musasabi journal

2003 2004 2005 2006 2007 2008
2009 2010 2011 2012 2013 2014
 2015 2016 2017  2018 2019  2020 
2021          
481号 2021/8/1
home backnumbers uk watch finland watch green alliance
BREXIT 美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書

なんともう8月。信じられない。最近は何だか気候もおかしくなっていますね。などと言いながら、今回もむささびの「道楽」を続けてしまいました。

目次

1)スライドショー:スペインに迷う
2)「大坂なおみが日本を変える」
3)FT紙編集長が語る経済メディアと女性記者
4)どうでも英和辞書
5)むささびの鳴き声


1)スライドショー:スペインに迷う

むささびジャーナル476号・478号につづいて今回もラグナー・B・ヴァルガ(Ragnar B Varga)というノルウェーの写真家の作品を紹介します。476号ではノルウェーのベルゲン478号ではイタリアのベニスを紹介しました。いずれも素晴らしいモノクロ写真だった。今回もモノクロで、タイトルは "Lost in Spain" となっている。このタイトル、どのように和訳すればいいのか…「スペインに迷う」とでもしておきます。

この写真集の舞台がスペインのどこなのかは書かれていない。むささび自身はスペインという国には行ったことがないのですが、この町は何やら古そうなところです。でも特にこれといった特徴があるわけではない。あえて特徴といえば坂道が多い町というところか。

ここに紹介する写真に共通なイメージは「道を歩く独りの人間」です。もちろんこの町だって集団で歩く人たちがいるはずなのですが、ヴァルガが拘ったのは「独り」で「カメラに背を向けている」というアングルです。写っている人間の誰もが、自分が写真を撮られていることを意識していない。ラグナー・B・ヴァルガは写真集について次のように語っています。
  • このシリーズのテーマは人生および「生きている条件」の研究だ。生きているということは、他人と接触・交流するということであるけれど、同時に孤立と独りの時間を体験するということでもある。 The series is a study of life and the human condition. It echoes our own experiences as life is so social and interactive, but at the same time we all have those moments of feeling isolated and alone.
これらの写真を見ていると、自分もスペインの裏道を歩いてみたいという欲求に駆られてしまう。不思議です。

back to top

2)「大坂なおみが日本を変える」

このむささびが出るころ、オリンピックがどのような状況にあるのか見当もつきませんが、7月16日付のBBCのスポーツ欄に五輪に関連する形で
という見出しの記事を載せています。


BBCのいわゆる「大坂なおみが変えつつある日本」というのは、同じテニス・プレーヤーの日比野菜緒(1994年生まれ)が大坂なおみ(1997年生まれ)について語った次のコメントに代表されている(とBBCは言っている)。
  • 正直言って、私らは彼女(大坂)との間に距離を感じます。肉体的にも違うし、育った場所も違う、それほど日本語も上手くないし…純然たる日本人のケイ(錦織圭のこと)とは違います。 To be honest, we feel a bit of distance from her because she is so physically different. She grew up in a different place and doesn't speak as much Japanese. It's not like Kei (Nishikori), who is a pure Japanese player.
日比野選手がこれを語ったのは今から3年前の2018年、大坂なおみが女子テニス界のトップに躍り出ようとしていたころのことです。


衣笠祥雄

日本のスポーツ界で日本とアメリカの「ハーフ」は珍しい存在ではない。かつてのプロ野球の衣笠祥雄は広島カープ、伊良部秀輝はロッテ・オリオンズのスターだったし、両方とも日本人とアメリカ人のハーフだった。なのに彼らの生い立ちが話題になることは殆どなかった。

大坂なおみが、いわゆる「スター」の仲間入りをしたのは昨年の全米オープンから。警官の暴力で殺されたとされる黒人の名前を縫い込んだマスクを着用して会場に登場するようになった。そしてアメリカのみならず他の国際大会でも着用することで差別反対を訴えるスポーツ選手の仲間入りをすることになった。BBCの記事は
  • (大坂選手の行動は)世界でも人種混合の度合いが最も小さい日本という国で受け入れられるのは容易ではなかった。 It is a subject that Japan, one of the least ethnically diverse nations on earth, still struggles with.
 

