musasabi journal

第20号 2003年11月16日
home backnumbers uk watch finland watch green alliance
美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
先日BBC World Serviceを見ていたら、これからイラク情勢についての分析をしていました。本来なら1)イラクに民主政府を確立する、2)その政府に権限を移譲する、3)アメリカ(と英国)は出て行く、という順序になる予定でいたのが、現在の様子では1)まずイラク国民に権限を与える、2)アメリカが出て行く、3)民主政府の確立はイラク人によってなされる・・・というシナリオに変わっているとのこと。で、このシナリオの危険性はというと1)の時点でイラク国内の権力闘争が起こるであろうということで、そうなると民主政府なんて夢のまた夢・・・。

このジャーナルも発行以来ついに20号を迎えてしまいました。20号ともなると、単なる道楽というよりも・・・やっぱり道楽か!?最初の頃に(まだイラク戦争が起こる前)アンソニー・サンプソンというジャーナリストのエッセイを紹介しました。その中で彼が指摘した危険性は「イラクの現政権を倒すとイラクという国家そのものが存在しなくなる」ということでありました。サンプソンは現在のような状況のことを言っていたのでしょうか?

目次
①イングリッシュオークの周辺・鹿児島県指宿市「甦るか、縄文の森」
②花の名前(むささびジャーナル20号記念)
③勝てっこない保守党
④快楽欠乏症候群
⑤むささびJの受け売りフィンランド<フィンランド七つの「神話」>
⑥むささびMの<お母さん達のやり直し英語クラス>
⑦編集後記


1)イングリッシュオークの周辺・鹿児島県指宿市「甦るか、縄文の森」
人口3万人の鹿児島県指宿市の中心部にあるセントラルパークというところに日英グリーン同盟のイングリッシュオークが植えられたのが2002年5月11日。「英国大使館からクリス・トロット一等書記官や田原迫要市長が植樹式に参加した」と5月16日付けの南日本新聞が伝えています。イングリッシュオーク植樹の主催者は「縄文の森をつくろう会」という市民組織で、この会の会長は市内で耳鼻咽喉科を開業されているお医者さん。彼の見るところによると「郷は死につつある(our beloved home town is dying…)ということなのですが、そうはさせないという人たちがいることも事実のようです。詳しくはここをクリックしてください

back to top


2)花の名前(むささびジャーナル20号記念)

英語のジョークを日本語に直して、しかも笑わせる・・・これ、至難の技ですよね。最近、私が思わず吹き出してしまった漫才風の冗談を紹介します。まずは英語、続いて私の翻訳。
  • An old man and woman had dinner at another elderly couple's house. After eating, the two old men were left talking.
    "We went out to a very nice restaurant last night," said the first.
    "Really?" said the second. "What's the name of the restaurant?"
    The first man knitted his brow in obvious concentration and finally said: "Aahh, what is the name of that red flower you give to someone you love?"
    "A carnation?"
    "No, no. The other one," the man says.
    "A poppy?" "Nahhhh," growls the man. "You know - the one that is red and has thorns."
    "Do you mean a rose?"
    "Yes! That's it!" says the first man. He turns toward the kitchen and yells: "Rose, what's the name of that restaurant we went to last night?"

    ある老人夫婦が友人(これも老人夫婦)の家へ夕食に呼ばれた。食事が終わって、ご夫人二人は台所へ。じいさん二人がリビングルーム(だと思う)で次のような会話をした。
    「昨日の夜、あたしら夫婦でレストランに行ったんだけど、あそこは良かったな」
    「そうかい。なんて名前のレストランだった?」
    「ええと・・・」と言って眉毛をひねりながら一生懸命、思い出そうとする。
    「ええと、あの花の名前はなんだっけ?好きな人にあげる赤い花さ・・・」
    「カーネーションか?」
    「ちがう。カーネーションじゃない」
    「ポピー?」 「ちがうってば。ポピーなんかじゃない。ほら赤くてトゲがある・・・」
    「ロ-ズ(バラ)のことかい?」 「そ、それだ!ローズだよ!」と言うなり、この老人、台所へ向かってこう叫んだ。「おい、ローズ、きのう行ったあのレストランの名前、なんだっけ!?」

いうわけなんですが・・・。面白くないか、やっぱり....
back to top

3)勝てっこない保守党
英国保守党のイアン・ダンカンスミス党首が不信任され、次なる党首にはマイケル・ハワードという人(サッチャー、メージャー両政権で閣僚をつとめたことがある)が就任しました。ダンカンスミスについては「指導力がない」「管理能力がない」「戦略能力がない」など散々な評判だった。最近のThe Economistは「次なる党首が誰になろうと、現在の保守党が抱えている問題はもっと根が深く、これを解消しない限り政権にはつけない」としています。

根が深い問題って何なのか? まず挙げられているのが党員の問題で、約25万人いるのですが、その平均年齢がなんと65歳を超えているのだとか。しかも90%がイングランド南東部の「富裕地域」に住んでいる人で占められている。「英国の大都市の多くが人口衰退の道をたどっているとはいえ、やはり若い層の人々は都会で暮らしており、彼らが英国の将来のトレンドセッターであることに変わりはない」として保守党が「英国の現実」から余りにもかけ離れた党になっているとしています。

