musasabi journal

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272号 2013/7/28
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書

暑いうえに、やたらと湿気が高いですね、関東地方は。つまりかなり不快指数(懐かしい言葉です)が高いのです。英国でもかなりの熱波だそうです。あちらの場合、熱波なんて全く想定外だから住宅に冷房装置がない。だから日本以上にきついかもしれない。でも埼玉県の山奥では夕方になるとヒグラシがカナカナカナカナ・・・という音を響かせるようになりました。

目次

1)ロイヤルベビー:英米人の関心度
2)働き始めた認知症付添い犬
3)日本の「強いリーダー」は国際社会へのプラス材料だ
4)「ほとんどの」子供たちが非婚の親を持つ時代
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)ロイヤルベビー:英米人の関心度
 

ウィリアム王子とキャサリン妃の間に第一子が誕生した日に、ラジオのニュースショー番組(もちろん日本の番組)を聴いていたら「視聴者が選ぶ本日の重大ニュース」のトップに英国のロイヤルベビー誕生が来ていたのには驚きました。外国の王室のことなのになぜそれほど興奮するのか?と首をかしげてしまったのはむささびだけではなかったと思うけれど、実は日本以上に大騒ぎであったのがアメリカのようであります。Telegraphのワシントン特派員であるピーター・フォスターという人が自分のブログで「誇り高き共和制論者であるはずのアメリカ人が英国王室のこととなると大興奮に陥るのはなぜなのか」(Why American, proud republic, swoons over our royals)を語っています。

フォスター記者によると、ロイヤルベビーについては生まれる前からアメリカのテレビメディアは大騒ぎで、キャサリン妃が入院している病院の前からの「生中継」がさんざ放映され、あの日(誕生の日)はCNNが「特報」(breaking news)として伝え、まるで戦争でも始まったのではないかというような騒ぎだった。おそらく記念品の類の市場規模は2億2500万ドル(225億円)くらいになるらしいけれど、かなりの部分をアメリカ人が買うのではないかと言われているのだそうです。

アメリカと言えば、その昔(1776年)英国からの独立戦争を戦って勝利した歴史を誇りとしているはずで、それが今でもTea Partyという保守勢力に受け継がれている。この人たちは独立宣言をそらで暗記しているくらいである。なのになぜ英国のロイヤル・ファミリーのことと言うと大騒ぎするのか、アメリカ人に聞いてみた。

最も多かった意見は「アメリカ人が単純に騒ぐことが好き(simple American love of pomp)」ということですが、それに加えてアメリカ人が英国という国に対して抱いている、「口では説明しにくい愛着の念」(latent affection)があるとのことです。

それから「ディズニー効果」(Disney effect)というのを語る人もいるのだそうです。アメリカは歴史的にも「君主」などというものは拒否したはずなのですが、お陰で「お姫様」というとディズニーランドにあるプラスチック製のプリンセスが唯一の「お姫様」ということになってしまった。それがダイアナ妃とかキャサリン妃のような「本もの」が出てくると、もうたまらないというわけであります。

それとアメリカ人には英国に対する一種の「あこがれ」(fantasy)のようなものがある。第1次大戦のころの英国貴族の生活ぶりを描いた英国のテレビ・ドラマ、『ダウントン・アビー ~貴族とメイドと相続人~』はアメリカでも大人気であったそうですね。ヒラリー・クリントンも惚れ込んだらしい。

いずれにせよアメリカ人の英王室好きはいまに始まったことではなく、1838年に行われたビクトリア女王の戴冠式に大感激したし、女王の息子であるウェールズ皇太子が1860年にアメリカを国賓訪問したときには彼を見るために大観衆が詰めかけたということもある(皇太子はわずか18才だった)。

というわけで、ピーター・フォスターとしては「英国びいき」のアメリカ人のノスタルジアにはついていけない部分もあるけれど
  • In these hard times, we Brits can't afford to be sniffy about all those extra tourist dollars that will soon be raining down on London, so I shan't say it too loudly.
    経済的にも厳しいご時世であり、我々英国人としては(アメリカの)観光客がロンドンで湯水のごとく使ってくれるであろうドルをバカにするわけにはいかないのだから、あまりおおっぴらに(アメリカ人のノスタルジアを)否定するのは止めにしておく。
と言っております。

