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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
第33号 2004年5月16日
先日テレビを見ていたら、福田康夫という官房長官が、年金未払いの責任をとって辞任するという記者会見をやっていました。なにやら「突然」といった感じで、未払いについて「慙愧の念にたえない云々」と言うステートメントを読み上げると「いいですね?」と言ってスタスタ退場してしまった。その背中を追うように「長官!長官!!」という記者の声が聞えました。それを全く無視するように引っ込んでしまったわけです。メディアが国民の味方であるとすると、あの時の福田さんは国民の声を無視して行っちゃったということにもなる。メディアが「国民の味方」であれば、ですよ。というわけで(全然関係ありませんが)お邪魔します、むささびジャーナル第33号です。

目次

@「政治家は信用できない」と言うメディアの信用度
A英国の郵便事情
B競馬馬のクローニングをめぐる論争
C大使の言うことなんか・・・
Dマスター由の<就職活動と「友達の輪」>
E短信
F編集後記


1)「政治家は信用できない」と言うメディアの信用度
前号のむささびジャーナルで、英国における世論調査の結果として、一番信頼されている職業人は医者で、最低なのがジャーナリスト、次に最低なのが政治家となっているということをお伝えしました。いま読んでいるアンソニー・サンプソンのAnatomy of Britainの最新版(これも以前に紹介させて貰いました)でもこの調査の結果について書かれています。たださすがむささびジャーナルよりも面白いと思うのは、20年前の1983年の数字と2003年の数字を比較している点です。

例えば20年前には医者を信頼できると答えた人が82%であったのですが、これが2003年になると91%と上昇しています。極めて興味深いと思うのは「お役人」(civil servants)を信頼できると答えた人が、20年前の25%から現在は46%と急上昇していること。1983年といえばサッチャーさんが「小さな政府」を目指して大改革を行っていた時代です。 で、政治家とジャーナリストはというと、後者がビリで前者がビリから2番目ということでは昔も今も同じこと。率も18%と情けないありさまです。

政治家はメディアによって悪とアホの見本のように書かれており、メディアはそれで売り上げを伸ばしたりもしている。メディアとしては「正義の味方」のつもりなのかもしれないけれど、実は国民はそのメディアをも全く信頼していないというわけです。

また余りにもメディアが政治家のことを悪く・悪く描きすぎるので、素晴しい政治家になるかもしれない才能を有した人々が政治家という職業に魅力を感じなくなっており、これは「英国における民主主義が危機に瀕している証拠だ」というのがサンプソン氏の指摘です。

テレビ、新聞、雑誌に見る限り、日本では政治家が褒められることは、死去でもしない限り殆どないように思えます(でも死んだ途端に”XX氏を悼む”というような記事がわんさと掲載されます)。だから「政治家は信用できない」というのが国民的合意ともなっている。ただメディアは、メディア自体が読者や視聴者からどの程度信頼されているのかについて、報道していないように思えますが・・・。

また日本で同じような調査をしたとして、医者、教師、裁判官、聖職者が70%を優に超える「信頼度」を得ることができるのでしょうか?できないとしたら、それはこのような職業人が悪いのか、メディアによって否定的に紹介されているからなのか?

最後に英国の調査で「庶民」(ordinary people)を信頼できると答えた人の%はどのくらいだと思いますか?答えは20年前が57%で、現在は53%です。少しとはいえ下がっているだけでなく、信頼度も大して高くない。おそらく調査対象が「庶民」でしょうから、自分たちを余り信用していないと考えているということなのでしょうか?だとしたら、私、英国人は素晴しいと思いますね。「醒め加減」が非常にいい。

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2)英国の郵便事情
英国の郵便配達組織であるRoyal Mailによって失われた郵便物の数が年間1440万点にものぼっていると消費者団体から指摘されています。ガーディアン紙の5月4日号が伝えているもので、訴えているのはPostwatchという郵便サービスの監視を行うNPO。これに対してRoyal Mailでは、1年間に配達する郵便物の数は210億通で、紛失したり遅配したりするのはそのうち0.07%にすぎないと主張しています。以前に比べると半分になったのだそうです。つまり「確かに紛失や遅配はあるけれど、それほど酷いものではないでしょ」というわけです。

0.07%という数字を見ると「大したことない」とも言えるのかもしれないけれど、1440万通の郵便の中には、病院のアポとか年金の送付とか、企業の契約関係の書類だって入っているかもしれないわけで、それが1440万もあるとなると問題ですよね。Postwatchの調査によると、間違って配達された郵便物を受け取った場合、20人に一人がそのままゴミ箱に捨ててしまうのだそうです。

