musasabi journal

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354号 2016/9/18
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
あっという間に9月も半ばを過ぎてしまいます。ことしはむささびが植えたキュウリもトマトも不作の夏でありました。この年になると、「来年はあるのかなぁ」と思ったりして・・・。この写真は、アラスカン・マラミュートという種類のイヌの歯を観察しているドクターです。大きなイヌですが、これでもまだ生後10か月だそうです。人間の犬歯は「食物を捕らえ、切り裂くための歯」なのだそうですね。我が家のワンちゃんの歯の強さ加減はほとんど機械です。

目次

1)MJスライドショー:tokyo
2)小池さん、「世界が必要とする東京」って何ですか?
3)木造高層ビルの時代がやってくる
4)「外向き社会」における「内向き人間」の存在感
5)EU離脱と分断・英国
6)BREXIT英国人の自画像
7)どうでも英和辞書
8)むささびの鳴き声


1)MJスライド・ショー:tokyo


むささびは東京生まれの東京育ち、仕事も東京だったので、合計すると60年以上は付き合った ことになります。と言っても自分が育ったり、仕事で関係した場所以外の東京のことは全く知りませ ん。ましてや最近は殆ど行かなくなってしまったので、懐かしささえ感じなくなっている自分に気が付 きます。三橋美智也の『東京見物』という歌、憶えてます?「写真で見ただろ、おっかさん・・・」というあれ。戦死した「兄貴」のことを想いながら東京見物にやって来た母親の手を引いて歩く弟・・・靖国神社なんかも出て来て、シンゾーが聴いたら感激で涙が止まらないでしょうね。というわけで、今回のスライドショーは小池知事に敬意を表して(?)東京見物です。かなり長い(ほぼ9分)のですが、よろしければ途中まででもお付き合いを・・・。

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2)小池さん、「世界が必要とする東京」って何ですか?

むささびジャーナルをお受け取りの皆さまはPROJECT SYNDICATEというサイトをご存じかもしれませんね。副題として "THE WORLD'S OPINION PAGE" と書いてあるとおり、世界中で活躍しているオピニオン・リーダーが集まって自分の意見を述べているフォーラムのようなページです。むささびでさえも聞いたことがある名前としてジョゼフ・スティグリッツ、ジョゼフ・ナイ、ビル・エモットのような「そうそうたる」名前が挙がっているのですが、日本人として安倍さんの内閣官房参与を務めている浜田宏一氏と小池百合子・東京都知事の二人が参加している。このサイトに掲載された意見は世界中のメディアに転載されることを意図して作られた組織のようです。

で、そのオピニオン・サイトに小池百合子さんが "The Tokyo the World Needs" という見出しのエッセイを寄稿しています。『世界が必要とする東京』という意味ですが、掲載されたのが7月21日だから都知事選の真っ最中だったことになる。つまり都知事になろうという人が、東京都のあるべき姿について語ったというわけです。小池さんが理想とする東京とは・・・
  • 東京には誇るべきことがたくさんあるが、私が好きな時代は今日ではあまり語られることがない時代、すなわち1900年の東京なのである。そのころ東京は、100年間にわたって西洋の陰に隠れてきたアジアの近代化の模範となっていたのだ。
    Tokyo has much to be proud of, but my favorite period is one that few think about today. It is the Tokyo of 1900, when the city stood for Asian modernity after a millennium of being overshadowed by the West.
ということになる。つまり19世紀の100年間は西洋の時代であったけれど、明治維新から32年、20世紀に入って日本がアジア近代化の先頭に立つランナーになっていた、と。その時代の東京こそが小池さんの好きな東京であり、都知事になった暁には目指したい東京のイメージである、と。中国の革命家、孫文や蒋介石の亡命先となった東京、インドの詩人でガンジーに影響を与えたタゴールがたびたび訪れた町、東京・・・。西洋に「追いつけ追い越せ」という明治の日本が1930年代から40年代にかけて第二次世界大戦に繋がったのだという人もいるけれど、小池さんによると、それだけのことで20世紀初頭の日本の素晴らしさを忘れるべきではない。つまり・・・
  • 現代の日本と世界が必要としているのは、20世紀初頭のあの東京なのだ。あの東京が持っていたインスピレーションに富んだ活力と外部のものを積極的に取り入れようとする国際主義・・・これこそがアジアの未来のために描くべきイメージではないか。
    The early twentieth-century Tokyo is the one Japan and the world needs today. With its inspirational vigor and inclusive cosmopolitanism, what better image could one have for Asia’s future?
というわけであります。


20世紀初頭の日本にとって重大な出来事となったものの一つが日英同盟の締結ですよね。それまで世界を席巻していた大英帝国が、19世紀終盤に南アフリカの植民地化をめぐってオランダ系のボーア人と争ったボーア戦争(1880~1881、1899~1902)にかかわる中で、それまで行ってきたアジア(清国)支配にまで手が回らなくなった。そこで目を付けたのが、日清戦争(1894~1895)に勝利するなどして日の出の勢いであった「若き帝国・日本」と手を結ぶというアイデアで、それが実現したのが1902年だった。