日本では公共放送のNHKが昨年、人種差別撲滅を訴える抗議活動(Black Lives Matter)のことを取り上げる中で使用したアニメが「人権への配慮が足りなかった」ということで問題になり、謝罪に追い込まれたことがあった(むささびジャーナル452号)。さらに2019年には日清食品がカップヌードルのCMで、明らかに大坂なおみと分かる人物を白人として漫画化しようとして中止されるという「事件」もあったのだそうですね。また大坂選手が3才のときに両親がアメリカへ移住したのですが、これに反対する日本人の母親の両親(なおみの祖父母)と縁切りをしなければならなかった、ということも。 


ロバート・ホワイティング

日本で暮らして60年になるアメリカ人の作家・ジャーナリストであるロバート・ホワイティングは「大坂なおみの件は、連日メディアで取り上げられて、日本人にとっては格好の学習の機会を提供している」として、次のようにコメントしています。
  • 日本では昔から、対立や議論を避けることが正しいとされてきた。アメリカのように公の場でもめることはない。In Japan, the tradition is to avoid conflict and argument. It's not like in America where you have that public to-and-fro.
  • 一般的に言って有名人になればなるほど無口になる。議論のタネになることを嫌がり、チームメートや自分が属している組織、あるいはスポンサーなどに迷惑をかけることを避けたがる。 Generally the more famous you are the more tight-lipped you are. You don't want any controversy, you don't want it to reflect on your team-mates, your organisation or sponsors.
  • 欧米では個人主義は大いに尊重されるけれど、日本では違う。日本でいちばん大切にされるのは調和なのだ。 Individualism is a very valued thing in the West, not in Japan. Here, harmony is the most important thing.


大坂なおみは5月のフランス・オープンの際に、自分の精神上の問題を理由に記者会見を拒否して話題になったけれど、精神衛生上の問題で話題になった日本のスポーツ選手はなおみだけではない。女子サッカーの横山 久美は、6月末に自分がトランスジェンダーであることを公表している。横山選手はドイツやアメリカのチームでプレーしているけれど「日本におけるトランスジェンダーに対する無理解と偏見は、外国に比べるとはるかに強い」と言っている。さらに昨年自殺した女子プロレスの木村花の場合も精神的な問題が原因だったとされている。


木村花

日本における精神衛生上の問題を抱える人の数は1999年から2014年の5年間で2倍に上っているという統計もある。ある日本人のジャーナリストは「日本では昔から精神上の問題を抱えるのは自分が弱いからだという考え方が強いので、自分の内面のことを語りたがる人は多くない」としながらも
  • 事態は変化している。精神上の問題の存在を認めるようになってきている。それは人間に共通の問題であるということを理解してきている。 But things are changing. People are becoming more open to admitting people have mental health problems and they are something we have to deal with.
と言っている。アメリカ人のロバート・ホワイティングも日本人の変化に気が付いており、大坂なおみのような「ハーフ」は相変わらず「アウトサイダー」と見られがちではあるけれど、彼女のような年代の日本人は、かつての日本人に比べればはるかに洗練されており、グローバルな考え方を持っている (much more sophisticated than previous generations) というわけです。
  • 私が初めて日本に来た1960年代、さらには80年代、90年代に比べれば、はるかに幅広い理解度が定着している。あの頃に比べれば、世界ははるかに小さな場となっており、そのことが日本に大きな利益をもたらしている。 There is a broader understanding that wasn't there when I arrived in the 1960s or in the '80s and '90s. The world is a much smaller place now and Japan has benefitted from that.
そしてBBCの記事は次のように結ばれています。
  • 世界が新しくなり、世代も代わった、そのことをどのように解釈しようとも、大坂なおみが大きな存在であることは間違いない。New world. New generation. However you translate it, Osaka is a big part of it.

