musasabi journal

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497号 2022/3/13
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BREXIT 美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書

上の写真は、ネットの世界をうろついていたら眼に入ってきたものです。モスクワの地下鉄の乗客のおばあさん(?)だそうです。ウクライナの国旗の色を着用しているのが、意図的なのか、たまたまなのか、むささびには分からないし、この写真を誰が撮って、誰がネットに載せたのかも分かりません。唯一、想像できるのは、このおばあさんの背後に写っている文字がロシア語のようだということだけ。あなた、モスクワの地下鉄に乗ったことあります?

目次
1)スライドショー:今どきの「若さ」
2)ロシアは154番目に平和な国?
3)ベラルーシ人と共産主義
4)若すぎる結婚は「児童虐待」!?
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)スライドショー:今どきの「若さ」



インターネットの世界で "LIFE FRAMER" というタイトルの写真コンテストが進行中のようです。人間が生きていく過程で遭遇するさまざまな場面を撮影したもので写真家としての腕を競うもののようです。その中から "Youth" というテーマで応募した作品をいくつかお見せします。「若さ」とか「幼い」という意味ですよね。F. Scott Fitzgeraldというアメリカの作家は "Youth is a dream, a form of chemical madness" (若さは夢、狂った化学品のようなもの)と言っているのだそうです。

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2)ロシアは154番目に平和な国?

国際的な研究機関である「経済平和研究所(Institute for Economics & Peace:IEP)が毎年発表している世界平和度指数(Global Peace Index: GPI)については、むささびジャーナルでも何度か紹介したことがあります(140号・244号・324号・468号)。世界163か国の国内事情を調査して、それぞれがどの程度「平和」の状態に近いかをランク付けしています。今のところ2021年度版(GPI2021)が最新版ということになるのですが、ランクの一部を抜き出して紹介すると下記のようになる。

2021年世界平和度指数:Global Peace Index 2021
Top 15 Middle Bottom 15
1 Iceland 1.1
2 New Zealand 1.253
3 Denmark 1.256
4 Portugal 1.267
5 Slovenia 1.315
6 Austria 1.317
7 Switzerland 1.323
8 Ireland 1.326
9 Czech Rep. 1.329
10 Canada 1.33
11 Singapore 1.347
12 Japan 1.373
13 Finland 1.402
14 Norway 1.438
15 Sweden 1.46
17 Germany 1.48
24 Poland 1.524
33 UK 1.658
34 Taiwan 1.662
37 Lithuania 1.689
55 France 1.868
57 South Korea 1.877
100 China 2.114
117 Belarus 2.285
122 US 2.337
131 Myanmar 2.457
135 India 2.553
141 Iran 2.637
142 Ukraine 2.66
143 Israel 2.669
149 Turkey 2.843
150 Pakistan 2.868
151 North Korea 2.923
152 Venezuela 2.934
153 Sudan 2.936
154 Russia 2.993
155
Cent. Africa 3.131
156 Libya 3.166
157
D R Congo 3.196
158 Somalia 3.211
159 Iraq 3.257
160 S. Sudan 3.363
161 Syria 3.371
162 Yemen 3.407
163 Afghanistan 3.631

それぞれの国名の右側に載せられている数字が、その国の平和度指数ということになるのですが、この数字が「1」に近ければ近いほど平和度が高く、「5」に近ければ近いほど平和度が低いということになる。例えば平和度がトップのアイスランドの指数は「1.1」、最下位(163位)であるアフガニスタンの指数は「3.631」となっている。ロシアの平和度は2.993で154位(ビリから10番目)、ウクライナのそれは2.66でランキングは142位となっている。

 

ただ、ここに表れた数字は、それぞれの国の平和度を抽象的に示すためには役に立つとしても、それぞれの「平和度」の具体的なイメージは浮かんできませんよね。アイスランドの「1.1」とアフガニスタンの「3.631」を見比べれば、前者が後者との比較において大いに平和状態に近いことは察することが出来ても、具体像は浮かんでこない。IEPでは、それぞれの国について「政治的安定、近隣国との関係、外戦・内戦の数、テロ活動の潜在的可能性など、23項目にわたる社会現象を指数化して見せている。この指数が「5」に近ければ近いほど「平和状態」からは遠いということになる。例えばアフガニスタンにおける「避難民(displaced people)」の指数は「5」、ということは「最悪」ということになる。ここをクリックすると国別の詳細が分かります。


