musasabi journal

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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
第38号 2004年7月25日
先日、駐日ドイツ大使の記者会見に出席してハナシを聴く機会を得ました。ドイツの国連常任理事国入りのことが話題になったのですが「EUを一つの国と考えて、この理事会に参加することも考えられると思うが、多分(現在でも常任理事国である)フランスや英国が賛成しないだろう」と言っておりました。なるほど、そういうセンもあるのか・・・と妙に感心してしまいました。フランスや英国は何を根拠に反対するのか・・・それも興味ありますね。というわけで暑さにもめげずむささびが飛んできました。

目次

@ブレアとバトラー報告書
AGotysって何?
Bマスター由の<シリーズ「カウンセリング心理学者への道」>
C短信
D編集後記


1)ブレアとバトラー報告書

イラク戦争に英国が参加するにあたっての根拠とされた「サダム・フセインが大量破壊兵器を有しており、45分以内でこれを発射することができる」という情報の正確さを巡って最近、英国の独立調査委員会(バトラー委員会)が「情報の正確さは疑わしい」という調査結果を公表したことは日本のマスコミでも報道されました。7月15日付けの朝日新聞は、このような疑わしい情報を利用してイラク攻撃に踏み切ったブレア首相が批判されていると報じていました。

尤もこの報告書はそれほど直接的にブレア首相がやったことを批判しているわけではなく「政府による意図的な情報の歪曲はなかった」としており、ブレアさんも議会で、"No one lied. No one made up the intelligence. No one inserted things into the dossier against the advice of the intelligence services"(誰もウソをついたわけではないし、情報をでっち上げたわけでもない。誰も情報当局の助言に逆らって、報告文書に何か書き加えたわけでもない)と述べています。 これに対して7月15日付けのガーディアン紙は、社説で He did not lie, but nor did Mr Blair tell the whole truth (首相はウソはつかなかった。が、全ての真実を語りもしなかったではないか)として、ブレア首相が英国のスパイ組織からの情報を自分の都合のいいように利用して、戦争に踏み込んで行った、ときわめて批判的な議論を展開しています。

実は私がバトラー報告についてのガーディアンの記事を読みながら興味を持ってしまったのは、バトラーがブレア政府の「政策の決め方」を問題にしているという点でした。ちょっとばかし長いのですが、引用させてください。
  • "We are concerned that the informality and circumscribed character of the government's procedures which we saw in the context of policy-making towards Iraq risk reducing the scope for informed collective political judgment."(対イラク政策の決定過程が非公式的かつ閉鎖的な状況下で為されたことで、我々が憂慮するのは、こうした決め方をすると、きちんと情報を与えられた上での集団としての政治決断をするということがなくなってしまうのではないかということである)。
へたくそな翻訳で申し訳ない。要するに極めて大切な事柄がブレアを取り巻く一握りの人々によって(時には閣議に諮ることもなく)、しかもメモも記録もとらずに為されてしまったという、ブレアのやり方を批判しているわけです。

以前にも書いたと思いますが、ブレアはアメリカの大統領のような権限と指導力を持って政治をしたいらしい。即断・即決、霞ヶ関ではなく永田町(首相官邸)が決める・・・どう考えても小泉さんと似ていますよね。「小泉さんがブレアに似ている」と言うべきなのかも!?詳しく述べることはしません(でも一度きっちり調べて述べてみたい)が、ブレアが首相になってから二言目には口にする政治や政府の「近代化」(modernization)とは即ち英国のアメリカ化ということなのではないかと思うのです。

長くなって悪いけど、もう一つだけ。そもそもブレアは、何故そのようないい加減な情報に基づいて、イラク攻撃に踏み切ってしまったのでしょうか?ブッシュの場合は、9・11のあとの全国的ヒステリアということがあったのだろうと思うのですが、ロンドンがオサマ・ビン・ラディンに攻撃されたわけでもないのに、何故ああまでしてアメリカと一緒に行動しようとしたのでしょうか?間違ったのか、意図的なのか?意図的というのなら、どういう意図だったのか?誰か、この点について教えてくれません?