日英同盟締結の2年後に日露戦争(1904~1905)が起こり、あろうことか日本が勝ってしまう。日露戦争で使われた戦艦はすべて英国の造船所で作られたものだった。英国にとってインドを始めとするアジア支配のための「眼の上のたんこぶ」だったロシアを日本が破ってしまったのだから、英国人はその日本を「勇敢なる小国・日本(Gallant Little Japan)」と呼んで拍手喝采を送る。


英国の著述家のHGウェルズは1922年に出した "Short History of the World" の中で、小池さんが絶賛している20世紀初頭の日本について「最も進んだヨーロッパの大国のレベルにまで西洋化していた」として
  • 日本は、アジアがヨーロッパからは全く遅れをとっているというイメージを完全に払拭した。日本に比べればヨーロッパにおける進歩でさえもダラダラしたものに映るくらいであったのだ。
    She completely dispelled the persuasion that Asia was in some irrevocable way hopelessly behind Europe. She made all European progress seem sluggish by comparison.
と書いている(むささびジャーナル229号)。日本研究の専門家でもないウェルズが日本を絶賛したのは(むささびの想像ですが)当時の英国の世論を反映した感覚だったのではないか。その頃の日本は、小池さんのいわゆる「インスピレーションに富んだ活力」と「積極的な国際主義」に満ちた国であると英国人には思えたということですよね。

ただ、そのような時代背景で結ばれた日英同盟を、隣国である中国(清国)と韓国がどのように見ていたのか?日英同盟の条文を見ると、当時の日本が中国と韓国で、英国が中国において権益を有するものであること、それぞれが権益保護のためにとる行動については干渉しないことが明記されている。さらに当時のThe Times紙のソウル特派員が「日英同盟を日本による自国への政治的干渉を可能にするものである、と韓国人が考えている」と伝えたりしている(むささびジャーナル231号)。

▼小池さんが理想とする東京のイメージは20世紀初頭の日本であり東京なのですよね。彼女によると、あの頃の日本には「一国的偏見にとらわれず、外国に対してオープンな世界主義」(inclusive cosmopolitanism)と「インスピレーション(想像力)に富んだ活力」(inspirational vigor)があったというわけですよね。明治のころの日本ではそれが「西洋のような国になること」(脱亜入欧)を意味したし、英国のインテリであったHGウェルズもそのような日本を絶賛していた。でも中国や韓国から見れば西欧列強による帝国主義的なアジア侵略に遅まきながら参加した「新参帝国」に過ぎなかったのではないのかということです。

▼あれから100年、都知事になった小池さんは、現代の東京や日本が最大限のインスピレーションを駆使して掲げるべき「世界主義」(cosmopolitanism)とはどのようなものだと考えているのか?むささびが考える "cosmopolitanism" のイメージを親切にも教えてあげますね。まずは、「これは違う」と思うものから。オリンピックを「大成功」させて「世界をあっと言わせるような日本」、「さすがあ!と言われる日本」でないことだけは確かです。それは中国あたりに任せておけばいいし、シンタローやシンゾーらが勝手に憧れている世界の話です。もちろんクールビズ、残業禁止、電線の地中化などでもない。そんなことはやって当たり前で、わざわざ謳うほどのことではない。

▼本当ならオリンピックそのものを返上することだけれど、それはいくら何でも難しいですよね。となると、この際、徹底的にパラリンピックの方に力を入れるということに・・・。相模原事件が起こったときに、容疑者に同情的な優生思想的な意見がネット上にわんさか出たのですよね。その種の考え方に対抗する行事としてのパラリンピックにする。障害者について、「ああいう人って人格があるのかね」と言ったシンタローらに対抗する意味もある。本当なら先にパラリンピックをやり、そのあとでオリンピックもやるというのが望ましいけれど・・・。
むささびジャーナル関連記事
 H.G. Wellsと日本
 いまさらですが・・・日英同盟を読む

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3)木造高層ビルの時代がやってくる


木造の高層ビルなんて聞いたことあります?9月10日付のThe Economistによると
  • The case for wooden skyscrapers is not barking
    木造高層ビルという発想は必ずしも見当違いではない
とのことであります。上の写真の真ん中に立っているのは、ロンドンの金融街向けに提案されている木造高層ビルの出来上がり予想図です。


この記事が世界最古の木造建築物(world’s oldest wooden building)として挙げているのが、奈良の法隆寺にある五重塔(five-storey pagoda)です。記事によると、この建築物は建てられてから1400年経つけれど、その間に見舞われたであろう強風・大雨・火災・地震にも耐えてきている。使われている木材が実際に山から伐採されたのは西暦594年と推定されるのだそうですが、1422年前というから気が遠くなるような昔の話です。

 ノルウェーのベルゲンにある14階建て木造高層住宅

高層建築物といえば鉄筋コンクリートに決まっているけれど、最近では新技術を使うことで木も使えるようになっている。例えばノルウェーのベルゲンという町にある14階建ての高層住宅。これが今のところ世界で一番高い木造建築物なのだそうですが、来年(2017年)にはカナダのブリティッシュ・コロンビア大学に18階建ての木造ドミトリーが完成することになっている。さらに2017年にはアムステルダムで21階建ての木造建築の工事が始まるし、ストックホルムでは40階建ての高層住宅のデザインが提案されたりしている。

