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むささびの鳴き声 美耶子の言い分 どうでも英和辞書 green alliance
2009年9月13日
朝は寒いくらいになりましたね。最近、ネットのニュース欄で新潟県がプロ野球の招致に乗り出すという記事が出ていました。ひょっとして埼玉県からライオンズを持っていこうということでしょうか?それだけはご勘弁を。ヤクルトあたりかもな。だったらどうぞご自由に。

目次
1)幼児死亡が減っている
2)アフガニスタンでの「対テロ戦争」支持は案外少ない?
3)労働党は「漂流」のすえ、野党に?
4)「独立公共機関」なんて要らない!
5)鳩山論文の波紋:英国記者の見方
6)鳩山民主党への期待
7)どうでも英和辞書
8)むささびの鳴き声
1)幼児死亡が減っている

国連子供基金(UNICEF)のサイトによると、幼児(5歳未満)の死亡率が低くなっているそうです。1000人あたりの幼児死亡の件数が1990年では90人であったのが、2008年は65人になったのだそうで、死亡幼児の数も1250万人から880万人へと減っている。「1990年に比べれば、毎日死亡する幼児の数が1万人減っているということです(Compared to 1990, 10,000 fewer children are dying every day)」とUNICEFのAnn M. Veneman専務理事は語っています。

画期的な減少を記録したのが南アジア(120人→40人)、南米と東欧・旧ソ連圏(50人→20人)です。サハラ以南のアフリカ諸国はニジェール、マラウィ、エチオピアなどでは減っているけれど、相変わらず世界の幼児死亡の半数を占めている。幼児の主なる死亡原因はマラリア、肺炎、下痢が3大原因として挙げられているのですが、マラリアは減っており、UNICEFではその主な理由を殺虫処理をほどこした蚊帳(insecticide-treated bed nets)の普及を挙げています。

幼児の死亡率は全体としては減っているのですが、アジア、アフリカが「不釣り合いな犠牲(disproportionate burden)」を負っていることは確かなことで、特に死亡率の高い国としてインド、ナイジェリア、コンゴ民主共和国が挙げられており、この3国だけで世界の幼児死亡の40%を占めているのだそうです。さらに南アフリカも高いのですが、この国の場合は母親がHIVエイズに感染することが幼児死亡につながっている、とUNICEFでは言っています。

▼マラリア防止に役に立っているという蚊帳は、確か日本のメーカーが提供しているものだと聞いたことがありますね。それと死亡率の最も高い国として、経済成長著しいインドが挙げられているのは意外であり皮肉ですね。

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2)アフガニスタンでの「対テロ戦争」支持は案外少ない?

鳩山・民主党の外交政策で話題になっているのが、インド洋における給油問題ですね。鳩山さんが来年の1月以後はこれをやらないと発言したことに対して、アメリカ国防省の報道官という人が最近の記者会見で「活動継続を望む。日本は大国であり国際的な責任がある」と述べたということが毎日新聞のサイトに出ていました。確か国務省の人も「国際社会の要請だ」という趣旨のことを言っていましたよね。

8月31日付のアメリカPew Researchのサイトに、アフガニスタンへの取り組みについて、NATO加盟国を中心に、今年の5-6月、25カ国で行った世論調査の結果が報告されているのですが、Few in NATO Support Call For Additional Forces in Afghanistanというわけで、NATO加盟国では、オバマ大統領によるアフガニスタンへの軍隊の増派についてはさしたる支持を得ていないと伝えています。

増派については次のような結果になっている。

賛成 反対
ドイツ 32% 63%
フランス 37 62
英国 41 51
スペイン 41 50
アメリカ 54 42


では米軍やNATO軍の駐留そのものについてはどうか?

賛成 反対
ドイツ 48% 47%
フランス 50 49
英国 46 48
スペイン 44 46
アメリカ 57 38

アメリカ軍やNATO軍を支援するインド洋の給油は、本当にそれほど「国際社会」の要請なのか?アフガニスタンで展開する軍事活動そのものは、実際にはそれぞれの参加国でそれほどの支持を得ているものなのか?これらの数字に見る限り実に疑問ですよね。

▼イラク戦争に反対だったけれど、アフガニスタンでの「対テロ戦争」には賛成というオバマ大統領ですが、本当のこと言って、イラク戦争とアフガニスタンでの軍事行動は、敵を間違えているという点では同じなんじゃありません?

