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美耶子の言い分 どうでも英和辞書 green alliance
2011年1月16日
お正月なんてあったんだっけ?という感じで1月も中旬過ぎです。最近の埼玉県はというと、寒いけれど真っ青な空の毎日であります。夕方、散歩に行くと、秩父の山並みがシルエットのように見えて本当にきれいです。あと2週間もすればプロ野球のキャンプインなのですよね。
目次

1)2025年の英国、認知症が100万人に
2)旭日双光章を受けた91才
3)英国版「地域主権」の促進法案
4)選挙制度改革で連立政権が揺れる?
5)アメリカ人の中国観
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声

1)2025年の英国、認知症が100万人に


ジャーナリストの大熊由紀子さんが主宰する福祉関係のウェブサイトの中に「認知症ケアの部屋」というコーナーがあります。

世界の常識に逆らって、認知症の人々を精神病棟に「収容」する政策が日本で進められようとしています。認知症になっても、住みなれたまちの中で穏やかに暮らす方法が日本でも根付き始めているというのにです。

とのことで、このコーナーでは日本国内の町や村で実践されている認知症ケアの諸々が紹介されています。

そこで思いだしたのですが、昨年(2010年)2月3日付のBBCのサイトに、英国アルツハイマー研究財団(Alzheimer's Research Trust)がオックスフォード大学に委託して作成したDementia 2010という報告書のことが紹介されており、それによると英国では認知症の研究に費やされるお金が、 ガン研究費のわずか12分の1にすぎないとのことであります。


この報告書によると、2009年の時点で英国における認知症の患者数は約82万人で2025年までには100万人を突破することが確実視されています。

この報告書の計算によると、認知症が英国経済全体にもたらすコスト(普通に言う治療費に社会的ケア、無給のケア提供、生産性のロス)は年間約230億ポンド(約3兆円)、患者一人あたり年間27,647ポンドで、ガン患者の5倍、心臓病患者の8倍にあたるのだそうです。

調査に当たったオックスフォード大学の研究陣は「ガンや心臓病のケア・コストの多くが政府の保健制度(NHS)によって賄われるのに対して、認知症の場合は患者の家族らによる無給のケアが多いので、政府からの資金を得にくいのではないか」と言っています。

さらにこの報告書の作成責任者であるオックスフォード大学で健康経済学を教えるAlastair Gray教授が指摘しているのは、ガンや心臓病の場合、治療を受けて直ったというケースが数多く知られているので「研究すればそれなりの成果が生まれる」という概念が強いということ。そのあたりが認知症とちょっと違うわけですが、Gray教授は


認知症に関してはいまのところ治療法が見当たらない。発症を遅らせたり、進行を遅くする方法さえもそれほど多くは見つかっていないということで、仕方ないという諦め感のようなものがあるのかもしれない。しかし効果的な治療法が見つかっていないからこそ、より大きな努力が必要だと主張することもできる。不必要の反対だ。
In contrast there are no cures for dementia at present; there are not even many ways of delaying it or slowing it down, so there may well be a feeling of inevitability surrounding it. However the lack of effective treatments is surely an argument for devoting more effort to research, not less.

と主張しています。

アルツハイマー協会(Alzheimer's Society)のAndrew Ketteringham理事は「アルツハイマーを始めとする認知症の治療法が見つかれば、英国経済にもたらされる利益はロンドン五輪2回分にあたる」(If research leads to a cure for Alzheimer's and other dementias, annual saving to the UK economy would be equivalent to hosting the London Olympics twice)としているのですが、「認知症の発症をせめて5年遅らせることができたら、英国経済にとっては大変な節約になるのに」(If we could just delay the onset of dementia by five years, we'd be able to save huge amounts)と言っています。


▼で、認知症の人を精神病院に収容するという日本の政策を批判する大熊さんの「認知症ケアの部屋」ですが、これを設置したところいろいろな反響が寄せられたそうで、障がい者制度改革推進会議メンバーの堂本暁子(前千葉県知事)さんによると、この動きには「空きベッドを埋めたい」との精神病院の意向があるとのことで、次の3点を理由として挙げています。
  1. 精神障害者の地域移行が進む中で、空きベッドを認知症のお年寄りで埋めたいとの意向が精神病院サイドに強く、すでに日精協(日本精神科病院協会)はその方針を打ち出していること
  2. 拘束が可能な精神病院に、扱いにくい認知症の高齢患者さんを送ることが一般の病院にとっては好都合であること
  3. 認知症ご本人ではなく、家族にとって好都合と考えられていること
▼「精神障害者の地域移行が進む中で」というのはどういうことなのでしょうか?要するに訳の分からないヤツ、役に立たないヤツはどこかへ隠してしまおうということですね。堂本さんの言うことが本当だとすると、日本というところは何という国なのか・・・中国だの北朝鮮だのの以前に内部が崩壊しているのだから。