英国政府発行のハンドブック(2003年版)によると英国の郵政事業はConsigniaという政府所有の企業が一手引受けしており、その傘下に郵便配達を行うRoyal Mail、荷物輸送のParcelforce Worldwide、そして銀行業務を行うPost Office Ltdの3つの企業が活動しているそうです。いわゆる民営化ではないのですが、その方向に向かっていることは確かなようです。 で、Postwatchによって指摘された1400万通もの不達郵便物について通信労働組合(Communication Workers Union: CWU)の副委員長という人は「問題解決の方法は簡単だ。派遣社員(agency workers)を使うのを止めてもっと沢山のフルタイムの労働者を雇って、まともな給料を払うことだ」と言っております。

Royal Mailは日本の郵便局と同様に民間の配達企業からの競争に晒されており、最近になって3万人のリストラを発表したりしています。また昨年1年間でRoyal Mailの労働者によって盗まれた郵便物は何と7万点に上っているのだそうです。 Postwatchのウェブサイトを見ていると必ずしもRoyal Mailの労働者の悪い事だけを取り上げて非難しているのではなく、現在の英国の郵便事業が抱えている問題をきっちり考えようと呼びかけているので参考になります。

日本でも郵政の、民営化が小泉改革最大の目玉とされています。最大中の最大は金融機関としての郵便局をどうするのかということにある、と新聞などでは報道されています。英国の場合はどうなのか・・・研究に値するのでは?英国全土にある郵便局の数は17、500(2002年)で、これらの郵便局を通じて流れるお金の額は年間1500億ポンドだそうです。

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3)競馬馬のクローニングをめぐる論争
5月6日のBBC(英国放送)が競走馬のクローンをめぐるニュースを伝えていました。競走馬のブリーディングを専門にしているトゥイン・アレンという教授が、内務省にクローンの許可申請をしたところこれが却下され怒っているというストーリー。彼の申請が却下されたのが1年ほど前のことで、その後世界初の馬のクローンがイタリアで成功したのだそうです。

私は知らなかったんですが、競馬馬のクローンは禁止されていても、ジャンプのような障害競走用の馬についてはこれが許されているのですね。障害競走用の馬は去勢されており、繁殖させることができないというわけで、ブリーディングを目的としたクローンは許されているのだそうです。 アレン教授は「優秀な牡馬や牝馬をセレクトする方法を持たない現在、優秀な馬の遺伝子ストックを確保するためにもクローンの採用が許されるべきだ」と主張しているのですが、内務省は「クローンは動物愛護の精神に反する」として許可しなかった。

政府の態度を批判している人の中にはかつて五輪にも出場したことのある人もいて「英国にはこれだけ優れた専門家がいるのにお役所が邪魔してクローンを許さないというのは情けない」などと言っています。 政府の態度を支持しているのが英国動物愛護協会(RSPCA)で、この協会のナターシャ・レーン博士は「クローンのお陰で沢山の胎児が死んでいるし、死なないまでも多くの動物が異常をきたしたり、早死にしたりしている。ただ単に金メダルをとれる馬を作ろうという目的でクローンを許可するのは許せない」と主張しています。アレン教授はクローンの許可を求めて控訴すると言っているそうです。

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4)大使の言うことなんか・・・
前号のむささびジャーナルで中東で大使をつとめたことのある52人の元外交官が、ブッシュとブレアのイラクおよびイスラエル・パレスチナ紛争への対処の仕方が間違っているという公開の質問状を発表したことを報告しました。

この動きについて5月1日付けのThe Economistが「この手紙の効き目は殆どないだろう」と批判的な報道をしています。 ただその理由がイマイチで、英国人の間では大使と言えば、海外で贅沢三昧、優雅な生活を送っている時代遅れのエリートというイメージが強い。「このような人たちが何か言っても大した影響はない」というわけです。

同誌はまた1981年に364人の経済学者がサッチャー首相の経済政策が間違っており、「英国に破滅をもたらす」とする公開質問状を発表したことを例にあげて「あの質問状を発表した時点では英国経済は上向きだったのだ」と言っています。

経済学者が政府の経済政策を批判するのと、現地の情勢に通じている外交官が政府批判をするのを、同じように扱うのは間違っているのではありませんかね。イラクの現状を見ると、ブレアが頼りにしたはずのスパイからの情報というのもあてにならないという気がします。 それからイラク戦争に批判的な大使をからかったThe Economistが次なる号でJeremy Greenstockという英国の元国連大使の寄稿文を掲載しているというのも奇妙な気がしないでもない。

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5)マスター由の<就職活動と「友達の輪」>

アメリカの大学院の博士課程の学生にとって毎年気になることの一つに、授業料や生活費などをカバーしてくれる奨学金、いわゆるアシスタントシップと呼ばれる大学での助手の仕事が次の年はもらえるかどうかということがあります。まとまった収入がなく、しかも高額な学費を支払わなくてはならない大学院生にとって、助手の仕事があるかないかは大きな死活問題です。 助手の仕事にもいろいろな種類があり、教授に代わって教壇に立つ教員助手、教授などの研究の手伝いをする研究助手、あるいは大学のいろいろな部署でスタッフとして働く仕事などがあります。

