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むささびの鳴き声 美耶子の言い分 どうでも英和辞書 green alliance
2010年2月28日
梅が満開ですね。冬は本当にこれでおしまいなのでしょうか?関東地方では雪らしい雪も降らなかったですね。イングランドと大違い。あちらでは、今度は川があふれて洪水の心配があるらしい。
目次

1)毛沢東は野球が嫌いだった!?
2)北欧に学んだ女性校長の教育法
3)英国社会は壊れていない?
4)D・キャメロンの研究⑪:公共サービス運営は生協方式で
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声

1)毛沢東は野球が嫌いだった!?



2月11日付のThe Economistによると、昨年チャンピオンになった米大リーグのニューヨーク・ヤンキースのRandy Levine会長とBrian Cashmanゼネラルマネジャーがこの春、チャンピオン・トロフィーを持って中国国内を巡回する企画を考えているのだそうですね。

目的はいうまでもなく中国における野球人気を高めようということにあります。二人が狙っているのは、中国国内で将来の大リーグのスターを発掘すること。中国出身の選手がアメリカで大活躍すれば、イヤでも野球に対する関心が高まるであろうというわけです。

野球ではないけれど、プロのバスケットボール・リーグであるNBAのヒューストン・ロケッツに所属している姚明(Yao Ming)選手は上海の出で、226cmという身長を生かして大活躍、いまや中国の子供たちのアイドルになっている。The Economistの記事によると、金曜日の夜ともなると中国の人たちの最大の楽しみはNBAの試合をテレビで見ることなのだそうで、放映権だのスポンサー料金などでかなりの額のお金がNBAに入っているとのことです。

つまり野球の大リーグもNBAにあやかろうというわけで、どこかに埋もれているはずの時速100マイル(160キロ)の快速球投手を見つけようということであります。

が、中国における野球熱はいまいちで、例えば北京五輪用に作った野球場が取り壊されたりしている。隣接するバスケットボールのスタジアムは残っているのに、です。プロの野球チームはあるけれど殆ど知られていない。

中国における野球の不人気は毛沢東時代にルーツがある、とThe Economistの記事は言っている。毛沢東は、バスケットボールは「高潔なるスポーツ(virtuous sport)だが、野球は横暴な西洋のシンボル(symbol of the despotic West)であり禁止すべきだと考えていた」のだそうです。

野球が横暴なるスポーツであるかどうかはともかく、憶えるのが難しくて道具もいろいろと揃えなければならず、しかも広い球場も必要という具合に余りいい条件のスポーツではないことは確かだということは言える。大リーグではこれまでも多額のお金を使って野球を中国に広めようとしてきたけれど、あまり成功しているとは言えない。中国国内のショップでMLBグッズを置いたりしても人気はいまいち。

MLBでは中国内のある学校に能力開発センターを作ったりしているし、昨年7月にはQSL Sportsという会社が中国政府との間でユースリーグを作ろうということで中国政府との間で合意をとりつけたりもしている。将来は全国学校野球選手権もという「夢」もないではない。これらがうまくいけばスポンサーシップによる収入なども莫大なものになるというわけですが、そうなるまでには少なく10年はかかるだろうと言われています。

▼毛沢東が野球嫌いであったとは知らなかった。それはともかく野球というスポーツが、やる方にとっても見る方にとってもバスケットボールだのサッカーだのに比べると楽しむのが難しいということはあるかもしれないですね。あまりにも「静」の部分が多いから。

▼イチローとか松井秀喜とか野茂英雄があちらで活躍し始めてからの日本における大リーグ熱は半端じゃないですね。見事に大リーグの思惑が当たってしまったということです。

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2)北欧に学んだ女性校長の教育法


East LondonのTower Hamletsという地域は、イングランドの中でも最も貧困層の多い場所として知られています。そんな場所だから教育環境も恵まれないわけですが、そのエリアにあるい公立小学校が、公立学校としては全国一の成績を収めるようになった。注目されているのは、Catherine Myersという女性校長の業績です。2月16日付のThe Timesの記事によると、彼女の成功のキーワードは「個人中心の学習」(personalised learning)だそうです。生徒一人一人に合った学習ということです。