The Economistの記事によると、建材としての木にはさまざまな利点がある。一つには建物自体が強化コンクリートなどを使うよりも大幅に軽くなる(約4分の1)ので基礎も小さくてすむ。さらに木材には大気中の炭素を吸い取る機能があり、木材を使うとCO2の排出量(carbon footprint)が鉄筋コンクリートを使うよりも60~75%も減らせるという研究結果まである。


CLT建材

木材の弱点は二つある。強度と火災ですが、強度について言うと最近では板と板を特殊な方法で張り合わせるCross Laminated Timber(CLT)という人工合板が開発され、高層ビルの建材としても十分に耐えられる強度を有したものが使われるようになっている。オレゴン州立大学などの実験によると、CLTを使った床の場合、3万7200kgの負荷をかけたときにようやくひび割れが出たのだそうです。70kgの体重の人が530人乗ったときの重さです。火災の危険性については、CLTそのものが極めて燃えにくい性格を有しているのですが、CLTで出来た床の上に薄くコンクリートを塗ることで難燃性をさらに補強できる。それに加えて現代の技術による消火設備などを備えることで十分に耐火基準をクリアすることができる、と関係者は言っている。

ケンブリッジ大学の天然素材研究センター(Centre for Natural Material Innovation)がいま取り組んでいるのは、ロンドンの金融街(City)向けの80階建て・高さ300メートルの木造高層ビルなのだそうですが、センターのラメージ博士によると木造ビルには鉄筋コンクリートの建物に比べて建設工事そのもののための利点がいろいろあるのだそうです。鉄筋ほど基礎を深く掘る必要がないので流し込むコンリート量も少なくて済むし、鉄筋を打ち込むこともないので工事そのものが静かなのだとか。さらに木造の場合、使われる木材を運搬するためのトラックの数が鉄筋やコンクリートを運び込むよりもかなり少なくなる。というわけで、鉄筋の建物に比べれば木造高層ビルは建築コストも小さいと言われています。

▼法隆寺の五重塔の高さは31.5メートルだそうですね。ちょっと不思議なのは、The Economistのこの記事の中に日本のことが何も出てこないことです。日本こそが木造建築の本場だと思っていました。ただCLTについては、日本CLT協会という団体があって、日本におけるCLTの使用例などが紹介されています。でもこの協会のサイトを見る限りでは、CLTの普及はまだこれからという感じです。

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4)「外向き社会」における「内向き人間」の存在感

スーザン・ケインというアメリカ人が書いた "Quiet" という本は2012年に出たのですが、200万部が売れるというヒット作になったのだそうですね。日本では『内向型人間の時代:社会を変える静かな人の力』というタイトルで出ているようです。むささびは読んだことがないし、そのような本があることすら最近のThe Economistのブログを読むまで知りませんでした。著者のスーザン・ケインは弁護士だそうですが、この本の狙いは次のサブタイトルのメッセージを伝えることにある(日本語と少し違う)。
  • The Power of Introverts in a World that Can’t Stop Talking
結構長いけれど、「おしゃべりが多い世界における内向き人間の力」という意味ですよね。今の世の中、どっちを向いても自己主張を声高に発信する「外向き人間」ばかりであるけれど、そんな中でも、物静かな「内向き人間」(introverts)の力は無視できないというわけです。


The Economistのブログによると、人間の性格としての内向きと外向きに最初に着目したのはスイスの精神科医・心理学者、カール・ユングなのだそうですね。この人によると、人間の3分の1もしくは半分は性格的には内向きなのだそうです。つまり大いに尊重されなければならない存在である、と。にもかかわらず「内向き人間に対する企業経営者たちの態度はますます悪くなっている」(corporate approach to introverts has been getting worse)というのがThe Economistのブログの主張です。つまりビジネスマンの世界では、相変わらず「グループ思考」とか「仕切り壁を取り払ったオフィス」というような「外向き」発想こそが正しいと思われている・・・マイクロソフトのビル・ゲイツもFacebookのマーク・ザッカーバーグも「独りで部屋にこもって沈思黙考する」ことが好きなタイプであったにもかかわらず、である。



で、むささびをお読みのあなたは自分のことを「外向き」(extrovert)だと思います?それとも「内向き」(introvert)だと・・・?正解は(おそらく)「どっちも」なのではないかとむささびは思うのですが・・・。"Quiet"の著者であるスーザン・ケインが'Society has a cultural bias towards extroverts'(世の中は外向き人間に有利に傾きがちだ)と題するGuardianとのインタビュー(2012年4月1日)でいろいろ語っています。