ところで「ロイヤルベビー誕生」について英国人がどの程度関心を持っていたのかについて、YouGovという機関が7月初めに行った調査の結果が次のようになっています。


「関心なし」(あまりない+全くない)が「あり」(大いにある+そこそこある)をわずかに上回っているのですが、誕生記念品のようなものを買う気はあるか?という問いについて多少なりとも「あり」というのはわずか7%だった。ただはっきり分かれたのは男女別の関心度で、女性の場合は「関心あり60%:関心なし38%」だったのに対して男性は全く逆の「あり29%:なし68%」であったのだそうです。

▼Ipsos-MORIという機関が7月18日に行った調査によると、英国人の77%が英国は君主制(monarchy)を堅持するべきだと考えており、共和制(republic)への移行を望む人の17%を圧倒的に上回っているのだそうです。

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2)働き始めた認知症付添い犬
 

むささびジャーナル257号(2012年12月30日)で認知症の付添い犬(Dementia Dogs)の育成について紹介しました。7月14日付のBBCのサイトが18か月にわたる訓練を終えて「任務」についた2匹の付添い犬の活躍ぶりを伝えています。ゴールデン・リトリーバの「オスカー」(2才)とラブラドールの「カスパ」(2才)がその2匹で、スコットランドに住む二組の老夫婦と暮らしています。

BBCのものは2匹の付添い犬のトレーニング風景とその後の人間との生活ぶりを約5分のビデオにまとめたものです。認知症の家族がいる人にとって、イヌと暮らすということは、トラブルをもう一つ抱え込むことになるのではないかと心配する向きも当然あったようですが、ここで紹介されている例に関する限り「一緒に暮らして良かった」と思われているようです。

ラブラドールのカスパが暮らしているのは、旦那さんが79才、奥さんが66才。血管性認知症とされているのはご主人の方で、カスパがくる前はもっぱら奥さんがケアにあたっていた。ビデオを見ると、薬をのむ時間になるとカスパがそれを知らせたり、モノをとってきたりという具体的な手伝いはするのですが、夫婦によるとカスパの存在感は画像に表れない部分にある。
  • ケン(ご主人の名前)の機嫌が悪かったりすると、このイヌがやってきてなだめるのですよ。すると主人も怒っていたことなど忘れてしまって元に戻るのです。
    If Ken gets in a mood and angry, the dog comes and nudges him and he forgets his problems. I've got a good bit of him back again.
この奥さんが使っているnudgeという言葉を私は「なだめる」と訳していますが、実際にはイヌが自分の身体を人間にそっと押し付けるようにすることを言います。実はむささびと暮らしているワンちゃんも同じような動作をすることがあります。妻の美耶子によるとそれはhip nudgeという行為で、「ねえ、ねえ、仲良くしようよ」というメッセージだそうであります。

一方、ゴールデン・リトリーバのオスカーが付き添っているのBenham夫妻(上の写真)の場合は奥さん(69才)がアルツハイマーと診断されている。オスカーが来る前の奥さんは家に引きこもりがちであったのですが、ワンちゃんと生活を始めてからは外出することが非常に多くなったのだそうです。ワンちゃんと暮らしていると散歩に連れて行かなければならないので、イヤでも外出が多くなる。そうすると近所の人に出会ったりして「世界と繋がっていられる」(stay connected to the world)のがいいのだそうです。

認知症付添い犬を育成するDementia Dog projectは、グラズゴー芸術大学(Glasgow School of Art :GSA)のプロダクツ・デザインの学生たちの発想が発端になっています。製品デザインと認知症介護は無関係のように思えるけれど、GSAのプロダクツ・デザイン部長は「従来のモノ作り(material manufacture)を超えて生活の質そのものを良くするための経験をデザインする世代による作品だ」として、
  • 経験を再デザインする能力を身に着けるのは貴重な挑戦であり、これらの若いデザイナーたちは非常に変わったやり方でその挑戦に立ちあがったということだ。
    The ability to re-design experiences is a significant challenge and one that these young designers have risen to in an extraordinary fashion.
とコメントしています。