彼女の教育方針を具体的に列挙すると次のようになります。
  1. 男子と女子を分けて教育すること(Educate girls and boys separately):彼女によると、英国の常識では女子は女子校で学んだ方が成績がよくなるとされているけれど、男子生徒も男だけのクラスの方が成績がよくなるのだそうです。
  2. 生徒それぞれのやり方を尊重すること(Let them do it their own way):もちろん勉強するということが前提になっているのですが、自分自身の学習の仕方(グループに入った方ができるとか、試験間際にならないと勉強しない等々)でやらせようということで、「子供は自分の好きなことを学ぶべきであり、そうすれば勉強も好きになります」(Children should learn what they like and like what they learn)というわけです。
  3. 職業訓練的な学習をバカにするな(Don’t see vocational subjects as second best):卒業するときに、何かの資格や技術を身につけているべきだということですが、この部分で彼女は「英国流の学校のあり方を疑え(Think beyond the British school tradition)」と言っている。北欧諸国の職業教育を見習えと言っています。
  4. 目標を立てろ(Set targets):彼女が言っているのは、子供たちそれぞれの能力に合った目標を設定しろということなのですが、目標は少しだけ高めに置くこと。そして他の子供と比較するのを止めろとも言っています。
  5. 尊敬されたいと思ったらまず子供を尊重しろ(Get respect by giving it):とにかく自分の子供が好きであることと、彼らが出来るようになるということを信じなければならない、ということです。
▼Catherine Myersの教育法の中でも、日本人である私(むささび)が納得を感じるのは3番目の「職業教育」の部分です。ここ何年もの間、日本では教育というと「ゆとり教育」とか「個性尊重」とか「真のエリートを育てる」等々という抽象的な言葉で語られてきたように思うけれど、世の中に出たときに独りでも生きていけるようにすることが教育の目的だとすると、学校でなんらかの技術を身につけるという意味の教育は大切ですよね。

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3)英国社会は壊れていない?


保守党のデイビッド・キャメロン党首が頻繁に言っているのは「サッチャーさんが立て直したのは英国経済、自分がを立て直すのは"壊れた英国社会"(broken British society)」ということです。最近のThe Economistが現代の英国社会は本当にキャメロンがいうほど壊れているのか、という疑問を呈する記事を載せています。イントロは次のようになっています。

犯罪、家庭崩壊、アルコール依存と麻薬・・・保守党(そして有権者の多く)は「英国社会は壊れている」と言っている。本当だろうか?
Crime, family break-up, drunks and drugs: the Conservatives--and apparently plenty of voters--think that Britain has a “broken society”. Does the claim stand up?

おそらくどの国でも「あなたの国の将来は明るいですか?」と聞かれて「明るいです」と答える人の数は少ない。過去のことははっきり分かっても将来というものは大体において不確実なものであるから、このような答えが多いことは当たり前とも言える。ただ、英国人の場合、将来に対する悲観の度合が特に強い(Britons are getting even more downbeat)とThe Economistは言っている。

例えば現在の労働党政権が誕生した1997年の調査によると「英国はますます暮らしにくい国になりつつある」(the country was becoming a worse place to live in)と答えた人の割合は40%であったのに、2007年の調査ではこれが60%にまで上っている。ブラウン政権が誕生したころにはこれがさらに71%にまで上昇している。金融危機が起こる前の数字がこれです。世論調査機関のIpsos-MoriのBen Pageという人はこれを「昔は良かった・・・」(good old days)というノスタルジアが高くなっていると解説している。

