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むささびの鳴き声 美耶子の言い分 どうでも英和辞書 green alliance
2010年8月29日
3月半ばから続いてきた英国からのむささびジャーナルは今回でお終いです。約6か月の間、楽しく過ごさせてもらったイングランドと英国の人々には感謝・感謝です。そのあたりのことは、別のところに作った英文むささびジャーナルで述べさせてもらいました。
目次

1)広島・長崎:遅すぎた"謝罪"
2)イスラム教とアメリカ人、英国人
3)学び+集い=U3Aの存在価値
4)さよならFinstock
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声

1)広島・長崎:遅すぎた"謝罪"

前回のむささびジャーナルで、広島における今年の原爆式典に英米仏の代表が参加したというThe Guardianの記事を紹介するとともに、英国代表というのが誰であるのかがThe Guardianの記事では分からないとも書きました。その後、The Independent紙のサイトを見ていたら8月7日付でRobert Fisk記者がAn apology fatally devalued by the passage of 65 years(決定的に価値がなくなった65年後の謝罪)という記事を書いていたのが見つかりました。

この記事は単なる事実報告ではなく、記者自身が広島の式典に取材した際に感じたことを文字にしているものです。タイトルでもお分かりのように、戦争に絡めて「国による謝罪」ということがテーマになっています。とてつもなく長い記事なので全部を紹介するのはムリですが、私が考えたエッセンスと思われる部分のみをピックアップして紹介したいと思います。まずは書き出しから・・・。

我々はようやく広島に対して謝罪した・・・かな?我々は自分たちの原爆というものが引き起こした苦しみを認識した。まあね。オバマ大統領は広島の殺戮現場において「反核資格」のようなものをひけらかそうとしていた。が、これは「ごめんなさい」という言葉を吐くことと混同してはならないものであったのだ。At last we’ve apologised for Hiroshima - well, sort of. We’ve recognised the suffering our atom bombs caused - well, kind of. President Obama was showing off his anti-nuclear credentials in the killing grounds of Hiroshima, but this was not to be confused with saying sorry.

つまり今年の式典にはアメリカ大使が参加したけれど、だからと言って原爆投下についてアメリカが謝罪をしたわけではない、とFiskは言います。またFiskは英国代表が参加することについて駐日英国大使館が"This is the right move at the right time"(適切な時期に行われる適切な行動である)と語ったことについてはBlairite insincerity(ブレア風の不真面目)と決めつけている。ここは分かりにくい部分ですが、他のサイトを見ると、駐日英国大使館のコメントは次のようになっている。

The attention is on the ceremony itself and on the victims, so we don't want to overshadow the event. But given the way the international debate is going, we think this is the right move at the right time.
注目されるべきなのは式典と犠牲者の方々なのであり、我々はこの行事に影を投げかけるようなことはしたくない。が、昨今の国際的な議論の方向性に考えて、英国代表が参加することは適切な時期に行われる適切な行動であると、我々は考えている。

このコメントがどのような状況でなされたのか、私には分からないけれど、ひょっとすると、メディアから「政府代表が参加すると、日本に謝罪をしたと解釈されるのではないか?」と聞かれたら、そのように答えろというロンドンからの指示があったのかもしれない。それにしても、なぜこのコメントが「ブレア風の不真面目」だとFisk記者は考えるのか?それは「国際的な流れがそうなっているのだから、とりあえず歩調を合わせておいた方が自分たちにとって都合がいい」と言っているのと同じだ、とFiskは主張しているわけです。ブレアという人には常にそのようなご都合主義がつきまとっていたとFiskは考えている。大使館も含めた英国人の正直な心を言うと

After all, we are really not apologising for the 220,000 dead of Hiroshima and Nagasaki. Hell, didn't we win the Second World War?(我々は広島と長崎で死んだ22万の人々に謝罪する気などない。冗談ではない。我々は第二次大戦で勝ったんだぜ)

ということになるとFiskは言っている。

Robert Fisk自身は、あの当時の日本はすでに降伏の可能性を口にしていたのであり、アメリカによる原爆投下は戦争犯罪(war crime)だと考えているのですが、アメリカ政府の関係者が英国の歴史家、AJP Taylorに語った言葉として次のようなものを挙げています。

簡単に言うと、原爆は使われる必要があったのだ。これを開発するためにとてつもない額のお金がつぎ込まれたのだ。失敗でもしようものなら言い訳のしようがなかったはずだ。国民が何を言うか分かったものではなかったのだ。だから原爆が完成して投下されたときには皆ほっとしたものだ。"The bomb simply had to be used - so much money had been expended on it. Had it failed, how would we have explained the huge expenditure? Think of the public outcry there would have been ... The relief to everyone concerned when the bomb was finished and dropped was enormous."

