後は英国におけるEU加盟国出身者の権利には厳しい制限を設ける」という発言をしている。そのようなグループが勝利した場合は、EU側でも英国出身者に対しては厳しい制限を設けるべきだという世論が盛り上がることは目に見えている。ベルリンで暮らす英国出身者には有難くない話になる。


そもそも英国は外国にいる自国出身者に冷たいのだというのがThe Economistの意見で、例えば外国暮らしが15年も過ぎると選挙権は失われるし、英国出身者がどこにいるかさえまともに突き止めようとしない。アイルランドは自国出身者を記録するべく巨大なデータベースを作ろうとしているし、ニュージーランドでも同じような動きがある。さらにメキシコ、インド、中国などは自国出身者を文化や価値観を広めるソフトパワー戦士(soft-power warriors)と位置付けている。またフランスやイタリアなどは「外国」という「選挙区」を設けて、国内の選挙がある場合でも、大使館で投票できる制度になっている。英国とは大違いだ、というわけです。

The Economistによると、英国では外国暮らしの英国人を「二級市民」(second-class citizens)であるかの如き扱いをしているけれど、最近の「移住者」(emigrants)には大卒の専門職が多いのだそうです。科学者、起業家、弁護士のような人びとです。彼らは決して英国を捨てたわけではなく(not deserters)、外国と英国との間の交流促進に貢献している。
  • 彼らこそは貿易の促進者であり、英国の文化や価値観のプロモーターでもある。つまり世界とのコンタクトや世界に関する知識を得るための手段でさえある。そのような存在こそ、6月23日に英国がEU離脱を決めた際には大いに必要とされる存在となるだろう。
    They are stimulants to trade, promoters of British culture and values, and vessels of worldly contacts and knowledge. All of which Britain will need more than ever if, on June 23rd, it votes for Brexit.
とThe Economistは言っている。

▼上のグラフを見ると分かるけれど、EUを離脱したい(Brexit)と言っている人びとは、「保守党支持者」で「高齢者」で「低所得者」の間に多い。まさにアメリカにおけるトランプ支持層とイメージが重なるわけです。反対に若者で労働党支持者で「富裕層」が残留を希望している。富裕層と労働党支持者が合わないように思えるかもしれないけれど、「進歩的」(リベラル)という共通点がある。ただ最近のThe Economistの調査によると、残留派にとって気になるのは、労働党支持者の間で「6月23日には投票する」と言っている人が52%しかいないことで、保守党支持者の69%に比べると見劣りがする。

▼若い層においてEU残留の意見が多いのですね。「18~24才」という世代はサッチャーさんさえ知らない人たちです。物心ついたときには親ヨーロッパのブレアの労働党政権になっていた。EU残留派の人びとにとって頭が痛いのは、若年有権者の間でこの国民投票での有権者登録を済ませていない人がかなり存在するということです。このグラフの世論調査対象となった人に限るならば、高齢者の中で登録を済ませていないのはわずか5%にすぎないのに、若年層の間では30%にものぼるのだそうです。登録締め切りは6月7日だったから、このむささびが出るころには過ぎてしまっている。

▼上の写真は「残留派」の英国人がFacebookに貼りつけたもの。自分で作った国民投票の投票用紙で、「残留」(Remain)か「離脱」(Leave)のどちらかに[X]を付けろと書いてある。可笑しいのは、この人が考えたそれぞれの理由が書いてあることです。「残留の理由」ついては次のように書いてある。
  • 英国は、それ自身よりも大きなものの一部(a part of something greater than itself)となるべきである。現在は21世紀なのだ。EUにもいろいろと欠陥はある。しかし我々は大人(big boys)になって、EUの至らない点を直すように努力するべきであって、気に入らないことがあるとすぐに家へ逃げ帰って「お母ちゃん」に泣きつくようでは情けない(running home to mummy)
▼ちなみに「離脱」の理由としては、独立党の党首、プーチン、トランプ、マードックらの名前を挙げて「この人たちが自分の利益のことを考えてくれるから」(have my best interests at heart)とした上で「正直言ってアタシは人種差別主義者なんです」(And I'm a bit recist)と書いてある。

