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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
第27号 2004年2月22日
むささびジャーナル27号です。お邪魔します。まだ2月だというのに、この暖かさは何でしょうか?朝のウォーキングが少し楽になりました。前回、万歩計「奥の細道」のことを書いたら早速「どこで買ったのか?」という問い合わせを頂きました。買ったのは東京・新宿にある東急ハンズという店。あれからちょっと風邪を引いてしまって毎日ウォークということは出来なかったのですが、深川を出てから4日目(だったと思う)、千住に到着いたしました。距離にして約11キロ。奥の細道の全行程は約2000キロだそうですから、あとは「たったの」1990キロ弱です。

目次

@ボランティアリズムの衰退
A宗教教育で無神論を教える
Bマスター由の<「フロム・ザ・ウェスト」というタイトル>
CむささびMの<ボランティアを遠ざけるボランティア課>
D短信
E編集後記


1)ボランティアリズムの衰退
日本で話題になっていることの一つに「裁判員制度」なるものがありますね。これ、要するにアメリカのように市民も裁判に参加するというシステムにしようということですね。で、この制度は普通の人の間ではそれほど評判がよくないようです。先日ラジオを聴いていたら「この制度が出来てアナタが裁判員になるようにといわれたら、喜んでなりますか?」という問いに対して「イエス」と答えた人は10%もいなかった。要するに面倒くさいということが理由のようです。これをもってして日本人の「市民意識」の低さの証明であるなどというつもりはもちろんありません。

興味深いと思ったのは「市民意識」だの「ボランティアリズム」だのでは先進国であるはずの英国で最近その伝統が崩れ始めているということをThe Economistの1月10日号が伝えているということ。Magistrateと呼ばれる微罪裁判官、学校の評議員(school governors)、病院関係のボラティアなどの数がどんどん減っているのだそうです。 Magistrateの場合、1195年以来の伝統で無給のボランティアがこれを務めることになっていたのですが、例えばロンドンのある地区の場合、80人のMagistrateが必要なのに57人しか埋まっていない。そうなると仕方がないので有給の裁判官を登用せざるを得なくなっているのだそうです。

Magistrateになると1年間に26日を半日だけ微罪の裁判に参加することが義務づけられています。ボランティアMagistrateについてさらに顕著なことは若い世代の参加が激減していることで、英国全土の28,344人のMagistrateで40歳以下と言う人はたったの3・7%。3分の1以上が60歳を超えているそうです。 こうなると長く続いたこの伝統もお先真っ暗というわけすが、この傾向についてMagistrates’ Associationという全国組織の関係者は「昔は国営企業とか病院とか学校とかの公共機関の労働者の中からボランティアを集めることができたのだが」として、最近これが実に難しくなっていることを訴えています。教師の場合、学校から有給休暇の許可を得るのが昔より困難になっているし、企業で働く人(特に若い世代)たちはボランティア活動などやっていると「出世が遅れる」ことが心配・・・ということです。

The Economistによると、ボランティア活動というのは案外負担が大きいのだそうです。例えばparish councilという教会区のおける隣組のような議員(ボランティア)でも自分の財産状況を公開することを要求されたりするし、子供相手のボラティアの場合は過去の犯罪歴を調べられたりということです。 何と言ってもイチバン欲しいのは企業経営者の協力ですが、It is certainly true that British employers are less keen for workers to take time off, even if it is for the public goodというのがThe Economistの指摘。ただナイキとかバークレイ銀行などはむしろ社員のコミュニティ活動への参加を「人材育成」の一環として奨励さえしているところもあるにはあるそうです。

ボランティア活動を単なる「善行」としてではなく、メリットもあるということを企業に訴える必要があるようです。 もう一つ必要なことはボランティア活動が参加者にとってあまり大きな負担にならないものにすることなので、というのが同誌の指摘。全国コミュニティ活動ボランティア協会の関係者によると、簡単で早く片付くような活動なら結構参加者がいるそうなのです。学校をきれいに飾るとか、ゴミ置場をきれいにすると言った活動です。これらをやることによって自分たちがnot bad peopleであると思いたいというわけです。そうした小さな善行も悪くはないけれど、それほど役にも立たない (it won’t change the world)とThe Economist は言っています。

最近日本ではNPOなるものが大流行で、毎日最低一つか二つはNPOの記事が出ますね。正直言って私、NPOとかいう人々の集団には非常な抵抗を感じるのでありますよ。「世の中のために何か善いことをしようというのならもう少し恥ずかしそうにやってもいいんでないかい」とかいうのは・・・やっぱよくないんですよね!?