▼もともとアメリカが懲らしめたいと思っていたのは、9・11テロの首謀者とされるオサマ・ビン・ラディンとアルカイーダであって、サダム・フセインでもないし、タリバンでもなかったはず。アフガニスタンでの軍事行動の対象がいつの間にかアルカイーダという国際的イスラム過激派から、9・11とは縁もゆかりもないタリバンになってしまった。私、アメリカ国内で「アフガニスタンから撤退しよう」という世論が盛り上がるのは時間の問題だと思えて仕方ないのですが・・・。

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3)労働党は「漂流」のすえ、野党に?

労働党の議員にJon Cruddasという人がいるのですが、彼が最近ある集会で行ったスピーチで「労働党は野党に漂流・転落する重大な危機に直面している(Labour is in serious danger of drifting into opposition)」と発言してメディアの話題になっています。この人は党内でも左派の有力者として知られており、2007年の党大会で副党首に立候補して落選、ブラウン内閣への入閣を拒否したというバックグラウンドを持っています。

このスピーチはCompassという左派系のthink tankの夏季講習で行われたもので、

労働党が政権の座にとどまろうが、野党に戻ろうが、自分たちがなんのための政党であり、どのような社会を建設したいと考えているのかを根本的に再検討する必要がある。
Whether Labour remains in government or returns to opposition, we need a fundamental re-examination of our identity and the kind of society that we hope to create.

と主張、いまのままでは「再選されるという確たる理由はない(no compelling case for re-election)と言っています。英国では来年(2010年)6月までに総選挙が行われることになっています。彼のいう「どのような社会を・・・」という部分ですが、現在の労働党が「労働者階級の中心地域を無視して、イングランド中部の"浮動票"地域を重視しすぎている(ignoring its working-class heartlands in favour of swing voters in "middle England")」というところに問題があると言っているわけです。ちなみに彼の選挙区はロンドンのDagenhamという区です。

9月6日付のObserver紙のサイトによると、Cruddas議員がブラウン党首について最も厳しく批判しているのが、現在の経済危機をもたらしたのは保守党のサッチャリズムであり、現在の保守党党首のキャメロンさんの「進歩的保守主義」(progressive conservatism)が行き詰りを見せているにもかかわらずブラウン党首が保守党攻撃を怠っているという点にある。

世論調査では、保守党のキャメロンさんがブラウンさんを大きく引き離しているのですが、現在の労働党政権について、Strathclyde UniversityのJohn Curtice教授は

ゴードン(ブラウン)の唯一の希望は、経済状態の回復がこのまま続き、それが現政権の政策の成果であるということで国民を説得することにある。しかしそれは乏しい希望というものだ。
Gordon's one and only [political] hope is that the economic recovery continues and he is able to persuade the public that this is a result of the government's policies. But it's a slim hope.

と言っています。

▼英国経済は回復のきざしを見せており、それはブラウン政権の政策の成果だということだけで、労働党が勝つという可能性は極めて薄い、とCurtice教授は言っているのですが、はっきり言って英国人がブラウン政権に飽きてしまったということなのではないかと思います。確かにブラウンさんにはそれなりに分かってもらいたい成果はあるのだろうと思うし、国民にとって最大の関心事であるはずの経済については保守党政権になったから向上するという保障は全くない。どころかそもそも現在の危機はサッチャリズムに源を発するとなれば、むしろ保守党の方が不利であるともいえる。

▼なのに世論調査ではキャメロンの保守党がかなりリードしている。つまり選挙民が保守党と労働党の間には大きな違いはないと感じていて、ならば見飽きたブラウンよりも新鮮な感じがするキャメロンに・・・ということです。このあたりは麻生・自民党の大負けと民主党の大勝ちと似ていなくもない。大いなる違いは、日本人は50年以上も飽きもせずに自民党を政権の座に置いてきたことであり、英国人は10年で「もう飽きた」と言っている点です。

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4)「独立公共機関」なんて要らない!