▼英国での議論を読んだり聴いたりしていて思うのは、離脱派はもちろんのこと、残留派でさえも「自己利益」を考え方の中心に置いてしまっているように思える。むささびは、態度を決めかねている知り合いにそれ(自己利益)にこだわり始めるとどうにもならなくなると思う(you don't get anywhere)と言っておきました。「自分自身よりも大きなものの一部であるべし」という発想は、いわゆる「個人主義」にこだわる人には分からないかもしれないけれど、真理をついている。

back to top

6)ドイツから英国人へ:INはIN、OUTはOUTだ
 
 ドイツの週刊紙、Der Spiegelの最新号(6月11日号)が英国のEU離脱問題に関する特集記事を掲載しています。題して "BITTE GEHT NICHT!"(出て行かないで!)なのですが、英国人に読まれることを意識して23ページにわたる英文のセクションも含まれている。その英文セクションに掲載されているのが、メルケル政権で財務大臣を務めるヴォルフガング・ショイブレ(Wolfgang Schäuble)とのインタビューです。題して "Britain Is a Leading Nation"(英国は指導的な国)。当然ながら英国がEUに残留することを望んでいるのですが、最終的には英国人が決めることだと言っている。ここをクリックすると全文を英文で読むことができるのですが相当に長いものです。この際、一か所だけ抜き出して紹介します。

SPIEGEL:何故、英国が残留する方がEUにとって望ましいのか?英国はこれまでだって何度もEUから距離を置くようなことを言っている。
Schäuble:英国はEUの中でも最強の経済力を持つ国の一つであり、ロンドンはヨーロッパ最大の金融の中心地だ。英国は(EUの)外交・安全保障政策に関連する事柄についても指導的な役割を果たしている。英国とともにあるヨーロッパは、英国抜きのヨーロッパよりも強いものになる。さらに言うと、英国はEUの中でも常に市場経済による物事の解決を支持してきた国であり、その意味ではドイツ政府の味方となってきた国なのだ。私の意見ではあるが、ヨーロッパにとって英国的な現実的合理主義(pragmatic rationality)は絶対に必要なものなのだ。
英国にとってEUに留まるメリットは何だと思うか?
英国は経済的にはヨーロッパの国々と緊密につながっているパートナーなのだ。この絆を断ち切ることは、英国にとっては重大な後退を意味するするし、英国自体の相当な弱体化につながるということだ。このグローバル化の時代に「栄光ある孤立」(splendid isolation)は決してまともな選択ではない。
しかし英国はEUに加盟せずに(EUが持つ)単一市場がもたらす恩恵に浴することは可能ではないか。スイスやノルウェーはそのようにしている。
それはうまく行かないだろう(That won't work)。英国はいま脱退することを望んでいるクラブのルールに従うことが要求されるのだ。多数の英国人が離脱(Brexit)を選択するということは、(EUが持つ)単一市場そのものに反対するという意味でもあるのだ。要するにINはIN、OUTはOUTということだ。英国人の主権は尊重しなければならない。
 
ショイブレ大臣の発言の中に出てくる「栄光ある孤立」(splendid isolation)という言葉ですが、これは19世紀末に当時の大英帝国が採用した非同盟政策を象徴する言葉です。当時のヨーロッパにおける大国(オーストリア、プロイセン、ロシア)とは同盟関係を持たないという孤立主義的な姿勢のこと。その政策も行き詰まりを見せたとき、当時の新興勢力の一つであった日本との間で結ばれたのが日英同盟(1902年)です。