引っ込み思案(shyness)と内向的(introversion)は違うんですか?
「引っ込み思案」と「内向的」

「引っ込み思案」というのは世間が自分をどう思うか(social judgments)について恐怖心を持っている状態です。例えば就職の面接やパーティーに参加すると、他の人が自分をどのように思っているのかを過度に気にする・・・それが "shy" ということです。「内向的」な人はそのような恐れは何も感じないかもしれない。ただ静かな環境に身を置きたいと思っているだけ。ビル・ゲイツはよく内向き人間と言われるし、確かに他人を寄せつけない(private)ところはある。しかし他人が自分のことをどう思っているかを大いに心配する人間とも思えない。彼が夜中にベッドに起き上がって「あいつはオレのことをどう思っているんだろう?」などと心配するなんて考えられませんよね。いわゆる「内向き人間」の中には「引っ込み思案」もいるけれど、その二つは別ものです。

あなたの意見によると、学校教育そのものが内向き人間には不利にできていると・・
学校は「外向き」に有利

学校教育というものは外向き人間に有利にできていますよね。子供たちを大きな教室に放り込むんですから。教室という場所は「刺激性の強い環境」(high-stimulation environment)ところなのです。おそらく最も望ましい教育環境は「一対一」(one on one)なのであろうと思うけれど、そんなことは誰にでもできるものではない。となると、学校というものはどうしても内向き人間が外向き人間のように振る舞うことを教えられる場所になってしまう。

つまり学校は、内向きな子供が自分の性格を嫌いになる場所である、と?
学校へ上がる前の子供たちを見てくださいよ。大人たちが口数の少ない子供について「ほら、あの子って静かじゃない?臆病なのよね?」(Oh isn't she quiet? Isn't she shy?)などということを何度も何度も繰り返すんですよ。そして学校へ上がると、今度は、子供たちの好き嫌いも考えずにグループ活動に積極的に参加するように言うのです。大人たちに悪意はないのかもしれないけれど、自分の時間をどのように過ごすのかについて、子供たちが自然に好むやり方はダメなのだということを叩きこむことになるんです。

「内向き」より「外向き」の方が性格としては望ましいと思われるようになったのは何故なのですかね。
文化的遺伝子?

ある程度までは欧米文化にそのような遺伝子があるということですね。欧米の社会には、上手にしゃべり、言葉を操る能力があることを理想的人間と考える傾向がある。ギリシャ・ローマ時代からの伝統ですね。黙考(contemplation)よりも行動(action)を好む社会ということです。それが農耕社会からビジネスの社会になって頂点に達したようなものです。会ったこともないような人たちともうまくやっていけることが重宝されるようになった。他人を惹きつけるカリスマ性のようなものが就職の面接でも重要なポイントになった。

学校も外向き人間が好むような環境になってしまった・・・。
「独りで居る」ことの必要性

これまで以上にそのようになっている、と私は思いますね。現代は「新グループ思考」(New Groupthink)の時代だと私は思っている。創造性(creativity)や生産性(productivity)は偶然の出会いのようなものから生まれる、他の人と話をしているときに偶然新しい発想を思いついたりする、「創造的な瞬間」(creative moments)というわけですね。それはそれで結構なのですが、それを極端に推し進めて、誰でも彼でも四六時中一緒にいて会話を弾ませていなければならないなどと言い始めると、「深く考える」(deep thought)とか「神経を集中する」(focus)ということをしなくなる。そのような場所がなくなるんです。でも人間には「偶然の出会い」(chance encounters)と「独りで居る」(solitude)ことの両方が必要なのですよ。

あなたはブレインストーミングの会合を楽しいと思いますか?
全員が部屋に閉じ込められて、「指導者」(facilitator)のような人の言うとおりに集団でアイデアを出し合って、それをセロテープで壁に貼って・・・という、あれですよね。私はアホらしいと思うし、そう思っているのは私だけではない。これまでにだって集団ブレインストーミングについては研究がされてきたけれど、集団よりも個人でやるブレインストーミングの方がいいアイデアが生まれるという結果が出ているのですよ。人間の「創造性」がいちばん大切だと思われるような仕事の場合は「独りでやる」(work alone)ことを奨励するべきなのです。

あなた自身は内向き人間だそうですが、たくさんの「外向き」に囲まれたりするような場合、話し方を変えたりするのでしょうか?
そういうときは多少無理してでもしゃべらなければならないことはあります。大事なのは、自分が話していることに確信を持っていることです。言っていることに自信さえあれば、声が大きい必要はないし、その場を支配するという雰囲気である必要もない。要は話の中身についてきっちり準備をしていくということです。So that's the homework to do!