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2)旭日双光章を受けた91才


昨年11月下旬、ロンドンの日本大使館で、ある英国人への勲章の授与式が行われました。旭日双光章という名前の勲章で、与えられたのはフィリップ・メイリンズという91才になる男性です。メイリンズさんは英国の「国際友好和解基金会長」というチャリティ組織の会長をしているのですが、この勲章が授与される理由について、在英日本大使館のサイトは次のように書いています。

メイリンズ会長は、第二次大戦中ビルマ(当時)にて従軍したことから、日英間の和解を促進する必要性を認識しました。様々な活動を主導し、他の関係者及び関連団体とも協力して、両国間の対話を促進し、相互理解と和解をもたらすよう尽力しました。

大使館のいう「日英間の和解」は、第二次世界大戦中に日本軍と戦って捕虜になった英国人兵士に対する日本軍による虐待などの仕打ちに関係しています。虐待を受けた本人たちの多くがすでにこの世にいないけれど、この問題は遺族の間でもいまだに尾を引いており、例えば天皇陛下の訪英のような時になると「反日デモ」というようなかたちで顔を出す。普通の英国人にとって第二次世界大戦というと、どうしてもヒットラーとの戦いというイメージが強くて、アジアにおける日本との戦いは「忘れられた戦争」と言われたりしている。このあたりの事情はBBCのサイトに出ています。

フィリップ・メイリンズは捕虜にこそならなかったけれど、陸軍の部隊長としてビルマの戦場で日本軍と銃撃戦を経験、20数名の日本軍兵士を殺す命令を部下に下したこともある。その戦いで自分もまた3-4メートルという至近距離から日本兵に銃撃されたのですが、身につけていた金具に銃弾が当って命拾いをしたという経験を有している

メイリンズのことは私も知っていて、むささびジャーナルの別のところ(ここをクリック)で書いていますが、手短にいうと、2002年に英国大使館主催で「日英グリーン同盟」という植樹活動が日本国内でおこなわれ、その植樹先の一つであった山梨学院における植樹が「日英戦後和解」をテーマにしており、その植樹式にメイリンズも英国から駆け付けて参加したりしています。

フィリップ・メイリンズは、山梨学院における植樹式(2002年5月24日)に際して行われたセミナーで、学生たちを相手に「戦争の傷と和解」(Hurt caused by war and reconciliation)というタイトルの講演を行っています。その中で次のようなくだりがあります。


“It will help reconciliation and understanding and prove to the world that Japan has not forgotten the past and does not wish to conceal it…”
(第二次世界大戦における日本軍の行いについて、日本国内でもオープンにとりあげられるようになれば)そのことは、和解と相互理解を助けると同時に、日本が決して過去を忘れているわけではないし、それを隠そうと
しているわけでもないことを世界に証明することになるでしょう)。

メイリンズが言っているのは「南京虐殺」(20万人もの中国人が殺害されたといわれる)、「バターン死の行進」(フィリピンで起こったものでアメリカ人捕虜7000人が死んだとされる)、さらには英国人も含めた1万6000人の捕虜と6万人のアジア人労務者が死んだと言われる泰緬鉄道建設事業などのことを言っています。

メイリンズはさらに「過去」との直面についての日本とドイツの違いについて触れて、次のように語っています。ちょっと長いけれど引用してみます。


“They (Germans) can rightly feel that they have done all they reasonably can to atone for the wrong done by Germany at that time, and I admire them for being so honest about the past. Japan, in contrast, perhaps because of its long tradition of not admitting “shame” has been much slower to apologise, and many of its younger people because these things happened long ago are unaware of why Japan should be expected to apologise.”
ドイツ人は当時のドイツが犯した過ちについて自分たちに出来る限りの罪滅ぼしは行ったと感じており、そのことは正しいし、彼らが自らの過去に対して極めて正直であるということを称賛するものであります。対照的に日本は、おそらく「恥」を認めないという長い伝統のせいなのかもしれませんが、謝罪するのが遅れてしまっているし、これらのことが余りにも昔に起こった事柄であることから、多くの若者がなぜ日本が謝罪しなければならないのかさえも分からないでいます。

