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日英グリーン同盟
鹿児島県指宿市

甦るか、縄文の森
夢を与えてくれて・・・

人口3万人の鹿児島県指宿市の中心部にあるセントラルパークというところに日英グリーン同盟のイングリッシュオークが植えられたのが2002年5月11日。「英国大使館からクリス・トロット一等書記官や田原迫要市長が植樹式に参加した」と5月16日付けの南日本新聞が伝えています。 イングリッシュオーク植樹の主催者は「縄文の森をつくろう会」という市民組織で、この会の会長は市内で耳鼻咽喉科を開業されている「永田和人」というお医者さん。申込書には会の活動やオークを植える理由などが驚くほどきれいな手書きの文字で書かれていたのですが、私(春海)が鮮明に覚えているのは、植樹の趣旨を細かく説明したあとで結びの言葉として「夢を与えてくれてありがとう」と書かれてあったことです。

Our hometown is dying

で、永田氏を始めとする約160人のメンバーから成る「縄文の森をつくろう会」が何をやっているのかというと、市内にある巨木を保護する一方で新しい木を植えたり、種子から育てたくるみの木の苗を市内の公園に移植したりしています。また切り倒される運命の木を公共の場所に移植することもやっています。会のウェブサイトによると、指宿には例えば幹周り7m、高さ17m、枝張り20mというクスノキを始めとして確認されているだけでも80本を越える「巨木」があるようです。GPSと呼ばれる本格的な計測システムを作って調査しているもので、単なる道楽ではないようであります(失礼!)。

永田先生のエッセイ(英文版はSad to say, our beloved home town is dying…というショッキングな言葉で始まっている)によると、指宿には今から70年ほど前には深さ5mの遠浅が沖1000mまであったそうなのですが、30年前にはこれが100mになり、今では殆どゼロ・メートルに近いとのことです。砂浜そのものが何処かへ消えてしまった。山には植林された杉ばかりで、しかも間伐も枝打ちもされず放置されたまま・・・。

指宿は人口3万。なのにここを訪れる観光客は年間350万人もいるそうです。単純計算でいくと一日1万人の外部の人たちが人口わずか3万の指宿を訪れてということになる。つまり実際の人口は4万人!?永田先生によると、ことはそう上手くいかないようで350万人の観光客のうち指宿に泊まる人の数となると少ないとのことです。「周りの自然が少しでも再生できれば指宿も魅力ある場所となり、人々は通り過ぎることなく泊っていかれることでしょう」と永田医師は語っています。

人間の遺伝子にも負の変化が起こっている

永田氏は崩壊しているのは自然環境だけではなくて社会そのものが「雪崩のように内部崩壊が始まっている」と警告しています。耳鼻咽喉医を25年やっている永田医師によると、アレルギー性鼻炎の患者は「ここ10年で5-6倍にはなっている」とのことです。そしてその原因として「環境の急激な変化、食生活や生活環境の変化などがあげられますが、最も変わったのは私たちの体だと思います。きちんと伝えられてきた遺伝子の中で、はっきりとつかめない変化が起こっているようです。山や海や川が瀕死の状態だというだけではなく、私たちの遺伝子にも負の変化が生じていると考えます」と言っています。

自然環境・社会環境のみならず人間の遺伝子までもがマイナス方向に変化している・・・お医者さんから見ても極めて深刻な状態というわけですが、このような状況においては「何よりもお互いの人間としての力を信じて仲良く共存していくしかない」と訴えています。そして「縄文の森をつくろう会」は「出来る者が出来る時に参加する」ことを原則としているようです。同じようなことを東京都板橋区で小さなコミュニティ公園にイングリッシュオークを植えた人たちも言っています。

これ、かなりまどろっこしいのですが、「出来る者が出来る時に」という自主性が「人間の力を信じる」ということにつながるのではないかと私も考えたりしています。「信じる」という世界は「上手くいく」という保障なんか何もない世界でもあります。「縄文の森をつくろう会」の永田会長が日英グリーン同盟への申込書の中で「夢を与えてくれてありがとう」と書かれていたのは、「人間の力を信じるっきゃない」世界で生きている人が思わず書いてしまった言葉なのかもしれません。



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