保守派のオピニオン・マガジン、The Spectatorのサイトを見ていたらDave can’t govern unless he destroys the quangosというタイトルのエッセイが出ていました。Daveは保守党党首のDavid Cameronのことです。「キャメロンはquangosを破壊しない限り(英国を)統治することはできない」というわけです。

quangoquasi-autonomous national governmental organisationの略で直訳すると「準自治政府組織」ということになる。殆どが税金によって賄われているけれど、いわゆる「政府」組織ではない「独立公共機関」です。本来は政府の仕事であるけれど、お役所がやると効率が悪いので、政府とは別の組織を作って仕事をやらせる・・・日本でいうと「特殊法人」とか「独立行政法人」とかいうものにあたるのかもしれない。

来年には総選挙があって、たぶん保守党が政権につくけれど、真っ先にやるべきなのはquangosをつぶすことだ、というのがThe Spectatorの記事であるわけですが、いま英国には1000を超えるquangoがあり、それらのほとんどがブレア・ブラウンの労働党政権によって作られ、労働党の息がかかった官僚や政治家の就職先となっているというわけです。

たとえば1997年の労働党政権誕生前に消費者問題コンサルタントをやっていた人物(労働党員)は、政権誕生後、Exeter & District NHS Trust(国民保健基金)会長、Food Standards Agency(食品基準機関)副会長、Human Fertilisation & Embryology Authority(人間繁殖・胚成育機構)会長、Charity Commission(慈善事業委員会)委員長等を歴任している。そのほかEnvironment Agency(環境庁)、Olympic Delivery Authority(ロンドン五輪実施庁)等々、どれをとっても労働党関係者がトップに君臨している。こういう人たちのことをquangocratsというのだそうですね。

quangocratsの中にはかなりの高給取りがいることも問題になっている。National Policing Improvement Agency(全国警察向上機構)に天下りするロンドン警視庁の副長官の年収12万ポンド(約1600万円)、Infrastructure Planning Commission(インフラ計画委員会):会長の年収は18万4000ポンド(なのに出勤は週4日だけ)、北アイルランドにおける公共事業の監視を業務とするStrategic Investment Board(戦略的投資委員会)という組織の会長の年収21万3000ポンド等々といった具合です。

これらの有力者の引退後の天下り先になっているということだけが問題ではない、とThe Spectatorは言っている。Big Lottery Fund(宝くじ基金)というquangoの場合、幹部の多くが労働党関係者で占められており、宝くじの売り上げ金の配分先である地域を選挙区別にみると、117地域のうち74が労働党議員の地元であり、保守党のそれはたった20しかない。あきらかに労働党へのエコひいきだということですね。

The Spectatorのquango撲滅論は、単に労働党幹部の天下りということではなく、quangoが政府による政策決定に極めて大きな影響力を持っており、「影の権力」「国家の中の国家(a state within a state)になっているということを問題にしています。さらに税金の無駄遣いということもある。Economic Research Councilというthink-tankのDan Lewisという人は、最も役に立たない(most useless)quangoの例として

British Potato Council(英国ポテト協議会)
Milk Development Council(牛乳販売協議会)
Energy Savings Trust(省エネ財団)
Agricultural Wages Committees(農業賃金委員会)

などをやり玉にあげている。British Potato Council(ポテト協議会)という組織は職員60人、1997年(労働党政権発足の年)、海外のじゃがいも市場の調査(to research and promote overseas potato markets)を目的に設立された。Energy Savings Trust(省エネ財団)という組織の年間予算は8000万ポンドですが、そんなお金を使うのなら、英国内800万家庭のボイラー設備の充実に使った方が効果的。農業従事者の賃金基準を定めるAgricultural Wages Committees(農業賃金委員会)などは、ほとんどの移民労働者が低賃金(1時間1ポンド)で働こうとしている時代に全くそぐわない・・・と批判しています。

quango文化は「改革」などできない。潰すしかないのだ。
the quango culture cannot be reformed and they must be destroyed.

