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むささびの鳴き声
081 イングランドにて:アメリカ女性が英国に感じる「壁」A

ジョイのことに話を戻すと、彼女はエッセイの中で「自分の祖先がイングランドを去った理由が私には分かる(I know why my ancestors left England)」としたうえで

彼らは自由になりたかったのだ。イングランドに欠けていると感じるものがあるとするならば、それは自由ということだ。
They wanted to be free. If there is one thing you do not feel in England it is free.

と断定している。「イングランドのどこに自由の欠如を感じるのですか?」(What makes you feel that England does not have freedom?)と聞いたところ、至る所に設置された監視カメラ(Finstockには設置されていないと思う)のことを挙げて「常に監視されているのよ」と言う。彼女の場合、米民主党の海外組織であるDemocrats Abroadの活動にも参加したりしているので「監視」を感じるのであろうと思います。

自由の欠如の話になった途端にいろいろと英国批判が出てきたのは、彼女が「自由の国」としてのアメリカに対して抱いている愛着心の表れなのかもしれない。彼女によると、英国では恵まれた家庭に生まれると優れた教育や立派な職業が約束される。「イングランドには古い階級制度がいまだに生きている」(The old class system is alive and well in England)とのことであります。「でもあなた自身が差別されたわけではない?」と質問すると、

私もいろいろなことを言われたけれど、英国人と結婚したということで他のアメリカ人とは違うという扱いだったわ。彼らによると、英国へやってきて英国女性と結婚するアメリカの男と私は違う。社会学的に言うと、よそ者がコミュニティに侵入してきて女を盗む・・・そういうことへの反発があるのよ。
One example of the things said to me was -- you married a Brit, that makes a change from all the Americans that came over to England and married British women. Resentment on the sociological level manifested by the outsider coming into the community and stealing the women!

という答えでありました。嫁に来るのはいいけれど、嫁を取りに来るのは許せないってこと!?ジョイが好きな言葉に

You accept what you cannot change and you change those things you cannot accept.

というのがある。「どうしても変えられないものは甘んじて受け容れ、どうしても受け容れることができないものは変革する」という意味ですね。アメリカ人の夫と離婚、子供を4人育て(うち一人は死亡)たあとで現在の夫と結婚して英国にやってきたわけですが、「いまさら夫に合わせて自分を変えることはできないわ」(I cannot change myself into an English man)と言っている。

彼女自身はブッシュ大統領のイラク戦争には大反対であったわけですが、それを理由に英国人がアメリカ全体を批判するかのように言うのは不愉快だそうで、ブッシュがアメリカのすべてではないし「アメリカと言えば何でも悪いとは言えない。アメリカのことは私の方が知っている」(You cannot simply say that all things American are bad. I know better)というようなことを英国人に言うと、あまりいい顔をされないのだそうであります。そんなときにジョイは「自分はやはりアメリカ人なのだ」(I am still an American)と感じてしまうのだそうです。

ジョイとニックのマーフィー夫妻が暮らす家は、我々のCedar Cottageと同じHigh Streetにあるのですが、家の構えもしっかりしていて大きいし、庭はおそらく500坪くらいはある。そこに樹木や草花がにぎやかに植わっている。樹木はニック、草花はジョイの担当らしいけれど、私などから見ると両方とも植えすぎという気がしないでもない。

英国で暮らすアメリカ人のジョイが感じる(ように見える)英国や英国人に対する「壁」のようなものは、私などには分からないですよね。英国という国に対して、観察の対象としてお付き合いしているけれど、その社会に溶け込まなければならないという立場にはない私のような人間には、壁など感じる余地がない。ただ、アメリカという国が「物質的」という言葉では語りきれないような大きさと複雑さを持っているというジョイの言葉についてはその通りだと思います。

それから、英国人が持つ(とジョイが考えている)「アメリカ人は宗教的な純粋主義者」という見方ですが、オックスフォードの先生が面白い比較をしておりました。英国でキリスト教会の礼拝に参加する人の数が劇的に減少しているのは、国教会という存在のお陰なのだそうです。つまり英国国教会の関係者が全く布教の努力をしなくなったということです。英国国教会には、布教活動などしてもしなくても「我々は国の宗教なのだから潰れっこない」という甘えがある。それに対してアメリカでは国教会の存在そのものが憲法で許されていないので、それぞれの宗派が信者獲得のためにいろいろな努力をしているということがある、とのことです。

アメリカ人が宗教的に純粋(Puritanical)というのを別の言い方で表すと「狂信的」ということでもある。オックスフォードの先生によると、アメリカのテレビ伝道とかメガチャーチのようなものは、おそらく英国では根付かないであろうとのことでした。伝道師のビリー・グラハムが英国のサッカー場のようなところに人を集めて説教をしたことがある。物珍しさにそれなり人数は集まったけれど、まったく長続きしなかったそうです。インターネットから宇宙工学、遺伝子工学まで世界の最先端を走っている金持ちである一方で、ダーウィンの進化論はキリスト教の教えに反するということで学校で習うことを禁止している州もある・・・そのようなアメリカは、現代の英国人には付き合いきれないという部分もあるということです。

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