2007年の調査(金融危機の前)で英国人は、英国のどこがそれほど良くないと考えたのかというと、社会の安全性(security)に対する不安を挙げる人が圧倒的に多かった。しかし統計によると、過去15年間で英国における犯罪件数は45%も減っている。特に顕著なのは家庭内暴力(domestic violence)で、英国の場合、夫が妻に乱暴を働くケースが多いわけですが、これなど75%も減少している。これはおそらく英国の景気が良かったので、失業男性が家にいるということが減ったことと、妻にも収入の道が開けたということで、経済的に独立できる環境にあったことが背景ではないかとされている。

にも拘わらず「英国が安全な社会ではない」という人が多いのはなぜなのか?保守党に言わせると、犯罪件数そのものは減っていても凶悪事件、特に子供が絡んだものが増えているということがあるのではないかとしています。最近、ヨークシャーのEdlingtonというところで起こった事件は、子を持つ親を震え上がらせたものです。この事件では、10才と12才の少年が、近所に住む9才と11才の子供を90分間にわたって拷問して殺してしまったというものです。ただThe Economistによると、いまから30年以上前の1974年、英国は先進国の中でも子供が殺される事件が3番目に多い国であったけれど、現在では17番目で、件数自体も70%も減っている。

以上は家庭外の世の中の話で、保守党党首のキャメロンが言うほど英国は「壊れた社会(broken society)」ではないという数字になっている。では、家庭そのものはどうか?これは大いに変化しているようです。まず結婚夫婦の数が大幅に減少している。1950年代に比べるとカップルが結婚する割合は半分にまで減っており、5年以内には英国の赤ちゃんの半数以上が「非婚の両親」(unmarried parents)の間に生まれることになるものとされている。片親家庭(single parent families)の数も30年前に比べると3倍に増えている。離婚率は減ってはいるもののヨーロッパでは英国が一番高い。

それから年齢を問わず一人暮らしが増えている。独居老人(lone pensioners)の数は50年前に比べて2倍、若い人の独り暮らしは3倍に増えているのですが、これは必ずしも悲観的な数字とはいえない、とThe Economistは言っている。老人の一人暮らしについては、平均寿命が延びたので、「つれあい」が死んでからも生きている人が多くなると同時に経済的に豊かになったので、独り暮らしができる住宅を持っている夫婦が多くなったということでもある。若い世代の独り暮らしが増えたのは、昔に比べれば収入が増えたので、同居の必要性が低くなったということでもある。いずれにしても、独り暮らしは「好きでやっている」(out of choice)という側面が大きいので、「壊れた社会」現象というのは当たらない、とThe Economistは言います。

もちろん英国社会にも問題がないわけではない。例えば過度のアルコール摂取や麻薬。1980年代に比較すると、フランス、ドイツ、アメリカを始めとするOECD諸国ではアルコール摂取量が減少しつつあるのに英国ではかなり(alarmingly)増えている。ただこれも酒飲みそのものは減少しているけれど、「過度な飲酒」が増えているという現象であるようなのです。

The Economistの記事にはほかにもいろいろな調査結果が挙がっているのですが、ひと言でいうと、ここ20~30年を振り返ると、英国は犯罪も、殺人も、麻薬も、10代妊娠も減少している。にもかかわらず「英国社会は壊れている」(broken Britain)という訴えが共感を呼ぶのはなぜなのか?一つには、人々が政府の発表する統計数字そのものを信用していないということがある。

もう一つの背景としてThe Economistが挙げるのは新聞報道です。英国の新聞は世の中の明るい面を伝えることがほとんどない(newspapers seldom look on the sunny side of life)というわけです。Edlington事件を伝える1月24日付のMail on Sunday紙の第一面の大見出しは

