musasabi journal

2003 2004 2005 2006 2007 2008
2009 2010 2011 2012 2013 2014
 2015 2016 2017  2018 2019  2020 
2021 2022  2023  

front cover articles UK Finland Green Alliance
美耶子の言い分 美耶子のK9研究 前澤猛句集
 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
543号 2023/12/17

本誌の表紙を飾る写真を探しながら思うのですが、ヨーロッパの都会というのはどこも非常に似通っている。中心になる通りがあって、教会風の建物があって…。この写真はデンマークの首都、コペンハーゲンのものです。「住宅」もここまでくると壮観ですね。

目次

1)スライドショー:パレスチナのこどもたちは
2)英語しかできない?英国人
3)国歌の話をしよう
4)再掲載:『美しい国へ』を読む前に・・・
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
7)俳句

1)スライドショー: パレスチナの子どもたちは

今回はアレッサンドラ・サンギネッティ(Alessandra Sanguinetti)というアメリカの女性写真家の作品を紹介します。1968年生まれというから、今年で55才になる。プロの写真家が作る国際集団であるマグナムの会員です。今回紹介するのは、彼女が2003年ごろに滞在したパレスチナのガザで暮らす子どもたちの様子を写した作品です。今からちょうど20年前のガザということになるのですが、レンズを通してみる子どもたちの眼つきや表情には感銘を覚えます。

いわゆる「パレスチナ問題」は別の言い方をすると「アラブ人とユダヤ人の対立」のことであり、その原因は、アラブ人の住むパレスチナにユダヤ人国家イスラエルが建国されたことにあるとする説もある。1993年にはパレスチナによる暫定自治に関する原則宣言(オスロ合意)が署名され、サンギネッティが取材した2003年といえば米・露・EU・国連のイニシアティブによるパレスチナ自治政府と中東和平プロセスが始まった(とされた)ときだった。が、翌2004年にはパレスチナ解放戦線(PLO)のアラファト議長が逝去、アッバス議長に就任している。

back to top

2)英語しかできない?英国人

下のグラフはStatistaというサイトに掲載されていたものです。英国(UK)を先頭にヨーロッパの国の名前が並んでおり、一番下にスウェーデンがきています。トップの英国には "65.4" という数字が示され、最下位のスウェーデンには "3.4" という数字が示されている。これ、何のグラフだか分かります?答えは
  • 自国の言語のみに頼っている人間の割合:Where are people relying on their mother tongue alone?
です。
自国の言語のみに頼っている人間の割合

Statista
それぞれの国で25~64才を対象にアンケートを実施した結果、「自分の国の言葉しか使えない」と答えた人の割合がこれです。英国人の65.4%、スウェーデン人の3.4%がそのように答えたというわけ。スウェーデン、ノルウェー、デンマークなどは英国に比べると言語の国際化が進んでいるのですね。それからドイツも。これらの国々では自国語以外では英語を理解する人間が多いということですかね。

Statistaとは別に、12月4日付のBBCのサイトには、文化・教育振興機関であるブリティッシュ・カウンシルが約2000人の中高生を対象に行ったアンケート調査が紹介されているのですが、それによると、英国の中高校生の大多数が「外国語を習っても将来の役には立たない:Pupils say languages not key to careers」と考えているとのことであります。

ご存じの方も多いと思うけれど、英国では、義務教育終了の印として16才になるとGCSE(General Certificate of Secondary Education)と呼ばれる全国統一試験を受けなければならない。

ただブリティッシュ・カウンシルが、全国36の中学校の生徒2,083人を対象に行ったアンケート調査では、GCSEの選択科目として外国語をとると答えた人間は20%に過ぎなかったのだそうです。

ちょっと興味深いのは、政府(教育省)が両親を相手に行った同じようなアンケート調査では、73%の親が「子どもは小学校時代から外国語を学ぶべき(children should have the opportunity to learn a language at primary school)」と考えており、親世代の46%が「外国を学ぶことは楽しい(they loved or liked learning languages」と考えている。