原爆投下を正当化する理屈として、あれを使わずに日本の本土侵攻を行った場合、その方がはるかに犠牲者が多かっただろうというのがあるけれど、Fiskによるとそれはいまや全くのウソ(completely untrue)であることが明らかだとしながら、軍人であったマウントバッテン卿の言葉を紹介しています。

もし原爆が日本人を殺し、我々側の犠牲を少なくするものであるのなら、私は当然、不必要に我々側の人間を殺すことを望むことはないだろう。私の責任はなるべく多くの日本人を殺すことにあるのだ。戦争は狂気ではあるが、日本人の命を救って我々側により多くの犠牲者を出すとしたら、これ以上に狂ったことはないだろう。
If the bomb kills Japanese and saves casualties on our side I am naturally not going to favour the killing of our people unnecessarily ... I am responsible for trying to kill as many Japanese as I can. War is crazy ... But it would be even more crazy if we were to have more casualties on our side to save the Japanese.

軍人としては当たり前のようなコメントですが、Fiskは、

マウントバッテン卿の言葉は、残酷かつサディスティックで知られる日本の兵隊たちが殺したのが敵側の兵士たちであるのに対して、彼の部下たちが殺したのは殆どが日本の市民であったということに触れることを慎重に避けている。
This, of course, carefully avoids the fact that Japanese soldiers - brutal and sadistic though they were - were largely murdering soldiers, while Mountbatten's men were slaughtering mostly Japanese civilians.

と言っています。

これ以上紹介し始めるとあまりにも長くなるのでこの辺で止めておきますが、Robert Fiskによると、今年の広島にアメリカの政府代表が出席したのは


ますます自惚れの度合を強める大統領によるイメージアップ作戦の一環であって、原爆の犠牲者が被っている肉体的な苦痛への真摯な憂慮の気持ちから出たものではないし、人道主義者としての悲しみの表現でもない。正しい方向への第一歩と言う人もいるだろう。そのように信じたいものではあるが、(アメリカ代表の参加は)余りにも遅すぎたと言えるのだ。
And yesterday's theatre was played to boost the image of an increasingly self-regarding president, not out of any real concern for suffering - by which I mean physical pain - or humanitarian sorrow. A step in the right direction, you may say. Sure. But if you want to to believe in it, alas, it all came far too late.

ということなのだそうであります。

▼Robert Fiskのような意見が英国でも少数派に属するものであることは確かであり、この記事を掲載したThe Independentという新聞も、よく知られているとはいえ少数派です。ただFiskについては「知る人ぞ知る」存在であるし、The Independentも熱心な読者が多い。その意味で、この記事が新聞の第一面に掲載されたことの影響は大きいのではないかと思います。できれば原文をお読みいただくことをお勧めします。

▼Robert Fiskは、もともと中東問題(特にレバノン)の専門記者で、アフガニスタンからイラクまで常に戦争の現場に身を置いて語ることをモットーにしているようで、The Great War for Civilisationという本が特に有名だと思います。その彼が米軍のイラク撤退に関する記事を8月20日付の Independentに掲載しています。題してUS troops say goodbye to Iraq。さして長いものではないけれど、彼の専門分野です。ご一読を。

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2)イスラム教とアメリカ人、英国人


ニューヨークにおける9・11テロの現場付近にイスラム教のモスクが建設されることについてオバマ大統領が支持する考えを示したことでアメリカ中が騒然としているそうですね。日本ではどの程度話題になっているのでしょうか?The EconomistとYouGovという世論調査機関がアメリカ人を対象に行ったアンケート調査によると、次のような結果が出ています