言うまでもないことですが、メイリンズの講演は「日本たたき」を意図したものでもないし、そのような内容でもありません。極めて長い講演テキストなのでそれを要約するのは私の能力を超えているので、私が興味を持った(ディスカッションしてみたいと思った)部分を一か所だけ引用してみました。

▼第二次大戦中の振る舞いに対する謝罪方法について日本とドイツが比較されることはしばしばあり、日本人の間においてさえ「ドイツに見習え」という意見がありますよね。なにせ65年以上も前のことだから最近ではあまり話題にはならなくなってしまったけれど、メイリンズに「お手本」とされた当のドイツ人は、本当のこと言ってどのような想いを抱いているのか?ひょっとして「あれはヒットラーがやったことだから一般のドイツ人とは関係ない」と心の片隅で思っていたりしないものなのでしょうか?だからユダヤ人に対して「謝罪」ができるのではないか?日本人の場合、日本の軍部と自分たちを別々と考える思考がないので、なかなか素直に謝罪ができない・・・いろいろなことを考えるけれど、実はよく分からない。

▼ただ、日本人が日本の過去について反省すべきだ・・・と言う意見のことを「自虐的」と呼ぶのはどうかしている。私の想像によると、この種のことを言う人々は、自分たちの過去について非難されているのは世界中で日本だけだと思いこんでいるのではないか?どこの国にも叩いて出る埃はありますよね。アメリカには人種差別、原爆投下があるし、英国には植民地主義という過去があって、それぞれ内心は肩身の狭い思いでいるのではないかと、私などは思うわけであります。このあたりのことについては、英文musasabi journalでも書いておきました。我ながら情けない文章なのですが・・・。

▼余談ですが、勲章を受けたメイリンズに電話をしてお祝いを言ったところ「最近、記憶が衰えてしまって・・・」と言いながらも、自分が日本軍の兵士20数人を射撃する命令を下した、あのビルマの戦場のことだけははっきり憶えていると言っておりました。



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3)英国版「地域主権」の促進法案


いま英国下院で審議されている法案にLocalism Billというのがあります。日本語に直すと「地域主権法案」ということになるのでしょうが、ロンドンのWhitehall (お役所街:霞が関と同じ)に集まり過ぎている権限をもっと地方に広げることで地方自治体の権限強化を図ろうというものです。法案に盛り込まれている地域主権強化策の一つが地方自治体の首長の公選制の導入です。

日本やアメリカでは地方自治体の首長(知事、市長、町長、村長など)は住民による直接選挙で選ばれるのが当たり前のようになっているけれど、英国の場合これはむしろ少数で、殆ど地方自治体では選挙で選ばれた議会(council)の議員(councillor)の中から議会リーダー(council leader)と呼ばれる人を選び、これが事実上の市長ということになる。つまり中央政府(国会議員の中から首相が選ばれる)と同じということです。間接民主主義ですね。ただ国政における首相と違って、地方政治は地方の議会に作られる委員会の合議制によって行われるので、自治体の議会リーダーにはほとんど実質的な権限がない。

ブレアさんの労働党政権時代の2000年に首長公選制の導入を図るべく各都市で住民投票を行ったのですが、これを導入したのは152ある地方自治体のうち13都市(ロンドンも含む)だけだった。で、現在審議されているLocalism Billが通るとイングランドの主なる都市12か所で市長公選制の是非を問う住民投票を行うことになる。12都市とはBirmingham, Bradford, Bristol, Coventry, Leeds, Leicester, Liverpool, Manchester, Newcastle, Nottingham, Sheffield, Wakefieldのこと。The Economist誌などは市長が住民の手で直接選ばれることになると、それなりに権限の強化にもつながり、それが地方色の豊かな国作りにもなるというので賛成しています。

Localism Billに盛り込まれている地域主権促進策には、他にももっと住民に密着したものもあります。これまで地方自治体が税金を使って行っていた公的なサービスを地元の有志グループなどが引き受けることができる。例えばコミュニティバスの運行などがこれにあたる。サービス提供に名乗りをあげたグループに対して、お役所がこれを拒否する場合はその理由を説明する義務を負う。

