musasabi journal

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258号 2013/1/13
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書

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この写真はDorothea Langeというアメリカの写真家(女性:1895年~1965年)の作品です。撮影は1936年。この親子はオクラホマ州で農業をしていたのですが、干ばつでこれを放棄、カリフォルニア州のベイカース・フィールドという農業地帯で暮らそうとクルマでやってきた。しかしこれが故障してしまいハイウェーで助けのクルマを待っているところです。ジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』に出てきそうなアメリカ史の一コマです。この人の作品には、このような社会派的なものが多いことで有名です。ここをクリックするとLangeの作品をいろいろと見ることができます。

目次

1)Blue Plaque存続がピンチに
2)「アジアにとって最も歓迎されざる内閣」
3)チベットの抵抗
4)米大統領の座まで買収しようとした?マードック
5)対EU:世論とアメリカの板挟み
6)詰め込み教育を推進?
7)どうでも英和辞書
8)むささびの鳴き声


1)Blue Plaque存続がピンチに

 

短期間ロンドンを訪問しただけではなく、数か月、数年の期間暮らしたことのある人は、Blue Plaque(ブルー・プラーク)を見たことがあると思います。市内の住宅やアパートの壁に掲げられている青くて丸いプレートで、歴史的に有名な人物の名前が書かれているものです。つまりそれが掲げられた家や建物はそれなりに「由緒がある」ということを示す記念プレートだと思えばいい。Blue Plaqueの掲示が始まったのは1866年というから間もなく150年という歴史を誇る習慣です。が、この種の習慣としては世界最古であること間違いなしというBlue Plaqueが資金不足で続けられない状態になっていることが英国メディアの話題になっています。

    

このプラーク掲示をやっているのはEnglish Heritageという、イングランドの歴史的遺産を守る仕事をしている公的な機関なのですが、政府からの活動予算が34%もカットされてしまい続けようがなくなってしまったということです。金額にして1億3000万ポンドから9200万ポンドにまで削られた。なるほどかなりのカットですね。



現在のロンドンには869枚のBlue Plaqueが掲示されています。それによって顕彰されている歴史上の人物はどちらかというと英国人が多いのですが外国人も結構顕彰されています。夏目漱石も入っている。Blue Plaqueで顕彰された歴史上の人物のリストはここをクリックすると見ることができますが、「むささび」でさえ知っている人とBlue Plaqueが掲げられている住宅や建物の住所をいくつか紹介してみます。ほんの一部です。

ベラ・バルトーク
(ハンガリーの音楽家)
7 Sydney Place, South Kensington
アガサ・クリスティ
(推理小説家)
58 Sheffield Terrace, Kensington
マイケル・ファラデー
(科学者)
48 Blandford Street Marylebone
ウィンストン・チャーチル
(政治家)
28 Hyde Park Gate, Kensington & Chelsea
イアン・フレミング
(小説家)
22 Ebury Street
ハインリッヒ・ハイネ
(ドイツの詩人)
32 Craven Street, Charing Cross
アルフレッド・ヒッチコック
(映画監督)
153 Cromwell Road, Kensington & Chelsea
メイナード・ケインズ
(経済学者)
46 Gordon Square, Bloomsbury
ジョン・レノン
(歌手)
34 Montagu Square, Marylebone
カール・マルクス
(哲学者)
28 Dean Street, Soho, Westminster
アマデウス・モーツアルト
(作曲家)
180 Ebury Street, Westminster
オスカー・ワイルド
(劇作家)
34 Tite Street, Kensington & Chelsea
夏目漱石
(文学者)
81 The Chase, Clapham, Lambeth
と、このくらいにしておきます。ロンドンの町を散歩する場合のちょっとした楽しみになるかもしれないですね。

▼このプラークは直径49.5cmの粘土製なのですが、一つ作るのに約1000ポンド(13万円)もするのだそうです。こればっかりは個人的な好みの問題なのですが、このプラークに限らず、英国でちょっとした看板とかロゴマークなどを見ると、どれも「かっこいい」ですよね。色・フォント・形・・・いちばんかっこいいのはサイズだと思うのでありますよ。大きすぎないってこと。周囲との調和が見事なものが多いと思う。

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2)「アジアにとって最も歓迎されざる内閣」
 

The Economistの1月5日号の社説が「日本の外交政策:坂を下る安倍政権」(Japanese foreign policy:Down-turn Abe)という記事を掲載しています。それによると、安倍内閣は「危険な愛国内閣」(dangerously nationalistic new cabinet)であり、"the last thing Asia needs"であるとのことであります。この"the last thing..."というのは、極めて英語的表現で、"Money is the last thing I want"(お金なんて絶対に要りません)、"Fight is the last thing we need right now"(今は喧嘩してる場合じゃないだろ)などと言いますよね。安倍さんが作った新内閣は「アジアにとって最も歓迎されざる存在」と、この社説は言っている。

まず経済政策について簡単に触れていて
  • この内閣には経済改革の推進者がいない。
    It is short of economic modernisers
と言って、構造改革も財政再建はやらないし、TPP(環太平洋経済パートナーシップ:Trans-Pacific Partnership)に参加することもせず、日銀いじめをやって、原子力ムラの大企業のご機嫌をとって原発再稼働に向かう・・・という内閣であるとのことです。