▼EUは離脱するけれど、単一市場とは関係を保持したいということで、例に出されているのがノルウェーやスイスとEUの関係です。ノルウェーの場合、自国の資源である石油や漁業の産物を世界に輸出して国の生計が成り立っており、その部分がEUの規則でがんじがらめにされることへの拒否反応がある。スイスも金融や観光で成り立っており、EUに加盟して縛られたくないというわけで、EUとはつかず離れず的な関係でいる。ただ、それでもEU市場とのビジネス関係はあるし、その中ではEUの規則に大いに縛られている。しかもその規則を作るにあたってはEU加盟国ではない自分たちの意見は全く反映されない。それが英国にとって望ましい状態なのか?ということです。
 
 back to top

7)トランプとは戦うしかない
 

 日曜紙のObserverが5月29日付の社説でドナルド・トランプについて
と言っています。「遅すぎたとなる前に今こそトランプについての醜い真実を伝える時だ」ということですよね。

トランプが大統領の職に就くには不適格な人物であることが明らか(evident)であるにもかかわらず、現在のようなブームを引き起こしていることについて、アメリカの現状に対する有権者の怒りや不満の表れであり、地球規模で進む変化に対する恐怖感が故にまともな判断が出来なくなっているのだという意見がある。つまり
  • トランプへの支持票は現状そのものに対する反対票なのだ。
    A vote for Trump is a vote against the status quo.
という意見です。しかしながら多くの場合、トランプ支持熱は未成熟で孤立主義的であり、神話の世界でしかあり得ない「要塞アメリカ」(Fortress America)への回帰願望の表れである、とObserverは指摘します。この回帰願望によると、イスラム教徒やメキシコ人を始めとする「外国」に侵される以前には「要塞アメリカ」というものが存在していたのに・・・となる。
 
 Observerによると、現在のようなトランプ・ブームが到来するなどとは夢にも考えていなかった民主党の議会指導者たち、共和党の穏健派、そしてオバマ大統領でさえもトランプと面と向かって対決することを避けてきた。それは間違いであった(This is a mistake)というわけです。アメリカの有権者の現在のムードは必ずしも異常なものではない。どの国においても選挙ともなると「悪者どもを追い出そう!」(throw the bums out)という声が高まったりするものだ。それが今回の場合は、有権者の欲求不満がトランプによって操られてしまっており、影響力を有する多くの人びとが頭を低くしてきている。トランプの主張の誤りも出鱈目も、特に文句も言われずに通過させてきてしまった。

この社説が特に触れているのが、アメリカの主要メディアの姿勢です。トランプが共和党の候補者になるかもしれないという現実を直視することができないままに来てしまったということ。これまでにもアメリカの大統領選挙ではメディアからの攻撃に屈した候補者が何人もいる。例えば1988年の選挙では、民主党の候補者を目指したゲイリー・ハート上院議員がメディアによる「女たらし」(womaniser)扱いで敗れ去ったことがある。それ以外にも大統領まで入れれば数多くの主要な政治家がメディアによって潰されている。なのになぜかトランプに関してはどのメディアも妙におとなしい。もちろん例外もある。ニューヨーク・タイムズはトランプの女性蔑視発言、自らの企業における女性従業員に対する扱いなどを暴いたりしているけれど、なぜかトランプにとってはダメージにはならない。


ただ・・・「アメリカの民主主義にとって幸運なことに、勇気ある人物がまだ残ってはいる」(Fortunately for US democracy, there remain brave souls)と言って、Observerが挙げているのがマサチューセッツ州選出のエリザベス・ウォレン(Elizabeth Warren)上院議員です。彼女はアメリカ・インディアンの血筋を引いていることをトランプにからかわれたりしているけれど、彼に対して勇敢に立ち向かっている、とObserverは絶賛している。