保守党が如何に都会に弱いかを示す数字としてバーミンガム、マンチェスター、リーズなどロンドン以外の大都市の選挙区で保守党議員はゼロであることを指摘しています。ロンドンにおいてさえも2001年の総選挙で保守党が勝ったのは74選挙区のうちたったの13選挙区。なるほどこれじゃ勝てない。

とはいえ最近の労働党政権は公共サービスの向上とか教育・保健・税制などの分野での人気が落ちてきているので、そのあたりを突けば保守党にもまんざら未来が全くないということでもない、とThe Economistは言っています。が、これまでに160議席以上の差をひっくり返して政権についた党は英国の歴史上一つもない。ということは保守党が勝てるとしても次の次の選挙ということらしいです。英国における次なる総選挙は2005年だったと思います。

ということは保守党の政権返り咲きは早くても2009年ごろということになる。「英国には健全な野党が必要だ」とは最近のブレア首相のコメントですが、余裕がなければこんな発言は出てこない。

back to top


4)快楽欠乏症候群
英国における世論の動向を示す調査で、よく雑誌や新聞で使われるYouGovという機関が近頃2000人の英国人を対象に行った調査によると、英国人の間に「快楽欠乏症候群」(Pleasure Deficiency Syndrome)とでも言うべき兆候が見られるのだそうです。 何のことかというと、要するに「好きなことをやるのは良くない」という罪の意識とか、鉄のような自己規律意識が蔓延していて、何やら世の中全体が信仰心の厚いピューリタン社会、禁欲主義社会のようになりつつあるということですね。

例えば好きなチョコレートは食べない、読みたい雑誌は読まない、好みの飲み物は口にしない等など。 YouGovによると、問題はそのような禁欲主義的的ライフスタイルが、労働の生産性を下落させ、友人関係・男女関係をダメにする働きをしているということです。

「好きなことをやらない」理由は何かという問いに対して27%が「費用が高くつく」、26%が「考えたことがない」と答えているのに対して、一番多かったのが「自己規律を守っているのだ」と答えたそうです。 「毎日好きなものを食べ、好きなものを飲んでいる」と答えた人はわずか8%。誕生日とか会社で昇進したとかのお目出度いときでも「はめを外して楽しいことをする」という人もたったの12%。しかも全員が「好きなことやれたらいいだろうな」と思っているにも拘らずやらないという結果が出ている。

女性の人間関係に詳しい心理学者のリンダ・パパドポラスという人によると「快楽欠乏症候群」(略してPDS)の特徴として「仕事における疲労感と退屈感、人生における無力感」なのだそうです。この先生は「常日頃から快楽を十分に楽しんでいないと、人間どこか調子がおかしくなる(malfunctioning)」と言っています。

以上の調査と同時に15人のボランティアを使って彼らの家庭における生活の一部始終を1週間、ビデオで記録することをやってみたのだそうです。その結果、記録され時間の69%を「やりたい」ことではなくて「やらなければならない」ことのために過ごし、「楽しいことをやる」ために過ごした時間は31%であったのだそうです。となると、その69%は本当は「やりたいこと」をやったのでは?と思えないでもないのですが、このビデオ実験によると「やりたいこと」についての話をしているときの方が友情がより強いものになったとされています。

back to top


5)むささびJの受け売りフィンランド<フィンランド七つの「神話」>
フィンランドと言えば、最近の世界経済フォーラムの報告でも世界で一番「競争力がある」国とされていますし、教育水準も世界一、情報化も世界一・・・いいことばかりのようです。が、日刊紙のHelsingin Sanomatは11月11日つけの紙面で「フィンランドに関する7つの神話」というタイトルの記事を掲載、異なる統計を使って、フィンランドの違う面を語っています。いくつかを紹介すると・・・。

フィンランドは安全で国民は長寿である というのは間違い。

フィンランド人の平均寿命は世界で30位なのだそうです。しかしそれよりも問題なのはフィンランド人の「死に方」にある。この新聞によると戦争もしくは”暴力”で命を落とす人の割合10万人に20人以上で、フィンランドが西側先進国では一番なのだそうです。意外に思えますが、この数字には「自殺」も入っている。フィンランドの場合、特に男性の自殺が多く、昨年で824人。この数字はフィンランドにしてみれば低い方なのですが西欧では一番。

フィンランドは保健に費やす予算が高い

というのも間違い。GDPに占める健康保健関係の投資額でフィンランドは世界30位にも入っていないのだとか。レバノン、ケニヤ、スロベニアよりも低いと同紙は伝えています。GDPに占める保健関係の支出は7%以下(2000年の数字)という状態がここ10年ほど変わっていないのだそうで、「道理でフィンランドの看護婦の給料が安いはずだ」と伝えています。さらにフィンランドにおいては病院の費用を患者が自分で払うケースも多く、医療に費やされた金額の20%が個人負担からのものであるとされています。またOECDの数字によると貧乏人よりも高給取りの方が医者を利用することが多いという結果が出ているそうで、医療面での「不平等」ではアメリカ、ポルトガルに次いで悪いそうです。にも拘らずフィンランド人は他のEUの国民よりも医療面では満足しているという数字が出ているそうです。