▲世界貿易センター付近でのイスラム教文化センターとモスクの建設は行われるべきだと思いますか?Do you think the Islamic cultural centre and mosque should be built near the World Trade Centre site, or not?
民主党支持者 共和党支持者 独立派 合計
されるべき 28.0% 1.7% 21.3% 17.5%
されるべきでない 41.0% 88.3% 57.6% 57.9%
意見なし 30.9% 9.9% 21.1% 24.5%
▲モスク建設にあなた自身が賛成であるかどうかは別にして、イスラム教徒たちがあの場所にモスクを建設する憲法上の権利があると思うか?Whether or not you think the Islamic cultural centre and mosque should be built near the World Trade Center site, do you think that Muslims have a constitutional right to build a mosque there?
民主党支持者 共和党支持者 独立派 合計
ある 57.5% 31.8% 62.3% 50.2%
ない 24.9% 53.2% 25.2% 32.7%
分からない 17.6% 15.0% 12.5% 17.9%

この問題についてのアメリカの保守層と呼ばれる人々の意見は、あのような場所にモスクを作るのは「全くもって趣味が悪い(exceedingly bad taste)」というのが多いとされてきたのですが、この結果を見ると「趣味が悪い」などというレベルを通り越している。共和党支持者の半数以上が、イスラム教徒には憲法上の権利さえないと言っているのですからね。さらにいうとイスラムのモスク建設反対運動はコネチカット、テネシー、カリフォルニアにある町など、9・11には全く関係のないところでも行われているのだそうですね。

The Economistのサイトの中にあるDemocracy in Americaというブログは、「アメリカでは宗教の自由という文化が案外脆弱なのかもしれない」として、あるカナダ人ジャーナリストの次のようなコメントを紹介しています。

(アメリカの)保守層がモスク建設にここまで腹を立てている理由は、アメリカ人が彼ら自身の文化を信じていないということを意味している。アメリカ人がボルテールが持っていたようなリベラリズムに対する絶対的な確信を持っていないというのは残念なことである。アメリカが、イスラム教徒たちにグラウンドゼロから数ブロック離れた場所にモスク建設を許すだけでなく、積極的に奨励するような社会であることを想像してみよう。それはなんと強大な社会であろうか。It is hard not to conclude that the reason conservatives are so upset by the proposed mosque is that they don't have much faith in their own culture, and it is too bad they don't have Voltaire's confidence in liberalism. Imagine a society that could not just permit, but actually encourage Muslims to build a mosque a few blocks from Ground Zero. How fearsome would that be?

確かにこのアンケートに見る限り、アメリカ人の感情は「9・11テロ=アルカイダ=イスラム教」という式になってしまうようであります。特に共和党支持者(都市部の知識層だっている)の偏りはどうなっているのか?と思ってしまいますね。

英国の反イスラム感情はどうなのでしょうか?2006年に行われたアンケートによると、63%の英国人がイスラム教徒に対して好意的(favourable opinion)であるという結果になっている。その2年前の2004年のアンケート結果(67%が好意的)よりも4%下がったことになるのですが、2005年にロンドンのテロがあったことを考えると63%が好意的というのはちょっと意外な数字です。

このアンケート調査はアメリカのPew Researchが行ったものなのですが、ロンドン・テロの1年後の調査で「イスラム教徒は暴力的」と答えた英国人は約30%なのに対して、アメリカでは45%となっています。Pew Researchによると、2009年の時点における英国のイスラム人口は約164万で全人口の2.7%、アメリカの場合は245万で全体のわずか0.8%となっています。

▼非イスラム英国人のイスラム拒否感覚はアメリカやヨーロッパ大陸に比べると弱いのですが、英国在住のイスラム教徒の反欧米感情は、大陸で暮らすイスラム教徒よりも強いという結果が出ています。英国のイスラム教徒で9・11テロがアラブ人の仕業だと考える人はわずか17%しかいないのに対してフランスに住むイスラム教徒の場合は48%がアラブ・テロリストのやったことだと考えている。英国内のイスラム教徒の非常に多くが9・11は欧米人による反イスラムの陰謀であると考えているのだそうであります。