IEPは2008年以来、この報告書を発行し続けているのですが、2008年からこれまでの間で、世界の75か国が平和度の劣化、86か国が向上を記録、世界全体の平和度は2%の劣化を記録している。またIEPによると、平和度の高い国と低い国の間のギャップがますます大きくなっているのだそうで、2008年から現在まで、下位25か国における平和度の下落率が12.1%だったのに対して、上位25か国における平和度の上昇率は4.3%にとどまっているのだそうです。

▼平和度指数の表の中に "Middle" という欄があるけれど、そこに載っているのはむささびの興味に応じたものであって、ここをクリックすれば分かりますが、163か国の中の「真ん中あたり」に位置する国は他にもたくさんあります。

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3)ベラルーシ人と共産主義

前号の「むささび」にノーベル文学賞を受けた二人の女性作家の対談を掲載しました。一人はルーマニア出身のヘルタ・ミュラー、もう一人はベラルーシ生まれのスベトラーナ・アレクシェービッチだった。対談が行われたのが、ロシアによるウクライナ侵略が始まる2週間以上前のことで、ロシア軍が攻め込むことについては二人とも半信半疑という感じでした。それが現実のものとなった今、二人が何を想っているのか?ネットを見ていたら、Radio Free Europeというラジオ局のサイト(3月5日)がアレクシェービッチとのインタビューを掲載していました。


スベトラーナ・アレクシェービッチ

このラジオ局は、1949年、アメリカの議会がヨーロッパにおける自由主義・民主主義の発展を目的として作ったものだそうです。アメリカ政府のプロパガンダ放送局のようなもので、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)と似たような局かもしれません。アレクシェービッチとのインタビューは、彼女の出身国であるベラルーシ向けに制作されたもののようであります。 

 
ベラルーシ国旗

今回のロシアによるウクライナ侵略の直前にロシアとベラルーシの軍隊がベラルーシ国内のウクライナとの国境付近で共同演習を行ったりしていましたよね。アレクシェービッチがまず言っているのは、ロシアのウクライナ攻撃によってベラルーシは独立国家ではなく「侵略国家」(an aggressor nation)になってしまったということです。ベラルーシのルカシェンコ大統領が、プーチンの行動を支持し、ロシア軍がベラルーシの領土を使ってウクライナを攻撃したことは「犯罪」であり、「戦争状態において侵略国家の軍隊に自国の領土を使わせるのは”共犯”だ」と彼女は言っている。アレクシェービッチは兵士も含めた現代のベラルーシ人について次のように語る。
  • ソ連時代に育った親に育てられた、現代のベラルーシ人は、ソ連が生んだ教師によってソ連製の教科書を使って教育された人間であり、今や彼ら自身がソ連人間となっている。彼らのアタマの中には、奴隷状態に対する憧れめいた感覚が未だに住み着いている。自分たちは無一物であり、犠牲者であるけれど、頑なに信じていることがある。それは「自分たちも昔は偉大だった」(we used to be great)ということであり、そのことが彼らの心に住み着いて離れないのだ。

 

ロシアの文学者、チェホフの有名な言葉に「人間から奴隷根性を抜き去るには時間がかかる」(it will take a long time to squeeze the slave from someone.)というのがあるけれど、アレクシェービッチに言わせると、これは正にベラルーシ人と共産主義およびソ連との関係にも当てはまる。ウクライナとの戦争が示すのは、ロシア人とベラルーシ人のメンタリティにおけるかつての共産主義的感覚の根深さである、と。
  • いま我々が目の前にしているのは、ペレストロイカ時代の自分たちが如何にナイーブで甘かったかということだ。あの頃、私たちはいつも「共産主義に失望した我々は、平和的な革命によって問題を解決することが出来たのだ」と言い続けていたではないか。それがどうだ、私たちが共産主義を超越したことなどなかったのだ(we did not overcome communism)。自分たちが主人公になったことは一度もなかったのだ。We never prevailed.
彼女によると、ウクライナにおける戦争は、ロシア人、ベラルーシ人の多くがかつての共産主義的な精神状態から抜け切れていないことを示しているとのことです。Alexievich called the war in Ukraine an indication that the former communist mentality among many people in Russia and Belarus has not been eradicated.