というのがThe Spectatorの言い分です。

The Spectatorquango文化と労働党を結びつけて批判しているけれど、Jeremy Blackという歴史家の本によると、もともとquangoが増えたのはサッチャー、メージャーの保守党政権下であると指摘している。英国にCentral Office of Informationという組織があります。私の個人的な記憶によると、この組織はもともと英国外務省の中の海外広報担当セクションであったのですが、サッチャー政権が誕生したときにagencyという性格の組織になった。

▼何が変わったのかというと、民間企業に対しても広報サービスを提供してお金をもうけてもいいということになった。民営化ですね。ただ
agencyになってからも、現実には政府の広報が中心で、普通のPR会社になったわけではなかった。運営資金のほとんどが相変わらず税金によっていたわけです。

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5)鳩山論文の波紋:英国記者の見方

鳩山由紀夫さんが日本の雑誌VOICEの9月号に寄稿したエッセイがNew York Timesのサイトに抜粋掲載されて、それが反米的だというのでアメリカの反発を買っていると話題になりましたね。このことについて英国のThe TimesRichard Lloyd Parryという東京特派員が、9月2日付のサイトでYukio Hatoyama can't afford to distance Japan from the US(鳩山由紀夫氏は日本をアメリカから距離を置くような余裕はない)という記事を掲載しています。

この特派員はNew York Timesへの鳩山さんの寄稿文について

鳩山氏は、戦後日本の成功の基礎となったと多くの人々が考えている二つの体制に対して疑問を表明している。すなわち市場経済をベースにした地球規模の資本主義が一つであり、もう一つは日米同盟である。
Mr Hatoyama expresses doubts about two institutions that many people would regard as the foundation of Japan’s post-war success: market-based global capitalism and the US-Japan alliance.

とまとめています。ただLloyd Parry特派員によると、鳩山氏はアメリカから重大な距離を置くような立場にないし、日本人の大多数もそれを望んでいない。また中国が軍事力を増強し、北朝鮮が核実験を強行しているような状況下において、

アジアとの緊密化という目標そのものがいかに価値のあるものだとしても、それがアメリカの保護にとって代わるものだと考えること自体がバカげているし、そのことは鳩山氏も分かっている。
However worthy the goal of closer engagement with Asia, the notion that these could ever be substituted for US protection is absurd ? as Mr Hatoyama knows.

というわけで、米軍基地の問題などで党内の左派の声を聞く必要があるかもしれないけれど、何せこれだけの大勝をしてしまったのだから、基地問題も棚上げする余裕があるはず・・・つまり大したこっちゃないということですね。

で、Richard Lloyd Parryの結論は

鳩山さんは、反米主義者というよりも単にメディアの使い方に慣れていないだけという風にもみえる。尤もいまの世の中そのこと(メディアの使い方)も重大なことなのかもしれないが・・・。
Rather than being anti-American, it appears that Mr Hatoyama is just an inept manipulator of the media ? although in today’s world, that may be just a serious.

となっているのですが、そもそもVOICEに載せたエッセイNew York Timesのサイトに載った記事はどんなものだったのか?気になってネットを調べてみたら、VOICEの分は和英両方とも鳩山さんのサイトに載っており、New York TimesのエッセイA New Path for Japanも読むことができました。

A New Path for Japanの書き出しは次のようになっています。

In the post-Cold War period, Japan has been continually buffeted by the winds of market fundamentalism in a U.S.-led movement that is more usually called globalization. In the fundamentalist pursuit of capitalism people are treated not as an end but as a means. Consequently, human dignity is lost.
冷戦後の日本は、アメリカ発のグローバリズムという名の市場原理主義に翻弄されつづけた。至上の価値であるはずの「自由」、その「自由の経済的形式」である資本主義が原理的に追求されていくとき、人間は目的ではなく手段におとしめられ、その尊厳を失う。

この日本語はVOICEに掲載された文章です。私に翻訳の成否をとやかく言う資格も能力もないけれど、日本語にある"至上の価値であるはずの「自由」、その「自由の経済的形式」である"という部分が英語では抜けています。それから「資本主義が原理的に追求・・・」という部分ですが、英語ではIn the fundamentalist pursuit of capitalismとなっている。直訳すると、「資本主義の原理主義者的追求」となる。原理的と原理主義者的・・・これ同じことなのでしょうか?

