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むささびの鳴き声 美耶子の言い分 どうでも英和辞書 green alliance
2009年8月30日
いまごろになって酷暑!?でも関東は夜になると虫の鳴き声が聞こえるし、赤とんぼが飛んでいます。朝はそれなりに涼しいですね。やっぱり秋が来ているのです。170回目のむささびジャーナルです。

目次
1)ロンドン地下鉄の温暖化現象
2)深刻化する若年失業者
3)若年受刑者が増えている
4)ロッカビー事件と地方分権
5)サッチャリズムの意味
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声
1)ロンドン地下鉄の温暖化現象

知らなかったのですが、ロンドン地下鉄にも温暖化現象というのがあるんですね。最近のBBCのサイトに出ていました。「温暖化」と言っても地下鉄の車両ではなく、それが走るトンネル内部のことです。ロンドン交通局(Transport for London)では昨年の7月28日に計測した各線のヒートマップなるものを発表した。ここをクリックするとマップを見ることができますが、この日は昨年中で最も暑かった日なのだそうです。

ロンドンで地下鉄を利用された方ならご存じのBakerloo line。ロンドン中心部のトンネル内の気温は夏の暑いときで32度を超えるのだそうです。Central Lineの場合、西の端のHolland ParkとEast EndのBethnal Greenの間、どの駅も32度を超えるのだとか。確かに暑い。いちばんましなのはJubilee Lineで25度だそうです。

ロンドン交通局では来年から2013年をめどに、地上に近いところを走る線(Metropolitan、Circle、Hammersmith、City、District)ではエアコン付きの車両を走らせる計画なのですが、深い部分を走っているラインについてはトンネルそのもののスペースが限られていて、熱気の逃げ場がなく、通常の空調設備で冷やすのは難しい。トンネル内にポンプを敷いてそこへテムズ川の水を流し込むことで冷却するアイデアなども試されているのですが、

地下鉄の冷却こそロンドン地下鉄が直面してきた最大のエンジニアリング上の課題だ。結果が出るまでには数か月どころか数年はかかるだろう。
Cooling the Tube is one of the greatest engineering challenges faced by London Underground. It is a programme that will take years, not months, to deliver results.

というのが交通局のコメントです。

▼ロンドン地下鉄が最初に開通したのは1863年のこと。ご存じの向きも多いと思いますが、その当時はトンネルというよりも大きな土管(チューブ)を地下に埋め込んで、その中を電車が走るというシステムだった。だからロンドンでは地下鉄のことをTubeと言うこともある。それがぎりぎりの太さしかない場合、熱を逃すのが実に難しいんだそうです。

▼同じニュースを伝えるThe Economistの英国版によると、いま暑くてどうしようもないBakerloo lineでも100年前の気温は暑い日でも15度で、ロンドン中でイチバン涼しい場所だった。それが100年以上も走り続けているうちに、土壌そのものがヒートアップして現在の状況になっているのだそうですね。

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2)深刻化する若年失業者

日本に限らず英国でも失業が深刻化しているようで、8月13日付のThe Timesによると、今年の4~6月期で失業率7・8%の244万人。14年ぶりの厳しい数字だそうです。特に厳しいのは18才~24才の若年層で、6人に一人が失業というわけで、1993年当時の17・8%という数字に近付いている。

若者と高齢者が職を奪い合っているという側面もあるのだそうで、ハンバーガーのマクドナルドが行った顧客の満足度調査によると、60代のスタッフが働いている店は、そうでない店よりも20%も満足度が高い。英国内のマクドナルドの従業員は7万5000人、うち約1000人が60才以上だそうです。新卒者よりも職業経験がある年寄りが好まれるということですが、Prince’s TrustというNPOのMartina Milburn専務理事は
(若者の失業率が高いという)この傾向はこれからも続く下落の始まりで、犯罪、ホームレスあるいはもっとひどい状態をもたらすことがしばしばある。社会制度から若者が落ちこぼれないようにすることによってのみ失われた潜在性を取り戻し、毎年何十億ポンドという経済貢献をすることになる。
This is just the start of a long and downward spiral, which all too often leads to crime, homelessness or worse. Only by stopping young people falling out of the system can we rescue this lost potential and save the economy billions each year.