ただGCSEをとる立場にある中学・高校生となると、4人に一人が外国語をGCSEの科目としてとる気はないだけでなく、何と10人中ほぼ9人が、将来の自分が外国語を必要とするような職業にはつかない(nine in 10 said they did not think it was very likely that languages would be necessary for their careers after school)と考えているという結果も出ている。
イングランドでは2004年に義務教育科目が変更されて14才を過ぎると外国語は義務科目ではなくなったのですが、それ以後フランス語をとる学生は半分に減ってしまった。この傾向は今でも続いているようで、GCSEでフランス語をとる学生の数は2015年には14万7000人だったのに昨年(2022年)には12万3000人にまで落ち込んでいる。
▼北欧諸国が「外国語」に対する拒否反応が小さいのですね。何故なのでしょうか?それからルーマニアやハンガリーの人たちも自国語以外はアウトという傾向が強い…不思議ですね。
 
back to top 

3)国歌の話をしよう
 

12月11日付のthe Guardian のオピニオンの欄に、むささびも「えぇ!?」と思うような見出しの意見が出ていました。
  • The British national anthem is ponderous rubbish – if a university wants to ditch it, it’s doing us all a favour 英国の国歌は重厚なるゴミみたいなものだ。どこかの大学が捨ててしまいたいというのなら、我々(英国人)にとっては結構なハナシではないか。
というわけです。これを書いたのはティム・ダウリング(Tim Dowling)という同紙のコラムニスト(アメリカ人・60才)なのですが、音楽にはかなりうるさいらしい。


ここをクリックするとメロディも聴けます。
ことの起こりは、西イングランドの名門大学(とされる)ブリストル大学が、卒業式のような公式行事に際しても国歌は演奏しないことにしたと発表したことにある。唯一の例外は王室のメンバーが大学を訪問するときとする、と。

大学のこの決定には、メディアからの批判がいろいろと掲載されている。例えばThe Sunは「この大学のボスたちは英国文化への憎しみを植え付け、インテリ人間のご機嫌をとっている(hating British culture and pandering to wokes)」と非難しているし、スナク政権のダウデン副首相は自らのSNSで
  • If Bristol University are too ashamed of their British heritage, presumably they no longer want to be subsidised by [the] British taxpayer? ブリストル大学が英国の文化と伝統を恥ずかしいと思うのなら、大学の運営に税金を使うことも止めたいということなのか?
と書いたりしている。

ちょっと不思議な気がするのは、主要メディアはどれもこの件を(それほど派手にではないけれど)報道しているのに、BBCのサイトだけは一切報道していなかったということです。もちろんむささびの見過ごしかもしれないけれど、同じようなことが日本で起こった場合、NHKがこれを無視するなどということがあるんだろうか?

ティム・ダウリングの記事によると、大学側は卒業式で国歌を演奏しないということは、2020年に決められたことであり「卒業式のやり方の詳細をちょっと変えただけ」(routinely updates aspects of its graduation ceremonies)で、大したことではないという趣旨のコメントを発表しています。
 
▼英国国歌のメロディーはここをクリックすると聴くことができます。全く知らなかったのですが、この国歌はリヒテンシュタインという国の国歌とメロディーが全く同じなのですね!ここをクリックするとリヒテンシュタインの国歌(メロディのみ)を聴くことができます。リヒテンシュタインは周囲をフランス、ドイツ、スイス、オーストリアなどに囲まれた西ヨーロッパのミニ国家(人口は約4万人)。

▼この国歌が聴けるYoutubeの動画には「リヒテンシュタインとイングランドのサッカーの試合を見てみたい」というコメントがついていた。サッカーの国際試合の場合、セレモニーの部分でプレーする国の国歌が流れるけれど、リヒテンシュタインとイングランドの試合の場合は同じメロディを2回流すのですかね?どうでもいいか、そんなこと、失礼しました…。
 
back to top

4)再掲載: 『美しい国へ』を読む前に・・・

安倍晋三首相が殺されたのが2022年7月、あれから1年半が経つのですね。長いのか短いのか、むささびにはいまいちピンとこない。むささびの感覚はともかくとして、生前の彼が書いた『美しい国へ』という本はかなり話題になっていましたよね。これもむささびは読んだことがないのだから、それについてしっかり語ることはできない。なのに、ですよ、安倍さんが亡くなる17年前の2006年9月に発行した「むささびジャーナル93号」でこの本のことについて書かれた新聞記事のことは書いている。つまりむささびとしても本当は安倍さんやこの本については関心があったということなのですかね。