性(gender)と内向きは関係し合いますか?
「男は外向き」は「偏見」

統計的には50/50です。男の方が女より内向きになりがちであるとは言われているけれど、ほとんど違いはありません。ただ文化によって扱われ方が異なったりすることはある。異なった文化における「常識的イメージ」(stereotypes)のようなものがある。(欧米の文化では)男が外向きで支配的(dominant)であるべきという考え方が強い。でも実際には内向き男性も貴重な存在なのです。強くて控え目な男(strong reserved man)という存在です。英国では「控え目な威厳」(dignified reserve)というものが認められている。アメリカにも昔はあったのになくなってしまった。女の場合は、英国でもアメリカでも、ある程度は「控え目」(demure)であることが許容されている。

年寄りになると「内向き」になるというのは本当ですか?世間の眼を気にすることもないし、友人を求めたり、他人やグループを支配しようとする気もない。
一種の進化論的なメカニズムの話になる。若いときは仲間を求めるけれど、年を取るとそんな欲求もなくなる。人間は時間とともに内向きになるのですよ。同窓会などに行くと、内向き・外向きについても旧友のことを昔のイメージで考え勝ちだけれど、実際には長い年月の間で変化するものなのに。

ここをクリックすると、彼女のトークをビデオで見ることができる(らしい)。The Economistによると1400万人が見たとのことです。ちょっと可笑しいのは、「本が売れて世間の注目を浴びたことで自分自身が外向き人間になったことはないのか?」という質問に対して、「この本を通じて世の中を変えたいと思っているとスポットライトを浴びることに対する拒否感は小さくなるものだということが分かった」と述べていること。単に注目を浴びるための「外向き」ではないと言いたいのですよね。(自分のことを外向きだと思っている)むささびが思うに、「内向き」が「内向き」を主張し始めると自己矛盾に陥るのでは?「男は黙って・・・」なんて口に出すはずがないもんね。

▼このような本が話題になると、「内向き有名人」なんてのも話題になるものでありますね。あるサイトに出ていたリストによると、『ハリー・ポッター』の作家・JKロウリング、奴隷解放のエイブラハム・リンカーン、第32代アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルト夫人のエリノア・ルーズベルト、相対性理論のアルバート・アインシュタイン、インド解放の父・マハトマ・ガンジー、女優のオードリー・ヘップバーンらの名前が挙がっています。アインシュタインの口癖は「静かな生活の単調さと孤独こそが創造的な心を生む」(monotony and solitude of a quiet life stimulates the creative mind)だったのだそうですね。

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5)EU離脱と分断・英国
 

早いもので、英国のEU離脱を決めた国民投票(6月23日)から3か月が過ぎようとしています。実際の離脱までには時間がかかるし、離脱の影響も現在のところは、はっきりと表れているわけではないのですが、貧困や格差問題を研究、政策提言などを行っているジョゼフ・ロンツリー財団(Joseph Rowntree Foundation:JRF)のサイトに掲載された「EU離脱投票を説明する」(Brexit vote explained)というエッセイを読むと、英国という社会が、英国人が思っていた以上に分断された場であるということが、あの国民投票によって明らかになったことが分かる。EUから離れることより、そちらの方がショックだったのではないかと(むささびは)思うのですよね。

前回のむささびジャーナルで紹介したように、ティリーザ・メイ首相がグラマースクールの復活で「社会的一体感」(social cohesion)を取り戻そうとしている。一部の恵まれた世界の子供たちが通う私立校ではなく、(理屈の上では)しっかり勉強さえすれば誰でも行ける公立の秀才学校を増やすことで社会的な分断を解消しようというわけです。でも今の英国で「しっかり勉強できる」環境にあるのは、結局のところ恵まれた家庭の子供たちということになるのでは?ということで、彼女の掲げる目標は現代の英国にとってはかなり高いハードルであることは受け入れざるを得ない。それほど「分断」が深いということです。まず下のグラフを見てください。

 

このグラフは、あの国民投票が行われる約1か月前に、約3万1000人の有権者を対象にEU離脱に関する意見調査を行った結果をグラフ化したものです。つまり約1か月後に迫った国民投票では離脱・残留のどちらに投票するつもりかということを質問した結果ということです。結果としてどちらに投票したかというのではなく、「意識」としてどちらに傾くのかを調査したことになるのだから、英国人の社会意識をより正確に反映しているともいえる。

上から2つごとにいろいろな階層の英国人をグループ化して説明している。例えば最初の2列は年間所得が「2万ポンド以下」という低所得者層と「6万ポンド以上」という層を比較しているのですが、年収2万ポンド以下の人の58%が「離脱」に傾いている一方で、6万ポンド以上の年収で離脱を支持したのは35%にとどまっている。つまり経済的に恵まれた層の人ほど離脱には反対であったということです。

同じような現象が他の部分でも見られます。「手仕事・肉体労働者」と「専門的職業人」、「中卒」と「大学院卒」、「フルタイム労働者」と「定期収入なし」・・・どれを見ても社会的に恵まれているとは言えない層の人びとが「離脱」を支持している。例外と言えるのは「非白人」が離脱には否定的であるのに対して「白人イングランド人」はこれを支持していたということですが、この場合の「白人イングランド人」が「プア・ホワイト」を指すことは明らかで、ミドルクラスの白人に比べるとヨーロッパ大陸に対する距離感が大きい。定年退職後に大陸で暮らそうなどと考えるのは大体においてミドルクラスの人たちです。