▼アレクシェービッチは、現代のロシア人やベラルーシ人が「かつての共産主義的な精神状態から抜け切れていない」と言っているのですが、彼女のいわゆる "communist mentality" とは何なのか?アメリカと並んで世界に二つしかない「超大国」の国民であった頃に感じていた「大国意識」のことなのではないか、つまり思想としての「共産主義」とは別物の「愛国意識」なのではないか?

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4)若すぎる結婚は「児童虐待」!?


プーチンとウクライナのことばかり語っているのも疲れます。たまには違う話題も。結婚年齢のことです。今年(2022年)の4月から日本における成人年齢が20才から18才へと引き下げられますよね。それに伴って婚姻年齢も、従来の<男性18才、女性16才>から<男女共に18才>へと変わるのだそうですね。3月5日付のThe Economistが、結婚年齢をめぐる最近の英国内の動きについて報道しています。


英国の場合、現状では男女ともに16才(親の合意が条件:スコットランドでは親の合意も要らない)だったのですが、最近(2月)Marriage and Civil Partnership Billという名前の法案が下院を通過したことで、英国(イングランドとウェールズ)でも合法結婚年齢は「男女ともに18才」へと変わるのだそうです。

要するに日英とも同じになるってことですが、The Economistは、この動きについて「歓迎するが、遅すぎた」(welcome, but late)と言っている。何が問題なのでしょうか?記事によると、この法改正の狙いは「強制結婚」(forced marriage)を防止することにあるのだそうです。強制結婚!?英国で!?…要するに16才という年齢は「子ども」なのであり、子どもの結婚を合法とすることは、子どもの虐待を許すのと同じである、と。サジド・ジャヴィド(Sajid Javid)厚生大臣は "Child marriage is child abuse" と言っている。虐待かどうかはともかく、合法的結婚年齢が16才というのは、ヨーロッパでは確かに少数派なのだとか。


尤もこの新しい法律は不必要という声もある。現在でも英国では強制結婚は違法なのだから、です。さらに16才で性行為が許されるのであれば、結婚だって許されて然るべきなのでは?というわけです。ただ、16才の結婚に反対の運動を行っている女性によれば、「英国では飲酒もギャンブルも16才には許されていない、結婚だけは許されるべきだというのは理屈が通らない」ということになる。その人に言わせると、結婚が許されるということは、単に「性行為が許される」としか考えない方が誤っている、と。開発途上国などでは、幼くして結婚を強制された女子の大半が教育の権利まで放棄させられている、というわけです。

The Economistによると、そもそも「結婚」(marriage)という行為に付きまとう「祝福すべきこと」という概念がことの本質をぼかしているのだそうで、流行歌とか詩の世界において "tying the knot"(結びつく=結婚する)ことを「愛する」ということと同一視されすぎている。昔も今も「結婚」という行為に付きまとうのは「財産」であり「権力」なのだ、というわけです。文学の世界でも娘の結婚によって大金持ちになった両親の話がたくさんある、と。


ステファニー・クーンツ

ただ社会における女性の地位の変化に伴って結婚自体に変化が見られることは事実ですよね。作家のステファニー・クーンツ(Stephanie Coontz)は、
  • 女性が教育の機会に恵まれ、さまざまな生き方が可能になると、結婚年齢も上がるものです。Everywhere that women start to get educated and start to get options the age of marriage goes up
と言っている。The Economistによると、最近では最も高い教育を受けた女性たちが結婚に踏み切るのは、最高の愛情(もしくは彼女のお眼鏡にかなう最高の男性)の存在があってこその話なのであり、
  • 16才での結婚を禁止する法律のおかげで、(理想的な結婚を選択する)女性が増えることは間違いない A law banning marriage at 16 will give more women greater liberty to make a similar choice.
とのことであります。

▼結婚という行為を「愛情」とか「温かい家庭を築く」などという点からのみ考えるから話がややこしくなる…とThe Economistは言っているのですね。「どのくらいの財産が転がり込むのか?」とか「どのような人物と交わることができるようになるのか?」とか、そういう点から考えなきゃダメじゃ、でしょ?と言っているみたいです
 
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5)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら


about-face:方向転換

この言葉、2月28日付のDer Spiegel英文版のサイトい出ていた次の見出しを見るまで、むささびは全く見たことがありませんでした。
"about-face" という言葉はてっきり「面子を守る」などという意味であろうと推測していたのですが、Cambridgeの辞書はこの言葉を "a complete change of opinion or behaviour"(意見・態度などの完全な変更)と説明していました。