▼大坂なおみは、今回の五輪の最終聖火ランナーを務めたのですよね。上の写真を見るととても小さく見える。1964年の東京五輪の最終聖火ランナーは陸上競技の選手だった坂井義則(1945~2014年)という人だった。まだ19才だったから、今の大坂選手より4つ年下ということになる。坂井義則さんが選ばれた理由は誕生日の1945年8月6日が広島市に原爆が投下された日だったということ。彼は広島県三次市の生まれだったそうです。大坂なおみの場合、最終聖火ランナーに選ばれた理由は(毎日新聞によると)「海外にルーツを持つトップアスリートは、大会ビジョンの一つである多様性を象徴する存在」だったから。

▼坂井さんの場合、大学卒業後の就職先はフジテレビだったのですが、メディアを選んだのは、聖火最終ランナーに決定した際のマスメディアの過熱報道に接して「マスメディアは面白い商売だなと思ったから」と語っていたのだそうです。この人が生きた時代と大坂選手の時代ではメディア環境がまるで違う。1964年のころにはSNSなんてなかったもんね。

back to top

3)FT紙編集長が語る経済メディアと女性記者


危機は好機か? 生意気だがアタマのいい記者!?
Brexitは正解だったか? 女性編集長が増える理由
引締め政策とポピュリズム 紙媒体は終末期にあるのか?

7月16日付のドイツの週刊誌 Der Spiegel のサイトに、経済メディアの代表格の一つと言える Financial Times の女性編集長・Roula Khalaf(ルーラ・カーラフ)との単独インタビューが掲載されています。ルーラ・カーラフ(この読み方が正しいかどうか、むささびには分かりません)は昨年1月に就任したのですが、レバノン生まれの英国人で、1888年創刊という同紙の歴史上初めての女性編集長です。

危機は好機か?
  • DER SPIEGEL: あなたがFT紙の編集長に就任したのが2020年1月20日、コロナ・ウィルス襲来から約2か月後のことです。コロナはあなたにとって災難だったか?それともジャーナリストとしてはむしろ有難い事件だったか?
Khalaf: 両方だった。自宅からの新聞制作が案外すんなり進んだのは驚きだったけれど、その間はやはり編集局のざわついた雰囲気を懐かしいと思った。コロナ禍の状況では普通に廊下を歩くことはできないし、他人と立ち話をすることもできない。この状態は多分9月ごろまでは続くのでは?
  • DER SPIEGEL: その一方で、現在のような危機的状況はFTのようなビジネス紙にとってはチャンスの時でもある。
Khalaf: 発行部数が増えたという意味ではそうかもしれない。その意味ではコロナはBrexit以上に読者数を増やした。昨年(2020年)のサイト閲覧者数(ページビュー)は一昨年比で42%の増加だったし、購読収入も16%増を記録したのだから。
  • DER SPIEGEL: コロナとBrexit、中期的に見て英国経済にとってどちらの方が痛いと思うか?
Khalaf: EU離脱によるダメージが本当にどの程度のものなのかはまだ分からない。Brexitが英国経済に利益をもたらす可能性があることは否定しない。あくまでも英国政府がBrexitによって得た自由の恩恵をどの程度生かせるかによるのだから。
Brexitは正解だったか?
  • DER SPIEGEL: コロナ・ワクチンの接種という点では、英国はEUを追い抜いてしまっている。Brexitがもたらしたポジティブな側面と言えるのでは?
Khalaf: それには全面的に賛成というわけにはいかない。確かにBrexitのお陰である程度の自由を獲得できたし、やりたいことをやれるようにはなった。コロナの初期段階からやっていたワクチン生産への巨額の投資などもその一つといえる。ただ、英国がEU加盟国であったとしても、EUによるワクチン調達の一部である必要はなかったのだから。EU離脱が英国経済にもたらすコストは非常に高いものがあるけれど、現在はコロナ禍の陰に隠れてしまっている。