さらに興味深いのは、社会問題についての「意識」のようなものを基準にした調査です。上のグラフはちょっと分かりにくいけれど、一番上の例が示しているのは「死刑復活」を望む人の8割近くがEU離脱に賛成なのに、EUに対して好意的なのは2割だけ。同じように「犯罪者には厳罰主義で当たれ」と主張する人の多くが離脱に賛成している。「男女平等」とか「ゲイの権利」ということになると「離脱反対」の傾向がはっきりしている。要するにどちらかというと考え方が「保守的」な人は離脱を支持し、リベラルな人ほど残留を望む傾向がはっきりしているということです。このグラフと前のグラフを対比してみると、低学歴・低収入の人ほど保守的で「反EU」という感覚の持ち主であることが多いことが見えてくる。


次に上のグラフを見ると、メイ首相のいわゆる「社会的分断」が、年齢・学歴・所得などだけではなく、地域間にも存在していることが分かる。スコットランドと北アイルランドが「残留」、ウェールズが「離脱」であることは以前にも紹介したけれど、このグラフで注目して欲しいのはロンドンを含むイングランドにおける投票結果です。ロンドンの次にある3つの地域は、いずれも工業地帯が含まれているエリアです。過去30~40年間の英国で着々と進んできた経済の脱工業化やグローバル化の恩恵をずばり受けているロンドン周辺とそれ以外の地域では人びとの意識がまるで違うことが分かります。

ジョゼフ・ロンツリー財団ではこの分析結果について、次の3点に注目することを呼びかけています。
  • 経済が脱工業化しグローバル化が進む中で、そのような趨勢についていけない(と感じている)人びとが世の中の「大多数」とされる考え方に反発した。英国社会に現存する不平等はますます強くなっており、分断は当分続く可能性が高い。
  • 所得の格差や物資的貧困もさることながら、英国社会にとって最も深刻なのは教育格差である。義務教育修了程度の学歴しかない層と大学卒者との間の「教育レベル」(educational attainment)の格差こそが社会的な機会均等を妨げる要因であり、どの政府も最重要課題として取り組まなければならない。
  • イングランドにおける地域格差は歴然としている。グローバル化に乗り遅れた経済を抱える北イングランドで暮らす人びとは、「二重の苦難」(double whammy)を余儀なくされる。個人レベルにおける教育程度や技術力の差によって英国全体から置いてきぼりを食っている一方で、その人たちが暮らす地域の社会・経済構造そのものも後れを取っているから、そこで暮らしていく以上、なかなか世の中に追いついていけない。
この調査結果について、ジョゼフ・ロンツリー財団のジュリア・アンウィン(Julia Unwin)理事長は、Prospectに寄稿したエッセイの中で
  • Brexitの年に生まれた子供たちが、なぜ自分たちより前の世代の人間たちがこのような投票をしたのかを振り返ることになる。そうなると、なぜ当時の体制(establishment)がこれほど多くの英国民を置き去りにするようなことをしたのかについて説明しなければならなくなるだろう。それが大変だ。
    When the Brexit children look back at why their elders voted the way they did, the fact the establishment left so many people behind for so long goes a long way to explaining it.
と言っています。

▼最近の日本のメディアではどの程度使われているのか分からないけれど、かつては「勝ち組」、「負け組」という言葉が頻繁に使われていましたよね。時流に乗ってうまくやっていけている人とそうでない人を区別する表現だった。むささびの定義によると、英国における社会分断は勝ち組・負け組の分断であり、負け組の怒りに勝ち組がたじろいでいるという図式になる


▼上のグラフは日本の自動車メーカー(ホンダ、トヨタ、ニッサン)が工場進出している地域の投票結果です。いずれも明らかにEU離脱派が勝利を収めてしまっている。トヨタとニッサンが工場を持っているのはいずれも北イングランドの町で、伝統的な産業(造船・炭鉱・繊維)がすたれたあとの雇用主として両社ともに大きな存在となっている。ホンダが立地している南西イングランドのスウィンドンにはBMWの工場もあるし、インテルのヨーロッパ本社がある。ロンドンにも約130キロでそれほど遠くはないし、北イングランドほどには遅れた地域とも思えないのに「離脱」が勝っている。

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6)BREXIT英国人の自画像
 

EUから離脱して生きていくことを決めた英国ですが、社会的分断現象は否定のしようがない。英国人の不安定な心理状態を反映するかのような世論調査がIPSOS-MORIという調査機関によって行われています。英国人であることの誇りとか、英国人のいい点・ダメな点ということを話題にしているのですが、それによると英国人の6割が「他の国ではなく、英国の国民でありたい」(would rather be a citizen of Britain than of any other on earth)と考えているとのことであります。10人に6人という割合を多いと見るべきなのか、案外少ないと見るべきなのか・・・よく分からないけれど、自分をヨーロッパ人だと考える英国人は極めて少ないのだそうであります。


ちょっと可笑しいのは、英国人のいい点とダメな点を挙げろと言われると、「いい点」は「ユーモア感覚」であり、「悪い点」は「酒の飲み過ぎ」であるという答えが一番多かった点です。なぜ可笑しいと(むささびが)思うのかというと、これは何十年と変わらない英国人の自画像であるからです。「笑わせ上手」は非常にもてるのですよね、あの国では。そして女性までもがへべれけになるまで飲んだりすることが結構ある。男性のサッカー・フーリガンなどははた迷惑な「飲み過ぎ」の見本みたいなものですよね。