この社説がより強く危惧の念を表明しているのが外交政策です。

安倍内閣を「保守的」(conservative)というよりも、過去の歴史を塗り替えようとする「修正主義的な思い込み」(revisionist obsessions)に凝り固まった内閣であると言っている。閣僚の半数が代々続く政治家の家系の出身者であり
  • さらに悪いことに、閣僚たちは日本を「被害者」と見立てる歪曲された、後ろ向きの歴史観の持ち主である。
    Worse, its members are gripped by a backward-looking, distorted view of history that paints Japan as a victim.
とのことであります。

社説は例えば下村博文文部科学大臣が戦後の時代を「日本が破壊された時代」(history of Japan’s destruction)と定義していること、安倍首相も「戦後レジーム」(post-war regime)の見直しのようなことを主張していることなどを挙げています。The Economistによれば、第二次大戦後になされた日本の経済的な奇跡こそがアジアに平和と繁栄をもたらしたものであり、この奇跡は、ほかならぬ自民党によって運営されたものでもあるはずだというわけです。それを「日本が破壊された」とか「戦後レジームの見直し」などを主張するのは誤っている、と言っているのですね。

安倍さんや下村さんのような「修正主義者」たちの「被害者意識」が危険なのは、日本を取り巻く地域自体に被害者意識に固まった国が多いからであり、安倍内閣は従軍慰安婦問題をめぐって韓国との対立を誘発するであろうし、中国の場合は自らが歴史の塗り替えのようなことをやることで日本との対決を高めようとしているという状況があるからである、とThe Economistの社説は指摘します。

このような安倍政権の誕生によってアメリカの立場も微妙な(awkward)ものになっている。「アメリカが押し付けた憲法」を否定している安倍首相なのに日米関係の深化を望んでいるのですからね。中国との対決では、日本はアメリカの支援を絶対に必要としている。
  • しかしアメリカの(日本への)支援は歴史の書き換えや中国や韓国を挑発するような部分にまで及んではならないだろう。この内閣は厳しい船出であると言える。
    But that should not extend to rewriting history or provoking China (let alone South Korea). This cabinet is a bad start.

というのがこの社説の結論です。つまり日米同盟もいいけれど、アメリカによる日本への肩入れは中国や韓国のことも考えて行うべきだということですね。

▼この社説が発しているメッセージはWe’re all victims now(みんなが被害者)ということであり、被害者意識を乗り越えようということだと思います。中国や韓国、それにほかのアジアの国も、それぞれに「いじめられた」という意識を持っている。日本の中には「欧米にいじめられた」と思っている人がいるし、現在は中国や韓国にいびられていると思っている。被害者意識に凝り固まった人たちは自分たちが被害者を生み出しているかもしれないとは全く考えない。いじめれっ子が「いつかはオレもいじめてやる」と考えているようなものです。救いようがない。けれど、公正かつ自由な選挙で選ばれたのですよね、安倍さんは。

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3)チベットの抵抗
 

1月1日付のLondon Review of Books (LRB)のサイトにNick Holdstockというジャーナリストが"No Middle Way"(中間はない)というタイトルの短いエッセイを寄稿しています。現在のチベットの状況を報告しているものでMiddle Way(中間)の意味については後から説明します。

中国のチベット自治区で中国支配に対する抗議活動として焼身自殺が相次いでいるということは日本のメディアでもそこそこ伝わっていますよね。Holdstockの記事によると、2011年3月から現在までに90人以上のチベット人が焼身自殺を遂げている。最近の例は12月9日、Qinghai(青海省)で16才になる少女が自分の身体に火をつけて自殺したもので、ダライ・ラマの復帰、パンチェン・ラマを始めとする政治犯の釈放とともにチベットにおける中国支配に対する抗議などを叫んでいたとのことです。ここでいう「中国支配」とは、例えば学校におけるチベット語教育の縮小・廃止であり、チベット人以外の中国人のチベットへの移住促進政策などがある。

チベット解放運動のサイト(Free Tibet)には2011年3月以来の焼身自殺者のリストが出ているのですが、10代~20代という若者の自殺者が非常に目立ちます。中国政府は焼身自殺をテロ行為と断定して厳重に禁止しているほか最近では自殺者が出そうな地方政府の建物や寺院の近くに消防車を待機させたりしているのだそうです。

Holdstockの記事によると、1980年代以降、チベット亡命政府は中国政府との間で、チベットが中国の一部であることを認める代わりにより大きな自治を認めるという「中間案」(Middle Way)を示してきており、1987年にはダライ・ラマ自身の発案による「和平のための5項目」(Five Point Peace Plan)が発表されている。その5項目とは次のようなものです。
  1. 現在のチベット全体を平和のゾーンとする。
  2. チベット人の存在にとって脅威となっている、中国によるチベットへの人口移動政策を破棄する。
  3. チベット人の基本的な人権と民主的な自由を尊重する。
  4. チベットの自然の回復と保護するとともに、核兵器の生産および核廃棄物の廃棄場所としてチベットを使うことを止める。
  5. チベットの将来的な地位およびチベット・中国両国民の関係のための真摯な話し合いを始める。
Nick Holdstockによると、これらの5項目は殆ど達成されておらず、チベットは平和ゾーンどころかますます軍事化しているし、中国人による人口流入は続けられている。中国政府がチベット人の基本的人権や民主的な自由を尊重するという兆しは全く見られない。そして
  • チベットの最終的な地位については、中国の新指導部が前任者以上にチベットに「真の自治」を与える気があるとはとても思えない。
    As for the question of Tibet’s final status, it seems unlikely that the new Chinese leadership will be any more willing than its predecessors to grant ‘genuine autonomy’.