Observerの社説は、ウォレン上院議員の発言をいくつか紹介しています。
  • ドナルド・トランプは敗北者なのですよ。そのことをまずはっきりさせましょう。自分が敗者であることはトランプ自身が知っているようにも見える。彼が不安で仕方ないことは言っていることを聞いても分かりますよ。女性に対するくだらないイジメ、安手の人種差別主義と鼻につくナルシシズム(自己愛)・・・どれも彼が敗者であることを認めているようなものですよ。ただ、彼がこのような点では敗北者であることは間違いないけれど、だからと言って選挙で負けるという意味ではない。みんなトランプの選挙運動を1年間にわたってバカにしてきた。今こそ目覚めるときなのですよ。
    Let’s be honest - Donald Trump is a loser. And Trump seems to know he’s a loser. His embarrassing insecurities are on parade: petty bullying, attacks on women, cheap racism and flagrant narcissism. But just because Trump is a loser everywhere else doesn’t mean he’ll lose this election. People have been underestimating his campaign for nearly a year - and it’s time to wake up.
ウォレン上院議員は、この選挙を憎しみ・性差別・人種差別・排外主義などの醜さに対してアメリカ人が決別する機会を提供するものであると言っています。
  • 歴史上の最悪の権威主義者の多くが敗北者であることからスタートしています。トランプは深刻な脅威です。そして私の考えでは、トランプがこの運動を完ぺきな敗北者として終えるようにすることこそが我々の仕事なのです。彼は敗北者としてスタートしたのですからね。
    Many of history’s worst authoritarians started out as losers - and Trump is a serious threat. The way I see it, it’s our job to make sure he ends this campaign every bit the loser that he started it.
Observerの社説は、我々はトランプとは「一線を画さなければならない」(A line must be drawn)し、「幻想は一掃されなければならない」(Illusions must be discarded)、「真実が語られなければならない」(The truth must be told)と主張します。トランプの「弱者嫌い」、「孤立主義と保護主義」、「自己陶酔」のような性格、さらには全く無知としか言い様のない中東や東アジアにおける外交姿勢などは「危険な問題」(menacing problem)でこそあれ、決して「一過性の現象」(passing phenomenon)と言って済まされるようなものではない。

この社説は最後にトランプ現象と似たようなことが今のヨーロッパでも進行中であることに触れています。欧州各国で右翼的な排他主義、人種主義の政治勢力が増大していることに触れ、トランプのような考え方とは「理にかなった妥協」(reasonable compromises)など出来るものではない、として次のように結ばれています。
  • トランプのような考え方には融和的な態度をとってはならない。買収してもいけないし、広がるままにしておいてもいけない。唯一するべきことは、それが萌芽したらこれに反対し、戦い、これを破ることなのである。エリザベス・ウォレン議員が主張するとおり、重大なる戦いが今始まらなければならないのだ。
    It must not be appeased, bought off or left to fester. The only thing to do with Trump-ism, wherever it appears, is to oppose it, fight it, and defeat it. As Elizabeth Warren says, that critical fight must start now.
▼ウォレン議員はトランプのことを「敗北者」と呼んでいるのですが、どういう意味なのか?いつも他人の評価を気にしてビクビクしており、その内心のビクビクを知られたくないが故に強がりを言って見せる、被害妄想の臆病者と同じような意味で使っているのだと思うのですが、そのトランプに拍手喝采するアメリカ人もまた被害妄想の臆病者になってしまっているということなのか・・・。

6月10日付のGuardianによると、ウォレン議員はボストングローブ紙とのインタビューの中で、民主党の大統領候補者としてヒラリー・クリントンを推すことを表明したのだそうですね。彼女はまたテレビとのインタビューで「副大統領候補になる気はあるか?」と聞かれて「ある」(yes)とはっきり答えています。自分とヒラリーが力を合わせて「トランプがホワイトハウスに近寄ることを防ぐ」(Donald Trump gets nowhere near the White House)と言っています。
むささびジャーナル関連記事
「オバマのあとはこの人っきゃない!」

back to top 

8) どうでも英和辞書
  A-Zの総合索引はこちら 

turnout:投票率


6月23日に行われるEU残留か離脱かの国民投票(referendum)ですが、気になるのは投票率です。つまりどの程度の人数が投票すると国民投票として「有効」となるのかということです。QUORAという質問サイトによると、有効となるために必要な最低投票率(turnout threshold)というのはないのだそうです。つまり何人が投票しようが、残留か離脱かは多数決で決まるということです。