BBCの番組はここをクリックするとYouTubeで見ることができます。また同じ話題が7月15日付のHerald Scotlandでも紹介されています。

▼BBCの動画の中で認知症のご主人のケアをしている奥さんが思いつめたように"People don't understand..."と言っていたのが印象的です。自分の苦労を他人は分かってくれないということへの口惜しさなのか、人間は分かってくれないけれど、イヌは分かってくれるということへの嬉しさなのか・・・たぶん両方が相俟ってつい涙が出てしまったということなのでしょうね。一方の付添い犬の様子を見ると、何をするにも尻尾を振ってルンルン気分という感じです。家の中が明るくなったりするかもしれないですね。

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3)日本の「強いリーダー」は国際社会へのプラス材料だ

 

Financial Times (FT) のコラムニスト、デイビッド・ピリング(David Pilling)によると「日本に強いリーダーが存在するということは世界にとってマイナスどころかプラスである」(A strong leader in Japan is a plus not a minus)とのことであります。もちろん彼の言う「強いリーダー」とは安倍さんのことです。すなわち
  • この人を好きであれ、大嫌いであれ、安倍首相は外国の首脳にとって仕事ができる相手であることは間違いない。
    Love him or loathe him, Abe is someone with whom his foreign counterparts can do business
というわけ。このエッセイがFTのサイトに載ったのは7月17日、参議院議員選挙の4日前のことです。

過去7年間で7人の首相が誕生し、20年で数えても14回も首相が代わっている。いったい日本の指導者は誰なのか?さっぱり分からん・・・そんな状態に終止符を打つと言う意味で強いリーダーの登場は日本のみならず世界にとっても悪いことではないということです。

安倍さんといえば外国メディアでも必ず語られるのが経済政策としての「アベノミクス」と外交面における「右傾化」路線です。ピリングによると、「アベノミクスにはリスクがつきまとう」(Abenomics is not without risk)のは確かであるが、15年にも及ぶデフレ脱却のためには「勇敢なる政策を追求する効果的なチャンピオンの登場は、どちらかといえばプラスに違いない」(having an effective champion of a bold policy is on balance a good thing)とのことであります。

というわけで経済政策については、安倍さんのやっていることはリスキーながらも正しい・・・とピリングは言っている。では、いわゆる「右傾化」はどうなのか?安倍さんの言っていることを聴いていると、かつて日本を破滅に導いたはずの右翼思想・大日本帝国思想を復活させようとしているようにも見える。が、ピリングの見るところによると
  • ここでも日本の市民社会が危険な右傾化に対する歯止めとなると信ずるに足る理由がある。
    Yet even here, there are reasons to believe that civil society is a reliable safeguard against any dangerous lurch to the right.
のだそうです。

例えば安倍さんは敗戦がゆえに日本に「押し付けられた」(imposed)憲法を変える意思があることを明らかにしている。平和条項(第9条)を変えて軍を持つ国としての権利を復活させようとしており、個人の人権は国家に優先するという発想は「外国」のものだとしてこれも変えようとしている。しかし安倍さんにはとてもそれほどのことが出来るとは思えない(he is unlikely to get far)とピリングは言っている。なぜなら大多数の日本人が憲法第9条にはこだわっているし、現在の憲法が持っている人権保護のような「進歩的な部分」(progressive elements)を薄めてしまうことには懐疑的であるからだ。

またいわゆる「慰安婦問題」について安倍さんは、戦争には従軍慰安婦がつきものであり、日本だけが責められるのはおかしいという姿勢をとっているけれど、ピリングに言わせると、それとてどこまで貫けるのか疑問だということになる。そのような態度を取り続けたら中韓はもちろんのことアメリカとさえも外交的な問題が出てくることは、自民党自身が分かっている。
  • 安倍さんが気でも狂わない限り、そのような政府として公式に歴史的な修正主義に踏み込むようなことは起こらない。
    Unless Mr Abe really loses his head, such official forays into revisionism will not occur.
いろいろと問題はあるにせよ、日本に強力な首相が存在することは外国にとっては歓迎すべきことであり、安倍さんは最近の日本の指導者としては珍しく、外国との合意事項を実施するだけの期間にわたって首相の座に坐り続けることができる存在になるであろうとピリングは言っています。

ピリングによると、安倍さんは小泉さんよりも力があることを証明するかもしれない。それには理由が二つある。第一に民主党政権の3年間を経験してそれにこりごりした自民党が安倍さんの下に一致団結していること。もちろん派閥間の闘争が全くなくなったわけではないけれど、小泉政権のときに比べれば団結はしているというわけです。