    とも言っている。
▼ダライ・ラマによる和平5項目の中にある核兵器生産のための核廃棄物処理施設について、いまから20年前の1993年4月19日付のNew York Timesがレポート記事を掲載しています。それによると、1960年代から70前代にかけて、チベット人が暮らす青海省にある核施設の近辺で子供のガンが多発したり、チベット人が放射能汚染されている肉を食べて死亡するケースが出ているなどと報告されています。

▼チベットについては、むささびの133号135号でも語らせてもらいました。特に135号(チベット問題:在英中国大使の言い分)を読むと、チベットに関する中国人(漢民族)の感覚が見えるように思います。例えば
  • チベットの人々は食料も十分だし、着ているものもいいものだし、住宅だって立派なのだ。こうしたことが、何世紀にもわたる中国の主なる目標であったのだ。チベットは中国東部の都市のように工業化することはないかもしれないが、中国のほかの部分と同じように発展を続けるであろう。

    と在英中国大使は言っている。
▼チベット人が衣食足りているのは中国政府の業績であり、焼身自殺をするのは、自殺する方が間違っている・・・ということになる。

▼ところで私、むささび254号で魚住昭さんのブログに出ていた『中国人留学生の憂鬱』というエッセイを紹介しました。ここで紹介された中国人の女性留学生が、経験のためにというわけで日本の右翼の集会に連れて行かれたことがある。その集会でチベットのことが話題になり、右翼たちが「チベット問題を維持することで中国を混乱させたい」と発言したことに対して、この中国人留学生は「カッときた」のだそうです。そして魚住さんに次のように語ったのだそうです。
  • チベットの人にも失礼でしょ!ただ中国を混乱させたいなんて何で正々堂々と言えるのか。大人としてあり得ない。
▼彼女の「チベット人にも失礼でしょ」というのはどういう感覚で言ったのでしょうか?日本の右翼が、チベット人の苦しみを自分たちの目的(中国を混乱させる)のために利用するということを平気で口にするのがけしからんということだと思うし、彼女の言うことは尤もなのですが、その彼女は焼身自殺という形で中国に抵抗するチベット人のことをどのような目でみているのでしょうか?

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4)大統領の座まで買収しようとした?マードック

 

12月20日付のGuardianに
という記事が出ています。書いたのはアメリカのジャーナリスト、カール・バーンスタイン(Carl Bernstein)。この人は、昔、ニクソン大統領が辞任に追い込まれたウォーターゲート事件に関連して、ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワードと二人で大特ダネをものにした人ですよね。

Guardianの記事ですが、ルパート・マードックが所有するアメリカのテレビ局、Fox Newsが自分たちが望む人物を2012年の大統領候補として担ぎ上げ、全社挙げてこれを応援することで、Fox Newsの息がかかった大統領を誕生させようと試みたというものだった。この情報はワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワードが入手したある録音テープから明らかになり、ワシントン・ポストに掲載はされたのですが、バーンスタインによると、とてもまともな取り上げ方ではなかったというわけです。

Fox Newsが大統領候補として担ぎ上げようとしたのは、元CIA長官のデイビッド・ペトレイアス(David Petraeus)ですが、画策が行われたのはペトレイアスがアフガニスタン駐留米軍の司令官であった2011年春のことです。Fox Newsのロジャー・エイレス(Roger Ailes)会長が、アフガニスタンにいるペトレイアス司令官のもとへKTマクファーランド(K T McFarland)という人物(女性)を「特使」として派遣した。マクファーランドは防衛関係の専門家としてFox Newsにかかわっていたのですが、共和党政権のときに国家安全保障のスタッフとしてホワイトハウスで仕事をしたこともある人だった。

実はこのころ、ペトレイアス司令官はオバマ大統領によってCIA長官に任命されるという噂がひろがっており、Fox News側はこれを阻止して、共和党の大統領候補に仕立て上げようと思っていた。ペトレイアスは結局その年の9月にCIA長官に就任したのだから、Fox Newsの画策も結局は失敗に終わったものです(ペトレイアス氏はその後、不倫問題でCIA長官を辞任)。

アフガニスタンの米軍司令官室でペトレイアス司令官と面会したマクファーランドが司令官との間で交わした会話の一部始終が録音され、それがワシントン・ポストのウッドワード記者の手に入り、12月4日付の同紙に掲載されたわけですが、バーンスタインが批判しているのは、ワシントン・ポストによるこのニュースの扱い方です。娯楽やゴシップ記事が掲載されるページに載せられた。バーンスタインは
  • ワシントン・ポストを始めとするアメリカのメディアがこのストーリーを目立たない扱いにしたのは、ニューズ・コーポレーションの会長(ルパート・マードック)が怖かったからなのか、それとも単に(編集者の)ニュース価値判断が鈍感であったということなのか?
    Did the Washington Post and others underplay the story through fear of the News Corp chairman, or simply tin-eared judgment?
というわけで、本来なら第一面に掲載しなければいけないネタであったと言っている。