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2)宗教教育で無神論を教える
英国では公立の小中学校は「宗教の時間」を設けることが義務になっています。実際にどのような授業が行われているのか、残念ながら私自身は知りませんが、政府発行の参考書によると「教科概要はいずれもキリスト教を反映したものでなければならない(Syllabuses must reflect Christianity)」とされています。

尤もこの後に「英国で実践されている他の宗教の教えも考慮に入れること」(while taking into account of teachings and practices of the other principal religions represented in the UK)という但し書きがついているところが、折衷的で如何にも英国的といえるかもしれません。

然るに英国においては教会に行く人の数がぐんぐん減っています。今から20年前の1980年の調査では毎週教会へ行くのは全体の19%であったのが、最近(1999年)の調査では7%にまで落ち込んでいる。つまり英国は限りなく無宗教社会になりつつあるとも言えるわけ。 このような矛盾した状況を反映してか、最近になって「宗教の時間では無神論も教えるべきだ」という動きが出ています。

授業内容を決める機関であるQualifications and Curriculum Authorityが進めている計画がそれで、いわゆる宗教(キリスト教、イスラム教、仏教など)ではないが「思想」(non-religious beliefs)と呼ばれるものを授業で教えるということです。無神論もその一つですが、ヒューマニズムとか不可知論(人間は感覚的に経験する以上の事は知ることができないという主張:agnosticism)なども入る。宗教教育(religious education)という言い方を止めて「宗教・哲学・道徳教育」にする方針なのだとか。

「道徳や哲学を教えるのに聖書の言葉など教えても最近の子供らは受け付けない。道徳を教えるのなら現在の具体的な例に沿って教えないと・・・」というのが、この動きを進める人達の意見。殆ど無宗教社会といっても今日の状況からして宗教教育そのものがナンセンスという声もあるのですが、「宗教・哲学・道徳教育」推進派も宗教そのものを学校から排除することには批判的で「却って宗教間のあつれきや偏見を助長するだけだ」としています。

なお現在の宗教の授業の場合、両親は自分たちの宗教を理由に子供を欠席させる権利も有しているのだそうです。それも「神の存在を信じない」という無神論も教えるとなると、子供たちを欠席するだけの理由もなくなるわけです。

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3)マスター由の<「フロム・ザ・ウェスト」というタイトル>
先日は僕のペンネームについて「解説」しましたが、今回はこのコラムのタイトルについて「解説」しようかと思います。これは日本語に訳すると「西(西洋)から」という意味ですが、以前僕はアメリカの大学新聞で「フロム・ザ・イースト」(東洋から)というコラムを連載していたことがありました。「イースト」は、僕の通っていた大学の学生たちに東洋文化、特に日本文化について知ってもらおうということで、日米文化の違いを面白おかしくまとめたコラムです。

連載当初は、編集長があまりその気でなかったのか、文化面の片隅に目立たない形で載っていました。 どちらかというと余白を埋めるために仕方なく使われた記事という感じ。ところが、学期が変わって編集長が変わり、僕が文化面の編集委員として採用されてからは職権乱用(?)で「イースト」を定期的に、しかも大々的に載せるようにしました。それからこのコラムの知名度は少しずつ上がっていき、その1年後には、毎週連載されるようになり、最も読まれるコラムの一つとして学生の間に広まっていきました。

その大学はミシガン州の中南部にある生徒数約1000人程度の私立の大学で、政治的、文化的にはもっとも西洋的で保守的な学校として知られていました。学生のおよそ9割5分は白人のアメリカ人で、僕の2、3年目は日本からの学生は何と僕一人だけでした。そんな雰囲気の中で「イースト」のような記事を書くのはちょっとした勇気が必要だったのですが、思った以上に皆楽しんで読んでくれたようです。

中には「このコラムニストの言うことは間違っている!」という怒りの投書を出してきた方々もいましたが、まあそれだけ読まれていたと思えば痛くも痒くもありませんでした。ということで、今回は西洋、特にアメリカでの経験を書くということで「フロム・ザ・ウェスト」にすることにしました。おそらくミシシッピやアラバマに引っ越したら「フロム・ザ・サウス」(南部から)に変わるでしょう。「フロム・ザ・ノース」は…誰だ、北朝鮮だなんて言うのは??将軍様に失礼だろ!!(笑)