私、正直言ってNew York Timesの記事の書き出しを読んで多少驚きました。U.S.-led movementによってhuman dignity is lost・・・アメリカが先頭に立って繰り広げた運動によって人間の尊厳が失われたというのですからね。資本主義というものが、人間の尊厳を無視する側面があるのは確かだと思うけれど、アメリカが人間の尊厳をダメにしたと言われると、アメリカ人も不愉快な気分になるかもな、と思ったわけです。

New York TimesのエッセイはVOICEに掲載されたものからの引用なのですが、鳩山さんのサイトに載っている英文版はA4で6枚。New York Timesのそれは2枚。抜粋も抜粋、ほんの一部なのですね。VOICEのそれは『私の政治哲学』というタイトルで、最初から最後まで「友愛」の哲学について説明しています。ほとんど学者の書いた論文という感じです。

▼これ以上説明するのは止めにしますが、The Timesの東京特派員が言うように、この件に限ってだけいうと鳩山さんはメディアの扱いに慣れていないのかもしれないということは言えるように思います。そもそも6枚もの原稿を2枚にまで削られたら、筆者のメッセージなんてほとんど伝わりませんよね。このエッセイは、いわゆる「友愛」(fraternity)の考え方を語ったものであって、外交政策を語ったものではない。にもかかわらずNew York Timesに掲載を許すというのは普通はしないんでない?

▼ただ、これだけは言っておきたいのですが、言いたいことをちゃんと言うということ自体は全く正しい。日米関係に悪影響を与えるから「慎重にやれ」というのは、結局何も言うなというのと同じこと。そういうことが多すぎる。意見の違いそのものを悪いことのように言うのはいい加減にしてもらいたい。そのくせ「日本人は国際舞台で発言しなさすぎる」とか「アメリカに対してもちゃんと発言しろ」なんてことを言う。
Go ahead, Hatoyama-san. Do speak your mind!

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6)鳩山民主党への期待

9月3日付のThe Economistが、日本における民主党政権の誕生について特集を組んで報道しています。そのうち社説(leader)にあたる部分の見出しはThe vote that changed Japan(日本を変えた投票)で、イントロは

The electorate has thrown out not just a party but a whole system.
(日本の)選挙民は、一政党のみならず制度全体を放り出してしまった。

となっています。この選挙を通じて起こったのは、単に自民党という政党が追放されたということだけでなく、これまでの日本の戦後政治のやり方(political system)まで拒否されたということです。

The Economistによると、日本ではここ20年ほど深い部分で変化が進行してきており、それが今回表面化したのだということです。進行してきた変化とは、消費者とかNPOのようなグループがアメリカ一辺倒で財界寄りの自民党のpaternalismに対して挑戦状をつきつけてきたのが強力な政治勢力になってしまったのであり、それを可能にしたのが小選挙区制だというわけです。

さらに今回選挙民によって追放されてしまったa whole system(制度全体)とは、日本の経済成長を可能した政官財の鉄のトライアングルのことで、そのおかげで大企業は簡単に資金調達ができ、建設業者はもうかり、農村は交付金でうるおい、大衆は雇用を得ることができた。が、その一方で汚職が起こり国民の税金が無駄遣いされ、1980年代に経済成長が下落に転じたときも柔軟に対応することができないシステムになっていた。

民主党についていうと、野党であったころはどちらかというと北欧的な(Nordic)社会の建設を訴えていて自由な市場を基盤にする小泉改革には反対であったし、日本人もそのような社会を失うことを望んでいなかった。

民主党にとって市場経済は、なんとか受け容れられるものかもしれないが、アメリカ型の市場中心社会(その定義はいろいろあるだろうが)は受け容れられるものではない。
A market economy might be just about acceptable to the party, but an American market society, however defined, is not.

このように書くと欧米にとっては心配かもしれないが、実際に政権についた民主党はそれほど心配な存在ではないかもしれない、とThe Economistは言っています。すでにアメリカの神経を逆なでしないように外交面での言葉遣いを改めたりしている。さらに自民党が生産者の利益を優先したのに対して民主党は消費者優先の政策を推進すると言っているし、経済も輸出志向から内需志向へと転換するとも言っている。

The Economistは、これらすべては鳩山・民主党が行おうとしている政府というものの再設計(redesigning government)がうまくいくかどうかにかかっていると言います。政党よりも内閣が力を持つ政府ということです。この点自民党政府のように、まずは党と戦わなければならないというハンディがない分だけ民主党には有利なはずだというわけです。(この記事が書かれた時点では、小沢さんが幹事長になることは分かっていない)

鳩山さんにとって最大の試金石は官僚たちをどのように扱うかということであり、健全な政策を遂行しようとすれば官僚たちの能力を十分に活用しなければならないわけで、

鳩山氏が官僚たちにやる気を起こさせると同時に彼らが(民主党の)方針から外れた場合には罰を与えなければならない。これがうまくいくかどうかが民主党が成功するか壊れるかの境目になる。
How Mr Hatoyama both motivates bureaucrats and punishes them when they step out of line will make or break the DPJ.