ウッドワード記者が入手したテープに録音されたマクファーランドとペトレイアス司令官の会話はワシントン・ポスト紙のサイトに音声と文字でそのまま掲載されているのですが、会話は次のように始まっている。
  • クファーランところであなたにお伝えしなければいけないことがあるんです。ロジャー・エイレス(会長)から直接伝えるうに言われたことなのですよ。
    I’ve got something t
    o say to you, by the way, directly from Roger Ailes.
  • ペトレイアス:へえ・・・ここには誰もいない方がいいってことですか?いても構いませんか?
    Oh, at...with no one else in the room? I hope?
  • マクファーランド:ええ・・・まあ・・・分かりますよね?(司令官の部下たちに)あんたたち、耳が聞こえます?それとも聞こえない?聞こえない?では結構。結構です・・・つまり・・・私がロジャーに言ったのは・・・
    Well, you know...? You guys have ears? Or your ears are dead? No. Okay.
このあとマクファーランドがFox Newsによる報道の仕方などについてペトレイアスの意見を聞いたりしながら過ごすのですが、最後の最後で次のような会話になる。ちょっとくどいけど我慢してください。
  • ペトレイアス:彼(ロジャー・エイレス会長)に言ってください。もし私が候補者として出るとしたら(笑い)、でも出ませんけどね・・・
    Tell him if I ever ran [laughs] but I won’t....?
  • マクファーランド:分かってます、分かってますよ。
    Okay, I know. I know.

  • ペトレイアス:でも万一出るとすれば、彼の提案どおり彼を(選挙参謀に)登用します、と。
    But if I ever ran, I’d take him up on his offer.
  • マクファーランド:オーケー、了解しました。
    Okay. All right.
  • ペトレイアス:会長はFoxを辞めると言っていた。
    He said he would quit Fox.
  • マクファーランド:そうなんです。で、(あなたの立候補を望んでいるのは)会長だけではないのですよ。
    I know. Look, he’s not the only one.
  • ペトレイアス:それに資金の面倒も見る、と。
    And bankroll it.
  • マクファーランド:資金ですか?(笑い)
    Bankroll it? [Laughs]
  • ペトレイアス:ひょっとするとルパート(マードック)のことと勘違いしているかもしれない。いや(そんなことはない)(笑い)
    Or maybe I’m confusing that with Rupert. No. [Laughter]
  • マクファーランド:私は会長のことを知っています。彼は大丈夫ですよ。ただ資金の面倒を見るのはビッグ・ボスの方だと思いますね。
    I know Roger, he’s done okay, but ... no, I think the one who’s bankrolling it is the big boss.
  • ペトレイアス:そうかもな。
    That might be it.
  • マクファーランド:ということで、資金の面倒はビッグ・ボスの仕事、と。ロジャー(会長)の仕事は(選挙運動の)運営です。そしてあとは全員、あなたのスタッフというわけです。
    Okay. The big boss is bankrolling it. Roger’s going to run it. And the rest of us are going to be your in-house.
  • ペトレイアス:なるほど。分かった。
    Yeah, right. Okay.
  • マクファーランド:では、これで全員準備完了ということで・・・
    We’re all set...
  • ペトレイアス:そんなことには絶対ならないよ。あんただって知っているでしょう。絶対にない。
    It’s never going to happen. You know it’s never going to happen. It really isn’t.
  • マクファーランド:分かってます。絶対にない、ですよね。
    I know it’s never going to happen.
  • ペトレイアス:そんなことしたら家内に離婚されてしまう。
    My wife would divorce me.
  • マクファーランド:ですよね。
    Right.
  • ペトレイアス:家内を愛しているのだよ、私は。
    And I love my wife.
この会話中、マクファーランド女史が何度も強調したのは、自分はFox Newsの会長から「直接」言われてきたのだということだった。このことを聞かれもしないのに伝えています。さらにこの会話の内容については「直接、会長にのみ報告することになっています。それが約束ですから」(I'm only reporting this back to Roger. And that's our deal)とも伝えている。

ところで、マクファーランド女史を特使としてペトレイアス司令官のところへ派遣した(ことになっている)Fox Newsのロジャー・エイレス会長は、ワシントン・ポストの取材に対して
  • あれはちょっとしたジョーク。私なりのしゃれですよ。予備選挙で共和党を引っ掻き回す必要があると思ったんでね。そのためにはペトレイアスあたりが格好の候補者かと思ったわけだ。
    It was more of a joke, a wiseass way I have. I thought the Republican field [in the primaries] needed to be shaken up and Petraeus might be a good candidate.

