musasabi journal

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489号 2021/11/21
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BREXIT 美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書

コロナで明けてコロナで暮れるのかと思ったら、やたらと感染者数が少なくなって、何だか訳の分からないうちに2021年が終わりますね。それでもこれまでは、一応予定通りに「むささび」を出すことが出来ました。ちょっと変わった上の写真ですが、場所はチェコの首都・プラハらしいのですが、いくら探しても誰が作ったストリートアートなのか分かりませんでした。メガネのそばに立っている人物が制作者ですかね。でもたった一本の街灯を利用してうまく作ったものだと思いませんか?

目次

1)スライドショー:外国の写真家が写した日本
2)先進国人たちの政治意識
3)ベラルーシで起こっていること
4)SNS:楽しい、でも信用はしない
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)MJスライドショー:外国の写真家が写した日本

写真家集団のMagnumのサイトには、世界中の実にいろいろな写真家によるいろいろな作品が掲載されています。これら一流の写真家は、日本や日本人のどのような側面を撮りたがるのだろう?というわけで "Japan" をキーワードにして検索してみました。むささびが意図したわけではないのですが、かなりの数の作品が1950~70年代の日本を写したものでした。いわゆる「昭和の日本」ですが、国際的なカメラマンにはこの頃の日本が関心の的だったということですかね。


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2)先進国人たちの政治意識

むささびジャーナル487号で『国際版・職業別信用度』という記事を載せました。英国の世論調査機関が行った国際的なアンケートを紹介するもので、世界28か国の人びとの職業観を通してそれぞれの価値観のようなものを見るものだった。一方、10月21日付のアメリカの調査機関、ピュー・リサーチ(Pew Research)のサイトが掲載したのは、先進国のなかの17か国における人びとの政治・社会意識を調査したものです。
というのが結論なのですが、調査結果を表す数字を見ると、いわゆる「先進国」の国民の間でも「政治」とか「民主主義」とか呼ばれるものに対する意識が微妙に違っているのが面白い。

自分たちの国の政治は
大幅もしくは徹底的な変革が必要だと考える国民の割合

political system needs major changes or needs to be completely reformed

政治への不信度

むささびジャーナル487号で紹介した「職業別信用度」において最低の職業は「政治家」、下から二番目が「大臣」ということで各国共通だった。ピュー・リサーチの調査では、「あなたはこの国の政治は徹底的な改革(complete reform)を必要とすると思うか?」と聞いているのですが、17か国を平均すると56%の人が「必要」と答えている。但しこれはあくまでも「平均」で、国別に見るとかなりの差が出てくる。8割以上の人がそのように感じている国は、アメリカ、イタリア、スペイン、ギリシャ、韓国の5か国だけです。そのように感じている人が5割を切るのはカナダ、オランダ、スウェーデン、オーストラリア、シンガポール、ニュージーランドの6か国で、最も低いニュージーランドの場合、「徹底的な政治改革」を望む人は24%しかいない。日本は66%だから、かなり高い方ではある(英国は52%)。

ただ、この数字が高ければ「非民主的」な国なのか?というと、必ずしもそうは言えないような気がします。例えばアメリカ人や韓国人の8割以上が「徹底的な改革」を望んでおり、日本よりもほぼ20%も高いけれど、だからと言って彼らの方が民主的な制度が充実していないということにはならないよね。この調査の場合、中国は調査対象に入っておらず、台湾が調査されているのですが、あの国でも「徹底的改革」を望む人は5割を超えているのですね。


民主主義は機能しているか?