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3)学び+集い=U3Aの存在価値


前回のむささびジャーナルで、Witneyという町の生涯教育活動(U3A)のリーダーをしているパム・ジョーンズのことを紹介しました。今回はU3Aの理念とか進め方などについて簡単に説明させてもらいます。日本も英国も社会が高齢化していく中で、高齢者の集い方の一つとしてのU3Aを考えるのは悪いことではないと思います。

退職後の生活に教育を取り入れるという考え方はフランスで始まったものなのですが、英国でも導入されてから約30年になる。U3AがUniversity of the Third Ageの略であることは前回お伝えしました。「第三年齢期大学」とでも訳すのでしょうか?いずれにしても第三年齢期(Third Age)というものがあるということは、第一と第二、ひょっとすると第四の年齢期もあるということですね。ネットなどで調べてみると、第一年齢期(First Age)は生まれてから学校を終えて社会へ出るまでの期間、第二年齢期(Second Age)は社会人として過ごす期間、第四年齢期(Fourth Age)は、身体の自由がきかなくなり、他者の援助なしには社会活動などにも参加できなくなる時期と定義づけられているようです。いずれにしても社会学とか社会政策の専門家が使う用語です。

で、第三年齢期(Third Age)はどのように定義づけられているのかというと、英国カーネギー財団(UK Carnegie Foundation)というところが1993年に発行した社会政策についての最終報告書(Final Report)は次のように言っています。

生活費を稼いだり、子供を養育したりする義務から解放された後さらに20年もしくはそれ以上もの健康な生活を期待できるような人生の時期のことであり、我々の社会においてはかつてなかった状態のこと。
the period of life when people emerge from the imperative of earning a living and/or bringing up children and, without precedent in our society, are able to look foward to perhaps twenty or more years of healthy life.

要するに毎日仕事のために通勤したり、子育ての心配をする義務はなくなったけれど、肉体的にも精神的にも元気である時期のことをThird Ageというわけです。

英国統計局(Office for National Statistics)の数字によると、過去25年間(1984年~2009年)で、英国における65才以上の人の割合が15%から16%にまで増えています。たった1%ですが、数で言うと170万人の増加です。そして最も急速に増えている年齢層が85才以上で、1984年当時は66万人であったのが、2009年には140万人に達している。そして今から約25年後の2034年になると、65才以上が23%に、85才以上は現在の2.5倍の350万人に達するものと推定されています。

社会学者のアンソニー・ギデンズは、Sociologyという著書の中で高齢化社会における「教育」について語っているのですが、educationとlearningの違いについて、前者が決められた枠(学校)の中で知識の伝達・習得を行うことを意味するのに対して、learningは知識習得の場が学校の教室だけとは限らず、博物館訪問であったり、近所のボランティア活動への参加であったり、インターネットによる遠隔教育であったりすると定義しています。彼によると現代の英国では、学ぶという行為がeducationからlearningへと移行しつつあるのだそうで、

educationからlearningへの移行にはそれなりの結果が伴う。learningを行う者は活発かつ好奇心に富み、社会的に活動することが多い。この人たちは、単にこれまでのように(学校という)組織が生む環境下においてのみならず、もっとさまざまなソース(源)から見識を身につける能力を有している人たちである。
The shift form 'education' to 'learning' is not an inconsequential one. Learners are active, curious social actors who can derive insights from a multiplicity of sources, not just within an institutional setting.

と言っています。彼によると自分を理解したい(self-understanding)とか自分を磨きたい(self-development)と思う人にとって、learningは手段であると同時にそれ自体が目的ともなり得るものなのだそうであります。アンソニー・ギデンズはU3Aの活動がlearningによる自己理解や自己開発の場を提供する好例であるとしています。

フランスで始まったU3Aの運動が英国でも取り入れられたのは1981年のことなのですが、U3Aを支えるthe Third Age Trustから出ているパンフレットによると、それはサッチャー政権が推進していた「自助努力」(self-help)の考え方と無関係ではないと言います。それまでの英国は「揺り籠から墓場まで」という福祉国家を目指してきたわけですが、1979年、サッチャ-の登場によって、戦後当たり前とされてきた国家が保障する「優雅な老後」という考え方が通用しなくなってしまった。