    と述べたのだそうです
Guardianに掲載されたバーンスタインの記事に戻ると、彼はこの記事はワシントン・ポストの第一面に載せるべきものだったと考えており、ゴシップ面に載せたのは間違いだと思っているのですが、このあたりのことについて、ワシントン・ポストの編集局長(managing editor)は
  • ボブ(ウッドワード)の記事はすごい特ダネだった。メディアについてのうるさい記事だった。ただあれは一面に掲載するような幅広い重要性はなかったということだ。
    Bob had a great scoop, a buzzy media story that made it perfect for Style. It didn't have the broader import that would justify A1.
と述べている。そのことについて、バーンスタインは「ニュースの価値判断が間違っていた」(failure of news judgment)と批判しています。

▼マクファーランドとペトレイアスの会話が何月何日に行われたのかは報道されていないし、ウッドワード記者がこのテープを誰からどのようにして入手したのかも分かっていません。ただこれが「ゴシップ欄」とはいえ、ワシントン・ポストに掲載されたのだからウソではない。ゴシップ欄に掲載されたウッドワード記者による記事ここをクリックするとよむことができます。また録音テープここをクリック、テープに録音された会話のテキスト(文字)ここをクリックするとそれぞれ読んだり、聴いたりすることができます。

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5)対EU:世論とアメリカの板挟み
 
1月9日付のBBCの「英国(UK)」ページのトップに
  • UK risks 'turning inwards' over EU referendum - US official
という見出しが踊っています。アメリカの高官が「英国におけるEU関連の国民投票によって英国が"内向き"になる危険性がある」と発言したという記事です。これはロンドンを訪問しているアメリカ国務省のフィリップ・ゴードン(Philip Gordon)次官補(欧州担当)が記者の質問に答えてコメントした内容を伝えるものです。

英国では次なる総選挙は2015年5月ですが、新政権誕生後にEUとの関係をめぐって国民投票が行われるとされています。むささびジャーナル256号でも紹介したとおり、要するに「このままEUの加盟国であり続けるのか、脱退するのか」をテーマにした国民投票なのですが、むささび256でも紹介したとおり、キャメロンとしては加盟を続けるがその方法やEUの在り方などについて注文を出すと言っている。しかし保守党内部には脱退論を言い張る議員もかなりいるし、世論調査でもそのような意見強い。

このような状況を背景にキャメロンが今月中にこの問題について演説を行うことが予定されています。最初に紹介したアメリカの国務次官補の発言もそのような状況の中で行われたものとして考える必要があるのですが、ゴードン次官補の発言は、アメリカ政府が英国の対EU関係について明らかにした初めての公式見解でありとして注目されるわけです。アメリカの考え方は次官補の次のコメントに要約されています。
  • アメリカは英国が加盟した外向きのEUを歓迎しており、EUが一つの声に統一され、EUが世界とヨーロッパにおける我々が共有する利害をしっかり見つめるようになってこそ利益になるのだ。アメリカはそのようなEUの中で英国が強く自らを主張することを望んでいる。それこそがアメリカの国益にかなうというものだ。
    We welcome an outward-looking European Union with Britain in it. We benefit when the EU is unified, speaking with a single voice, and focused on our shared interests around the world and in Europe. We want to see a strong British voice in that European Union. That is in the American interest.
要するに英国に対して「EUにとどまれ。できれば国民投票も止めた方がいい」と言っているわけです。キャメロンはEU脱退を支持する世論とそれに反対するアメリカの板挟みという感じなのですが、BBCのロビンソン政治部長は、数週間後にキャメロンが行う演説の原稿作りが非常に難しいものになっているし、内容によっては「物議をかもす」(controversial)ことになるかもしれないと言っています。

▼ゴードン次官補の発言については賛否両方の反応があるけれど、ちょっと興味深いのは、EU脱退論の最先端を行く英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ(Nigel Farage)党首の次のコメントです。
  • 我々はベトナムについてはアメリカに対してノーと言ったのだ。英国民が自分の意見を言うとすれば、EUのことについてもアメリカに対してノーと言うであろう。
    We said no to America over Vietnam and we'll say no to them over the EU if the people get their say.
▼1960年代の半ば、アメリカがベトナム戦争にのめりこんでいたときに英国のハロルド・ウィルソン労働党政権はこれに参加しなかったことを指しているのですが、いま英国人にベトナム戦争は正しかったか?と聞けば、ほぼ100%の人が「間違っていた」と言うはずです。でもベトナムとEUでは話題が全く違う。なのにアメリカに対して「ノー」と言ってみたい国民感情に訴えているわけで、こういうのを「受け狙い」というのでしょうね。英国版石原慎太郎みたいなもので、「ノーと言える英国」ってか!?