もう一つ小泉さんと違うのは、安倍さんの方が「信念の政治家」(conviction politician)の度合いが強いということです。ピリングによると、小泉さんは郵政民営化を断行したけれど、ショーマンシップに長けていただけで、見かけほどにはラディカルではなかった。それに対して安倍さんの行動は、より深いところから出てくる「保守主義」に裏打ちされている(Abe draws his motivation from a deep well of conservatism)のだそうであります。

▼安倍さんについては、経済政策(アベノミクス)はいいけれど右翼思想(ナショナリズムのこと)が危険・・・という論調が英国メディアでは一般的です。デイビッド・ピリングは2002年1月から2008年8月まで、6年半にわたってFTの東京支局長を勤めたジャーナリストですが、彼の意見がユニークだと思うのは、安倍ナショナリズムの暴走は日本の「市民社会」(civil society)のパワーが阻止するのではないかと言っている点です。外国メディアはもちろんのこと、日本のメディアも注目していないところに眼をつけている。日本の「市民社会」が実際にそのような力を発揮するかどうかは分からないけれど、日本にとって望みの綱は労組・農協・経団連のような「利害関係がかかっている」人たちが作る組織的な運動にはない(とむささびは思っています)。
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4)「ほとんどの」子供たちが非婚の親を持つ時代

 

7月10日付のTelegraph紙のサイトに
  • Most children will be born out of wedlock by 2016
という見出しの記事が出ています。out of wedlockは「庶出の」という意味だから、
  • 英国で生まれる子供のほとんどが2016年までに婚姻関係にない両親の間に生まれるようになる。
という意味になる。

英国統計局(Office for National Statistics:ONS)の発表によると、昨年(2012年)英国で生まれた子供の数は約73万人、うち約35万人(47.5%)が「庶出」であったのですが、1979年ではわずか11%にすぎなかったのが1988年では25%へと激増して2012年のような数字になっている。このままのペースで増え続けると2016年には過半数の子供が「非婚の母親」に生れることになる・・・と保守派のTelegraph紙は警告しているわけです。2011年の国勢調査では結婚しているカップルは全世帯の45%と半数を切った。結婚カップルの数が5割を割ったのは国勢調査が始まった1801年から初めてのことなのだそうです。

このような傾向についてCentre for Social Justiceという保守派のthink-tankのクリスチャン・ガイ(Christian Guy)理事は次のようにコメントしています。
  • 結婚している両親の下で育つ子供が(そうでない子供よりも)機会に恵まれた人生を送るということははっきりしている。政府は家族を大事にする政策を行うという約束を実行しなければならない。
    Evidence shows quite clearly that children growing up with married parents tend to have better life chances. The Government must deliver on its family friendly pledge.
というわけで、この組織は結婚カップルには減税という形の経済支援をするべきだと政府をプッシュしている。そのせいもあって、キャメロン首相は今年中に結婚しているカップルを対象に150ポンドの減税をすると明言したりしています。

親が結婚関係にないということが家庭崩壊に繋がり、子供たちに及ぼす影響が重大だというのがTelegraph紙の記事のメッセージであるわけですが、The Economistのブログも同じ統計局の発表について語っている。けれどトーンはTelegraphを始めとする保守派の言い分に懐疑的です。

そもそも何故「非婚の親」がこれほどまでに増えたのか?それには女性の社会進出が急激に増大し、女性の役割が必ずしも専業主婦ということではなくなったということがある。それからこの問題は英国における移民の増加ということと併せて考える必要がある、とThe Economistは言っている。英国におけるいわゆる「庶出児」の割合がまだ47.5%で50%の危険ラインを突破していないことには理由があると言います。それは昨年の新生児の数には「英国生まれではない母親」から生れた子供の数も含まれているということです。ONSの調査を仔細に見ると、実は「英国生まれの母親」に生まれた子供については、その半数以上(54%)が庶出児になってしまっている。母親が英国生まれではない人たち(移民)の間における庶出児の割合は25%にすぎない。それが全体としての庶出児の割合を引き下げて辛うじて5割以下を保っている、とThe Economistは指摘します。