悪がきの名前を言え。そいつらを隠すな!
NAME THE DEVIL BOYS--WE MUST NOT LET THEM HIDE

というわけで、殺された子供の両親のコメントをセンセーショナルに伝えている。

新聞のセンセーショナリズムはいまに始まったことではないけれど、The Economistによると、昔と大きく違うのは地方紙が衰退して全国紙にとって代わられているところが多いということ。キャメロン党首の地元はOxforshireにあるWitneyという町なのですが、この町の人たちが地元紙のOxford Mailではなくて全国紙を読む傾向が強くなっている。そうなると、例えば本来ならローカルな事件でも場合によっては全国ニュースとして伝えられる。もちろんテレビもある。Witneyの住民たちは、ほかの町で起こった残虐な犯罪でも、あたかも自分たちの町で起こったことであるかのような気持ちになり、Witneyまでもが「壊れた社会」であるかのような錯覚に陥る。

2007年・2008年にロンドンではティーンエージャーによるナイフ殺傷事件が相次いだのですが、悪いニュースほどよく広がる(bad news travels best)けれど、2009年のロンドンにおけるティーンエージャーの犯罪は半分に減っているにもかかわらず、それがニュースとなって全国に伝えられることがないので、Witneyの住民たちは、英国全土が危険な社会になりつつあるかのような錯覚を抱き続けることになる。

現在の英国は、アルコール消費はかつてに比べれば減っているけれど、少数の人たちの間においては昔よりひどくなっている。犯罪は減っているけれど、残酷な事件は起こっている。麻薬の使用量は全体としては減っているけれど、以前にはなかった危険な麻薬が出回っていることも事実としてある。つまり

英国社会が壊れているという主張の根拠は非常に弱いことは事実である。が、そのことはまた、社会の多数派の外側にいる人々に眼を向ける必要性を叫んでいるという意味でもあるだろう。
The evidence supporting the existence of a “broken society” is thin indeed: all the more reason to focus on those who languish outside mainstream society altogether.

ということになる。キャメロンがいうほどの規模では英国は壊れていないけれど、壊れている部分は前よりもひどく壊れているというわけです。

▼地方紙が衰退して、みんなが全国紙を読むようになると、一つの町の事件が全国的な規模で影響を与えるようになるとのことでが、そもそも何故それまでは地方紙を読んでいた人たちが全国紙を読むようになったのか?ひょっとすると、それまでロンドンやマンチェスターのような大都会(従って犯罪も多い)で暮らしていた人たちが田舎に住むようになったということでしょうか?つまり肉体的には田舎暮らしをしていても意識は都会人という人が増えているってこと?このあたりは実際に英国に行ってみないと分からないですね。

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4)D・キャメロンの研究⑪:公共サービス運営は生協方式で

キャメロンが推進している考え方の一つに(以前にも紹介したとおり)権力の拡散があります。日本流に言うと「地方分権」ということになる部分もあるけれど、キャメロンの場合は、ロンドンの官庁が握っている権力を地方自治体に分散させるだけでなく、地方自治体のさらに向こうにいる人々にまで分散させようというアイデアです。

Power to peopleという考え方の具体的なものが、公的な機関の運営を「生協(co-operatives)」スタイルでやろうというものであります。公立病院の運営は病院スタッフに任せ、学校は教師たちに、職業紹介所もスタッフに任せる・・・というわけです。運営するための資金は政府が出す。つまり税金から出ることはこれまでと同じですが、機関が効率よく運営されて「利益」(surplus) が出たような場合、そのお金の使い道はスタッフに任せ、政府の役割は運営を任された人たちが然るべきレベルのサービスを国民に提供しているのかを監視することにあるというものです。

このアイデアについて疑問視する意見はもちろんある。学校の運営を教師に任せて大丈夫なのか?というような声ですね。キャメロンのアイデアによると、公的機関の運営にあたっては、サービスの質について地方政府との契約に基づいて達成義務を負うことになる。しかしそれでも契約で約束されたようなサービス提供が出来なかった場合はどうなるのかという点については、いまいち漠然としているというのがThe Economistの指摘です。なんのかんの言っても結局は政府が干渉することになり、却って高くつくことになるのではないかというわけです。