▼英国は大西洋を挟んで、日本は太平洋を挟んでアメリカと付き合っており、お互いの背後にある「大陸」との関係で悩んでいます。アメリカにとって英国との付き合いも大切だけれど、EU諸国との付き合いの方がもっと大事であるわけです。つまりアメリカは「EUの中に存在する英国」「EU諸国と相通ずる国」だから仲良くする意味があると思っている。EUから独立した英国では困るのです。

▼アメリカはアジア大陸(中国や韓国)との付き合いの中で日本を見ているのですよね。本当なら中国と対立などしたくないし、北朝鮮ともうまくやっていきたいと思っている。なのに日本は中国とは対決姿勢をとっている。あろうことか日米同盟を頼りにして、です。そのような安倍さんの発想はアメリカにとっては「いい迷惑」なのでは?その安倍さんのさらに右側にいる慎太郎さんは日米同盟も破棄して独立・核武装を望んでいる。

▼アメリカにしてみれば、EUや中国と直接うまくやっていけるのであれば英国も日本もどうでもいい存在なのかもしれない。第二次大戦後、大英帝国ではなくなった英国は世界の「英語国」(特にアメリカ)と親しくすることで繁栄してきた。ヨーロッパ諸国とはビジネス・パートナーとしての付き合いはしたいけれど、それ以上の深入りは勘弁してほしいということです。このあたりが日本とは違うかもしれないですね。


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6)詰め込み教育を推進?
 
キャメロン内閣の中で2010年の就任以来、誰でも学校を興せるFree School計画の推進を発表したり、これまでの公立学校における全国テストのやり方に文句をつけたりして、最も目立っていると同時に保守党内の保守派の拍手を浴びているのがマイケル・ガブ(Michael Gove)教育大臣です。この人が2012年11月に行った"In Praise of Tests"(テストを賛美する)というタイトルの演説が注目を浴びています。
  • Learning facts by rote should be a central part of the school experience.
    事実を暗記して憶えることが子供の学校生活の中心であるべきだ。
というわけです。英国の教育制度はしょっちゅう変わっているので、正直言って私(むささび)にもよく分からないのでありますが、5才から11才が「初等教育」、11才から16才までが「中等教育」でここまでが義務教育です。中等教育が終わるときに全国統一のGCSE(General Certificate of Secondary Education)という試験がある。中等教育修了資格試験というわけですが、この成績がよくないと大学進学が難しくなる。然るべき水準以上の点をとれたら、さらに2年間の中等教育を受け、2年後にA-levelのテストを受ける。これに受かると希望の大学へ進学できる。

で、マイケル・ガブ大臣がやり玉にあげているのが、このGCSEとA-levelです。易しすぎるというのです。大臣によると
  • 難しい試験にすれば、生徒たちは準備のために大量の事実やコンセプトを暗記しなければ受からなくなる。それによって子供たちのやる気が引き出され、しっかりした知識が身に付き、教育水準が向上することは間違いない。
    Competitive, difficult exams for which pupils must prepare by memorising large amounts of facts and concepts will promote motivation, solidify knowledge and guarantee standards.
というわけですね。この演説における大臣発言のポイントと思われる部分をいくつかピックアップすると;
  • 人間はチャレンジすることに生きがいを覚えるようにできている。自分にはできるはずがないと思っていた難関を克服することで自信が生まれる。
    Humans are hard-wired to seek out challenges. And our self-belief grows as we clear challenges we once thought beyond us.
  • 試験が難しいものであり、パスするためには一生懸命準備しなければならないということが分かっていると、克服不可能と思っていたハードルを超えるという体験によって、さらに努力してもっと深く学ぼうと思うようになるものだ。
    If we know tests are rigorous, and they require application to pass, then the experience of clearing a hurdle we once considered too high spurs us on to further endeavours and deeper learning."
  • 暗記は理解のための必要前提条件だ。
    memorisation is a necessary precondition of understanding.
要するに「詰め込み教育を推進しよう」と言っているとしか思えないわけですが、大臣の「暗記がイチバン」という発想の根拠になっているのが、Daniel Willinghamというアメリカの心理学者が書いたWhy Don't Students Like School?(生徒はなぜ学校が好きでないのか!?)という本で、「子供の学びには暗記と繰り返し(memory and routine)がベスト」という考え方を科学的に証明しているとされている。

ガブ大臣のこの発想について英国教育学会(The Institute of Education)のカリキュラム研究局長(Jacek Brant)は次のようにコメントしています。
  • 暗記は教育、特に小学生教育においては重要な部分を占めている。掛け算の表(times table:日本でいう九九)を暗記するなどがそれにあたる。しかし中学レベルにおける暗記教育には問題がある。中学レベルの教育では常に事実の意味・状況・コンテキストを知る必要がある。それを知らないで暗記だけを強調すると生徒の学問は貧しいものになるだろう。
    Memorising facts is an important part of education, particularly in primary schools with things such as times tables. But the problem with rote learning in a secondary school setting is that you need to understand context. if there's no meaning, no understanding of any benefit, then pupils' learning will be poor.
Brant局長によると、例えば歴史上の出来事の年代、都市の名前、川の名前などをただ丸暗記するのは望ましいとは言えない。それらの「事実」が持つ社会的な意味とか時代背景などを知ることによって、それぞれの事実の大切さが分かり、より良く理解する(learn them better)ことに繋がるというわけです。

実はガブ大臣の「暗記のすすめ」が発想の根拠としたとされる、アメリカ人心理学者のWillingham教授自身も、ガブ大臣の演説原稿を読んだうえで「事実についての知識は重要だ」としながらも「幅広い文脈の中で事実を理解する(understanding)のがベスト」として
  • テストをあまりにも重視しすぎて、テストだけが生徒の進歩をはかる物差しのように思われてしまうと、学校が生徒に暗記だけを教えることを奨励するようになってしまう。
    an over-emphasis on tests, particularly if these were seen as the only gauge of progress, could encourage schools to teach students by rote.
と言っています。