The Economistの指摘によると、保守派が大事にしようと叫んでいる「伝統的な家族」という形が堅持されているのは、実は英国の中でも移民社会(特にパキスタンのような南アジア系)のハナシです。パキスタンやバングラデッシュのイスラム系移民社会において「非婚の親」に生れる子供の割合はわずか3%にすぎない。この社会では家族の中の稼ぎ手は一人であるケースが圧倒的に多く、働く女性の割合も3分の1以下です。保守派が主張している「結婚ファミリーへの優遇税制」によって得をするのは、伝統的な家族形態を堅持している移民家庭が多くなるだろうということです。

TelegraphやCentre for Social Justiceに代表されるような保守派の人たちは「南アジアからの移民家族を見習おう」と言っているだろうか?全く逆です。いまから6年前、キャメロンが保守党党首として演説をして英国におけるイスラム女性に対して「もっと世の中に出よう」と呼びかけたりしています。つまりイスラム女性も世の中に出て仕事をするべきだと訴えたわけです。しかし英国において庶出児の数が増えてしまった背景の一つとして女性の社会進出があると考えても不思議はない。それを促したのがキャメロン党首であるということです。

キャメロンが約束してしまった結婚奨励免税は、仕事を持っている女性に「家庭に戻れ」と勧めるようなもので「そんなことをする英国女性はほとんどいないだろう」(something very few white British women now do)というわけで、The Economistのブログは、そのあたりの保守派の矛盾について
  • どうやって説明するんですか?
    What on earth can explain this?
と言っている。

▼「女性の社会進出」=「非婚者の増加」という式はもちろん成り立たない。いわゆる「社会進出」をしていても結婚している人はたくさんいるのだから。この二つはイコールでは結ばれないけれど、多少の関係はありますよね。結婚奨励減税なるものを約束してしまったキャメロンの意図としては、少しでも減税することで、経済的な理由で仕方なしに働きに出ている女性が家庭に戻ることに繋がれば・・・ということなのだろうけど、たった150ポンドていど税金を負けてくれたからといって、奥さんが働かなくて済むようになるとは思えないのですが・・・。

▼そもそもTelegraphの記事自体がかなりプロパガンダくさい。見出しで「いまから3年たつとほとんどの子供が庶出児になる」と叫んでいる。普通「ほとんどの子供」(most children)と言えば最低でも7割程度のことを意味しますよね。でも記事の途中では「半数以上の子供たち」(more than half of children)という表現を使ったりしている。

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5)どうでも英和辞書
 A-Zの総合索引はこちら 


deliver:出産する

7月22日、ウィリアム王子とキャサリン妃の間に第一子が誕生したときバッキンガム宮殿の前に掲示された王室の正式発表文(上)には次のように書かれていました。
  • Her Royal Highness, the Duchess of Cambridge was safely delivered of a son at 4.24pm today. Her Royal Highness and her child are both doing well.
    ケンブリッジ公爵夫人妃殿下は本日午後4時24分に男子を無事出産されました。妃殿下とその子息の状態は良好です。
deliverという言葉に「出産」という意味があるのは知っていたけれど、she was delivered of...という言い方があるのは知りませんでした。これは「正式」な表現なのだそうですね。

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6)むささびの鳴き声
▼世の中、いろいろなことが起こり過ぎて参議院議員選挙なんてはるか昔の出来事のように感じてしまいます。私は民主党に投票したのですが、かなり冴えない結果になってしまいました。原発・外交・憲法などを考慮にいれて、まず消去されたのが安倍・自民党だった。かつての私だと共産党あたりに入れたはずなのですが、何故かそうはせずに、自民党と大して変わらないなどと言われている民主党に入れた。なぜ共産党でも社民党でもなく民主党だったのか?このあたりがうまく説明できないのが歯がゆいところでありますが、共産党も社民党も昔ながらの「良心的野党」という役割を喜んで(かたくなに)受け入れているという意味で保守的であることが気に入らないということかもしれない。