で、The Economistの結論は

日本はこれまでにも改革のチャンスがあったのにそれをやらなかった。鳩山氏も後戻りは望んでいない。彼は、日本の統治についての革命を起こし、経済を再活性化するチャンスに恵まれていると言える。そして統治革命に必要なのは判断力であり、経済再生に必要なのは想像力なのだ。両方ともに多くを期待したいものだ。
Japan has had other opportunities for reform, and has failed to take them. Mr Hatoyama, with no favours to return, has a chance both to revolutionise how Japan is governed and to revitalise the economy. He will need judgment for the first, and imagination for the second. Wish him plenty of both.

となっている。

▼どう見ても鳩山・民主党に期待していますよね。The Economistは小泉改革を大いに支持していた雑誌です。この記事を読んでいると、小泉改革と鳩山改革に共通点を見出している思われますね。それは政財官によるpaternalismとの決別(だと思います)。日本についてThe Economistのような欧米のメディアが最も理解に苦しんできたのがこの部分だと思います。

▼過去約40年、面白い時代を観ながら生きてきたむささびも同じように感じます。過去50年の日本をひとことでいうならば「寄らば大樹の陰」「事なかれ主義」「出る釘は打たれる」主義が支配した時代であるということです。いずれも貧しい社会ならではの発想ですね。個人の自由なんてよそ様のことという姿勢です。

▼実にいろいろな人々がいろいろな考えがあって民主党に入れたわけですが、「オレたちの生活さえ良くなればいい」という感覚だけで民主党の良し悪しを決めようとすると、いずれは「自民党の先生方の方が頼りになったよね」ということになると思います。

ところでFinancial Timesも社説で鳩山・民主党についてSun rises on a new era for Japan(日本の新時代に日が昇る)という社説を書いています。原文はここに出ていますが、最後の方で次のように書いているのが目立ちました。

日本はアメリカに対して、何ができて何ができないのかはっきりと言わなければならない。インド洋における給油のような軍事上のサポートもそうだし、日本が強い環境技術の移転もそうである。
Japan must tell the US clearly what it can and cannot do, both in terms of military support, say in refuelling ships in the Indian Ocean, and in other areas, such as transfer of environmental technology, where it has much to offer.

これまで自民党の「アメリカ一辺倒」を批判していたメディアが、鳩山さんがちょっと変わったことを言ったとたんに「アメリカが怒っとるぞ!」と言う。どうすりゃいいのさ!?

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7)どうでも英和辞書
A~Zの総合索引はこちら

intelligence賢さ

アゼルバイジャンの諺に"Intelligence is in the head, not in the age"というのがあるそうです。"賢さはアタマにあるのであって、年齢にあるのではない"つまり「年だけ食ったって利口ってわけじゃない」ということですな。自民党の先生方に聞かせたい!?


motorway高速道路

英国では高速道路のことをmotorwayというのが普通ですよね。アメリカではfreeway。英国の言い方は「自動車専用道路」ということで分かりやすい。freewayfreeって何ですか?ご存じの方、おせえてくらはい。ネット検索しても出ていなかった。先日ラジオを聴いていたら、freeはタダという意味だと言う人がいました。つまりfreewayは「タダ道路」ってわけ。私は「交通信号がない(free from traffic lights)」という意味かと思っていたのですが、それもヘンかな?


wet behind the earsnaiveであること

カタカナで「ナイーブ」というと、純粋とか少年っぽいとかいうことで、必ずしもネガティぶな意味は持ちませんよね。私の知る限りにおいてnaiveは「未経験」「甘い」という意味に使われることが多いと思う。wet behind the earsnaiveという意味らしい。「らしい」というのは、この表現は最近まで見たことなかったという意味です。