あるいはコミュニティにとって欠かすことのできないアセット(財産)を住民が買い取ることができるという対策もあります。郵便局とかパブのような施設をあらかじめ「ローカルアセット」として指定しておくと、これらが閉鎖に追い込まれたような場合でも、市場に売りに出される前に住民が安く買い取ることが可能になる。


▼現在、英国の地方自治体が行う支出の75%が中央政府から降りてくるお金で、どれも使い道がロンドンのお役所によって指定されてしまっているのだそうです。Localism Billは「地方議会とコミュニティへの画期的な権限移譲(a ground-breaking shift in power to councils and communities)」というのが政府の言い分なのでありますが、現在の予算縮小政策と一緒に考えると、中央から地方へ下りるお金がカットされて権限だけ移譲されても意味がないという意見もあります。

▼昨年私と妻の美耶子が暮らした村の場合、パブが2軒、郵便局兼何でも屋が1軒あったのですが、パブは2軒とも現在のオーナーが売りに出してしまっているし、郵便局も風前の灯です。いわゆる市場原理から言うと、とても商売にならないということなのですが、これを住民の手で守れるようにしようというのがLocalism Billの趣旨です。世界遺産みたいに予め守るべき財産として指定するというのは妙案ですね。

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4)選挙制度改革で連立政権が揺れる?

昨年(2010年)5月の選挙で保守党(Conservatives)と自民党(Lib-Dem)の連立政権が誕生した際に両党の間で交わされた約束の一つに選挙制度の改革があります。自民党の側から提案されて保守党がこれをのむという形の合意であったわけですが、具体的にはこれまでの完全小選挙区制(first-past-the-post:FPTP)に替わってオタナティブ・ボーティング(alternative-voting:AV)という制度を採用することの是非を問う国民投票を行うというのが連立のため合意だった。選挙制度を変えることではなくて、そのための国民投票を実施するということです。

その国民投票は今年の5月5日と決まっているのですが、The Economistによると、これが政権の不安定をもたらす要素になるのだそうであります。なぜそうなのかは後述するとして、まずいまの選挙制度の何をどう変えようというのかという部分を確認しておきましょう。

いまの制度のfirst-past-the-postは、「ポストを最初に通過した者」という意味ですね。「ポスト」は競馬のゴールにあるポールのようなもので、どんなに競り合っていても最初にこれを通過した馬が勝ちで、あとは2位でも3位でも同じこと・・・実際の競馬ではそうでもないのだろうけれど、選挙に限っていうとそういうことです。小選挙区制というのはそういうものです。

で、5月5日にその是非が問われるオタナティブ・ボーティングですが、別の言い方をするとおそらく「順位付け選挙」ということになる。選挙制度改革協会(Electoral Reform Society)のサイトを参考に説明してみますが、国会議員になれるのが一選挙区から一人だけという点では小選挙区制と変わらないということが大前提です。

ある選挙区に有権者が100人いて、4人の候補者(A~D)がいたとします。それぞれの選挙民は最も勝ってもらいたいと思う候補者から順に1~4の番号をふって投票する。開票の結果、一人の候補者の獲得した「1」が投票総数の半数(50)に達したらその候補者の勝ちで選挙はお終い。結果としてはfirst-past-the-postと変わらない。では、次のようにどの候補者も「1」が半数に達しない場合はどうなるのか?

A [33] B [31] C [20] D [16] 

「1」の数が最も少ない候補者Dが脱落するのですが、その際Dが獲得した一票一票の中身が問題になります。16人がDに「1」と書いたのですが、では「2」のところには誰が書かれているのかということです。この部分にAを書いた人が6人、Bが6人、Cが4人だったとすると最初の数字にこれらを加えて2回目のカウント結果は次のようになる。

A [39] B [37] C [24]

まだどの候補者も過半数には達していないので3回目のカウントをする。2回目と同じくCが脱落し、Cが獲得した「2」の内訳がAとBに加えられる。仮にAと書いた人が12人、Bと書いた人が12人いたとすると、51(A)対49(B)でAが当選者となる。しかしCが獲得した「2」の内訳が「A=10」対「B=14」だったとすると、B(37+14=51)がA(39+10=49)を上回り過半数を獲得して逆転勝利ということになる。