▼あの選挙の開票日の夜、ラジオを聴いていたら選挙特別番組をやっていて、ジャーナリスト、学者、評論家と呼ばれる人たちが自民党大勝・民主党惨敗の背景などについてディスカッションをしていました。そして多くの参加者の意見として、「自民党の暴走に歯止めをかけるためにもリベラル勢力にがんばってもらいたい」という趣旨のことが語られていた。その議論を聴いていて思ったのは「この人たち自身はどこに立っているのだろう」ということだった。安倍さんは彼なりの思うところを訴えて自民党が圧倒的な票数を獲得したのです。独裁体制の国ではない。みんな安倍さんがどのようなことを考えているかを知ったうえで自民党に投票したのです。だったら自分のやりたいことを断固として進める・・・それが「暴走」ということになるのでしょうか。

▼選挙特番で安倍さんの「暴走」を憂慮していた政治学者と呼ばれる人たちは、暴走の中身(原発とか隣国との関係等々)についてのハナシを全くしていなかった。彼らの言うことを聴いていると、結局のところ、強い自民党が野党の主張にも十分に耳を傾け、野党も何でも反対という子供みたいな振る舞いは止めて・・・どれもすべて「何をやるか」(what)ではなくて「どのようにやるのか」(how)だけを声高に話し合っているようで、聴いていて本当に虚しい思いがしてしまった。

▼その昔、ビートルズの歌でNowhere Manというのがありましたよね。何の見解や意見も持たず、ただただ毎日を過ごし、自分がどこへ向かっているのかも分からないし、分かる気もない・・・と歌ってから「Isn't he a bit like you and me?(アンタやボクみたいだよね・・・)」というオチがつく。選挙特番をやっていた人たちはどれもNowhere Manという感じだった。ちょっと哀しい歌ですが、ここをクリックして聴いてみません?

▼参議院の選挙と同じ日に飯能市の市長選挙があったのですが、こちらは自民・公明の支持を受けた現職知事が見事に落選してしまった。72才、3期も市長をやっていた人です。うちの近所に住んでいるのですが、名前は沢辺瀞壱さんと言います。瀞壱は「せいいち」と読むのですが、我が家では「とろいち」と呼んでいました。瀞が「ながとろ」の「とろ」という文字だからです。

▼そういえばちょうど60年前の昨日(1953年7月27日)は、3年間続いていた朝鮮戦争の「休戦協定」が結ばれた日だったのですね。休戦であって終戦ではない。朝鮮戦争が始まったのは1950年6月25日、太平洋戦争終結から5年目のこと。すでに米ソの冷戦というのが始まっており、アメリカは敗戦国である日本をアジアにおける反共の前線基地として使うつもりでいた。つい5年前に終わった太平洋戦争についての日本の戦争責任の追及よりも、反共政策の推進のために「強い日本」を作る方が重要とされた。朝鮮戦争のおかげで日本は自分たちの「過去」を追及されなくて済んでしまったばかりか、戦争犯罪に加担したとされる人まで許されて公職に復帰させてしまった。そして日本の経済復興が始まった。朝鮮半島で戦争が起こらなかったら日本の復興はもっと遅れていた。朝鮮戦争サマサマというわけです。

▼7月27日付の産経新聞の社説は
  • 韓国では「朝鮮戦争の特需のおかげで日本経済は復興した」とよくいわれるが、それは結果論であって、まず「日本からの後方支援のおかげで国を守れた」と考えるのが客観的な歴史認識だろう。

    と言っています。
「日本からの後方支援のおかげで国を守れた」と考えるのが客観的な歴史認識だろう・・・日本が善意で韓国を共産主義勢力から守ってあげたのだから有難く思えとでも言っているように響きます。日本には言論の自由というものがあるのだから、新聞が何を言っても構わないけれど、私などのアタマからすると、恥ずかしげもなくよくそんなことが言えたものだということになる。この社説を書いた人は、それなりの「見解」を持っているのだからNowhere Manではないようにも思える。けれどビートルズの歌は最後の方でNowhere Manについて次のように歌っている。
  • He's as blind as he can be
    Just sees what he wants to see
    Nowhere Man can you see me at all?
▼自分の見たいもの、見たいことだけしか見ようとしない盲目人間・・・それがNowhere Manであります。「日本のおかげで国を守れた」ということは見るけれど、戦争のおかげで20万人の韓国軍兵士が死んだということは見ない。もちろん日本の戦犯が許されてしまったということも見ない。産経の論説記事を書いた人がas blind as he can be(これ以上あり得ないほど盲目的)であり、その意味においてNowhere Manであることは間違いない。
 
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