「政治改革の必要性」以外に、政治をテーマとするアンケート調査に、これらの17か国において「民主主義がどの程度機能しているのか」(how well democracy is working)というのがあります。自国の民主主義に対する満足度ですね。17か国の平均は「満足」が57%、「不満」が41%で、どちらかというと民主主義が機能していると考えている人が多いのですね。満足のトップ5はシンガポール、スウェーデン、ニュージーランド、カナダ、ドイツが来ている。で「不満」のトップ5は、ギリシャ、イタリア、スペインの南欧勢が来て、そのすぐ後に日本とアメリカが来ている。韓国について見ると、「不満」が46%なのに対して、「満足」が53%とこれを上回っている。日本の「満足38% vs 不満60%」とはちょっと違う。これだけ見ると、韓国人より日本人の方が政治や民主主義に対する欲求不満が高いということになる。英国の場合も6:4で「満足」とする意見が多い。

民主主義はどの程度機能しているのか?
How well democracy is working

▼非常に正直言って、韓国の人たちのアタマの中がいまいち想像できない。政治家に対する不満は日本人以上に激しいようなのですが、民主主義の定着度については明らかに日本人以上に満足度が高い。日本のメディアを通じて伝えられる彼らの社会意識は、1960~70年代の日本を想わせるラディカルな感じがするし。普通の韓国人に「日本人・中国人・北朝鮮人の中で一番嫌いなのはどれ?」と尋ねたら何と答えるのでしょうか?質問自体がアホらしいか。取り下げます。

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3)ベラルーシで起こっていること

11月9日付のThe Economistのサイトに
という見出しの解説記事が出ています。「ポーランドとベラルーシの国境で何が起きているのか?」というわけですが、イントロからして「解説」というより「自説の説明」という感じです。
  • ベラルーシの暴力団のような大統領は、EUを分断させようとして、移民希望者を受け入れている Belarus’s thuggish president is importing would-be migrants to divide the EU
というのですからね。ベラルーシと言えば、ノーベル文学賞を受けたスベトラーナ・アレクシェービッチ(Svetlana Alexievich)という作家の国であり、彼女については過去のむささびジャーナル(330332357464)でもかなり頻繁に取り上げているので、気になってはいるけれど、この話題に絡んで彼女の名前は全く出てこない。どうもよく分からない、というわけで、とりあえずThe Economistの解説記事をそのまま紹介することにします。

ベラルーシはどこにあるのか?


まずベラルーシですが、東をロシア、南をウクライナ、西をポーランドおよびリトアニアのようなバルト3国と国境を接している中欧の国です。人口は約940万。つい最近(11月8日)そのベラルーシとポーランドの国境地帯(Kuznica-Bruzhiという地域)に主として中東からの難民が多数押しかけてEU加盟国であるポーランドへの入国を求めて騒いだことがある。この騒ぎを作り上げたのがベラルーシのアレキサンダー・ルカシェンコ(Alexander Lukashenko)大統領である、というのがEU側の主張するところであるわけです。

The Economistの解説によると
  • この夏、ベラルーシが始めたのは「奇抜な地政学的戦術」だった。つまり中東からのEUへの難民希望者をポーランドとの国境付近に集結させ、EU側へ越境するように仕向けるということだった。 This summer Belarus began experimenting with a novel geopolitical tactic: importing would-be migrants from the Middle East, dumping them at the EU’s borders and urging them to cross.
8月にはイラク航空がイラク国内からベラルーシの首都(ミンスク)への直行便を開始すると発表までしている。EUでの新しい生活を夢見ている中東の人びとのためにベラルーシ政府は中東の都市に自国の出先機関を開設して、EU行き希望者にビザまで発給している。


ベラルーシの首都・ミンスク市内の反政府デモ

ミンスクへ到着した難民たちを待っているのはベラルーシの軍隊で、彼らが難民たちを国境付近まで連れて行く。まずはリトアニアとの国境地帯、次いでラトビアとポーランドというわけですが、この3国は独裁者・ルカシェンコに反対する勢力を受け入れた経歴を有しており、大統領にしてみれば憎んでも余りある存在である、と。EUはこの難民集結計画をやめさせるためにイラク航空に対してミンスクへの直行便計画を取りやめるように説得した。一方、ベラルーシと国境を接する他の国もバリヤーを建設したりして難民の流入を防いでいる。