  • DER SPIEGEL: ボリス・ジョンソンは英国経済の将来について、どのような展望を描いているのか?
Khalaf: スローガンは大きいけれど、どれも考え抜いた末のものではない。政府関係者と会うたびに私は「あなたはどのような展望を持っているのか?」(What is your vision?)と聞いてみるが、満足な答えをもらった試しがない。
  • DER SPIEGEL: 感染病・Brexit・気候変動などの問題によって、資本主義や経済のグローバル化に対する信頼の念が揺らいできている。このような状況は、資本主義にとっては聖書のような存在である、FT紙にとっては何を意味するのか?
Khalaf: 物事をあまり単純に考えない方がいいと思う。FTの主なる編集内容がビジネスや金融に関する情報であるというだけで、FTがグローバル化や資本主義の抱える問題について盲目的という意味ではない。むしろ反対だ。FTは常に企業の責任を追及することが自らの役割であると考えきた。我々の自由市場に対する信頼の念は揺らいではいない。ただ「やりすぎ」は問題視するし、金融危機以来、FTは資本主義の将来についての議論を喚起してきている。
引締め政策とポピュリズム
  • DER SPIEGEL: でもFTは、2008-2009年の金融危機直後に引き締め政策を推進したメディアの一つだった。あの引き締め政策こそがヨーロッパ諸国における右翼的ポピュリズムの隆盛に繋がったのではないか?
Khalaf: 確かにあの当時、FTにも行き過ぎはあったと思うし、それは誤りだったと思う。FTの社説としての立場は、あの頃の英国政府(キャメロン首相・オズボーン財相)の引き締め政策を支持していた。現在のコロナ禍を見ると、あの頃の引き締め策もある部分(健康・厚生における引き締め策など)は間違っていたのではないかと思う。

  • DER SPIEGEL: 一昨年(2019年)FTは「資本主義をリセットする時だ:Capitalism. Time for a reset」というキャンペーンを打つようになった。あれはFTという新聞そのもののリセットも意味しているのか?
Khalaf: あのキャンペーンは「FTジャーナリズム」のある部分における変換を反映していたかもしれないが、最初からはっきりしていたのは、これからの産業界にとって気候変動は非常に大きな問題になるであろうということだった。それがFTジャーナリズムにも反映されたということだ。その意味では、企業幹部が億万長者となっている最近の給料体系、インターネットの世界における「テクジャイアンツ」(Googleなど)の規制、さらには非正規労働者の権利庇護についても同じことだ。
  • DER SPIEGEL: あなたの父上は1970年代のレバノンで経済大臣を務めていた。あなた自身も、ジャーナリズムではなく政治の世界に入ろうとは思わなかったか?
Khalaf: 私の父が政治を辞めたのは当時のレバノンが内戦状態にあったからだ。あの当時のレバノンを考えると「政治」の世界にはあまりいい点を与えることはできない。私自身、政治家になるなどとは考えてもみなかった。あの頃のレバノンで毎日の生活に必要なのは情報だった。日常生活で何をやるにも情報が必要だった。「今日は学校があるんだろうか?」「ロックダウンはいつまで続くのか?」「今の住居で暮らしていてもいいのか?引っ越した方がいいのでは?」などなど。必要な情報がない。そのような状態に身を置くと、誰でもニュースに飢えるもので、私自身もそうだった。

生意気だがアタマのいい記者!?
  • DER SPIEGEL: あなたは大学(米コロンビア大学)を出た後、まずニューヨークのForbes誌の記者になった。その際にあなた自身の書いた記事がハリウッドで映画("Wolf of Wall Street" という名前の映画)になったりもした。映画ではあなた自身のジャーナリスト生活も描かれていましたよね。あの映画に出ているあなたは本当のあなたであると思ったか?映画の中では相場師の男があなたのことを「生意気な新聞記者だがアタマは悪くない(insolent reporter but deserves an A for cleverness)」と呼んでいた。
Khalaf: でもあれは映画の中での話だから…。
  • DER SPIEGEL: しかしあの映画であなたのこを「生意気な新聞記者」と呼んだ人物は、その後に出版されたメモワールの中でも、あなたのことを「生意気な新聞記者」と表現している。あれは「侮辱」なのか「ほめ言葉」なのか?
Khalaf: 私はほめ言葉だと思ったけれど、そもそもあの人の口から「侮辱」などというものが出るものなのか?