再掲載:『美しい国へ』を読む前に

むささびジャーナル93号
2006年9月17日
安倍晋三さんの書いた『美しい国へ』という本が売れているんだそうですね。私はまだ読んでいません。他に読むべき本があって、なかなか手が回らない。で、朝日新聞の2006年9月5日号の15ページに根本清樹という人(朝日新聞編集委員のようです)の書いた「安倍公約vs小沢主義」というエッセイが載っていて、その中で、安倍さんのこの本に触れています。それによると、安倍さんは戦中の特攻隊に触れて、次のように書いているそうであります。
  • 「自分のいのちは大切なものである。しかし、ときにはそれをなげうっても守るべき価値が存在するのだ、ということを考えたことがあるだろうか」

根本清樹さん
そして根本さんは「安倍氏の要求は格段に重く、大きく、そして気高い」と書いています。根本さんによると、安倍さんは「損得を超えた価値のために役に立つ」ことの大切さを訴えているのだそうですが、根本さん自身の意見として次のように書かれています。
  • 「政治の現実から損得ずくをなくすことなどできるだろうか。年金の問題にせよ、税制にせよ、この世では無数の利害がぶつかり合っている。<中略>普通の人びとの暮らしには死活的な問題がたくさんある。私たちはそれほど気高くないし、なる必要もない」
むささびはこのエッセイを読んで、安倍さんの「特攻隊賛美論」はもちろんのことですが、根本清樹という人の姿勢にも疑問を感じてしまった。安倍さんの本を読んでいないので、なんとも言えないけれど、根本さんのエッセイで引用された部分だけからしても、安倍さんが言っているのは「人間、たまには損得を超えて(つまり無私の精神で)行動することもある」ってことだけなのに、根本さんは、恰も安倍さんが「政治は損得を超越しなければならない」と主張しているかのように言っている。こういうのを「揚げ足取り」というのではないか。フェアでない。

また根本さんのエッセイは「私たちはそれほど気高くないし、なる必要もない」という文で終わっています。つまり「人間、損得を超えていのちを投げ出すほどには気高いものではないし、なる必要もない」と言いたいのですよね、根本さんは。確か韓国の青年が、東京の電車の駅で転落した人を自ら飛び込んで救って、自分は死んでしまった、という事件はなかったでしたっけ?あの行為は「気高い」行為なのでしょうか?


私の想像にすぎないので、間違っていたら根本さんにはゴメンネと言うしかないけれど、彼が「気高くなる必要もない」と言うのは、(特攻隊のように)お上に言われて、「お国(自分が信じてもいないもの)のために命を投げ出す必要がない」ってことなんじゃありませんか?だったらそう言えばいいのに・・・。私に分からないのは、何故、この筆者が「安倍氏の要求は格段に重く、大きく、そして気高い」などと書くのかってことなのでありますよ。安倍さんの要求のどこが「気高い」んです?アホらしいだけのことなんじゃありませんか?

もう一度言っておきますが、人間、損得を大切に考えるのは当り前ですが、場合によっては、いわゆる「損得」を超えて行動をとるときだってあるんです。ただそれは、国(というよりも、そのときの為政者が決めたこと)のために(自分が納得もしていないのに)命を捧げるというようなことではないってことなんです。そのようなことは気高くもなんともない。ただ悲惨なだけです。根本さんのいわゆる「普通の人びと」がいつもいつも損得だけを考えて暮らしているわけではないってことなんですよ。


小沢一郎さん

根本さんは、自分を「普通の人びと」の代表みたいに「私たち」などという言葉を使うけれど、それも止めて欲しい。どうせ言うなら「私」とだけ言って欲しい。違う考えの人だっているんだからさ。これ、決して揚げ足取りで言っているのではないのであります。

このエッセイは、タイトルにもあるとおり、民主党の小沢一郎さんと安倍さんの考え方の違いのようなものについて語っており、上の安部さんの「自分のいのち云々」が精神論だとすると、小沢一郎さんは「政治は精神論ではない」ということで「愛国心の押し付け」を否定しているのだそうです。

プラットフォームから転落した人を見て、線路に飛び降りて助けようとして、自分が死んでしまった韓国の人は、死ぬつもりで飛び込んだわけではない。でも特攻隊は死ぬことが分かっている。安部さんという人は「それ(自分の命)をなげうっても守るべき価値が存在する」などと言っております。クダクダ言いませんが、なんなんです、その「価値」っつうのは!?