必要最低投票率というアイデアが採用された国民投票の例としては1979年にスコットランド議会の設立に関する(スコットランドでの)国民投票がある。このときは「有権者の40%以上が賛成に投票しないとスコットランド議会の設立は認められない」という規定であったのだそうです。つまり厳密にいうと「必要最低投票率」というよりも「必要最低賛成率」と呼ぶべきものだった(その時は賛成率が40%に達しなかったので、スコットランド議会の設立は見送られた)。

2014年に行われたスコットランドの独立をめぐる国民投票の投票率は何と85%という驚異的な高さだったので、結果(独立賛成が45%、反対が55%)については文句のつけようがなかった。で、来る6月23日のEUをめぐる投票率ですが、Sky Newsによると、選挙管理委員会(Electoral Commission)は80%にも達する可能性があると見ているのだそうであります。

日本の憲法改正も最終的には国民投票にかけられますよね。ただ国民投票にかけられるためには、憲法改正案が衆参両院で3分の2以上の賛成を得なければならない。で、その国民投票について総務省のサイトには

  • 憲法改正案に対する賛成の投票の数が投票総数(賛成の投票数と反対の投票数を合計した数)の2分の1を超えた場合は、国民の承認があったものとなります
と書いてある。つまりどの程度の有権者が参加したのか(投票率)は無関係に政府が提案する憲法改正案に対するYes or Noの数で決められる。
back to top

9) むささびの鳴き声
▼6月23日のEU加盟継続に関する国民投票ですが、英国のメディアを見ているとほとんど感情的な対立にまで至ってしまっているようにさえ見える。それがむささびには他人事には思えない。日本においていずれはやって来るであろう憲法改正に関する国民投票でもさぞや鋭い対立が見られ、自分がどのような立場をとればいいのかよく分からないという状態に陥ると思うからです。そんなときに自分の考え方の基本となるのは、5番目の記事のコメントのところで述べたように「自分の利益」ではないし、自分が属している日本という国の利益でもない。自分や自分の国よりも大きなものの一部(a part of something greater than itself)となるべきであるという考え方だと思います。

▼5番目に載せたEUについての国民投票と外国で暮らす英国人ですが、先日ある英国人と話をしていたら、定年退職後にヨーロッパ大陸で暮らす英国人はかなり多いらしいですね。問題なのは、大体どこでも「英国人社会」のようなものが出来てしまうこと。スペインやフランスの片田舎で英国人だけが集まってしまうと結構目立つのだそうです。地元のスペイン人らから見ると、とんでもない金持ち集団に見える。実際には自分の家を売り払って生活費が安い大陸に来ているだけなのに・・・。ただせっかく外国へ来たというのに自分の国の人だけで固まって暮らすというのも困ったものですね。

▼7番目の記事で、アメリカのウォレン上院議員がドナルド・トランプのことを「敗北者」と呼んでいることを紹介しました。要するに「臆病者の強がり」に拍手喝さいが贈られているということですが、日本の首都である東京の人たちも何年も前にそのような人物に拍手喝采を送って知事にしてしまった。アメリカ人も東京都民も勝手に八方ふさがりのような心理状態に陥って、いわゆる「強力なリーダー」なるものを求めたということですね。自分のアタマでゆっくり・じっくり考えることを止めてしまって「英雄」の登場を待ち望む・・・そういう心理状態ということですね。その東京の「元敗北者」が先日、東京の外国人記者クラブで会見をやって「トランプ氏と直接話し合いに行くつもりだ」と言っておりました。「日本のことが分かっていないようなので、いろいろと教えてあげたい」と言っていました。敗北者同士が太平洋を越えて手を結びあうということのようです。