  • DER SPIEGEL: あなたは1995年に外信記者としてFTに入っている。最初の仕事はアルジェリアの内戦、それ以後イラクやイランでも仕事をしているし、「アラブの春」の真ん中にいたと言ってもいい。自分の命が危険にさらされていると感じたことは?
Khalaf: ある。アルジェリアで仕事を始めたときに反政府勢力の人間たちに紹介する、と誘われた。あの時は大いに興奮して誘いに乗ったけれど、実際には何時間経っても反政府勢力に紹介などされなかった。騙されたのかとも思ったし、もう生きて帰れないだろうとも思ったが、結局何も起こらなかった。私はFTには何も言わなかったけれど。
女性編集長が増える理由
  • DER SPIEGEL: 2020年1月にあなたはFTで最初の女性編集長に就任した。今や英国では主なる新聞や雑誌の編集長の半分が女性だ。Guardian, The Economist and The Sunday Timesなどなど。これは単なる偶然なのか?あるいは女性編集長が当たり前の時代になったということなのか?
Khalaf: 進化の結果そうなっているということだと思う。私は全く驚きませんね。むしろなぜヨーロッパではその意味での進歩が遅いのか?その方が不思議だ。編集という部門のトップが女より男の方に合っているという理由など何もないのだから。
  • DER SPIEGEL: FTにおける「男優位の問題」(alpha male problem)をどのように感じていたのか?
Khalaf: 「男優位」という問題としては考えていなかった。単に男が多すぎるということだ、と。部屋の中にいる女は私だけということがよくあった。女性が少ないというのは明らかだった。今では違う。管理職はすべて男女比が50:50であるべきだと思うけれど、FTも徐々にそれに近づいている。

  • DER SPIEGEL: FTは取材陣の中に女性を増やそうというわけで、各取材陣の中に必ず二つの遠隔操作ロボット(bots)を用意するという方法をとっている。うまく行っているのか?
Khalaf: ウェブ上で使用される女性の写真が然るべき基準より少ない場合には、 "Janet” bot という機能で分かるようになっているし、引用の際の "She Said, He Said” という表現を見れば、女性の発言がどの程度使われているかも分かる。
  • DER SPIEGEL: それによって目に見える変化が表れている、と?
Khalaf: 記事の書き方や掲載方法が徐々に変わりつつあるし、編集局内にも浸透しつつある。FTに掲載されるコラムでも女性の登場率が20~30%は増えている。
  • DER SPIEGEL: それでもFTは「男の新聞」と思われている。読者数の点で女性読者の数が増えたということはあるか?
Khalaf: FTの読者の過半数は相変わらず50才以上の男性だ。しかしFTは正しい方向に向かっていると思う。ただ、全体の購読者数が伸びている割には、女性読者の数は現状のままということはある。我々が女性読者を増やそうとして意図的な努力を始めてからでも、女性読者の割合は4%しか増えていない。


紙媒体は終末期にあるのか?
  • DER SPIEGEL: FTの場合、購読者数は約110万、そのうち96万がオンライン版の読者だとされている。コロナ感染病の蔓延によって「印刷物としてのFT」は終末が近づいたと思うか?
Khalaf: コロナ禍の有無に拘わらず紙媒体としての新聞がどうなっていくのかということを考えている。紙媒体の場合はそもそも新聞を読者にどうやって届けるのか(配達)という問題もある。ただ印刷版の部数は意外なほど変化することがなくて、週末版などは却って増えたりしている。
  • DER SPIEGEL: あなたは、今後の5年間でFTの部数がどのくらいであって欲しいと思っているのか?
Khalaf: ターゲットは会社が決めることだが、それほど急激に伸びるということはないと思う。ただこの3か月に見る限り、購読者は減っていない。値引きをすれば数百万の読者を獲得できるかもしれないけれど、我々が目指しているのは、ジャーナリズムとしての価値の向上によって読者を増やすということだ。
  • DER SPIEGEL: FTにも終わりが来ると考えたことは?
Khalaf: ありません。FTの記者たちは自分のやっていることを分かっているし、第一級の記者ばかりであることは自信をもって言える。あの事件(Wirecard)で注目するべきなのは、FTの報道そのものよりも、Wirecard側の報道に対する反応です。私自身、これまで記者として疑惑だらけの企業を取材したことがあり、企業から脅迫されたりしたこともある。