選挙で大勝した鳩山・民主党のこれからについて、最近のThe Economistが、最も難しいけれど大切なことは官僚とどう付き合っていくのかであるというわけで、

it needs to harness bureaucrats’ talents if it is to formulate and carry out sound policy, particularly since so many new DPJ politicians are wet behind the ears.
民主党が健全な政策を形成し実施していくために必要なのは、官僚たちの能力を引き出すということだ。特に極めて多くの民主党の新人議員たちは経験が不足しているのだから。

と言っております。wet behind the earsは、生まれたばかりの赤ん坊が濡れているということから来た表現だそうで、アメリカで生まれたんですね。米語には、もう一つDry back of the ears(耳の後ろを乾かしてこい)というのもある。これは100年ほど前に使われ始めた表現らしい。こんな言い回しをするのはThe Economistらしいスノビズムかもな。

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8)むささびの鳴き声

▼小沢一郎さんが民主党の幹事長に就任することが明らかになった翌日(9月5日)の新聞の社説を私の独断で抜粋すると次のようになります。

朝日新聞 「二重権力」になるのではないか。「闇将軍」にならないか。そんな懸念が党内外で語られてきた小沢氏の起用<中略>鳩山氏がいくら「心配はない」と打ち消しても、それが本当かどうかは、やはり小沢氏自身の行動で示してもらわねばならない。
読売新聞 鳩山代表は、記者団に「権力の二重構造にはならない」と説明している。果たしてそうか。
毎日新聞 さっそく「実際には小沢氏が支配する二重権力構造になる」と懸念する声が出ている。だが、そうであってはならないのは鳩山氏も十分承知だろう。
産経新聞 内政外交の懸案にどう対応するかを明確に語り、鳩山氏と調整する必要がある。それを透明化しない限り、「二重構造」という批判はつきまとう。
日本経済新聞 小沢氏が院政を敷き、政策決定過程が不透明になれば、細川政権の二の舞いである。<中略>党側との二重権力が生じれば公約に反し、行政システムの改革も大きく後退する。
東京新聞 (小沢氏の幹事長就任は)来年の参院選勝利を目指した人選だが、鳩山由紀夫次期首相のリーダーシップを弱めることにならないか。二重権力構造に陥らぬよう求めたい。
北海道新聞 小沢氏は新生党の代表幹事として8党会派の代表者会議を仕切り、政権を動かした。その手法が「二重権力」との批判を浴びた。

▼なにがどうなっているのか知らないけれど、よくぞこれだけ同じようなことを言えるものだと思いませんか?新聞社の人たちが集まってミーティングを開いて意思統一でもしたかのように同じことを言っている。気持ち悪い。もちろん「たまたま」こうなっただけです。だからなお気持ち悪い。

▼もう一つ。民主党の大勝を伝える中で出てきたのが「小沢チルドレン」という言い方です。立候補した人々にはそれぞれの想いがあるはずです。その点は「小泉チルドレン」も同じです。なのにひとまとめに「チルドレン」と呼ぶ。このことについて、小沢さんが「マスコミはいつもそのような取り上げ方しかしない。候補者に失礼だ」と言っていたように思います。小沢さんの言うとおりです。

▼テレビの選挙速報を見ていたら、民主党の若い当選議員について「この人たちは小沢チルドレンと言われています」と真顔で解説するキャスターがいた。「言われている」のではなくて、メディアが「言っている」のです。

▼新聞の社説を書いたり、テレビのニュースを担当するのは、生易しい学問でできるこっちゃないと思うけれど、この画一性・全体主義性は何なのでしょうか?一人々々を異なった個人として見るのではなく、勝手にレッテルを貼ってしまう。

▼知り合いのジャーナリストに「メディアはどうしてかくも常識的なのか」と文句を言ったら「メディアが非常識では困るよ」と言っていた。私のいう「常識的」は「ありきたり」という意味であり、多数派という意味です。みんな同じでないと落ち着かないという哀しい習性のことです。

The minority is sometimes right; the majority always wrong(少数派もたまには正しいことがあるが、多数派は常に間違っている)というのは、アイルランドの劇作家、George Bernard Shawの言葉です。「小沢・二重権力・チルドレン」という多数派的画一性では、このような発想は出てこないでしょうね。

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