と言っています。

またIHS Global Insightというthink tankのHoward Archerチーフエコノミストの予想によると、雇用情勢は来年の下半期には好転するものと思われるけれど、そのころには経営者は新しい学卒者(more recent graduates and school leavers)を望むようになっているかもしれない。となると、現在の学卒者は永遠に「失われた世代」(lost generation)ということになる。

不況下にあって雇用主として健闘しているのがスーパーマーケットだそうで、最近、業界4位のMorrisonsが新たに2000人(うち3分の1が18~24才)を雇用すると発表しています。Morrisonsの場合、自社の職業訓練所を有しており、2011年までに約10万人の若者を訓練する計画であると言っています。

尤も厳しいのは若年層だけではないようで、高齢者の福祉向上を目指すAge ConcernというNPOによると、この1年間で50才以上の失業者は55%も増加している。

こんにちの高齢失業者は、あしたの貧困年金生活者だ。2年後に職を持っている者が5人に一人という状態では、ベビーブーマーの多くが、仕事をして退職後の生活に備えなければならない時期に職業市場からはじき出されることになるということだ。
Today’s unemployed older worker is tomorrow's poor pensioner. With only a one in five chance of being in work two years later, scores of baby boomers are being shut out of the job market at a time when they need to work and save for their retirement more than ever.”

というのがAge Concernの公共政策部長のコメントです。

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3)若年受刑者が増えている

8月20日付のThe Economist(英国版)に、英国の若者について気になる記事が出ていました。英国が他の先進国に比べて若年受刑者の数が非常に多いというのです。この場合の「英国」はイングランドとウェールズのことなのですが。

まず年齢を問わず、人口10万人あたりの受刑者の数を紹介すると、ダントツがアメリカで760人、次いでスペインが164人で英国は第3位の153人となっている。4位はフランス(96人)、5位がフィンランドで67人。しかし受刑者総数の中の18才以下の数となると、英国とスペインが約2・5%でトップ2を争い、アメリカは0・4%でぐっと少ない。

ロンドンのKing’s Collegeの国際刑務所研究所によると、昨年のロンドンでは16才以下の少年を対象にした職務質問の件数が2000件、うち58件が10才以下の文字通り「子供」です。

The Economistによると、英国の犯罪責任年齢は10才と極めて低く、国連が問題にしているのだそうです。ちなみにフランスの犯罪責任年齢は、公式には13才だが10才の子供にも「教育措置」(educational measures)を施すことができる。またスコットランドの場合、法的には8才の子供にも犯罪責任があるけれど、実際には16才以下の子供が処罰されることはほとんどない。

刑務所改善に取り組むHoward LeagueというNPOによると、英国においては少年受刑者の数そのものは、1997年に比べると2007年には約20%減っている。しかし低年齢層(10~14才)が刑務所入りするケースは劇的に増加している。すなわち1997年には130人であったのに2007年には500人を超える少年が受刑している。

で、若い人々が刑務所入りしてしまう理由はASBO(antisocial-behaviour order)と呼ばれる反社会行為への取り締まりや夜間外出。ASBOの場合は迷惑行為(nuisance behaviour)がほとんどだから刑務所入りなどという重罪ではないけれどcustody(留置)にはなる。

14才以下の子供の場合、「重大かつ度重なる(serious and persistent)」犯罪行為の場合にのみ刑務所入りとなるのがガイドラインとなっているのですが、少年問題のNPOであるBarnardo’sによると2007-2008年に刑務所入りし少年の35%がそのような基準に達してるとは思えないのに刑務所に放り込まれている、と非難しています。「重大かつ度重なる」という基準が拡大解釈されているというわけです。

The Economistによると、刑務所に入れられた若者の10人に一人が自殺を図り、5人に一人が自傷行為を行っている。これらの少年の多くは出所後に国家のケアが与えられるが、そうでない場合は貧困に苦しむようになる。経済不況で事態はますます悪化しているのだそうで、最近(8月17日)に発表された数字によると、いわゆるニート(NEET:not in education, employment or training)の数は、かつてないほどの数に上っている(highest on record)、とThe Economistは伝えています。