 
 

質問の中に「他人に寛容・不寛容」というのがあるけれど、この場合の「他人」というのは「自分たちのグループではない人びと」という意味です。例えば白人から見た非白人、キリスト教徒から見たイスラム教徒ということです。興味深いと思うのは、寛容だと思っている人と不寛容だとしている人が似たような割合で存在するということ。EU離脱を促した背景の一つとして「移民」(外国人)に対する拒否反応があったわけで、そのことは常に英国の問題として問われ続ける。そのようなことを問われているのは英国人だけではないのですが・・・。
 
 

「誇りに思う英国」というアンケートは、英国という国が持っているさまざまな伝統とか習慣についての問いかけです。非常に興味深いのは「国民保健制度」(NHS)がトップに来ていることと、「ビジネス」が全く「誇り」の対象になっていないように見えることですね。NHSの制度こそは、第二次大戦後の「福祉国家」のシンボルとして導入されたもので、いわばサッチャリズムの反対を行く政策なのに国民的な支持は未だに極めて高い。そしてサッチャリズムを支えたはずの「ビジネス」については国民的な不信感があるということでしょう。問題は、人気ダントツの「国民保健制度」がほとんど「風前の灯」という財政状況にあるということですね。

 
▼上の写真はBREXITとは直接関係ないけれど、あの国民投票以来、イングランド人の間で妙に高まっているとされるイングリッシュ・ナショナリズムの表れかもしれない。自分のお腹に "MADE IN ENGLAND" という刺青(いれずみ)をして「どうだ、文句あっか!」と見せびらかしている男性。いい大人のやるこっちゃない!?

▼自分が英国という国の人間であることを「望みどおりだ」とする人が6割・・・これって多いんですか、少ないんですか?日本人ならどのような答えになるの?むささびに関しては「普通に望む」であろうと思いますが・・・。「望みどおりだ」という6割の人たちが「なぜ望みどりなのか?」と言われると、「誇りに思う英国」のような答えになるのでしょうね。この中に「王室」というのが上位に来ていることには今更ながら驚きますね。それと「ダメな点」の中に「他国の文化に無知(ignorant)」というのがあるのも笑えます。ああ見えても、そのあたりを気にしているのか・・・という笑いですが、多文化混在社会の英国にしてみれば「笑いごとではない」のかも?


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7) どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 

snub:冷たくあしらう

ずいぶん昔のことのように思えるけれど、9月4~5日に中国・杭州市で開かれたG20サミットに出席したオバマ大統領が、到着した空港で失礼な扱いを受けたことが話題になったことがありましたよね。9月4日付のTelegraphの見出しは
  • Barack Obama snubbed on the tarmac arrival at China G20(オバマ大統領、中国のG20への到着時に滑走路で冷たい扱い)
となっていました。オバマさんが大統領専用機から滑走路へと降りる際に、普通なら用意されているはずの赤じゅうたん付きのタラップが用意されていなかったり、中国側職員がアメリカの同行記者団がオバマ到着を取材することを妨げたりした挙句に「ここは我々の国だ」と怒鳴ったりしたというわけですよね。"snub" を辞書で引くと "to ignore (someone) in a deliberate and insulting way" となっている。「意図的かつ侮辱的な方法で誰かを無視すること」というわけです。

9月4日付のGuardianがこの件について報道する中で、かつて駐北京のエジプト大使を務めた人物のコメントを掲載「あれは中国側の意図的な"snub"だ」とのことであります。「あんた(オバマ大統領)なんか我々には特別でもなんでもないんだよ」ということを見せつけるためのジェスチャーであった、と。なぜそんなことをする必要があるのか?元エジプト大使によると、それは中国指導部による国内向けの演出なのだそうです。アメリカというスーパーパワーに対してもペコペコしないという姿勢を自国民に見せつけることでナショナリズムを煽り立てようとした・・・と。

なるほどね、同じ会合に出席した英国のメイ首相が到着したときにはきっちり赤じゅうたんが敷かれていたとのことであります。つまり(言いにくいけど)英国首相なんて"snub"には値しないってこと!?

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8) むささびの鳴き声
▼日本記者クラブという組織が出している「会報」9月号(ここをクリック)に、天皇陛下の「生前退位」について取材をした記者が、その苦労話を書いています。それによると、この記者(テレビ朝日)は、7月13日の夜、社会部デスクから初めて聞かされて「セイゼンタイイ」という言葉の意味がよく分からなかったのだそうです。7月13日というのはNHKがこのニュースを最初に報道した日です。慌てて自分が所属する「宮内庁記者会」に駆けつけ、他社の記者たちと一緒に宮内庁の次長の「囲み取材」をしたところ「報道された事実は一切ない」とは言うけれど、NHKの報道が「誤報だ」とは言わなかったのだそうです。で、この記者は「何が何だか分からなかった」と書いています。