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4)むささびMの<ボランティアを遠ざけるボランティア課>
私たちが暮らしている埼玉県飯能市(人口約8万)の市役所の中に市民生活推進課というセクションがあって、その中に「ボランティア課」という新しい課が誕生した。昨年4月のことだ。その役割は市民の中の個人でもグループでも、自分たちが飯能という町をあらゆる意味において住み良いところするために「自発的に」出来る事、やりたい事を前もって登録しておいて、需要ができたときに、早速それを提供できるようにしておこうというねらいで作られたものだ(と思っていた)。あえて「と思っていた」という部分をカッコに入れたのには理由がある。

私が外国人に日本語を教えるボランティアグループ、WING(We Introduce Nihon−Go)なるものを知り合い3人と作ったことは前にもむささびジャーナルで書いた。で、市役所にボランティア課ができると同時にWINGも登録した。実はボランティア課に登録したのはWINGが第1号であった。そこで実際の活動を開始するにあたり、その活動の日時などを知らせるポスターを市役所内の掲示板に貼ってもらおうとしたのだが、断られてしまった。その理由は「ひとつ貼るのを許すとウチもウチもと沢山きてしまうので・・・」というものだった。心底ガッカリしてしまった。

市のボランティアネットに登録したグループなのに、そのポスターを市役所の掲示板には貼れないと言うのだ。 個人が営利のために経営する塾のポスターを市役所の掲示板に貼れというのは無理があるかもしれないが、WINGはそのようなものではない。どころか市役所が新設した(つまりこれから市として盛り立てていかなければならない)ボランティア課に登録したばかりのグループなのだ。その我々のポスターを貼るについて「ひとつ貼るのを許すと・・・」というのである。

どうにも我慢ができなくて、市長の秘書という人物に電話で文句を言ったところ「担当者と十分検討してお答えしますので、しばらく時間をいただきたい」というものだった。これが今から約4週間前のことである。 つい最近、その秘書という人から私に電話がかかってきたのであるが、その人が私に伝えた「市役所からの回答」には、あいた口が塞がらなかった。「担当者と話し合った結果、今後市民のボランティアに対して市としてどのように対応していくかを文書にしていくことにしよう、というところまで決まった」というのである。

私が市役所に伝えたのは「ボランティアとして認めた我々の活動を知らせるポスターを役所の掲示板に貼れないというのはおかしい」ということであって、それについての回答を求めていたのに「ボランティア課の仕事について市民に説明する文章を作ることにしようと決めた」というのである。文章を書いたのでもないし、文章の内容を決めたのでもない。「文章を作ること」を決めたというのである。

私が電話をしてから4週間後に決めたのがこれであったのである。 市役所というところが、私たちのようなボランティアに対して、何ができるのか、何をすべきなのか、ということさえも明確にしないままにボランティア課なるものを開設したことになる。自分たちが何をやるのかも知らずにセクションだけ作ってしまったということである。市役所の人間と話していてお腹が空いている時に器だけで中身が入っていないお弁当を貰ったような気分だった。

最近、新聞などでボランティアとかNPOという言葉を非常にしばしば見かけるようになった。例えば外国人に日本語を教えて飯能になるべく楽しく暮らしてもらうというのは「公共のための自発的奉仕活動」であり、そのような市民が沢山暮している町というのは、おそらくとても暮しやすい町であろうと思う。私たちもそのつもりであったのであるが、市役所の対応は「(ポスターを)一つ貼るのを許すと、ウチもウチも沢山来て対応ができなくなる・・・」というのである。これを別の言い方に翻訳すると「あんたら(市民)の言うことなどいちいち聞いているわけにいかない。何故ならそれをやるとあんたら何をやらかすか分かったものではないからな」ということになる。

ボランティアが沢山来て、ポスターを貼ってくれというのはむしろ有難いことではないか。それだけボランティア活動が盛んであるということなのだ。どうしても貼るスペースが限られているのであれば、掲出期間を限るということもできるし、もっと言えばとてつもなく大きな掲示板を作ればいいのである。そこに何百というボランティアが思い思いのポスターを貼ることで、大いに盛り上がるではないか・・・というようなことは言ってみても分からないのであろう、飯能市役所の人たちには。何せボランティア課の役割を説明した文章を作ろうと決めるまでに1ヶ月もかかる人たちなのだ。