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2)Gotysって何?
DINKS(ディンクス)という略語が流行った時期がありましたね。Double Income No Kidsというわけで要するに可処分所得が多い人たちのことです。「私たちのビジネスの対象はディンクスなのです」と言っていた女性の顔をいまだに憶えております。観光関係の人だったっけ。私には全く縁のない世界です。

で、最近、Gotysなる略語があるのをご存知で?ゴッツィズと読むのでしょうね。何の略なのかというとGetting Older, Thinking Younger。年をとっても考え方は若い人たちのことらしい。 英国のDaily Telegraphという新聞が伝えるところによると、最近、60歳代のアタマが若返っていて、昔の40歳代と同じという調査結果が出たそうです。45歳から89歳までの約1700人を対象にした調査によると、彼らは自分たちの親たちよりも明らかに豊かな生活を送っている。

例えば持ち家率は80%を超え、その半数がローンは払い終わっている。しかもここ10年、この年代の知識や経験を重視した求人も結構ある。 OMDというマーケティング会社が調査したもので、Gotys の49%がいまだに健全な性生活を楽しみ、19%が出来ればインターネットで知り合った異性とデートしたいと思っている。「10%が整形手術をやってみたい」という結果は笑えますね。

英国では2048年には50歳以上の人口が半数を超えるのだそうですが「老人と言えば、独りわびしくテレイを見ながら出来合いのディナーを食べている人」という発想ではもうダメというのがOMDのジョー・リグビー調査部長さん。最近の英国のお年寄りにイチバン人気があるのが、ヨーロッパ大陸の町を訪問する観光旅行だそうですが、リグビーさんの父親(57才)は昨年オートバイのハーレイ・デイッドソンを購入、奥さんと一緒にアメリカ・ネバダ州の砂漠をツーリングして楽しんだのだとか。

「年寄りの趣味といえばガーデニングか模型飛行機という時代ではなくなったみたい」というジョー・リグビーですが、私が面白いと思ったのは、典型的な老人のライフスタイルにガーデニングと並んで模型飛行機が入っているという点です。はっきり言って模型飛行機って面白いですね。特に面白いのは厚紙とセメダインで作って、輪ゴムで飛ばす飛行機であります!


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3)マスター由の<シリーズ「カウンセリング心理学者への道」>
これまで4回にわたってカウンセリング心理学の博士号をとるためのハードル(コースワーク、カウンセリング実習、予備試験、インターンシップ)を紹介してきました。今回は最後のハードル「博士論文」についてお伝えします。

ハードルその5:Dissertation(博士論文)

博士論文では、自分で研究したいテーマ、証明したい理論を見つけて、実際に研究や実験をデザイン、実施してその結果などを5章からなるペーパーにまとめるというものです。博士論文の各章は大体次のような内容になっております。
  • 1.Introduction(序章):自分の研究の大まかな内容、そしてその研究がこの分野になぜ重要なのかをこの章でまとめます。ページ数にすると、だいたい英文タイプ(ダブルスペース)で8−12ページになります。

    2.Review of Literature(文献精査):この研究分野で、これまでどのような研究結果が発表されてきたかをまとめたものが文献精査です。また、これまでの研究の批評、問題点および欠如している部分などを指摘し、いかに自分の研究がそういった問題点を補うものであるかを「力説」しなくてはなりません。そして博士論文の研究のバックボーンともなる「仮説」を立てるのもこの章です。博士論文で一番時間と労力を費やすのはこの章かもしれません。実際、僕の文献精査は全部で33ページもあります。

    3.Methodology(方法論):2章で立てた仮説を証明するために行う実験、データ収集、分析の方法を詳細にまとめます。

    4.Results(結果):実験のデータ分析などの結果をまとめます。

    5.Discussion(考察):実験の結果が仮説どおりになったかどうか、そしてなぜそのような結果になったのかを考察するのがこの章です。また、この研究結果に基づいて、将来はこの分野でどのような研究が必要になってくるかを提案することもあります。
このうち最初の3章はDissertation Proposal(つまり研究企画書)と呼ばれ、実際に研究を始める前に仕上げ、それをアドバイザーの教授、および論文審査委員会に認めてもらわなくてはいけません。認めてもらって初めてデータ収集、分析に取り掛かれるというわけです。データ収集、分析が終わったら4、5章を執筆し、最終的に出来上がったものをアドバイザーおよび論文審査委員会に提出、発表します。最終版が論文審査委員会の認可を受ければ、晴れて論文の完成ということになります。

ただ、ここに至るまでには、何回も書き直しを命じられることがあるため、決して楽な道のりではありません。実際、インターンシップが終わっても論文が終わらないために何年も大学院に「住み着く」学生がごろごろといます。ちなみに僕は、今年の2月に企画書を提出し、論文委員会のお墨付きを頂きました(それも修正の必要なしとのこと)。現在はデータの分析中で、何とか来年夏にインターンシップを始めるまでにはすべて終わらせるつもりで頑張っています。

以上、ワシントン州立大学でカウンセリング心理学の博士号をとるまでの5つの「ハードル」を紹介してきました。ここで紹介したものはカウンセリング心理学プログラムの「一例」であり、プログラムの分野、あるいは大学によって多少の差異はあるかもしれません。しかし、大体カウンセリング心理学のプログラム、特にワシントン州立大学のような全米心理学協会(APA)公認のプログラムはどれも似たようなものだと思っていただいて結構です。