教授によると、2001年のブッシュ政権のころに小中学生の教育水準(特に英語と数学)を向上させることを目的としてNo Child Left Behind Act(どの子も置き去りにされない法)というのができたのですが、学校に対してそれまで以上にテストの回数が増やすことを義務付けたのだそうです。結果として生徒にいい成績をとらせるために事実だけをひたすら生徒のアタマに叩き込むという教師が出てくるようになった。犠牲になったのは自分のアタマで考える批判的思考(critical thinking)で、本来ならcritical thinkingをやりながら憶えた方が効果的であるにもかかわらずこの部分が犠牲になってしまった。
  • 批判的思考によるテストができたら素晴らしいと思いますよ。でもどうやってテストするのかを我々が知っているのでしょうか?実際には知らないのです。そうなるとテストと言えば事実をどのくらい知っているかというだけのものになってしまうのです。
    The thing about testing is, yes, we'd love to test critical thinking, if we knew how to test critical thinking. But we really don't. So what we tend to do is test factual knowledge.
要するにアメリカでも同じようなことをやってきたけれど思ったような成果は上がっていないということのようで、Willingham教授は、ガブ大臣がアメリカと同じ失敗に終わるということを心配しています。

▼日本において最近の潮流となっている(ように見える)「ゆとり教育反対」論のような感じですね。この記事だけを読むと、ガブ大臣の「詰め込み教育」の促進もそれほどメチャクチャなものではないように聞こえます。小学生が身につける九九は暗記そのものです。コロンブスがアメリカ大陸を発見したのが1492年であることを「新大陸はイシノクニ(1492)」という憶え方で知っていることは、知らないよりはいい。外国語の習得だって基本的には暗記の世界ですよね。

▼ガブ大臣は1967年生まれ、オックスフォード大学の出身なのですが、キャメロンのようにお金持ちの家庭に育った「イートン族」ではありません。どちらかというと普通の家庭に育ったけれど、やたらにアタマが良くてしかも勉強家というわけで奨学金を得て私立学校に通ったような人です。だから「出来の悪いやつ」というのが理解できないのかもしれないし、現在の公立学校における教育が出来の悪いレベルに合わせた「平等主義」のようなものがはびこっているように思えるのかもしれない。

▼ただこの大臣(および彼を熱烈に支持する人たち)が「暗記教育」を云々するのは、英国の子供たちの教育レベルを外国と比較して「もっと学力を上げなければ競争に負ける」という思い込みがあるように思える。BBCとのインタビューでもガブ大臣は、外国(特にアジア諸国)との教育競争についていけるようにすることを強調しています。しかしThe Economistの発行元であるPearsonグループが最近まとめた世界の教育制度のランキングでも、英国はフィンランド、韓国、香港、日本、シンガポールに次いで第6位です。フィンランドを除けばヨーロッパでは一番です。それほどヤイヤイ言うほどの低レベルとは思えない。

▼となると、彼の暗記教育推進論も、アタマのいいジャーナリスト出身の政治家による教師・教育委員会いびりの一環にすぎないのではないかと思えてくる。英国人たちは本当に韓国や日本のような教育のあり方を見習いたいと思っているのか?BBCのサイトでも「教育大国・韓国」を示すものとして、親たちが道ばたにアタマをこすりつけるようにして子供が試験に受かるように祈っている様子を写真で紹介しています。英国の親たちは本当にあのような「教育熱」を望んでいるのか?私には疑問です。マーガレット・サッチャー以来、英国の教師たち(特に公立学校の教師たち)は常に政治家とメディアからの批判にさらされて来ています。が、世論調査をやると、常に教師は「信頼できる職業人」のベスト3に入る(メディアと政治家は常に最下位争い)のはなぜなのか?英国の教育についてはもっと知る必要があると思います。「教育論議」も含めて、フィンランドや韓国よりも、はるかに日本に多くのことを教えてくれるような気がします。

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7)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 
striptease:ストリップ

女性が裸になって踊るあれ、ストリップのことです。ストリップをする人はstripperということもあるしstripteaserということも。その昔、ロンドンにPhyllis Dixey(1914~1964年)というストリッパーがいた。戦前から戦後にかけて「ストリップの女王」(Queen of Striptease)としてその名をはせたのだそうです。そこでこの人を顕彰しようと、ロンドンのBlue Plaqueを主宰しているEnglish Heritageが動いたのですが実現しなかったということがある。

ロンドン郊外のSurbitonというエリアにDixeyが生前暮らした3階建のアパート(Wentworth Court)があり、English Heritageが彼女のことをBlue Plaqueで顕彰するために
  • Phyllis Dixey 1914 to 1964, Striptease Artiste lived here in flat number 15(ストリップ芸人、Phyllis Dixeyが15号室に暮らしていた)
という文章を用意して住民の了解を取り付けようとした。一昨年(2011年)のことです。これに住民が大反対。「ストリップ芸人が住んでいたなんて、通行人が見たらびっくりしますよ」(It would certainly raise the eyebrows of passers-by)というのが反対の理由です。Stripteaseなんて、「ストリップ劇場と間違えられるかもしれない」などと言い出す住民も出てきたりして、結局この企画はぽしゃってしまった。もったいない・・・。

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8)むささびの鳴き声
▼2020年のオリンピックを東京で開催しようというわけで、猪瀬都知事がロンドンで記者会見を行ったというニュースがありました。英国のメディアではBBCGuardianIndependentのサイトに記事が掲載されていました。なぜかTelegraphとDaily Mailのサイトには(私が見た限りでは)出ていませんでした。両方ともどちらかというと保守党的な新聞です。BBCのサイトではBusinessのページで報道されていたのは何故なのか?