が、それでも10月には1万7000人の違法難民がベラルーシからポーランド領へ侵入している。中東の難民たちは、いきなりミンスクへ飛ぶのではなく、イスタンブールやドバイ経由のベラルーシ航空を使ってミンスクへ飛ぶようになっている。一昨年の時点では週に17便が飛んでいた。一方、国境地帯ではベラルーシ軍の兵士たちが拳銃を構えている。中には空に向かって発砲したりする者も。

一方、11月20日付のBBCのサイトは、ルカシェンコ大統領との単独インタビューを掲載しています。その中で大統領はベラルーシ軍が移民たちをポーランドへ連れて行くことは充分に可能である(absolutely possible)として、ベラルーシが移民たちを招いたということは否定しており、次のように語っている。
  • 我々はスラブ人だ。我々には心というものがある。ベラルーシ軍は移民たちがドイツへ行こうとしていることを知っている。おそらく何者かがそのように仕向けたのだろう。私はこのことに関わるつもりはない。 We're Slavs. We have hearts. Our troops know the migrants are going to Germany. Maybe someone helped them. I won't even look into this.
また11月18日付のBBCによると、極寒の国境地帯にたむろしていた約3000人の難民たちは、ベラルーシの警備隊によって付近の倉庫のような建物に収容されたのだそうです。


ルカシェンコ大統領

▼英語のサイトに見る限り、あのノーベル賞作家(スベトラーナ・アレクシェービッチ)と今回の難民騒ぎを関連付けるような記事は見つかりませんでした。彼女はルカシェンコ大統領には極めて批判的であることは良く知られており、ひょっとすると何らかの手段で口を閉ざされているのかもしれない。

▼ウィキペディアを読むと、確かにこの地域には古代からスラブ民族が定住していたのだそうです。が、今それを持ち出されても、むささびなどにはよく分からないだけです。

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4)SNS:楽しい、でも信用はしない

国連児童基金(UNICEF)がアメリカの世論調査機関であるギャラップと協力して行ったアンケート調査によると、現代の若者(15〜24才)が世の中の動きを知るために最も頻繁に利用するのはSNSではあるけれど、情報源として最も信用していないのもSNSであるということが明らかになったのだそうです。これは「世界子どもの日」(11月20日)を前に、世界21か国の約2万1000人を2つの年齢群(15〜24才および40才以上)に分けて行った意識調査の結果明らかになったのだそうです。

対照的に40才以上の人間が情報源として頼りにするのはテレビなのですが、この世代もSNSを見る人は2割近くいることはいる。従来型のニュース源であるラジオや新聞は、世代を問わず聴く人も読む人も少ない。ただそれらの機関によって提供される情報に対する信用度となると話は別で、SNSが提供する情報への信頼度が最低なのに対して、いわゆる「メディア」(テレビ・新聞・ラジオ)に対する信頼度は「家族・友人」についで高くなっている。

今日の若者は生まれた時からインターネットが存在する社会で育っており、その意味では「繋がった世界」(connected world)の中で生きているわけですが、それはまた偽情報などが大手を振っている世界でもある…とUNICEFは言っている。

情報源としての利用度・信頼度
利用度  信頼度

▼いわゆるSNSについて、むささびが唯一アカウントを持っているのはFacebookだけ。他の諸々については何も知らないし、殆ど見たこともない。ギャラップの調査に見る限り、SNSによって提供される情報に接することを大いに楽しんでいる半面、これらの情報についてはほぼ全くと言っていいほど真面目には受け取っていないのですよね。はっきり言って、むささびもFacebookを舞台にして展開される情報交流についてはマジメに受け取ることはほとんどない。むしろ気になるのは、SNSの世界では似たような思想や感覚を有している人たちが群れを作って固まっているということはないのか?ということです。
 