 ワイヤーカード問題
金融と情報技術を結びつけたフィンテック・サービスを提供するドイツのワイヤーカード(Wirecard)という企業が不正な会計操作を行ったことをFTがすっぱ抜いて問題になっています。2019年にFTが不正会計のの疑いを報じた際にドイツ連邦金融サービス庁(BaFin)が疑惑を追及せず、むしろワイヤーカードを擁護して同社株の空売りを禁止していたことからBaFinへの非難の声が高まり、2021年1月にBaFin長官が辞任に追い込まれている(ウィキペディアより)。
  • DER SPIEGEL: ドイツ連邦金融サービス庁(BaFin)がFTの記者を裁判にかけると言っている。
Khalaf: 企業を調べずにFTの記者を裁判にかける、と?信じられない反応だ。
  • DER SPIEGEL: 金融サービス庁あるいはドイツ政府がFTに謝罪したということはないか?
Khalaf: 私の知る限りではない。しかしそれこそがドイツ国内で問題になることは間違いない。
  • DER SPIEGEL: この問題でFTが名誉棄損で敗れるようなことがあった場合のFT側の巨大な損失については弁護士から話を聞きましたか?
Khalaf: Wirecardの件についてはない。それは大事なことではない。私は編集長としてあらゆるリスクのことを考えなければならないが、調査報道はFTの中核ビジネスだ。
  • DER SPIEGEL: そうなるとFT側への圧力も相当強いものになるだろう。この件にはWirecardの企業としての存続がかかっているし、FTの信頼もかかっている。あなた個人はどのように対処したのか?
Khalaf: FT側には何の問題もないと我々は考えている。このような場合、編集長にはかなりの圧力がかかるものだが、それは立場上、仕方のないことだ。


▼インタビューの本題とは関係ありませんが、FTの週末版に掲載される名物コラムに"Lunch with the FT"(FTとの昼食)というのがあるのだそうですね。「昼飯を挟んだ会話」ということなのですが、要するにインタビューで、これに掲載されるということは、それなりに名誉なこととされている。この昼食には決まり事が一つだけある。それは昼食をとるレストランはインタビューされる側が選び、料金はFTが支払うこと、そして領収書がFTに印刷されるということ。

▼カーラフ編集長のインタビューもいくつかこの欄に出ている。2018年6月15日付のFTに掲載された元日産のカルロス・ゴーン会長との昼食はパリの Josephine Chez Dumonet というレストランで食べたのですが、中心はシャトーブリアン・ステーキで、二人分の料金は(チップもいれて)168ユーロ(約2万2000円)だった。


back to top

4)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら


drowning:溺死

先週の日曜日(7月25日)は「世界溺死防止日」(World Drowning Prevention Day)であったなんてこと、知ってました?実はこれは国連が定めた日だったのですが、2021年のそれが最初の記念日だったからほとんど誰も知らなかったのでは?もちろむささびは知りませんでした。国際保健機関(WHO)の推定によると、1年間で約24万の人間が世界のどこかで溺れて死亡しているのだそうです。日本における溺死者数は1年間に8,999人(2011年の数字)なのですが、これは世界でもロシア(11,981人=2010年)に次いで2番目に多い数字なのだそうです(溺死の多い国、日本)。