フィンランドは世界で携帯とパソコンが最も普及している国

というのは数年前まではそうだったかもしれないけれど、携帯普及率は現在では世界で10番目なのだそうです。さらにパソコンの普及率は100人に42人で「アメリカの100人に62人には遠く及ばない」とHelsingin Sanomatは言っていますが、100人中42人がパソコンを持っているというのは随分高い数字に思えますが、日本はどのくらいなのでありましょうか?

これらのほかに「フィンランド経済は世界で一番効率的」「フィンランド政府は借金だらけ」「フィンランドでは労賃が高い」「フィンランドには移民が増えている」などが「間違い」として挙げられていますが、全部やると長くなるのでやめにしておきます。

back to top
 

6)むささびMの<お母さん達のやり直し英語クラス>
私が英語を教えている小学生の子供たちのお母さんから、英語をやりたいという声があがり、今年の7月から週一回母親の英語クラスをやることになった。それぞれの人に異なる英語歴と英語に対する興味の違いがあるので、全員の向学心を満たしてあげられる内容を果たして私が提供できるかどうか、少々ためらいもあったが「試み」としては非常に興味があったので、とにかくやり始めることに決めた。

日本人で英語に興味のある人は必ずといってよいくらい「会話をやりたい」と言うのだが、私には「会話」を教える技術が自分にあるとは思えない。母国語である日本語でさえ、「会話を教える」能力となると、いささか首をかしげてしまう。何をもってして「会話を教える」と言うのか分からないからだ。

自分自身の経験から考えても、会話力を身に付けるために会話だけをやってきたとは思えないことと、日常会話でよく使われる文というのは実は中学校の3年間で習うような簡単な文が多いということを、常々感じていたのでこの際中学の英語のテキストに焦点を当てて、もう一度学校時代とは違ったやり方でそれをやり直してみるというアプローチで試みることにした。

違ったやり方と言うのは、
  • 1)教科書の文をモデルに日常生活の場面で使いそうな文をなるべく沢山作って(いわゆる英作文の訓練である)実際に声を出して言ってみること。

    2)とにかくやっていて楽しいものにすること(学校の英語の時間にはないentertainmentの要素を重視)。

    3)日本語を媒介語として多いに利用すること(但し訳語としてではない)。

    4)今の自分の実力より少し上のある程度まとまった英文を耳で聞いて把握する訓練(dictationを含む)をすること。
今のところこの四つである。 日本の中学・高校の英語の時間では、習った構文を使った自由英作文を生徒に一体どれ程やらせているだろうか、、。おそらくほとんどゼロではないかと思う。これでは習ったものを使いこなせるようになる筈が無い。日本語を活用した練習法というのは、コミュニケーションの立場で考えてみると分かるのだが、海外生活の体験を持たない普通の日本人の場合、頭の中は当然日本語のコミュニケーション・モードになっている。

英語の文章を一つ一つ覚えていても、母語話者のように実際のコミュニケーションの場で適切に発話していくスピード感覚はなかなか身に付くものではない。会話のキャッチボール感覚は「母語である日本語をヒントに」進めていく方が、遥かに身に付くように思う。

聴解トレーニングについては、想像力や集中力の訓練もしながら自分の未知の単語や用法に気付くチャンスを与えてくれるので、学習効果は大きい筈だ。 このような私独自の四輪駆動(?)的なやり方で、お母さん達の英語力にどんな変化が見られるか。少なくとも中学・高校と6年間も英語を教わった経験がある彼女達に、それを少しでも使えるようになったという実感を是非味わってもらえればと願いながら走り出したところである。
back to top

7)編集後記
いよいよ2003年もあと1ヶ月半ですね。寒くもなりました●毎のようにちょっとばかり気兼ねをしながら「ま、いいや、迷惑なら削除するだけなんだから」と自分に言い聞かせて送り続けて20回目になってしまいました●総選挙のたびに不思議なのは例の裁判官の信任票というやつ。マジメに投票なんかできない。もっと不思議だったのは、翌日のNHKの昼のニュースの中「裁判官、全員が信任」とか言う見出し付きでニュースになっていた。あれが何でニュースなんですか!?●その夜のテレビ(これもNHK)で各党の代表が選挙結果を踏まえて、これからの政治を語るという討論番組がありました。視聴者もファックスとかメールで意見を述べるというかたちで参加していましたが、殆どの意見が「一般庶民の暮らしが苦しい。政治家は何とかして!」というたぐいの被害者意識の発露ばかり。悪いけど、面白くも何ともないですね、こういうのって。
back to top
←前の号 次の号→


message to musasabi journal