キャメロンは、もちろん生協スタイルの運営がうまくいかないというリスクはあるけれど、そのリスクを負わない限り公共サービスの改革は絶対に進まない、と主張している。The Economistは、確かにこれまでのようにお役人が支配するトップダウンの命令方式が公共サービスの質の低下をもたらしていることは事実であるとしても、生協風の学校運営がうまく行かない場合に、子供や親、それから納税者がどのように守られるのかが明確でないのが難点だと言っている。

The Economistによると、実はこのようなアイデアはこれまでにも公立病院の運営などで試されたことはあるのですが、病院によって給与や労働条件が異なったりするということで、特に労働組合には受けが悪いのだそうです。

キャメロンは、最近ロンドンで行われた集会で、公的機関で働く人々が上から押しつけられた目標達成に苦しむ一方で自分たちの仕事が認められていないことに同情を示しながら

我々保守党はそれらの目標や公的機関で働く皆さんを怒らせる官僚的なやり方を廃止するだけではありません。我々は皆さんにパワー(権力)を与えようと言っているのです。この改革は、かつて公営住宅を購入する権利を皆さんに与えたのと同じくらいラディカルなものなのであります。。
We will not only get rid of those targets and that bureaucracy that drives you so mad, we will give you the power in a way that is as radical as the right to buy your council home.

と呼びかけています。

▼キャメロンが触れている「公営住宅を購入する権利」というのは、サッチャーさんが断行した有名な改革の一つです。それまで、普通の英国人にとって住宅と言えば公営住宅のことであったわけですが、サッチャーさんはこれを売却することで、持家制度を推進したことで知られています。

キャメロンのいう生協的運営のアイデアについて、公共部門の労働組合のGail Cartmail副委員長は「キャメロンは自分の反政府という思想を推進するために公共サービスを破壊しようとしている」と言い、下院で30議席を有するの生協党(Co-operative Party)のMichael Stephenson委員長は「保守党は生協のことなど何も知らない(completely clueless on co-operatives)」と一笑にふしている。

一方、従業員が所有する企業としては英国最大のJohn Lewis Partnershipという企業のCharlie Mayfield会長は

企業の共同所有は、高いレベルの顧客サービスを提供するための力を現場の労働者に与えることに通ずる。
We believe that co-ownership can empower front line workers to achieve a high level of customer service.

と好意的です。

▼キャメロンのアイデアが、労働党や自民党の支持層から票を集めようという選挙向けのものに過ぎないという声が高い。18世紀半ばに英国で生まれた生協運動そのものが、どちらかというと労働党的な色彩が強いですよね。ただ、21世紀の今、保守党がこれを言いだすということに、サッチャー時代とは違う保守党を見るような気がします。ブレアは労働党を保守党的にして中間層の票を獲得したわけで、同じことをキャメロンが保守党を労働党的にすることによってやろうとしている。

▼John Lewis Partnershipはデパートやスーパーの経営で知られており、従業員は約7万人。傘下のWaitroseはちょっとしゃれたスーパーとして有名です。


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5)どうでも英和辞書

A~Zの総合索引はこちら

blame:責める

「悪いのはアイツだ」はhe is to blameですね。「自分が悪いんです」はI am to blame。ゴルフのタイガー・ウッズが不倫騒ぎで記者会見をやったときの言葉は

I am the only person to blame. I stopped living by the core values I was taught to believe in.
悪いのは私ひとりです。私は信ずるようにと教育されたイチバン大事な価値基準に沿って生きることを止めてしまったのです。

誰が食べてもまずいようなものを出されて、食べられなかった人に対するいたわりの言葉はI don't blame you(無理もないよ)となる。

英国の哲学者であるBertrand Russellは「民主主義」を次のように定義しています。

Democracy is the process by which people choose the man who'll get the blame.