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5)短信
乗客にキリスト教を強要? 
去る2月7日、ロサンゼルスからニューヨークへ向かっていたアメリカン航空で「ご搭乗の皆様の中でキリスト教徒は挙手願います!」という機内放送がいきなり流れたのだそうですが、これには乗客もびっくりしたでしょうね。このアナウンスを行ったキャプテンはさらに続けて「キリスト教徒の皆様、隣に坐っているお客さまとキリスト教のことについて話をしてください」とやったそうです。この件についてアメリカン航空のジェラルド・アーピー重役は「アメリカン航空はそれぞれの信仰・信教の自由は十分に尊重している。我々はこの事件を極めて深刻に受け止めており、二度とことのようなことが起こらないようにするつもり」とコメントすると同時に反名誉毀損連盟(Anti-Defamation League)に対しても「徹底的に調査しております」とする手紙を送っているのだとか。このAnti-Defamation Leagueという組織は、反ユダヤ的な言動や活動を徹底的に監視している組織なのだそうです。乗客に宗教を押し付けるというのもどことなくアメリカ的な気がしますが、Anti-Defamation Leagueとかいうグループに直ちに謝罪の手紙を書くというのもアメリカならでは?

124才が5人 
ロシアの国家統計委員会によると世界の最長老は124才で5人おり、それがいずれもロシア人であるとされています。これまで存命中の最長老はというとアメリカ、オハイオ州に住むシャーロット・ベンクナーさん(1889年11月16日生まれの??歳)であり、死去した人も含めた最長長生き記録保持者はフランス人で1997年に122歳と164日で死去したジャン・ルイーズ・カルメンさんとされていたらしい。ロシアの国家統計委員会によると124才のロシア人はいずれも女性だとしていますが名前を明らかにしていないというのがインタファックスの報じるところ。これについてギネスブックのスポークスマンは「興味はあるが、名前も分からないというのでは」と語っているそいうです。

兄ちゃんの値段50ドル 
米国ワシントン州の新聞に「兄(ブラザー)売ります。値段は50ドル以下」という広告が掲載され、広告主に「買いたい」という問い合わせが殺到しているらしい。広告主はバーバラ・ベネットさんという41才の女性。実はこの広告は「ブラザーのミシンを売りたい」という広告であったのに、新聞社の方で単にBrotherとやってしまってそのあとにsewing machineという言葉を入れるのを忘れてしまったということ。新聞では直ちに謝罪・訂正広告を出しているらしいのですが、それでも「お兄さんを売って」という電話がかかってきており、なかには「少しまからないか」という問い合わせまであるのだとか。

金属探知器に怒ってヌード!? 
銀行の入り口のドアをあけるたびに金属探知機が鳴ることに腹を立てた男が、文句あるなら調べてみろというわけで、銀行の前で素っ裸になった。でも探知機のブザーは鳴り止むことがなかったそうで、男は公然わいせつの罪で逮捕されてしまった。大都会の道のど真ん中でヌードになってしまったのだから逮捕も仕方ないのですが、警察は案外同情的で「銀行を訴えるのも手なのでは?」などというコメントを言っているそうです。それにしても素っ裸になっても何故探知機が鳴り続けたのか?銀行では探知機が悪いのではなく、その人のドアの開け方が余りにも乱暴だったことが原因と主張しているそうです。

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6)編集後記
で、その万歩計「奥の細道」ですが、土地にちなんだ芭蕉の俳句がスクリーンに掲示される仕掛けになっています。最初の到達点である千住の俳句は「行春や 鳥啼魚の目は泪」でした●芭蕉の俳句はどれもこれも「素晴しい」の一言に尽きますが、私が好きなのは「暑き日を 海にいれたり 最上川」というもの。新潟県酒田。39番目の到達点。あるなぁ、未だ・・・(と溜息)●自分で提案してしまった「オークの細道」企画に、ある中学生(東京)が参加してくれるそうです。嬉しいじゃありませんか。東京から鹿児島まで延々2日間、特急にも新幹線にも乗らないディスカウント周遊券を使っていくのだそうです。途中何故か三重県四日市にも立ち寄る、中学生のひとり旅です。人間、ひとりになることは非常にいいことです。面白い旅日記でももらったら「むささびジャーナル」で掲載させて貰いましょう●またこの中学生を歓迎しますと言ってくれた大人たちにはもっと感謝しています。「ひとり」になって「世の中、ひとりでないことを知る」というのがこの企画のなのですから。●このジャーナルをイラクのサマワでお読みの方、お元気で・・・。

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