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5)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら

phase down:削減

スコットランドのグラスゴーで開かれた国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)はグラスゴー気候条約(Glasgow Climate Pact)という合意文書の締結をもって終わったわけですが、最後までもめたのが石炭火力発電のこれからについてだった。石炭火力は世界の電力部門の排出の72%を占め、温暖化の最大の原因とされており、議長国・英国としても合意文書で「脱石炭」のメッセージを強く訴えるべく、将来はこれを「廃止」(phase out)するという言葉を使っていた。最後の最後になってインドや中国などがこの言葉遣いに反対、廃止ではなくて「削減」(phase down)という言葉が使われることになった。


国連の気候問題の責任者であるパトリシア・エスピノーザは、この文言変更に反対する国々(特に開発途上の島国)の気持ちを代弁して「我々が求めているのは削減ではなくて廃止なのです」(Look, for us, it's not phasing down, it's phasing out)と言っている。

Cambridgeの辞書を引くと、"phase down" も "phase out" も意味としては
  • to remove or stop using something gradually or in stages 何物かを徐々にもしくは段階的に除去もしくは使用停止にすること
と同じ説明になっておりました。国連のエスピノーザさんは、今回の解決について "one of those diplomatic solutions, textual solutions"(例の外交的解決・言葉遣いによる解決にすぎない)と言っているのですが、彼女のコメントの中の "one of those..." の方が明確に否定的です。

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6)むささびの鳴き声
7月30日付の産経新聞のサイトに、鳩山由紀夫元首相が国会内で開かれた米中対立をテーマとするシンポジウムで講演して、尖閣諸島をめぐる日中対立について語ったという記事が出ています。産経によると、鳩山さんは「この問題を中国も日本も棚に上げ、接続水域も含め領海内に日本も中国も入らないことで、一触即発的なことを起こさないのが大事だ」と述べたのだそうです。日本の政治家にしては言うことがまとも、さすが鳩山さん、とむささびは思ったのですが、約一か月後の8月26日付の夕刊フジのzakzakというコラムが
  • あきれ返る鳩山由紀夫元首相の“衝撃的な発言”
▼という見出しの記事を掲載していました。「あきれ返る~」というエッセイを書いたのは岩田温(いわた・あつし)という人で大和大学政治経済学部准教授、政治哲学が専攻らしい。岩田先生によると、尖閣諸島をめぐる情勢は日に日に厳しさを増しており、鳩山さんの言うように「とりあえず棚上げに」などとんでもない話だ、と。先生によると「尖閣棚上げ論」を主張するのは鳩山さんだけではないのですね。1978年、副首相として来日した鄧小平がこれを提唱したことは、記者会見を行った日本記者クラブのサイトにもはっきり出ています。

▼然るに岩田先生によると、尖閣棚上げ論は「中国が実力を蓄えるための時間稼ぎ」にすぎない、なのに「愚かな日本の政治家、マスコミは棚上げ論を『中国四千年の知恵』とばかりに称賛した」というわけです。騙されるのもいい加減にしろってことですかね。軍事大国としての中国は日本にとっての現実的な脅威なのだから「肝心なのは楽観論を語ってみたり、恐れおののくことではない。現実的に中国といかに対峙(たいじ)していくのかという戦略を探ることだ」と主張しているわけです。

▼最近、日本の政治メディアを読んだり、聴いたりしていると「憎たらしい敵国、中国」というニュアンスの声がやたらと大きいのが気になりません?確かに、日本のメディアを通して伝わってくる「中国」の指導者の発言には、あまり愉快でないものが多いけれど、むささびの感覚では、その中国についてキャンキャン吠え立てるスピッツ犬のような日本のメディア人や政治家の方が(彼らが日本人であるだけに)もっと癇に障る。いずれにしても、鳩山由紀夫さんの「尖閣棚上げ」論については(たぶん)次なるむささびでちゃんと取り上げたいと思っています。

▼お元気で!

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