前回紹介したWitney U3Aのパム・ジョーンズもU3A活動の基本理念として「自分でやること」を挙げています。Witney U3Aには「ウォーキングの会」から「ドイツ文学研究」まで、実にさまざまなサークルがあるのですが、発案したメンバーが主宰することが原則です。ウォーキングや食事の会ならそれが普通だと思うけれど、「ドイツ文学研究」のような学術性があるサークルの場合でも、専門家を呼んで来て話を聴くのではない。言いだした人が、それなりの知識を使いながら進めるというのが根本です。

Witney U3Aの場合、全員参加型の集会(月一回)とそれぞれの会員宅で行われる個別集会(約50コース)の二つから成っているのですが、会員の自発性が試されるのは後者の方です。自宅の大きさにもよるけれど、一つのコースの平均参加者は10~15人程度です。中には、充分な人数が集まってやり始めたけれど出席者が少なくなってしまうケースもある。パムによると、そのような場合は思い切って「一時廃止」にするのだそうです。そうすると「本当に好きな人」だけが集まって再開にこぎつけたりする。

またパムによると「自宅コースに参加する人の中には、コースの中身に興味があるというより、他人との集いに参加したくて来る人もかなりいる」とのことです。

いずれにしても定年退職後、20年は生きるのが普通と言われるような時代、それらの年月をどのように過ごすのかを考えるときにlearning(学ぶ)とgetting together(集う)が一緒になったようなU3Aの活動が盛んになるのも分かりますね。

▼私(むささび)自身がリタイヤの生活に入ったときに、多くの知り合いから「おめでとうございます」というメッセージを受け取ったし、欧米社会などではリタイヤ生活を楽しみにしているのが普通であるというハナシを耳にして「うらやましい」と思ったものです。しかしある本で読んだのですが、工場長を務めてきて65才で定年退職した英国の男性は「打ちのめされた気持ちになった」(I felt very down)として、その辛さを次のような言葉で表現しています。

I miss the complete involvement...the responsibility, keeping your brain active. I miss the people I worked with.

▼complete involvementは「献身的に仕事に打ち込んでいた状態」のことを言うのでしょう。責任があって、いつも「仕事」のために何かを考えていた状態に戻りたいし、仕事仲間とも一緒になりたい・・・というわけですね。英国の高齢者のこのような言葉に接すると、職場を去ることによる「喪失感」はどこも同じなのだということを実感します。

▼アンソニー・ギデンズは「学ぶこと(learning)自体に意味がある」と言っています。これはアタマを使い続けるとアルツハイマーや認知症になりにくいという類の話ではないと思います。自己理解とか自己開発のために学ぶというのも格好が良すぎて(私には)ウソっぽいけれど、「ボケ防止になるから勉強する」というのは哀しいですよね。私が会った英国人の多くがそのように言っていたけれど、それは「健康のために」ジョギングやウォーキングをするというのと同じです。私がオックスフォード大学へ3週間「留学(!?)」をしたのは、自分の脳を活性化させるためなどでは絶対にない。ちょっと面白そうだからやってみただけ。昔懐かしい日本語でいうと「道楽」です。英語で言うとjust for fun。

▼U3Aの理念についていうと、私はむしろgetting together(集う)ことの方が貴重なのではないかと思ったりしています。Witney U3Aのパム・ジョーンズは、どちらかというとlearningの方に力を入れたいと言っています。彼女自身が「何かやっていないと落ち着かない」という性格でもあるのですが、単に集まってウォーキングや食事をするよりも、みんなで知的な作業を行うことの「能動性」のようなものに意義を見出しているようであります。「あんたも日本でU3Aを作りなさい」と真顔で言うパムを見ていて、いまの英国の普通の人々のエネルギーを感じてしまった。彼女たちがやっているWitney U3Aの活動は、ここをクリックすると見ることができます。

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4)さよならFinstock


今年の3月から続いてきた英国からのむささびジャーナルも今回でお終いですが、英国滞在6か月のほとんどを過ごしたFinstockという村についてもう少しまとめておきましょう。