「民主主義というのは、責めを負わされる人物を選ぶプロセスのことをいう」というわけでありますね。誰が首相や大統領になっても、何かについて必ず叩かれることになっている。そんなこと気にしていたら政治家は務まらない。小沢さん、メディアの言う「説明責任」なんて気にすることありません・・・などと私に言われるまでもないか。

ハナシは違いますが、タイガー・ウッズの会見におけるトークの中で、日本人なら必ず言うであろう「世間をお騒がせして申し訳ありません」に相当する発言は全くなかったようです。最初から最後まで、不倫をやってしまったということのみを謝罪しておりました。

room rate(ホテルの)部屋代

宿泊料金ですな。Hogg Robinsonという英国の旅行斡旋会社の調べ(2009年)によると、世界の大都市で最も平均のホテル代が高いのはモスクワの434ドル(39,000円)だそうですね。2位がニューヨークで319ドル、3位がパリの314ドルだから、モスクワは群を抜いて高いということになりますね。東京は272ドル、ロンドンは218ドルというわけで、ロンドンは案外安い。この会社はビジネスマン向けの旅行会社なので、どちらかというと高い部類のホテルのことだろうと思いますが、それにしてもモスクワの「平均で約4万円」というのはすごい。

で、この調査についてThe Economistが、これらの都市で暮らす人々の平均賃金とホテル代の比較をやっています。例えばモスクワの434ドル。これはモスクワ市民にとって約65時間分の給料にあたる。この数字で行くと、ダントツで高いのはインドのデリーのホテル代(263ドル)で、地元民が160時間働かないと泊まれない。2位が北京(178ドル)でおよそ68時間分の賃金と同じ、3位はモスクワとなります。

調査対象となった16都市中、ロンドンと東京は下から3番目あたりで、地元のサラリーマンが15時間分の賃金を貯めれば泊まれるような料金ということになる。ちなにみ最下位はジュネーブの13時間で、ホテル代そのものは295ドルだから、ロンドン、東京よりも高いけれど、地元住民の賃金も高いので、その気になれば、デリー、モスクワ、北京の人たちよりは楽に一流ホテルを楽しめるということになる。

でもこの調査、本当ですかね。新宿にあるパークハイアットというホテルは、高給取りのビジネス客が泊まりますね。イチバン安い部屋(約48平米)で一泊69,300円ですよ。東京の平均的サラリーマンの時間給が4800円というのであれば合っているけれど・・・。参考のために言っておくと、私が暮らす埼玉県飯能市にあるプリンスホテルの場合、シングルルーム(18・9平米)で6900円、ダブルルーム(38・8平米)が14、800円でございます。是非一度お遊びに!

shrinking violet引っ込み思案

shrinkingは「縮む」、violetは花の「すみれ」。すみれが縮むとなぜか引っ込み思案の人間(a shy or retiring person)となるんですね。何が語源なのか分からない。最近、英国のブラウン首相が、首相官邸のスタッフを殴ったことがあるということを明らかにした記者がいて、それが選挙を控えたブラウンさんにとって痛手となっている。本人は、最初は否定したのですが、どうやら動かぬ証拠があると見えて、テレビのインタビューで「たまには怒ることもある」と発言したりしている。首相という仕事の厳しさに触れながら

You don’t solve a world recession by being a shrinking violet.
引っ込み思案でいたのでは世界の経済不況は解決できないですからね。

と発言したわけであります。厳しい仕事の中で、たまにはスタッフをプッシュしたりしたことはあるのだそうです。確かにshrinking violetでは務まらないかもしれないけれどviolence(暴力)はまずかった。このスクープのお陰で、ブラウンさんは性格的にも首相には向いていないという評判が立ってしまった。けど・・・そんなに大騒ぎするほどのことですか?