▼若者による反社会的行為を取り締まるASBOは、1998年にブレア政権によって施行されたものです。ここでいう「反社会的行為」には、例えば、騒音を出す(noisiness)、アルコールの飲みすぎによる酔っ払い行為(drunken behaviour from binge consumption of alcohol)、恐喝(intimidation)、万引き(shoplifting)などに並んで、路上で音楽を演奏して金銭を取る(busking)、物乞い(begging)など、「何で?」と思われるような行為も含まれています。

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4)ロッカビー事件と地方分権
いまから約20年前の1988年12月21日、ロンドン発ニューヨーク行きのパンアメリカン航空103便が、スコットランドのロッカビー村上空で爆発、乗員乗客259人全員が死亡、機体が落下したロッカビー村でも11人が巻き添えになり死亡するという事件がありました。最近になってこの爆破事件の犯人と目されるAl Megrahiというリビア人が、スコットランドの刑務所から「温情により釈放」(compassionate release)され、しかも帰国先のリビアの空港で大歓迎を受けたというニュースは、日本でもかなり大きく報道されましたよね。

この人は末期の前立腺ガンにかかっていて余命いくばくもないということでcompassionate releaseということになった。大量殺人をやった人間に「companssionなど要らない」というので、英国でもアメリカでもかなりの反発があった。新聞の書き込み欄にあった

病人への温情はいいけれど、それが犠牲者の家族・友人・同盟国に対する侮辱となると別問題だ。
Compassion for a sick man is one thing. Giving offence to his victims' relatives and your friends and allies is another.

というのが典型的な感情のようであります。

この件についてのブラウン首相は「温情釈放はスコットランド政府が専権事項」というわけで直接のコメントを避けていたのですが、8月25日、首相官邸におけるナタニエフ・イスラエル首相との共同会見の中でようやくコメントを出した。ただ、ブラウンさんが語ったのは、犯人の釈放そのものではなく、犯人がリビアのトリポリ空港で大歓迎の英雄扱いされたことについて「怒りと嫌悪感を覚えた(angry and repulsed)」ということだったので、却って批判の材料にされてしまったようであります。

ところでブラウンさんが「温情釈放はスコットランド政府の専権事項(the release was entirely a matter for the Scottish government)」と述べたのは、1998年の地方分権(devolution)によって、病人を温情で釈放するかどうかはロンドンの英国政府ではなく、スコットランド政府の行政範囲に属することであるということが根拠になっています。ロンドンの政府が扱うのは外交であり防衛ではあるけれど、病人の釈放までは・・・ということですね。

8月28日付のThe Timesのサイトに、政治記者のPeter Riddellが「スコットランドの専権事項というブラウンの言い分は間違っている(Brown is wrong to say al-Megrahi’s release is a matter for Scotland)という記事を寄稿しています。

この犯人の釈放は)外交政策の面で重大な意味を持つことになることは分かっていた。対リビア、対アメリカとの関係が絡んでいるのであり、これらはあくまでもロンドン政府が扱うべき事柄であり1998年のスコットランド法においてもスコットランドの「分権」されているわけではない。ブラウン首相がこの問題にかかわるのは権利であるのみならず義務でもあるのだ。
It was always going to have big foreign policy implications, for relations with Libya and the US. These remain matters for the Government in Westminster and are not devolved under the Scotland Act 1998. Mr Brown not only had a right, but a duty to be involved.

Riddell記者によると、スコットランド政府の決定についてロンドンの政府の閣僚がコメントしてはいけないなどという決まりはどこにもなく、「スコットランドのAlex Salmond首相がブラウン首相のやることに批判的なコメントをすること躊躇することなど全くない(Alex Salmond has never been shy of criticising Mr Brown)ではないか」と言っています。

The Timesが行ったアンケート調査では、ブラウンさんの沈黙は、石油の関係もあってリビアに気を使っているのでは?という意見が半数を超えているのですが、「お陰で今後、英国企業がリビアと正当なビジネスを行ったとしても色眼鏡で見られてしまうのではないか」と言う人もいます。

▼ブラウンという人は、ブレアなどと違って、何をやってもケチをつけられるようにできている。まじめすぎるというか・・・。大蔵大臣でよかったってことかも?ロッカビーの件にしてもブラウンさんに勝ち目はない?