最初にお知らせしたのですが、この村には「お店」といえるものはパブが2軒、何でも屋さん(Village Shop)が1軒で合計3軒です。郵便局(Post Office)もあるのですが、これはVillage Shopの中に間借りしているような印象で存在しています。ネットのどこを探してもこの村の面積が見つからないのでありますが、端から端までクルマで5分も走ればお終いという感じという村です。

人口は10年前(2001年)の国勢調査によると707人ですが、村紙Finstock Newsの編集長によると、現在は約1200人となっている。編集長の言うことが正しいとするならば、10年間で人口が倍増したことになる。つまり小さな村であるし、人口だって決して多いわけではないけれど、過疎というわけではない。村人の平均年齢は40才だから高齢化社会でもない。


Finstock Newsの編集長の話では、結構高給取りのエンジニアや大学教授などが暮らしているのだそうです。どちらかというと「田舎暮らしに憧れてやってくる都会の人」が多い村のようであります。そう言えば我々が暮らしたCedar Cottageはアメリカ在住の大学教授夫妻の所有によるものだった。彼らは夏休みになるとやってくるのだと隣人が言っておりました。インターネットでFinstockの住宅の価格を見ても日本の感覚でいうと5000万~6000万円というような住宅が結構ある。

最近この村に90戸の住宅団地を作ろうという動きがあったのですが、ある村人によると「我々の運動で廃案にさせた」とのことであります。この人はクルマで30分ほど行ったところにある飛行場で航空機の修理などをやっているエンジニアで、それなりのサラリーをもらって「田舎暮らし」を楽しんでいるわけです。私が「自分が田舎暮らしを楽しんでいるのに、他の人たちが入ってくるのをイヤがるというのは、それはアンタのエゴなんじゃないんですか?」と質問すると、「いいことを聞いてくれた」とばかり「違う。エゴではない。その90戸の住宅団地に誰が住むと思う?みんなweekenderなのだ。この村のことなどどうでもいいと思っているweekenderなのだ」と反対に説得されてしまった。


weekenderというのは、週末だけ"静かな田舎"を楽しみにみにくる都会の高給取りのことです。「自分らはここで暮らしているんだから、彼らとは違う」というのがそのエンジニアの言い分であります。ちなみにそのエンジニア夫婦が暮らしている住宅は15年ほど前に約6万ポンドで購入したものですが、いまでは25万はするとのことです。「若い人にはとても手が出ない値段」なのだそうです。

この村の日常生活でありますが、買い物はクルマで10分ほどのところにあるWitneyという町へ行きます。この町自体も人口3万程度でそれほど大きな都会ではないのですが、大手スーパーが3つも出ているほか全国チェーンの電器屋、コンピュータ・ショップ、薬屋、靴屋などが全てそろっている。もちろんパブやレストランもたくさんある。

Finstockにあるコンビニ風のVillage Shop、これが貴重な存在なのでありますよ。ちょっとした食肉・野菜類、サンドイッチ、新聞・・・セブンイレブンをうんと小さくしたような品揃えだと思ってください。しかしクルマでWitneyまで行くことができない高齢の村人には貴重なお店です。バスで行くこともできるけれど、1時間に1本しか走っていない。このVillage Shopが威力を発揮したのが、今年初めの大雪のときだった。全く初めての経験だったので、誰もタイヤにチェーンをつけたり、スノータイヤに代えることができない。そんなもの売っていない。それでも歩いて行けるVillage Shopには、基本的な商品だけはそろっていた。「あの悪天候のときは存在価値を分かってもらえたと思う」(We think the shop proved its worth)と店番をするMo Townsendは言っております。

開店時間は普段は午前8時~午後6時、土曜日が午前8時~午後1時、日曜日は午前9時から午前11時半ですが、面白いのはVillage Shopが地元の自治体からの交付金によって運営されているということです。何年も前に地元住民がお金を出し合って基金を作り、それを自治体に収めることで、自治体からの交付金が下りたのだそうです。マネジャーも「ほとんど無給に近い」ようなお金で引き受けている。店番の類は全くのボランティアが頼りだそうです。