▼(話は飛ぶけれど)BuzzFeedというニュースサイト(日本語版)を見ていたら6月2日付で『東京都議会の取材に行ったら「ネットメディアは報道ではない」と断られた話』という記事が出ていました。むささびはそれほど詳しくないけれど、BuzzFeedはアメリカ発祥のニュースサイトで、あちらでは大統領と単独会見をやったりして、メディアとしてそれなりの「市民権」を得ており、伊勢志摩サミットでも取材記者団に加わったりしていたらしいですね。そういえばむささびジャーナル341号の「鳴き声」でもBuzzFeedのことを語りましたね。

▼で、その6月2日付の記事ですが、6月1日に始まった東京都議会における舛添知事の所信表明演説をBuzzFeedの記者が取材に行ったところ、都庁の報道担当者から「インターネットメディアは報道として扱いません。一般傍聴に並んでください」と言われてしまったという出来事を詳しく書いているものです。かなり長いので、ここでは詳細は省きます。興味のある方は原文を読んでみたらどうですか?

▼この記事の中でむささびが紹介しておきたいのは、都庁がどのような機関や人間を「報道」として扱うのかという部分です。BuzzFeedによると、基本的には「新聞協会、雑誌協会、テレビ・ニュース映画協会、日本専門新聞協会、地方新聞協会に所属する各社」なのだそうですね。これらの組織に所属していなくても「都政・都議会を継続的に報道している社」も「報道」として扱われることはあるらしい。BuzzFeedの記事は
  • BuzzFeedはアメリカ大統領に単独インタビューしたり、BuzzFeed JapanとしてもG7サミット取材の記者団に加わったりしているけれど、東京都議会取材への道は遠い。
  • という文章で終わっている。
▼XX協会に所属しないところは「報道」ではないという都庁のお役人の態度は哀しいよね。その人間が何をしているかではなくて、どこに所属しているかで判断する・・・「無難である」ことを最優先すると、どうしてもそうなる。どこかの「集団」に属していれば間違いはないという発想です。実際にはXX協会に所属しているから大丈夫ということは絶対にないけれど、これまでの慣習に従う無難さには勝てないよね。

▼ところで6月12日付の毎日新聞のサイトに、舛添さんが「書道の作業服として」上海で中国服2着を購入したのが「適正支出」だったかどうかという記事が出ています。一方、LITERAというサイトには「石原都知事時代の贅沢三昧は舛添以上」という記事が出ている。毎日新聞はおそらく新聞協会に所属しているから、都庁からも「報道」と見なされているでしょう。LITERAはどうなのか?むささびにとってはっきりしていることは、毎日新聞の記事はお役所によって「報道」扱いされた記者による記事であるということ。そして毎日新聞の記事は(むささびにとっては)全く読む価値なしであることであります。マジメにやれ、マジメに!

▼BuzzFeedがダメなのだから、「むささびジャーナル」なんて「報道」扱いはされないに決まっているよね。
  • 「むささびジャーナルって何ですか?」(と都庁の役人)
    「むささびの研究を中心に報道しておりまして・・・」
    「むささびの研究が都議会や都知事に関係あるんですか?」
    「知事が湯河原に別荘を持っていますよね。あのあたりにはむささびが結構いるんです・・・」(しどろもどろ、何の説明にもなっていない)
    「で、アンタ、日本専門新聞協会の会員ですか?」
    「そうではないのですが、むささびジャーナリスト協会の会員でして・・・」
    「そんな協会、あるんですかぁ?」
    「あるんですよ、これが」
    「本当かなぁ」
▼という押し問答の挙句、結局追い返されて、ということになるのですよね。お元気で!
back to top
←前の号 次の号→
むささびへの伝言