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5)サッチャリズムの意味

いまの英国を紹介するために私が時々参考にするのが、The Prospectという月刊誌のサイトです。時事問題を語る雑誌なのですが、保守だのリベラルだのという政治的なオピニオン・マガジンという感じがなくて親しみやすい雑誌です。そのThe Prospectの158号(2009年5月)に掲載されたMeaning of Margaret(マーガレットの意味)というエッセイは、マーガレット・サッチャー首相の功罪について語っています。

筆者はDavid Willettsという人なのですが、現在は保守党の国会議員。サッチャー首相の政策担当秘書官を務めており、1980年初めサッチャー政権初期のことをよく知っている人なのだそうです。あの当時は当然、「サッチャー革命」の推進役の一人であったわけですが、いまは必ずしもそうではない、と言っています。

Willettsはまず、

サッチャー政府が英国を良くしたことは確かであり、それはどの政権についても言えることではない。サッチャーの後継者であるジョン・メージャーの功績は、サッチャー改革の多くの部分を持続したことにある。おかげで1997年に誕生した労働党政権もこれを後戻りさせることはできなかったのだ。
Her government left the country in better shape than it found it, and you can’t say that for every government. John Major’s achievement was to sustain many of the changes so they could not be reversed by Labour in 1997.

と述べています。トニー・ブレアは労働党の党首に就任するにあたって、それまで堅持してきた「産業の国有化」という労働党の綱領の核心の部分を廃止して市場経済主義を採用した。富を生み出す制度としては「産業の国有化」よりも、個人々々の自由な経済活動に基礎を置く市場経済体制の方が優れているということは労働党さえも認めてしまったわけです。

Willettsは次にサッチャリズムの負の面(downside)については次のようにまとめています。

(サッチャリズムの)最大の弱点は、その経済改革の果実にあずからなかった人々があまりにも多かったということである。このことによって思想的な真空が生まれ、その真空は経済的な効率と社会正義の両方を提供することを訴えたトニー・ブレアによって満たされることになったのだ。
And the downside? The biggest is that too many people did not share the fruits of our economic reforms And this in turn left an intellectual vacuum that Tony Blair could fill with his claim to offer both economic efficiency and social justice.

つまりサッチャーさんが推進した産業の民営化や規制緩和によって、英国経済はよみがえったとされていたけれど、実は貧富の差が拡大するなどの負の面ももっていた。サッチャーさんが推進した経済改革のマイナス面をどうするのかということについての「思想的な真空状態」(intellectual vacuum)を埋めたのがブレアさんの「社会正義に基づいた市場経済主義」だの「第三の道」だのという考え方であったわけです。

ではサッチャーさんは、自由競争が冷酷な「弱肉強食」に繋がるかもしれないということを全く考えなかったのか?彼女もそれは考えていたのですが、そのための思想的な根拠として「クリスチャンとしての義務」を持ち出していた。David Willettsによると、サッチャーさんが1988年、スコットランド教会の総会(General Assembly of the Church of Scotland)で行った演説の中に次のようなくだりがあります。

クリスチャンのほとんどが、自分たちの仲間である男や女を助けることはクリスチャンとしての個人的な義務であると考えています。クリスチャンなら子供たちの命をかけがえのない共有財産だと思うはずです。こうした義務は議会によって作られる世俗的な法令によって要求されているのではありません。それらはクリスチャンであるということに根拠を置いたものなのです。
Most Christians would regard it as their personal Christian duty to help their fellow men and women. They would regard the lives of children as a precious trust. These duties come not from any secular legislation passed by Parliament, but from being a Christian.

サッチャーさんはまた別のところで

自分の面倒は自分でみると同時に隣人の世話をすることも我々の義務なのですよ。人生お互い様なんです。
It is our duty to look after ourselves and then also to help look after our neighbour and life is a reciprocal business.