この制度は、Lib-Demが究極の目標としている比例代表制(proportional representation: PR)とは違うものではあるけれど、完全小選挙区制に比べると「2位」を評価しているという点では、有権者の意思に多少は近いとも言えるし、これまでどちらかというと「2位」に甘んじるケースが多かったLib-Demにとっては制度上の進歩と言える。

以上、かなりダラダラと制度の解説をさせてもらったわけですが、The Economistの記事のポイントは5月5日の国民投票の結果が保守党と自民党が抱える党内問題にどのように影響を与えるのかということにあります。

国民投票の結果、AVという制度を支持する人が多かったとすると、連立参加を推進したニック・クレッグ自民党党首は党内の反対派に対して「ほら見ろ」と言えるものができることになる。反対に保守党のキャメロン党首は党内右派で自民党との連立を快く思っていない分子から「ほら見たことか」と言われかねない。ちなみにキャメロン自身は、選挙制度改革には反対しています。

では、AVという制度が国民の支持を得なかった場合はどうなるのか?ただでさえ保守党に押されていると感じている自民党内の連立消極派に対してクレッグ党首の立場が弱くなる。ひょっとすると党首交代ということも考えられる。党首が交代=連立解消というわけではないけれど、現在の自民の中でクレッグ党首以外にキャメロンとうまくやっていけそうな人を見つけることは難しい。

で、国民投票がどのような結果になるのかについてですが、自民党支持者が圧倒的にAV支持であることは間違いない。労働党支持者もどちらかというとAV支持が多いとされています。党首のエド・ミリバンドははっきり支持を表明しているけれど、国会議員の間では反対意見が多いし、ミリバンド党首もこれを容認している。悩ましいのは保守党のキャメロン党首で、個人的には反対ではあるけれど、反対運動の先頭に立ってこれが否決されてしまうとクレッグらとの仲が微妙なことになってくる。

どっちへ転んでも連立政権にとってのトラブルは避けられないのですが、AVが否決される方が連立不安定要因が増えるだろう(rejection of AV would be more destabilising)というのがThe Economistの見方です。最近の英国で大騒ぎになっている大学の授業料値上げ(保守党が推進している)で、自民党の支持率が激落しており、これにプラスしてAVもダメとなると、自民党支持者からクレッグへの風当たりはますます強くなる。そうなると連立政権の安定が危なくなってくるというわけです。


▼YouGovという機関が昨年5月の選挙の際に行ったアンケート調査によると、自民党支持者が考える「2番めに好ましい候補者」の多くが労働党の候補者であったそうです。つまり「2位」を重視するAV制度は保守党には有難くない制度であって、これが施行されてしまうと、保守党の単独政権というのは永遠になくなるのではないかと被害妄想風に考える保守党議員も多いのだそうです。

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5)アメリカ人の中国観


アメリカのPew Researchのサイト(1月12日)が、アメリカ人の対中国観についての世論調査結果を掲載しています。Strengthen Ties with China, But Get Tough on Tradeというのがメッセージで「中国との関係強化は望むが貿易問題では強硬姿勢を貫け」ということになるのですが、アメリカ人の外国観の移り変わりがいろいろ反映されている面白い調査です。いくつか紹介してみます。

Q:アメリカにとって大切なエリアはどこか?
2001年9月 2011年1月
アジア 34% 47%
ヨーロッパ 44% 37%

ヨーロッパの存在感が薄らぐと反比例してアジアの存在感が高まっているわけですが、ヨーロッパについては93年では50%であったことを考えるとかなりの下落ということになる。Pew Researchでは、この数字は経済力の移り変わりを反映しているとしており、世界経済をリードする国として中国を挙げる人が47%で、アメリカを挙げる人(31%)を上回っているという数字もあります。

世界経済のリーダーとしてEUを挙げるアメリカ人は6%しかいないのですが、日本を挙げる人も9%にすぎません。特に目立つのが日本の「落ち込み」(と言っていいのかどうかわかりませんが)で、20数年前の1989年1月の調査では日本を挙げる人が58%で「アメリカ」という人の29%をはるかに上回っていたという数字もあります。


Q:対中関係で大切なことは?
非常に大切 やや大切 大切ではない
関係強化 58% 30% 9%
経済関係で強い態度をとること 53% 32% 11%
中国内の人権擁護を促進 40% 32% 22%
中国内の環境保護を促進 39% 33% 23%