Finstock Village Shop:右端の写真の右側が時給6ポンドの郵便局長さん

そのVillage Shopと同じ建物の中にあるのが郵便局。開いているのは月曜日から金曜日の午前9時から午後1時まで。局長のジョイスさんは郵便局の仕事をして30年ですが、給料は1時間あたり6ポンドと決まっているのだそうで、日本の感覚でいうと、「時給600円」だからFinstock Newsの記者も「あまり魅力的とはいえないお金」(not very inviting)と言っている。「私がやっている間は閉鎖はしないけれど、リタイヤしたら後任が見つかるかどうか・・・」(Don't worry about closure here, yet, but it'll be hard to find someone to replace me when I retire)と言っています。

ここ10年ほどで全国の郵便局は19,000軒から11,500軒にまで減っており、これからも減り続けるだろうとされています。この郵便局が閉鎖されると、Finstockの住民でクルマのない人たちはバスで隣町まで行かなければならなくなります。バスの往復料金が3ポンド強で郵便は大体において1ポンド以下、つまり郵便料金よりもバス代の方が高いということにもなりかねない。

Village Shopの前にはいつもCome on and support your local shop and see what fine goodies we have gotとチョークで書かれた看板が置いてあります。見ていると郵便局や買い物に来た客が店内で油を売って帰ることが多いようです。村人の寄り合い所のような性格もあるわけです。

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5)どうでも英和辞書

A~Zの総合索引はこちら

partial:~に凝っている

妻の美耶子が友だちの英国人にお線香(incense)をプレセントしたところ、返ってきたお礼のメールがI am partial to incense!というものでありました。BBCが自分たちのジャーナリズム倫理の原理としてimpartialという言葉を使いますね。「不偏不党」という意味です。partialがimpartialの反対語(「偏っている」と言う意味)であることは察しがつくけれど、物事に凝っていると言うときにも使うとは知らなかった。

I am partial to miso-ramen+half-rice+gyoza...

と言えば英国でも通じる・・・わけがないよな。miso-ramenが分からないし、half-riceが「半ライス」のことであるというのは、よほど学問のある人でないと想像もできない。

お線香に戻りますが、「お線香を焚く」というのはburn incenseというのですね。美耶子の友だちがI shall burn some this evening(今夜、早速焚いてみます)と言っておりました。burnと来ると、私などには「燃やす」という雰囲気になって「火事にならないように気をつけて・・・」と言ってあげたくなったですね。


paternity leave:産休

女性の産休はmaternity leaveだからpaternity leaveは父親に与えられている権利ですね。DADという英国のNPOのサイトによると、従業員(男性)には少なくとも2週間のpaternity leaveを与えることが経営者に義務付けられています。その間、一週間につき120ポンドの産休手当がもらえる。2003年に法制化された権利ですが、派遣社員(agency workers)や臨時雇(contractor)には必ずしも与えられないものだそうです。もちろんpaternity leaveは権利であって義務ではないから、1週間とろうが2週間とろうが本人次第です。新しく赤ちゃんが生まれたキャメロン首相ですが、新聞報道によると二週間のpaternity leaveをフルにとるのだそうです。



simple-minded:利口でない

民主党の小沢一郎さんが「アメリカ人は単細胞」と発言したことについて、AP通信は

When I talk with Americans, I often wonder why they are so simple-minded.

と言ったと伝えています。「アメリカ人と話をすると、なんでまたこの人たちはこうもsimple-mindedなんかなぁと思うんだよな」ということですね。simple-mindedを別の英語で言うとnot intelligentとnot able to understand how complicated things areというのが、私が持っている辞書の説明です。「利口(知的)でない」「物事が如何に複雑であるかを理解できない」という訳になる。別の辞書はfoolish、stupidとしたうえでmentally retardedとまで言っている。はっきり言ってアホであり、知的障害ということであります。

似たような言葉にsingle-mindedというのがありますよね。こちらは「断固としている」とか「ぐらつかない」という意味で、simple-mindedの反対みたいなものです。小沢さんが、しっかりした根拠と決意があって「アメリカ人はアホだ!」と述べた場合はIchiro Ozaw was single-minded in saying that Americans are simple-mindedとなるわけです。でも実際は小沢さんの方がsimple-mindedだった!?