とも述べています。「世の中で成功した人はコミュニティに対して幅広い責任がある」というのがサッチャーさんの理解であったわけですが、Willettsによると、彼女は減税にあずかった富裕層が慈善事業への寄付を十分に行っていない(there was not much more charitable giving by the rich whose taxes she had cut)と嘆いていたのだそうです。キリスト教的な信仰心に訴えるサッチャーさんのやり方は「非宗教の時代(secular age)」には十分な説得力を持たなかった、とWillettsは言っています。

市場経済主義が「弱肉強食」にならないために、サッチャーさんは「キリスト教徒としての信仰心」に訴えたのに対して、ブレアさんは「社会正義」を持ち出したということです。

これ以上書くと長くなるので止めにしておきますが、その気のある方は、スコットランド教会総会における彼女の演説原稿をお読みください。またThe Prospectに掲載されたDavid Willettsのエッセイをお読みになりたい方はむささびジャーナルまでお知らせください。

▼これまでサッチャーさんは、日本においては「信念の政治家」というイメージで肯定的に語られることが多いように思います。ただ(私の見方によると)それは彼女が「英国の」首相であったからで、1980年代の彼女の厳しい経済政策も他人事であるからです。彼女の政策のお陰で失業した英国人、ホームレスになった英国人の立場からの議論ではない。

▼サッチャーさんは「あなたは英国のどこを変革したのですか?」と聞かれて「全部変えたのよ(I changed everything)」と胸を張ったわけですが、彼女のいう「全部」というのは、彼女が登場する以前のエリート社会のことである、と私は考えています。彼女が首相の座を追われてからほぼ20年が経ちます。で、戦後の歴代首相の人気投票をすると、いまでもサッチャーさんのお陰で「英国は住みよい国になった」(she made Britain a better place to live)という人が40%で「住みにくくなった」(she made it worse)という人の41%と殆ど同じくらいいる。

▼いろいろと文句を言われながらも、サッチャーさんは1979年から1990年末まで10年以上も首相の座にあった。「自民党をぶっ壊す!」と叫び、規制緩和とか民営化などの点ではサッチャーさんと似たようなことをやった小泉さんが首相を辞めたとたんに「やっぱあれは間違っとった」となってしまった日本とはちょっと違う。それが小泉さんとサッチャーさんの違いなのか、国のリーダーというものに対する日本人と英国人の考え方の違いなのか?「サッチャーやブレアはすごいが小泉は・・・」という意見は、私には偽善というかアンフェアとしか思えない。


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6)どうでも英和辞書
A~Zの総合索引はこちら

paternalism父親的温情主義

paternalismという言葉を英和辞書で見たら「父親的温情主義」とか「家父長的態度」という訳になっていました。これ、分かります?私には分かりません、正直言って。そこで英英辞書をひいてみたら次のような説明がなされていました。

the system in which a government or an employer protects the people who are governed or employed by providing them with what they need, but does not give them any responsibility or freedom of choice.

初めの文章は「政府や企業が国民、従業員に必要とするものを与えることによって、彼らを保護する制度」ということですよね。この方が分かりやすい。問題はbut以下です。「その政府や企業が国民、従業員に責任も選択の自由も与えない」という制度なのだそうです。それを称して日本語では「父親的温情主義」というのでしょうね。私などが、日本の政治や企業社会に感じるフラストレーションは、このbut以下の理由によるところが大きいと思います。paternalismの訳は「ひとを子供扱いすること」という方が分かりやすい。その結果生まれるのは「寄らば大樹の陰」主義・・・。

state of the art最高レベルの・・・

これ、宣伝用語としてかなり頻繁に使われますね。state of the art facilities(最高レベルの設備)、a state of the art technology(最高レベルの技術)などなど。

The state-of-the-art baggage system at Terminal 5 was designed by IBM and leading baggage handling experts, Vanderlande. Every effort has been made to make sure your baggage arrives just where you want it, when you want it.

これ、ロンドンのヒースロー空港で英国航空(BA)が使うTerminal 5のサイトで使われているコピーです。飛行機を降りたお客さんが荷物をピックアップする場所(baggage claim)におけるサービスがstate-of-the-artであるというわけでありますね。

はっきり言って、私、英国航空についてはロクな思い出がないので、state-of-the-artと言われても・・・と眉に唾をつけていたら、荷物が飛行機からピックアップポイントまで運ばれるのが、画期的に速いので「あなたがポイントへ到着する以前にお荷物が到着することもしばしばです」(your bag will often reach baggage reclaim before you get to the carousel)と謳われておりました。そうなると心配なのは、自分より先に出てきた荷物が行方不明になるのでは?ということですね。BAの場合「それは到着が遅かったあなたの責任です」(You should have arrived earlier. We warned you...)とか何とか言いかねない!?

