musasabi journal

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260号 2013/2/10
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書

2月になって蝋梅が咲き始めました。黄色い花をつけた地味な木ですね。梅の木も芽が膨らんでいるのがわかります。成人の日は大雪だったけれど、雪かきには参りました。北海道や裏日本の人には嗤われますが・・・。上の写真、カメラアングルで手の上にお日さまが乗っているように見えますね。

目次

1)日中ロックオン関係
2)オバマの次はヒラリーで決まり?
3)同性結婚法案とキャメロンの政治ギャンブル
4)キャメロン演説の非合理性
5)先人たちが語った「欧州と英国
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声


1)日中ロックオン関係

 
尖閣諸島沖で中国の軍艦が自衛隊の護衛艦に射撃レーダーを照射したという問題について、2月9日付のThe Economistは、日本と中国がlocked on状態であり、ますます憂慮すべき(ever more worrying)事態になっていると言っています。locked onは射撃レーダーを目的物に焦点を合わせてしっかり狙いを定めて動かない状態にしておくことを言うけれど、この場合は現在の日中関係が「お互いにがっちり睨み合って動きが取れない状態」にあることの表現でもある。

記事は今回の事件が、中国軍艦の指揮官による「低レベルの決定」(low-level decision)によって起こったものだという日本の政治家の見方を紹介しながら、ローウィー研究所(Lowy Institute)というオーストラリアのthink-tankのLinda Jakobson研究員の「中国政府の態度はしっかりと統制された(tightly co-ordinated)ものだ」とする見方にも触れています。Jakobsonは中国の政策決定にかかわる人物のハナシとして
  • 習近平氏は(尖閣問題にまつわる)危険性は承知しているが、(日本に対して)強硬な立場をとるべきだとする側近によって「誇張された評価」を与えられている。
    Mr Xi knows the dangers but is being given “exaggerated assessments” by underlings keen that he should take a tough stance.
という見解を紹介しています。The Economistは今月末に行われる安倍さんの訪米と日中関係について
  • 安倍首相は、オバマ大統領が日米安保の重要性を再確認すること、そして中国が抑止され、なおかつその行動を穏健なものにすることを期待するしかない。しかしながら、昨年9月以来の状況を見る限り中国が穏健化するような兆候はほとんどない。
    He must be hoping that President Barack Obama will reaffirm the importance of America’s security treaty with Japan, and that China will be deterred and will moderate its behaviour. Little that has happened since September, however, suggests that China is inclined that way.

と悲観的に締めくくっています。

▼この記事の最後に出ている"must be hoping..."という英語ですが、私は「期待するしかない」と訳してあります。おそらくそれで正しいのではないかと思いますが、極めて英語的な「悲観」の言葉です。うまくいってくれればいいなぁ・・・というニュアンスです。

▼この事件について「日本側のでっち上げだ」とする中国政府の見解が発表されましたが、2月9日付の朝日新聞のサイト
  • 日本は国際世論を味方につけて対抗する構えだが、米国も偶発的な軍事衝突を強く懸念する。日中関係改善への糸口はますます見えなくなった。
  • と言っています。
▼テレビやラジオのニュースの報道を見ても、どこも同じようなことを言っている。中国側はこのような主張を繰り返すことで問題を「水掛け論」に持っていこうとしているのではないか・・・というような見方なのですが、いずれにしても「・・・なのではないか」という具合で確かなことは分からない。日本のメディアに関する限り、伝える記者と報道に接する読者や視聴者の知識レベルが大して変わらないような気がしませんか?

むささびジャーナル250号で、元外交官として中国とも大いに仕事された浅井基文さんのブログを紹介しました。今回の射撃レーダー照射事件についてはまだ書かれていないようですが、この人のブログは一読に値いします。中国の新聞の社説が詳しく翻訳されている。日本人がいま一番知るべきなのは中国人のアタマの中です。そのためにも、浅井さんのブログは貴重です。

むささびジャーナル257号の「どうでも英和辞書」でcommon senseとconventional wisdomという言葉の違いを紹介しました。日本語では両方とも「常識」となるかもしれないけれど、前者は「良識」、後者は「多数意見」ということです。

▼私、「日中ロックオン関係」について自分で自分に言い聞かせていることがあります。それはconventional wisdomは絶対に信用しないということです。現在の日本におけるそれは、「中国は悪い国・ひどい国・許しがたい国だ」であると思います。その意見を信用しないということです。あちらの暴徒による破壊行為も今回のロックオン事件も、東京都が尖閣を「購入」するためにお金を集めるという行為に出たことがすべての発端です。民主党の「国有化」が「下手くそなやり方」という批判があり、それは当たっている部分もあるのかもしれないけれど、もとはと言えば東京都が悪かったのだと思います。そこに帰るしかない・・・これが自分に言い聞かせていることです。

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2)オバマの次はヒラリーで決まり?
 