▼安倍さんは1954年生まれだから、むささびより13才若い。太平洋戦争における「特攻隊」が行動したのは、むささびが生まれたばかりの1才から4才くらいまでの頃であり、何も知らないのと同じです。安倍さんは?特攻隊の「活躍」が空しかったことがはっきりした時代から10年経っても未だ生まれてもいない。安倍さんには「世の中には自分のいのちをなげうっても守るべき価値が存在する」などということを口にする年齢的な資格がないということです。

back to top

5)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら
rizz: カリスマ

"rizz"という言葉はどの英語辞書にも出ていない。けれど英語辞書の代表格ともいえるオックスフォード英語辞書(Oxford English Dictionary: OED)の”Word of the Year 2023”に選ばれました。日本でいう「流行語大賞」みたいなものですが、"rizz=カリスマ"には説明が必要です。「カリスマ」の綴りは "charisma" ですよね。下線部を読むと"rizz"になる。

BBCのサイトによると、"rizz"はインターネットの世界で使われているスラングのようなもので、若い人の間で使われている言葉で、意味としては「人間的な魅力(charm)ということだそうです。「あの人はいいひと」というのを "He/she is a good guy/girl" などではなく"He/she has rizz" というのがいまどきなのだそうです。SNSの世界ではもっぱらrizzが使われている。

OEDの出版元であるOxford University Press (OUP) によると"rizz"以外にも候補語はあったのですが、32,000票にのぼる一般からの投票と辞書作りの専門家らによる投票の結果これに決まったのだとか。

"rizz"はあくまでもOEDの世界の流行語であり、別の辞書にもそれぞれの "Word of the Year" があります。例えばCambridge Dictionaryは"hallucinate", Collinsは"AI", Merriam-Websterは "authentic" というぐあいです。
back to top

6)むささびの鳴き声
▼3つ目に掲載した「国歌」についてもう少しだけ話をさせてください。英国国歌の歌詞をご存じの方は多いと思います。「国歌」は英語で "National Anthem" というけれど、日常の会話では(英国の国歌については)"God Save the King"で通じてしまう。日本人が「君が代」と言うのと同じです。っで、英国国歌の歌詞(一番)は次のとおりです。
  • God save our gracious King,
    Long live our noble King,
    God save the King:
    Send him victorious,
    Happy and glorious,
    Long to reign over us:
    God save the King.
    神よ我らが慈悲深
    国王を守りたまえ
    我等が高貴なる国王の永らえんことを
    神よ我らが国王を守りたまえ
    勝利、幸福そして栄光を捧げよ
    御代の永らえんことを
    神よ我らが国王を守りたまえ
▼英国国歌の場合、三番まであるけれど、二番の歌詞は次のようになっています。
  • O Lord our God arise,
    Scatter his enemies,
    And make them fall
    :
    Confound their politics,
    Frustrate their knavish tricks,
    On Thee our hopes we fix:
    God save us all.
    おお主よ、我等が神は立ち上がり
    敵を蹴散らし、潰走させ
    姑息な罠をも打ち破りたもうた
    我等の望みは汝にあり
    神よ我らを守りたまえ
▼何だか怖ろしい歌詞です。"Scatter his enemies, And make them fall" というのだから…。暴力はいけません、暴力は…!
▼では次の歌詞はどの国の国歌のものでしょうか?
  • May your reign
    Continue for a thousand, eight thousand generations,
    Until the tiny pebbles
    Grow into massive boulders
    Lush with moss
▼これを原語で歌うと次のようになる。
  • 君が代は
    千代に八千代に

    細石の
    巌と為りて
    苔の生すまで
▼この英文はウィキペディアに出ていたものなのですが、原文の最初の2行(君が代は 千代に八千代に)を "May your reign Continue for a thousand, eight thousand generations" と英訳するというのはすごい英語力ですね。恐れ入りました!正直いうと、むささびには「千代に八千代に」という日本語自体がよく分からない!

▼長々・ダラダラ・失礼しました。次号は大みそかが発行日です。年寄りのなぐさみ、お許しを!

back to top 
 
←前の号 次の号→




前澤猛句集へ