▼むささびもあの頃に「そういう事実は一切ない」という宮内庁のコメントを聴きながら、「あれはNHKの報道自体が誤報だったってこと?」と思ったのを記憶しています。でも宮内庁は「誤報」とは言っておらず、他局のその後の報道でも「そういう事実は一切ない」という宮内庁のコメントが繰り返しそのまま放送されていたのですよね。日本記者クラブの会報に記事を書いた記者は、宮内庁次長なる人物の「一切ない」コメントに対して「NHKの報道が誤報だったってことですか?」と聞いたのですかね。その質問をしたけれど、次長さんは「一切ない」を繰り返すだけだった・・・?それとも誰もそのような質問はしなかった?もしその質問が出なかったのだとすると、なぜ出なかったの?どなたか是非教えて欲しい。

▼同じ号の「会報」に東京新聞の記者が小池百合子・東京都知事について書いているのですが、それによると小池さんは、築地市場の移転問題のような注目を浴びる問題では「抵抗勢力」に立ち向かうヒロインのように振る舞う・・・というわけで、「用意された舞台で知事にスポットライトを当て続けるのが記者の仕事ではない。メディアをうまく利用してきた小池氏を監視するために、まずは惑わされてはだめだ」と言っている。全く正しい。

▼その東京新聞が「9月15日朝刊」で、2008年に都知事だった石原慎太郎が記者会見で、豊洲問題について、全面的な盛り土ではなく、地下にコンクリートの箱を埋め込むという発想もあると発言していたことを伝えています。東京新聞の場合、なぜかサイトの更新時間が書いていないけれど、「9月15日朝刊」に掲載したということは、前日の夜中にはサイトに掲載していたのでは?このニュースを9月15日付の日刊ゲンダイDigitalというサイトが伝えたときは「15日の東京新聞によると」と書いてありました。なのに同じニュースを9月15日に他の新聞とNHKがサイトで伝えたときには「東京新聞によると・・・」という言葉は(むささびが見た範囲では)全く使われていませんでした。いずれもサイトへの掲載は9月15日午後2時~6時ごろで、東京新聞よりはるかに遅く伝えていたのに、です。新聞もNHKも、偶然同じ日に東京新聞と同じことを発見したってこと?本当は新聞もNHKも東京新聞朝刊の記事を見て初めて知ったのに、何故か「東京新聞によると」とは言わなかった。むささびの見落としでないとするとフェアでないと思う。

▼9月16日(金曜日)の東京新聞の朝刊第一面のトップに石原さんのかかわりについて詳しく書いた記事が載っているのですが、その中に「こうした経緯について、本紙は15日朝刊で報じた」という文章がありました。むささびの推測によると、この短い文章のメッセージは「我々が他紙に先駆けて書いたのに、他紙もNHKもそのことには全く触れていないのは失礼だ」ということであります。

▼それはともかく、この問題、いわゆる「専門家会議」の提言を断りもなく変えてしまった東京都の役人が悪いという報道ばかりが目立ちません?例によって、メディアが「都の役人」という最もいじめやすい人たちを悪者に仕立て上げているということではない?むささびの感覚では、築地から豊洲への移転自体の規模に今さらながら驚きますね。

▼豊洲の新市場の敷地全体の面積は40.7ヘクタール(=12万2000坪)。読売新聞によると、「専門家会議」という人たちが、汚染物質を遮断するために「敷地全体を2メートル掘り下げて新しい土に入れ替え、その上に2.5メートルの土を盛ることを提言した」のだそうですね。「ヘクタール」と言われてもよく分からないけれど「坪」で言われると少しは分かるんでない?12万2000坪って何なの?この種の話題が出ると比較対象としてよく挙げられる東京ドームはざっと1万4000坪だそうです。東京ドームの10倍弱という広さの地面を2メートル掘り下げて新しい土に入れ替えた。それだけではない、その新しい土の上にさらに2.5メートルの土を盛る・・・。それらの過程において動かされる土の量を想像すると、「専門家会議」の提案自体、とてつもないものだと思いません?そのような膨大な量の土を移動させなければならない豊洲という場所そのものが築地市場の移転先としては全く不適格であったということですよね。

▼石原慎太郎は、「自分はだまされた」とか「東京都は伏魔殿だ」などと主張しているけれど、「だまされた都知事」である自分のアホさ加減についてはどのように責任をとるのさ。はっきり言って、この人が都知事として不適格であったということです。不適格な人間が決めた移転先なのだから、これも不適格に決まっている。シンタローのことについては、この人物を知事に持ってしまった都民の皆さまに心より同情するとして、むささびの素朴な疑問は、人工的に4.5メートルも積み上げられた土の上に建物を作った場合、いずれは建物の重みで地面が沈み、建物自体が傾いてしまうことは絶対にないんですかね。まさか「専門家会議」の皆さんは「我々は土壌汚染の専門家だから、地面の強度までは責任持てない」なんて言わないでしょうね。

▼夜は虫の音がにぎやかになってきました。お付き合いいただきありがとうございました。お元気で!
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むささびへの伝言