▼記者会見の内容は日本のメディアでも伝えられていると思うので、ここで紹介することはしませんが、やはり2011年3月11日の大震災と原発事故(それに悪化する中国との関係)がハンディになるのではないかという質問が出されたけれど、猪瀬知事は「東京の放射能はロンドンと変わらない」などと答えています。中国との関係については猪瀬さんのコメントは何も出ていませんでした。

▼放射能の不安はあるし、五輪の最中に大地震に見舞われないという保障はない。そんな都市で開催なんて大丈夫なのか?という当然の問いに対しては「東京の放射能はロンドンと同じ」というのも一つの答え方だろうとは思うけれど、このような大惨事を経験した都市が五輪を開催することで「同じような困難に直面する世界の人々に希望を与えたい」という意味のことを言っても良かったのでは?「日本人のためだけではありません」というメッセージです。東京の五輪招致については英国のSeven46というPR会社がメディア広報の担当として雇われているとGuardianは伝えています。

▼東京以外にマドリード(スペイン)とイスタンブール(トルコ)が立候補しているのですが、五輪予算は東京が49億ポンド(6370億円)、マドリードがそのざっと3分の1(17億ポンド)、イスタンブールは東京のおよそ2・5倍(132億ポンド)なのだとか。これはあくまでも「現在の見積もり」です。ロンドンの場合、最初は24億ポンドと言っていたけれど最終的には90億にまで膨らんでしまったのですよね。

▼(話は飛びますが)1月2日付のBBCのサイトでアメリカの歌手、パティ・ペイジが85才で亡くなったことを知りました。この人の「テネシー・ワルツ」(Tennessee Waltz)は1948年に、いわゆる流行歌(popular song)として作られたけれど、パティ・ペイジが歌って大ヒットしたことから1965年にテネシー州の州歌になったのですね。尤もアメリカの州歌は州によっていくつもあるところがあるらしい。テネシー州の場合、テネシー・ワルツ以外に8つもあるのだとか。これ以外の州歌でポピュラーなものとしてはジョージア州のGeorgia on My Mind、ルイジアナ州のYou Are My Sunshine、ケンタッキー州のMy Old Kentucky Home、カンザス州のHome on the Range(峠の我が家)などがある。

▼日本の場合でもそれぞれの県には「県の歌」のようなものが一応あるんですね。例えばわが埼玉県の歌は「秩父の雲の むらさきに・・・」で始まって「おお 埼玉 埼玉 輝く埼玉」で終わる。泣けてきますね。東京はどうか?現在の東京都歌は昭和22年に作られたもので「あさみどり とぶはとの・・・平和のしるし ちからにみちて きょうもあけゆく」と平和を希求する内容です。作詞は「原田重久」という人によるそうなのですが、恥ずかしながら私は知りません。ただ作詞を「補作」した人として深尾須磨子さんの名前があります(「補作」ってなんだか分かりませんが)。

▼で、日本広しと言えども「県歌」のたぐいが「未制定」となっているところが一か所だけあります。どこでしょうか?そうです、あの維新の会の大阪府で~す!ウィキペディアによると、地元のスポーツチームの応援歌などが「県民歌的存在」と言われることがある・・・というわけで、大阪府や兵庫県の場合はあの「六甲おろし」(阪神タイガースの応援歌)がそれにあたるとされています。でも私のつたない知識によると、六甲山は兵庫県、甲子園球場も兵庫県(西宮市)にあるんじゃなかったっけ?親会社の阪神電鉄の本社が大阪にあるというのが繋がりと言えば言えなくもないけれど、この歌の場合、最後が「阪神タイガース フレ フレフレフレ!」となっている。大阪府民の中にはジャイアンツ・ファンだっているはずで、「なんで"タイガース フレ フレ"やねん、なめんとのか!」と怒鳴り込んでくるかもしれないし、オリックスのファンだって「あてらは、大阪から出て行けということでっか?」と嫌味を言う可能性だってある。球団事務所も京セラ・ドームも大阪にあるんですからね。この際、しっとりと都はるみの「大阪しぐれ」あたりがよろしいんじゃありません?

▼例によって無駄話の度が過ぎてしまいました。ついでにもう一つだけ。パティ・ペイジと同じような年代の歌手としてドリス・デイがいますね。1924年生まれでほとんど90才、まだ生きているのだそうです。『センチメンタル・ジャーニー』『ケ・セラセラ』等々、パティ・ペイジよりもヒット曲が多かったように記憶しています。すごい歌手でしたよね。
ことしもよろしくお願いします。

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