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吉田調書:門田隆将さんの朝日新聞批判:そのA
調書公開の善し悪し
2014年6月7日 

朝日新聞による「吉田調書」の掲載に関連して、6月5日のNHKのニュースが、この調書を公開するように求める東電の株主による動きがあるを伝えていました。インターネットを見ていたら、田中龍作という人が「『吉田調書』の開示請求  原発事故を闇に葬らせてはならない」という記事を書いており、NHKが伝えたニュースを文字でしかもかなり詳しく伝えてくれていました。が、田中さんは
  • 公開されれば、政府関係者や東電幹部にとっては都合の悪い事実がゾロゾロ出てくることが予想される。政府は「吉田調書」を公開しない方針だ。 
と言っており、「このまま情報が開示されなければ、安全神話がまたぞろ復活するだろう」と書いています。

で、「吉田調書」を公開することについて、朝日新聞の報道を「お粗末なキャンペーン記事」と批判した門田隆将さんは何を語っているのか?
  • 吉田氏は、「いかに現場の人間が凄まじい闘いを展開したか」「部下たちはいかに立派だったか」を語っているはずだ。しかし、朝日新聞にかかれば、それとはまったく「逆」、すなわち部下たちを貶める内容の記事となるのである。
門田さんによると、吉田所長は政府事故調の聴取に応じたことを懸念していたのだそうです。何故なら自分の勘違いによって「事実と違うことを証言したかもしれない」からだったそうです。そして吉田氏は、この調書に関連して次のような内容の「上申書」を提出している。
  • 自分の記憶に基づいて率直に事実関係を申し上げましたが、時間の経過に伴う記憶の薄れ、様々な事象に立て続けに対処せざるを得なかったことによる記憶の混同等によって、事実を誤認してお話している部分もあるのではないかと思います。
門田さんが言いたいのは、吉田所長らが悪戦苦闘していたあの現場はとてつもなく過酷な状況にあったのであり、「吉田氏は記憶違いや勘違いがあることを自覚し、そのことを憂慮していた」。それが理由で吉田氏は調書の第三者への公表を「強く拒絶した」のだそうであります。それなのに朝日新聞には・・・
  • その吉田氏本人の意向を無視し、言葉尻を捉え、まったく「逆」の結論に導く記事が登場したわけである。私は、従軍慰安婦問題でも、「強制連行」と「女子挺身隊」という歴史的な誤報を犯して、日韓関係を破壊した同紙のあり方をどうしても思い起こしてしまう。
と門田さんは怒っています。要するに「吉田調書」を公開すると、とんでもない誤解をする人間が出てくるのだから、公開はしないで、一部の「然るべき人たち」だけが読めばいいと言っているのですよね。

これに対して政府事故調による聞き取り調査の結果としての「調書」の開示を請求するグループは
  • 事故の原因、対策、責任を明らかにするのには、どうしても必要な書面。日本国民、全世界の人々の共有財産というべき情報である。
と言って、吉田調書も含めたすべての記録を公開することを要求しています。

▼門田さんの吉田調書非公開の理屈は子供じみていると思いますね。あの状況です、吉田さん以外の人々だって極限状況にいたはずであり、それなりに記憶違いもあるだろうし、誤解もあるはずですよね。だからこそ公開して、皆で広く検討しようというのがまっとうな発想なのでは?たまたま朝日新聞の記事が、門田さんの眼には吉田氏や原発所員たちを「貶める」ことだけを目的にしたもののように写っているだけで、私にはそれほど悪意のあるものには写っていない。もし朝日新聞の記事が門田さんが感じるほどに吉田さんらを不当に貶めているのだとしたら、朝日新聞の名にキズがつくだけなのでは?読者は門田さんが考えている(ように見える)ほどアホではない。日本人は、(むささびも含めて)あのときに何が起こっていたのかを知りたいだけであり、知る権利と必要がある。

▼門田さんは、自分の著書の中で最も印象に残っているのは、吉田さんが「一緒に死んでくれる人間」(最後まで所内に留まって注水作業を継続してもらう仲間のこと)を選んでいくシーンであると言っています。私は門田さんの著書を読んでいない。このブログ・エッセイを読むのが初めてです。従って彼の社会観や歴史観については全く知らないし、原発観も知りません。ただ彼のエッセイでは吉田さんや原発所員の涙ぐましい奮闘のことは言葉を尽くして語られるけれど、彼らをそのような絶望的な状態に追い込んだ原発というものをどのように思っているのかについては何も語っていない。日本のこれからに絶対に必要なものであり、そのために「一緒に死んでくれる人間」こそが美しい・・・ってこと?

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