先ほど博士論文を「最後のハードル」と位置づけましたが、これは博士号をとるための最後のハードルであって、カウンセリング心理学者になるための最後のハードルではありません。博士号をとって卒業した後も、先日述べた心理学者の資格試験、就職活動等々「ハードル」は続きます。考えようによっては博士号をとることはあくまでもスタートラインに立つことであり、ゴールではありません。そう考えると非常に気の長いプロセスに聞こえるかもしれませんが、僕が思うに、どの職業であれプロとして認めてもらうためにはこのような長い道のりを経なくてはいけないのではと思います。

大リーガーだって始めはルーキーリーグからスタートし、長いマイナーリーグの生活を経てやっと一流になれる。プロのジャーナリストになるのも、いきなりNHKや朝日新聞本社ではなく、だいたい地方勤務から始める。実業家や社長になる人も、最初は平社員として何年も下積みの生活をする。そういう点では僕は身分的にはまだ「学生」かもしれませんが、少なくともプロのカウンセリング心理学者への道をすでに歩き始めたという点では、僕と同じ年代のマイナーリーガー、地方記者、あるいは会社員と同じようなプロ意識とプライドを持っているつもりです。

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4)短信
空砲で町中が大騒ぎ
 
北ウェールズにあるBangorという町で、教会の元牧師が自宅の屋根に止まったハトを追い払おうとピストルの音で脅かそうとカラで「発射」したところ、これを本物と勘違いした隣人が警察に通報、たちまちパトカーと警察のヘリコプターが飛んできて大騒ぎになってしまった。「ハトを追い払ったら警察から電話あって、直ちに家の外に出て来い、というわけ。ドアを開けたら重装備の警官が7人もいたんで、ビックリしてしまった。あれで発砲されていたら私が死ぬところだった」というのが元牧師さんのコメント。「住民から、ガンをめくらめっぽう使っているとの通報があったので、直ちに警戒態勢をしいた」というのが警察の発表。ピストルはそのまま警察に押収されたそうです。

刑務所製の衣料品で儲けてしまった 

牢屋に入っている囚人が作った衣料 (Made in Jail) を売り出して大いに儲けてしまったビジネスマンがドイツにいるのを知ってます?私、ファッションには全く興味なしなので知らなかったのですが、Stephan Bohleという人物がそれ。囚人たちが衣料品を作っているという新聞記事を読んだ。「刑務所当局は商品として売りたいと思っていたのだが、製造場所を公表したら売れないだろうと思っていたのさ。ピンときましたね。刑務所製であることを売り物にしたというわけ」と得意顔。何せMade in Jailで年商200万ユーロ(??円)の売り上げがあるとか。この人、英国でも「現地生産」しようというわけで、現在英国の刑務所当局と交渉中なのだそうです。「高級品のショップでも売れるのでは?」と言っております。

ギリシャの暑さに耐える訓練 

アテネ五輪に参加する乗馬の選手が特殊なサンルームを借り切って練習に励んでいるそうであります。ドイツの話ですが、馬がギリシャの暑さに慣れなければというわけでサンルームを借り切ったのはドレサージュという馬術競技の世界的第一人者であるUlla Salzgeberという選手で馬の名前はRusty。「人間と同じで馬も急激な気温の変化には弱い。今のうちからなれておかなきゃ」というわけです。でもRustyはドイツ語だと思うのですが、どのような意味なのか?英語では「錆びついた」という意味で、余り格好の良い名前ではない。

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5)編集後記
●ドイツ大使館の人とハナシをしていて思わず笑ってしまったのは、彼らもまた外国人の対ドイツ・イメージを変えたいと思っているということでありました。「日本では古いドイツしか知られていない。最近のドイツ、ファッションやデザインも優れているドイツを知ってもらいたい」のだそうです●しかし一口に「古いドイツ」なんていいますが、この国の場合、音楽のバッハやベートーベン、哲学のカント、ヘーゲル、マルクス、車のベンツ、フォルクスワーゲンなどなど、余りにも凄い名前が並んでおりますね。そんな国でもイメージチェンジをしたいのですかね●英国大使館は「シェイクスピアだけが英国じゃない」と言うし、フィンランドの人たちは「オーロラと湖以外にもいろいろある」と主張する。フランス人は「フランスがファッションとワインだけの国と思った大間違い」、イタリア人は「我々は毎日毎日スパゲッティを食べているわけじゃない」、スペイン人は「フラメンコの国だなんて、バカにしないでよ」・・・と言っているのかもしれない。というセンで言うとアメリカ人は何を言うのでありましょうか?!

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