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7)むささびの鳴き声

▼前回も書かせてもらったけれど、有名タレントの覚せい剤問題。当人が起訴されて所属事務所を解雇されてしまいました。そのことを発表する記者会見が行われ、社長が「反社会的行為は決して許されるものではない。断腸の思いだが、解雇という結論に達した」と述べてから「関係者、ファンの皆様には心よりおわび申し上げます」と深々とアタマを下げておりました。

▼このタレントに憧れていたファンにとっては悲しいことだと思うので、社長さんがファンに謝るのは理解できる。でも「関係者」って、誰のことなのでしょうか?社長の様子からすると、メディアの人たちも「関係者」の中に入っていたことは間違いないと思いました。だとすると、なぜメディアに謝罪するんですか?このタレントを起用することで番組を制作していたテレビ局に対する謝罪ですか?でもテレビ局はこの人が覚せい剤をやった(と警察が言っている)お陰でいろいろと番組が作れたのだから、大いに助かったのではありませんか?

▼私、いまだにこの「容疑者」(被告?)がなぜ極悪人みたいに叩かれなければならないのか、分からないのでありますよ。この人は覚せい剤の「被害者」なんじゃありませんか?叩かれるべきなのは、この人たちが覚せい剤にはまるように仕向けた人たちなんじゃありません?このようなアングルから制作されたテレビ番組って、ありました?

▼総選挙ですが、今回は小選挙区も比例代表も民主党に投票しました。これまでは共産党や社民党に入れることが多かったのですが、今回は民主党にした。私の選挙区では、小選挙区の候補者を立てているのは自民党、民主党、幸福実現党の3つです。共産党も公明党も候補者を立てていない。共産党に入れようと思っていた人が棄権しないとすると、どの党に入れます?自民党はないよね。「幸福実現」はお呼びでない。となると消去法で民主党に・・・というような選挙区が日本中にあるのではないか?これでは自民党は勝てっこない。

▼でも、私はなぜ自民党に入れなかったのだろう?自民党の何が悪いのか?今回の選挙に限っていうと、自民党にバカにされたという気持ちがこれまで以上に強かったからです。小泉さんが退いてから安倍・福田・麻生の3人が首相になったけれど、誰も総選挙の洗礼を受けていない。そのこと自体がバカにしているのですが、特に麻生さんが選挙をこれまで遅らせたことについて「100年に一度の経済危機なのだから政治の空白を作ってはならない」ということを理由に挙げていたことが許せないと思いました。

▼国が大変なピンチにあるときに選挙どころではない、というわけですね。反対です。ピンチだからこそみんなの意見を集約するために選挙をするのですよね。ピンチだから選挙をしないということは、「国民は黙っとれ」ってことですね。「どうでも英和辞書」で紹介したpaternalismの見本ですね。それと「民主党はばらまき」なんてよく言えたものですよね。給付金だのエコカードだの高速道路1000円だのとさんざばらまいておいて・・・です。

▼では、なぜ私は民主党に入れたのか?共産党や社民党の候補者がいなかったから?違うな。私の気持ちの中にこれまでの政治のあり方に対する根本的な考え直しがあったように思います。その対象には共産党や社民党も含まれている。「勝てっこないけど正論を主張する」という姿勢に対する不信感ということ。なによりこれまで「勝てっこないけど正論」という姿勢をとってきた自分の投票行動に対する考え直しでもある。

▼考え直しの対象になぜ民主党は含まれていないのか?含まれてはいるのです、民主党も。いわゆる「小泉改革」に反対していることもその一つです。でも、だから「民主党もダメだ」という「ないものねだり」を止めてみようと思ったってことであるし「誰がやっても同じでしょ」という、メディアに影響された非生産的シニシズムには組みしたくなかった。あえて言うと、鳩山さんの言う「官僚に頼らない政治」という部分に惹かれたということはある。paternalismから一番遠い政党という気がしたってことか。

▼ところで、鳩山さんがメディアから「ぶらさがり」要請を断っているという記事がどこかに出ていました。例の立ち止まりインタビュー(英語でいうとdoorstep)のことです。結構じゃありませんか。あれをやるくらいならひと月に一度、ちゃんとした記者会見をやった方がいい。もちろんブログ・ジャーナリストも入れて、です。それだけでも進歩ではある。


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