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6)むささびの鳴き声

▼私、英語以外の外国語はほとんど知らないのですが、英単語の意味を知ろうと思って英和辞書をひくと却ってアタマが混乱したりすることがあると思いません?そんなとき、英語を別の英語で説明してくれる「英英辞書」を見ると「なるほどそういう意味か」とすっきりしたりするケースが頻繁にある。

▼例えばargumentという単語を英和辞書でひくと「(事実・論理に基づく)議論、論争」「口げんか」「主張、論拠」などの意味が提示されている。英英辞書をひくと次のような説明が出ています

a conversation or discussion in which two or more people disagree, often angrily...

▼最後の"often angrily"がミソだわさ。つまり「口げんか風の会話もしくは討論」ということです。"conversation"、 "discussion"、 "debate"、 "argument"はいずれも言葉によるやりとりですが刺々しさの度合が違う。discussiondebateは、日本語に直すと「討論」ですが、discussionはどちらかというと「話をする」(talking about)という程度の軽い意味でも使われる。debateは異なる意見の人たちがお互いに主張し合うけれど口げんかでは決してない。
  • conversation:犬と猫、どっちが可愛いかしらね。
  • discussion:犬と猫、どっちが可愛いかについてちょっと話をしましょうよ。
  • debate:世論調査によると、猫より犬の方が可愛いという人が51%であります。従いましてここはやはり犬の方が可愛いのではないかというのが当方の立場であります。
  • argument:51%がそう言ってるのよ、犬の方が可愛いに決まってるじゃん。ちょっとアンタ、何言ってんのさ!
▼マーガレット・サッチャーの語録の中に

I love argument, I love debate. I don't expect anyone just to sit there and agree with me, that's not their job.

というのがある。

▼おそらく閣議のような場のことを言っているのだと想像しますが、彼女はargumentdebateが大好きで、ただおとなしく彼女の言うことにうなずくようなヤツは役に立たない、と言っている。

▼ハナシは変わるけれど、The Journalというサイトを見ていたら民主党の東祥三・衆議院議員とのインタビューが出ており、小沢一郎さんについて「自分の意見を持っていれば聞いてくれる人です。意見のない人は何も聞きませんが」と語っている。ひょっとすると小沢さんはサッチャーのようなタイプなのでは?だから何でもかんでも我を通す暴君のように見られてしまう。要するに議論好きってことです。

▼東議員の小沢評の中で重要なのは「自分の意見を持っていれば聞いてくれる」という部分ですね。私の「意見」では、「自分の意見を持つ」ということを余りにもガチガチに考えてしまうと、いつまでたっても自分の意見なんか持てっこない。「ひょっとすると間違っているかもしれないけれど、いまのところはこのように考えている」というのが「自分の意見を持つ」ということです。つまり場合によっては変わり得る考え方を持っていることです。小沢さんが私と同じように考えているかどうかは分からないけれど・・・。

▼もう一つ話を変えるけれど、長い間一緒に暮らしてきたうちのワンちゃんがついに亡くなりました。20才と3か月の命でありました。最後のほぼ半年を文字通り一緒に過ごしました。もちろん彼が逝ってしまったことは悲しいのですが、一緒に過ごした時について、とてもいい思い出を残してくれたことも確かなことです。過去を振り返って「楽しかったなぁ」と思えるものがアタマに浮かぶというのは幸せなことでありますからね。

▼アメリカのハードボイルド作家でレイモンド・チャンドラーという人がいます。ご存じで?彼のLong Goodbyeという小説の中に出てくる言葉にsweet sorrow of partingというのがあった。どのような場面だったかは憶えていないのですが、ネットなどを見ると、シェイクスピアの『ロミオをジュリエット』の中に出てくる言葉らしい。別れの悲しみにはsweetなものもあるということですよね。ワンちゃんが私と妻の美耶子に残していったのが、このsweet sorrowという感覚でありました。Goodbye and thank you...

▼今回もお付き合いをいただきありがとうございました。
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