僕もここワシントン州立大学に来てから3年が経ちましたが、1年目には助手の仕事なしで過ごしました。 こちらの大学院では、たいてい入学する前にアドバイザーとなる教授が助手の仕事を見つけておいてくれるのですが、僕の場合アメリカの市民権がないということがネックになって、助手の仕事が結局見つからないまま1年目を迎える破目になりました。それでも、絶対あきらめるまいと思い、まず自分のアドバイザーに直談判したところ、キャリアサービス(学生が就職の相談をするために行く部署)の部長を紹介してくれました。 そしてその部長の女性と会ってみたところ、今度は大学院学生部の副部長に紹介されました。

そしてその副部長によると、彼の知人が研究の助手を探しているということで、今度は学内の保健課で研究活動をしている女性のところに行かされました。そこで会った方が、何と僕の所属するカウンセリング心理学科の卒業生で、僕のアドバイザーのことなどもよく知っていました。ただ同じ学科の出身とはいえ、彼女にとってはまだ「どこの馬の骨だか分からない」僕が当初もらった仕事は、学費免除や月給などの特典付きの仕事ではなく、時給制のアルバイトでした。

もちろん学費免除があればそれに越したことはありませんでしたが、とりあえずこの仕事で生活を立てながら学費免除付きの仕事を探し続けよう、と決めました。こうして何ヶ月か頑張っているうちに、どんどん仕事の範囲が広がっていき、2年目からはこのポジションが、カウンセリングセンターでの研究助手のポジションに変わり、僕にも学費免除と月給の特典がおりるようになりました。

それから現在までずっとこのポジションでやってきたのですが、来年はこの仕事が経費削減のためにカットされることになってしまい、また新しい仕事を探さざるを得なくなってしまいました。 しかし3年もいるとやはり顔が広くなっているせいか(?)次の仕事は実にあっさりと見つかってしまいました。ちなみに今度の仕事の上司になるのは、僕が1年目のアルバイトでお世話になった女性の元上司でした。この元上司とは、僕自身アルバイト時代に何度か仕事を手伝ったことのある人です。人とのつながりが大事なのは、何も日本だけに限ったことではないということですね。

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6)短信
囚人を監獄の守衛に 
メキシコのテピック(Tepic)という町にある監獄が人手不足解消のために、42人の囚人を守衛に雇って話題を呼んでいます。メキシコのリフォーマという新聞が伝えるもので、この監獄は囚人が多すぎて困っているそうなのですが、今回守衛として働くことになったのは、わんさといる囚人の中でも「イチバンおっかない(と仲間の囚人に怖れられている)人たち」なんだそうです。ちなみに月給は安い人で4000円、高い人で20,000円だそうです。なるほど、仲間の囚人がイチバン怖がる人物を守衛にすると、皆おとなしくなるかもしれませんね。でも同僚の守衛はイヤでしょうね。

貧困対策ミーティングに豪華ホテルを使う 
英国にブリストルという町があります。そこの市議会が貧困地区を助けるための集会を開催したのですが、それが町イチバンの豪華ホテルであったことでヒンシュクを買っています。町おこしのためにEUからもらえる資金の使い道を考えようということで、関係者を集めて相談するための集会であったのですが、説明会に続いて行われた立食形式の昼食会が一人アタマ約17ポンド(殆ど3500円)。確かに安くない。25人が出席したそうですが経費は市当局とEUとの間の折半となったとか。中には説明会だけ出て、昼食会はボイコットとした議員もいたそうです。まずいな、やっぱこれは。

呪いが盗みを止めさせた!? 
ルーマニアのルペニという町にある教会が建物を建てかえるために購入した資材が盗まれるということが相次いで起こった。そこで牧師さんが何をしたかというと、教会の壁に「ここから物を盗むと呪われます」という看板をかけたわけ。そうしたら盗みがパッタリと止んだのだそうです。尤も牧師さんは「”呪われる”(英語でcursed)というのは単に盗みを止めさせるために使った言葉で他意はない。我々は盗みという罪を犯す人のためにも祈っております」と地元新聞にコメントしています。アーメン・・・。
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編集後記
冒頭の福田さんの会見について。あの時「長官!長官!!」という記者の声を聞いて、福田さんが引き返してきて「何ですか?」と言ったとしたら、叫んだ記者たちは何を言ったでしょうか?これは(実際には引き返すことはしなかったのだから)想像する以外にないわけです。●私の悪い想像によると多分「辞めると決断されたのはいつのことか?」「小泉総理には相談したのか?」「総理は何と言っているのか?」・・・あたりなのでは?●「年金未払いなどという(殆どどうでもいいような)理由で勝手に辞めるのは、イラクだの北朝鮮だのの問題が山積している現在、極めて無責任であり、職場放棄とも言えるのでは?」という類の質問は・・・出なかった可能性の方が高いだろな、多分。

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