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6)むささびの鳴き声

▼8月24日に英国のキャメロン首相に4人目の子供が生まれました。女の子で名前はFlorence Rose Endellion。これにファミリーネームがつくとFlorence Rose Endellion Cameronとなるけれど、実際にはFlorence Cameronと呼ばれることになる。父親のキャメロンの場合、正式にはDavid William Donald Cameronです。母親はSamantha Gwendoline。キャメロン夫妻にとってFlorenceは4人目の子供ですが、うち一人は亡くなっている。

▼Florence Rose Endellionという名前ですが、最初のFlorenceはBaby Namesというサイトによると、女の子の名前としては英国では94番目にポピュラーなものだそうです。そういえばナイチンゲールの名前はFlorenceだったですよね。その次のRoseについてはどのサイトにも解説がないのですが、Florenceという名前(イタリア語)が花ざかり(blossoming or flourishing)という意味なので関連はある。最後のEndellionですが、キャメロン夫妻が好んで休暇を過ごすCornwall地方にある小さな村(St Endellion)に由来しているのだそうです。

▼ちなみに賭け屋のLadbrokesによると、イチバン人気はIsabella、次いでOlivia、Emma、Daisyあたりが人気であったのですが、Florenceを当てた人はいなかったとのことです。

▼キャメロンの赤ちゃんとは余りにも関係ないけれど、日本の民主党代表選に小沢さんが出馬することについては英国メディアでは殆ど話題になっていません。私がチェックした範囲では、BBCとThe Independentのサイトの「アジア」のページに辛うじて載っている。両方とも通信社の記事を使っているようで、それほど力が入っているわけではないのですが、小沢一郎という人が「カネにまつわるスキャンダル」に絡んだ「闇将軍」であると報道しています。

▼小沢出馬について、日本のメディがどのように報道しているのかと思ってちょっとだけ当たってみたら、かなり批判的なものが多かったようであります。ひょっとすると産経新聞のサイトに出ていた「金銭問題未決着なのに」「党が壊滅する」という街の声があるという見出しが象徴的なのかも?

▼私自身はというと、さしたる確信があるわけではないけれど「消費税値上げ」と「生活必需品の消費税免除」を訴える人が首相になったらよろしいのではないかと考えているのですが、それはともかく、現存する政治家の中で「メディアに良く書かれない」ことではダントツなのが小沢さんですよね。でもこのように出馬をするということは、何らかの勝算があるということですね。つまり如何に日本のメディアが小沢さんたちによってバカにされているかの証拠でもある。世論形成の力を持っていない(と小沢さんたちに考えられている)ってことです。

▼ちなみに小沢さんは「アメリカ人は単細胞」と発言して話題になったそうですが、英国についても「英国はさんざん悪いことをして紳士面しているから好きではないが、その知恵と自立心は、やはり七つの海を支配しただけの民族だ」と語った、と朝鮮日報・日本語版に出ておりました。このコメントについてはBBCもThe Independentも全く触れていなかったのですが、私なりに勝手に次のように直訳して、ある英国人に見せて、小沢発言をどう思うか聞いてみた。

The British pretend to be "gentlemen" but you know all the evils they did. I don't like their pretention and hypocricy, but I do admire their wisdom and spirit of independence, without which they would not have been able to rule the seven oceans in the world.

▼その英国人のコメントは「まあ、人間、いいところも悪いところもあるから・・・」というものだった。その人はウェールズ人であったので「そうだよね。英国人(English)にもウェールズ人(Welsh)にもいいところと悪いところがあるよね・・・」と答えたら「いや、WelshとEnglishを比べたらWelshの方がいいに決まっている!」とのことでありました。笑って言ったのですが、必ずしも冗談で言ったのではない、と私は思ってしまった。

▼今回も長々とお付き合いをいただき感謝いたします。また英国からのむささびジャーナルにも長い間お付き合いをいただき、ありがとうございました。イングランドは日の暮れが早く、日の出が遅くなって完全に秋の気配です。トンボが飛んでいます。
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