この記事は前日の2月27日(日曜日)に開かれた特別議会で、ドイツのオーラフ・ショルツ首相が行った演説について書かれたものなのですが、内容は当然、ロシアによるウクライナ攻撃に関するものだった。メルケルの後を継いで首相に就任してから3カ月も経っていなかったのですが、プーチンの行動については
  • war of aggression in cold blood:冷血なる侵略戦争
  • inhumane:非人間的
  • nothing and nobody that can justify it:誰であれ、何事であれ、正当化することはできない
などと表現(もちろんすべてドイツ語)しています。冷戦終結後にドイツの首相が行った演説としては例外中の例外だったそうです。しかもショルツ首相は、伝統的にソ連(ロシア)に対しては友好的な態度をとってきた社会民主党(SPD)の政治家…というわけで大見出しの記事になってしまったということです。ここをクリックすると、ショルツ首相の演説原稿の英訳版を読むことができます。

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6)むささびの鳴き声
▼昨日(3月12日)付のヤフーニュースが、アメリカCNNの日本語ニュースとして伝えるところによると、ロシア正教会のトップにあたる人物が「ウクライナ戦争の一因はプライドパレード」にあると語ったのだそうです。「プライドパレード」はレスビアンやゲイのような「性的マイノリティ」の誇りを主張する「行進」のことで、ロシア正教会のキリル総主教なる人物がモスクワでの説教の中で、ウクライナがロシアによる攻撃を受ける一つの理由として、プライドパレードのような活動が国内で許されていることを挙げているというわけです。この人はプーチンとは「長年の盟友」という間柄だそうなのですが、ウクライナの戦争は「人間が神の教えを守る形而上学的な意味合いを持つ闘争」であり「人間の魂の救済」を意図した戦いだと強調している。

▼そこで思い出したのですが、プーチンは中東シリアのアサド大統領と仲がよくて、なかなか終わらないシリア内戦でもアサド政権を軍事的にも援助しているのですよね(むささびジャーナル328号)。フランス国際関係研究所(IRIS)のカリム・ビターという専門家によると、ロシアの対シリア政策の中に、イスラム圏におけるキリスト教徒の守護者として自らのイメージを強めようという意識があり、そのことはプーチンのロシアにおいてロシア正教会が影響力を強めていることと無縁ではないとのこと。シリアにおけるキリスト教徒の数は約100万(全人口の4.6%)、半数以上がギリシャ正教会の教徒であり、アサド政権とは密接な繋がりを保っている。

▼(話を現代に戻して)ロシア正教会は、プーチンによるウクライナ侵略を大いに支持しているのですが、それと対照的なのがローマ・カソリック教会で、ウクライナ戦争についてフランシス教皇が「ウクライナは殉教国家(martyred country)であり、他の国はウクライナ人に援助の手を差し伸べるべきだ」と言っている。むささびは、プーチンの行動に不気味ともいえる「狂信性」を感じてしまうので、CNNの報道が大いに気になったわけです。

▼3月12日付の朝日新聞のデジタル版に『ゴルバチョフは語る 西の「約束」はあったのか NATO東方不拡大』という記事が出ています。書いたのは編集委員の副島英樹氏なのですが、彼は2019年に、冷戦終結のソ連側の立役者であるゴルバチョフ氏(91才)とインタビューをしている。この記事はその中でゴルバチョフが語った、冷戦後のNATOの東方拡大について書いている。ウクライナ侵略についてプーチンが強調しているのが、この問題ですよね。

▼冷戦の間はソ連側はNATOに対抗するものとしてワルシャワ条約機構という機関を持っていたけれど、ソ連崩壊と同時にこれがなくなった。そのあとハンガリー、ポーランド、ルーマニアのようなかつてのソ連圏内の国が続々とNATOに加盟してしまった。この動きを早めたのがアメリカのクリントン政権だったそうですが、それを支えたのが西側諸国の「勝利者意識」だった…。この記事は非常に長いのですが、プーチンの反NATO感覚を知るうえではとても参考になる。

▼もう一つだけ。浅井基文さんという人が主宰するサイトも抜群です。中でも『ウクライナ危機:中国の立場・見方』というエッセイは読む価値大ありです。

▼暖かいですね。はっきり言って80才には有難い!お元気で。

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