この中で中国国内の「人権」と「環境」についてとやかく言うことが「大切ではない」という意見が2割を上回っているのに反して、関係強化が大切でないという意見はほとんどないという点に注目すべきだとPew Researchでは言っている。つまりアメリカでは中国には問題もあるけれど敵視はしておらず、お互いに仲良くやった方がいいという意見が支配的であるということです。

最後に、Pew Researchの調査で私が最も注目したのが、アメリカも含めた国際社会が中国をどのように見ているのかという数字です。昨年(2010年)の春に行われた調査で、中国を「好ましい」(favourable)か「好ましくない」(unfavourable)の割合で分けると次のようになります。


Q:中国は好ましいか好ましくないか?
好ましい 好ましくない
ケニア 86 10
パキスタン 85 3
ロシア 60 29
インドネシア 58 37
ブラジル 52 34
アメリカ 49 36
イギリス 46 35
フランス 41 59
韓国 38 56
インド 34 52
ドイツ 30 61
日本 26 69
トルコ 20 61

日本、韓国、インドなどの近隣諸国で「好ましくない」の方が多いのは分かりますが、フランスとドイツでは「好ましくない」が多いのに、英国では「好ましい」の方が多い。またトルコでもかなり極端に反中国感情があるのは何故なのでしょうか?Pew Researchによると、中国に好意的なケニアでは、アメリカに対しても好意的なのに、パキスタンでは圧倒的にアメリカ嫌いが多いと指摘しています。

▼Pew Researchの調査はここをクリックすると見ることができます。

▼半年ほど前のことですが、BBCのラジオ(国際放送)を聴いていたら、「経済力で中国に追い越された日本」という特集をやっていました。その中で日本の外交評論家と呼ばれる人が日本人の対中観について「イギリス人なら分かるでしょう。あなた方の近くの欧州大陸にヒットラーやスターリンのような独裁者が君臨する国があって、しかも人口が13億もいるんですよ」という趣旨の説明をしていました。つまり「中国や中国人なんてロクな国でも人々でもない」ということですね。

▼ごく最近ですが、NHK教育テレビで福祉関係の番組を見ていたら、ある20代後半の男性の職探し体験談のようなことをやっていました。いわゆる「就職氷河期世代」で、「まともな」就職には恵まれず、結局老人介護施設で働くことになったのですが、これが存外面白くなってそこに腰を落ち着けている。

▼その彼が職場の大先輩として尊敬しているのが、40代後半と思われるおばさんなのですが、この人は中国人で、以前はある製薬会社の工場で働いていたけれど、そこが閉鎖されて現在の職場で働き始めて4年になる。20代の彼は、この人から仕事のやり方を教わってきたのですが、「XXさんは、いまの仕事の何が好きなのですか?」と質問したところ、かなりたどたとしい日本語で「ひとの役に立つからね」というような趣旨のことを言っておりました。実はイチバン楽しかった職場は、製薬会社の工場だったそうで、その理由も「世の中の役に立ってるからね」というものだった。

▼ある町の商店街風のところで二人は別れるのですが、雑踏の中に自転車を押しながら消えていく、頼もしげな中国人のおばさんに、頼りなげな日本の20代の男性が「さよなら」と声をかけるシーンで終わった。他人の役に立つ云々という感覚はともかく、私としては、中国人にもいろいろな人がいるのだという当たり前のことに感銘を受けてしまったわけです。銀座で高級品を買いまくるのも中国人だし、「尖閣」問題で反日デモをやるのも中国人であるわけですが、日本人は、あのおばさんのような中国人のことはどのくらい知っているのか?

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6)どうでも英和辞書

A~Zの総合索引はこちら

alarm clock:目覚まし時計

最近の英国での流行り言葉に"Alarm Clock Briton"というのがある。「目覚まし英国人」というわけです。ごく平均的な英国人のことを言うのですが、The Economistの政治コラム、Bagehotによると「朝は暗いうちに起きて、子供を学校に行く準備をさせて、自分も仕事に出かける・・・(get up in the dark, get their children ready for school and then go out to work)」というつつましやかな生活を送っている人たちのことです。実はこの人たちがいまの経済状況によって最も深刻な打撃を受けている。昇給なし、失業あり、しかも物価の値上がり・・・というわけで、連立政権の自民党が言っているのは、課税最低額をj引き上げることで年間200ポンドほどの減税にしようということです。


self-deprecation:自分を笑う

英国人が好むユーモアの要素がself-deprecation。例えば:

He has the kind of face only a mother could love, if that mother was blind in one eye and had that kind of milky film over the other... but still, he is my identical twin.そのその男の顔がいいと思うのは母親しかいない。ただしその母親も、片目が見えなくて、もう一つの目にはいつもミルク色の膜があって・・・で、その男はオレの双子の兄弟だったというわけ。

私の訳が下手なので笑えないでしょうが、友だちが集まってワイワイやるときなどにこの種のジョークを真面目な顔で言えると、かなりセンスがいいとされるわけです。OK, I'm British and stupid, but I'm not that bad!というような言い方です。英国人の食べ物はまずいと言いますが、あれもひょっとすると英国人のself-deprecationなのではないかと思ったりするわけですね。「英国の食べ物で生活できるのなら世界中どこへ行っても大丈夫だ」というような言い方。実はその奥に傲慢のようなものが隠れていたりする。日本人なら分かるかもね。

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7)むささびの鳴き声

▼例によって徒然なるままに・・・。NHKの夜9時ニュースで「ジャパン・シンドローム」についてのレポートをやっていた。日本の人口激減問題に警鐘を鳴らすものであったのですが、この問題を調べているThe Economistの東京特派員が、年寄り人口だけが増える長崎市の行政当局の人にインタビューをして、例えば外国の移民を受け入れるとか、外国企業を誘致するなどの対策は考えないのか?と尋ねたところ「いまのところそのような動きは全くありませんね」というのが答えだった。そのお役人にしてみれば、現実をありのままに述べたつもりなのでしょうが、「動きはない」という他人事のような言い方は気になりましたね。

▼英国もかつては英国病と言われ、外国から憐憫の眼をもって見られていた時代があるのですが、そのころでさえも政府内には対英投資局(Invest in Britain Bureau)というのを作って海外企業の誘致に力を入れていた。サッチャー前の労働党の時代です。私の記憶が正しければ、英国に最初に工場進出をした日本企業はYKKの吉田工業で1973年のことだった。それからソニー、松下、トヨタ等々、主なる日本のメーカーはほぼすべて工場を英国に作ったはずです。まさに日本は日の出の勢いであったわけです。

▼The Economistのようなインテリ・メディアの間ではそれらの日本企業がもたらした「日本式経営」が注目されたりしたわけですが、英国の庶民感覚からすると「得体の知れないアジアの働き中毒たち」が自分たちの国を脅かしにきたと考えても不思議はない。でも英国はそれを受け入れた。その結果として得るものもあったし、失うものもあった。しかし物質的な生活水準が向上したことは間違いない。

▼菅首相の奥さんが東京の外国人記者クラブで講演をして「でき得ることをやって玉砕するのはいいが(内閣)支持率が低いと批判されて(首相を)辞めることはあり得ない」と述べたのだそうですね。この発言を言いかえると「メディアのいわゆる"世論"など気にする必要は全くない」ということになります。賛成です。

▼ランドセルを寄付する「タイガーマスク」が大流行なのだそうですね。NHKのニュースは、このことを「心温まる善意物語」のように語っていました。「タイガーマスク」のやることにケチをつけたいとは思わないけれど、「いい話ですねぇ」というNHKのキャスターのコメントには違和感を覚える。これは何故なのでありましょうか?自分の感覚のことなのによく分からない。けれど、何故か気持ち悪い。

▼然るに、自らの知識不足というか世間知らずに赤面の至りであったのは、ランドセルなるものがかなり高価なものであることを知らなかったということです。私の見たサイトによると最低で21,000円、最高で53,000円だった。いくら6年間使うものとはいえ、小学生の学校用品にしてはずいぶん値がはるものなのですねぇ。ウィキペディアには「欧米の学校でも使われているが日本のランドセルに比べて素材は質素で軽いものが多い」と書いてあります。

▼そのウィキペディアによると、ランドセルは太平洋戦争以前はほぼ都市部でのみ用いられており、「地方では風呂敷が一般的に用いられていた」のだそうです。そこで思うのですが、この際ふろしき(志ん生のいう「ふるしき」)普及運動などやる人はいないものですかね。茨城県にある「ふろしきや」の製品にはため息が出るような優れたデザインのふろしきがいっぱいあります。写真の製品は50cm四方で525円。中には1メートル四方のようにでかいものもある。小学生もふろしきで教科書を包んで学校へ通うべきであります。

▼寒いですね。今回もお付き合いをいただき有難うございました。

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