溺死者を減らすための一つの方法は、誰もが泳げるようになることですよね。あなたは泳げます?むささびは(この年齢では)無理ですが、若いころでもせいぜい50メートルが限度だった。一昨年(2019年)ギャラップ社が、142か国の15万人を対象にアンケートを調査をしたところ15才から上の人口の55%が「助けなしには泳げない」(cannot swim unassisted)と答えたのだそうです。

特に女性が水泳に弱いらしく、「泳げる」と答えた人は、男性だと10人に6人 (57%) ですが、女性の場合は3人に一人 (32%) にまで下がってしまう。また泳ぎの能力にも地域差がある。東南アジアやアフリカ低所得国には泳ぎを苦手とする人が多いのに対して、欧米とはかなりの差がある。

back to top

5)むささびの鳴き声
▼もう何年も昔の出来事のように思える、あの東京五輪2020の開会式。聖火リレーでは王貞治、長嶋茂雄、松井秀喜が出場したのだそうですね。この3人が選ばれた理由は、彼らが日本のプロ野球の「レジェンド」だから、と開会式のプロデューサーが言っていた。王と長嶋がON砲と呼ばれて活躍したのは1960年~1970年代半ばです。それをファンとして見ていた人(1960年に10才以上だった人)は今、少なくとも70才になっているはず。総務省統計局の数字(2020年)によると、70歳以上人口は2791万人で、総人口の22.2%を占めている。

▼王や長嶋を心から英雄視できる人間は2021年の日本全体のせいぜい2割です。開会式のプロデューサーが自信満々に言うほど、開会式をテレビで見ていた日本人は感激したのでしょうか?ネット情報によると、このプロデューサーは1974年生まれ、長嶋が「巨人軍は永遠に不滅です!!」と叫んで引退した年に生まれている。王貞治が引退した1980年にはまだ6才、つまりワンちゃんが初めてホームラン王になった1963年には、生まれてもいない。このプロデューサーはONの活躍を自分の眼で見たことはないわけです。彼だけではない、あの開会式をテレビで見ていた日本人の中に現役時代のONを見た人は何人いたのか?

▼「伝説」とか「伝説的人物」を意味する「レジェンド:legend」なんて、誰かが自分の利益追求のために思いつくようなものなのでしょうが、オリンピックもそれでいいのでしょうか?皆がすごいと言っているから、すごいに決まっている、いちいちケチをつけるな…このオリンピックにはそのような雰囲気が付きまとっていません?

▼ベッドに横になってラジオのニュースを聴いていると、興奮するアナウンサーの五輪中継の声と「新型コロナウィルス感染者数」を読み上げる沈んだような声だけしか聞こえてこない。大変なペースで増え続ける感染者に関連して首相が「皆さん、テレビでオリンピックを見ながらステイホームしましょう!」と訴える…あたかも「オリンピックを実施してあげたんだから、喜べ!」と言っているようであります。ひどい話ですが、そうなると「国民」としては、間違ってもこの首相の言うことだけは信用しないという気持ちで淡々と生きていくしかない。もう一つ言うと、現在の政権を信用しないだけではなくて、五輪に反対し、コロナ対策に力を入れよう、と言っている政党が作る政権をきっちり支える覚悟をすること。これっきゃない!

▼今から約60年前に「安保闘争」というのがあって、国会周辺を反政府のデモ隊が埋め尽くした際に、その時の首相が言った言葉:アタシは「声なき声」に耳を傾けているんだ、後楽園球場をご覧なさい、みんな野球を楽しんでいるじゃありませんか、誰もデモなんてやっていませんよ!と、これを言ったのはシンゾーの祖父にあたる人物であり、それを支持していた(としか思えなかった)のは、今でも続くNHKの「日曜討論」という番組に出てしゃべっていた政治の「専門家」だった。


▼くだくだと申し訳ない…毎日暑いもんで、つい。おととい、埼玉県飯能市は落雷と停電に見舞われました。ワンちゃんは雷が大の苦手で、ゴロゴロ鳴り始めたら「お母さん」(人間)の傍にじっとして動きませんでした。お元気で!

back to top

←前の号 次の号→