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むささびの鳴き声
060 「あらたにす」に見る新聞社の「方向感覚」

読売新聞と朝日新聞、日本経済新聞が共同で「あらたにす」というウェブサイトを立ち上げたのはご存知で?3社ともそれぞれ自社サイトを持っているのですが、「あらたにす」はそれらの自社サイトへの入り口というわけで、各紙のサイトに何が掲載されているかがひと目で分かる。

もちろん単なる入り口のために新たなサイトを作る意味はない。「あらたにす」には、これら3紙の「読み比べ」サービスというのがあって、著名な有識者が読者に成り代わって記事を読み、それぞれの意味などを解説してくれる。主宰者では、これらの読み比べを通じて、新聞の持つ「奥深さ」と「面白さ」を堪能してほしいと言っています。

読売・朝日・日経は、いわゆる「全国紙」で、日本の新聞の世界のビッグ・スリーです。どのような世界でも、小さな組織が結束すると、大きな組織に対抗する力となるわけですが、大きな力が結束すると、小さな組織を叩き潰すという結果をもたらすものです。何故この3社がは「競争」ではなく「結束」するのでしょうか?それから、何故この中に毎日新聞や産経新聞は入っていないのでしょうか?

そのあたりの事情になると、私のようなアウトサイダーには分かりませんが、よく言われるのは、紙媒体としての新聞が、特に若い人たちに読まれなくなっているので、新聞メディアもインターネットの世界で生きていかなくてはならないということです。でも何故、3社が共同でネットの世界に出て行くのでしょうか?お互いに競争するのではダメなのでしょうか?

共同でなければならない切実な理由(私などにはわからない)があるってことですね。それと関係あるのかどうか知りませんが、インターネットの世界の広告収入が急激に増えているのに対して新聞の広告収入は確実に減っているのだそうです。電通の調査によると、ネットの世界の広告収入は、1996年には16億円であったものが、8年後の2004年には1814億円にまで伸び、さらに2006年には3630億円にまで伸びている。新聞広告はどうかというと、電通の調査では、2004年が1兆559億円であったのが、2006年には9986億円にまで落ちている。まだ新聞の方がはるかに大きいのですが、このペースではネットに追い抜かれるのは時間の問題ですね。

紙媒体としての新聞そのものはなくならないと思うけれど、現在のように1000万部(読売)とか800万部(朝日)という巨大な部数(とそれに見合う広告収入)を持って生き続けることはできない。だったらネットの世界で情報伝達メディアとして生き残ろうではないか。この際、ビッグ・スリーが結束すればネットの世界でもリーダー的存在となれるのではないか・・・というようなことを「あららにす」の主宰者は考えているのかもしれない、と勝手に想像を働かせながら、このサイトを見てみたのですが、「なんだこりゃ!?」というのが、私の正直な印象でありました。

爺さんのくせに偉そうなことを言わせてもらうと(爺さんだから偉そうに言うのかもな?)「あらたにす」の主宰者たちには、ネットの世界に乗り出して行くことの意味が全く分かっていないのではないか、と思わざるを得なかったのでございます。特に不可解なのが「あらたにす」の共同サイトはもちろんのこと、その先にある各紙のサイトにも読者参加コーナー(紙の新聞で言うと読者の投書欄)が、それと分かるカタチで明示されていないということです。その種のコーナーが全くないというわけではないのですが、そこへ行き着くにはかなりの忍耐を要する。

「あらたにす」の人たちのアタマには、「読者」はあくまでも自分たちが提供するニュースやコメンタリーを受動的に受け入れる人々としてのみ認識されており、その人たちもまた自分の考えを表現する場を求めているかもしれない、ということに思いが至っていない(としか思えない)。というより、思いは至っていても、大して重要なこととは思っていないということでしょうね。

私がたびたびお世話になるBBCのウェブサイトには、ニュースの内容次第でHave Your Say(ご意見をどうぞ)というコーナーが設けられて、読者の意見が多数掲載される。日本の捕鯨問題についても、討論されたのですが、「日本人は残酷でケシカラン」という意見ももちろんありましたが、「英国人だって牛を殺してビーフを食べているではないか」という英国人の意見も載せられていた。私には、それがとても面白かったわけです。

私自身は、新聞であれネットであれ、投稿しようという気持ちは起こらないのですが、そのような欄を読むことはする。私にとっては、読者の声も知ってみたい情報の一つなのであります。「あらたにす」の主宰者には、私のような読者に対するサービス心があるとはとても思えない。

企業が広告を、紙媒体としての新聞よりもインターネットに掲載したがっている。だからネットの世界に進出して広告収入をいただいてしまおう、ということであるのならば、そのサイトが読者にとって魅力のあるものでなければなりませんよね。でなければ、高いお金を払って広告を載せる意味がない。「あらたにす」あるいは、その先にある新聞社のサイトにはその魅力があるのか?私自身は全くそれを感じないのであります。おそらく、その理由の一つは、相変わらず「著名な有識者」という人たちの記事を載せれば読者が喜ぶと考えている、という部分にあるのでしょうね。

ところで朝日新聞と読売新聞が、文字を大きくして、1行あたりの文字数を12文字とし、1ページあたりの段数を15段から12段に減らすと書いてありました。文字を大きくすることで、読者を獲得しようということは、新聞というものは余り眼が良くない高齢者のためのメディアであるということを宣言しているのと同じですよね。新聞メディアで仕事をしている人の中には、若者の活字離れを嘆く人が多いのですが、活字を大きくするということは、新聞の側で若者を相手にすることを諦めたということですね。 (2007.2.17)

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