バラク・オバマの次のアメリカ大統領はヒラリー・クリントンで決まりらしいですね。1月26日付の保守派のオピニオンマガジン、The SpectatorでPatrick Allitt というジャーナリストが申しております。ヒラリーは1947年生れ、次なる大統領選挙が行われる2016年には69才、就任式が行われる2017年には70才になる。でもあのロナルド・レーガン(1911年生れ)だって就任のときは70才だった。

昨年(2012年)11月にアメリカのブルッキングス研究所というところが主催しているアメリカとイスラエルの指導者同士の意見交換イベントであるSaban Forumが行われ、ヒラリーも出席したのですが、そこで上映された「ヒラリーを称える」ビデオにはBarack Obama, Tony Blair, Henry Kissinger and Benjamin Netanyahuらも出演して、大いに持ち上げている。

Patrick Allittによると、夫のビル・クリントンが大統領であったとき(1993年~2001年)のヒラリーはというと、「ファースト・レディ」というよりも共同大統領(co-president)という感じで、abrasive(摩擦が多い)、tactless(戦術を考えない)、confrontational(対立・対決型)という形容詞が当てはまるような振る舞いであったのだそうです。

それが最近ではぐっと丸くなり、ABCニュースとワシントン・ポストによる世論調査では「2016年の選挙にヒラリー・クリントンが立候補したら支持するか?」という問いに対して57%の人が「支持する」と答え、うち36%が「強く支持する」と答えたのであります。賭け屋の数字でも2016年にヒラリーが大統領になる確率は2分の1であるのに対して、競争相手とされるバイデン副大統領の確率は12分の1だからかなり薄いということになる。

思い返してみると、2008年の大統領選挙、民主党大会では当然自分が候補者として指名されると思っていたのに、名もなき上院議員のバラク・オバマにやられてしまった。が、彼女は自分のプライドを呑みこんでオバマの支援に力を入れたのですよね。その甲斐あって(?)オバマはヒラリーを国務長官に任命、アメリカ外交のかじ取りを任せた。副大統領よりも国務長官の方が上。任期中に大統領が死亡すると言う事態にでもならない限り、副大統領は陰の存在に終わってしまう。

ヒラリーが国務長官として、ブッシュ大統領がぶち壊した対国連、対欧州の関係を修復した功績は大きい。またこの4年間で国務長官として110カ国を訪問、100万マイルを飛行した。2016年に彼女が大統領になるとすると、アメリカ史の中でもこれほど外交経験に富む大統領はいない。

ヒラリーは「最も称賛されるべきアメリカ女性」(most admired woman in America)という人気投票では何度もトップをとり、共和党びいきの女性の間でもヒラリーは別格なのだそうであります。ただPatrick Allittは、
  • 女性たちはヒラリーを称賛しているが、彼女のことが特に好きであるというわけではない。彼女の前の女性リーダーの先輩たち(マーガレット・サッチャー英国首相、ゴルダ・メイア・イスラエル首相、インディラ・ガンディー・インド首相)同様に、ヒラリーもまた女性政治家として、マキアベリの有名な言葉を理解しているように見える。その言葉とは「愛されるよりも怖がられる方がいい」というものである。
    They admire her but they don’t particularly like her. Like such predecessors as Margaret Thatcher, Golda Meir, and Indira Gandhi, she seems to understand the relevance, for female politicians, of Machiavelli’s famous remark: it’s better to be feared than loved.
と言っています。ヒラリー・クリントンは、テレビ・キャスターのBarbara Waltersとのインタビューで
  • いまのところ立候補する気はありません。ただお役に立ちたいだけなの。
    Right now, I have no intention of running. I just want to make a contribution.


    と言っておいて
  • あらゆるドアが開いているのよ。そのことは素晴らしい機会を与えてくれるものよね。
    All doors are open, which is a wonderful opportunity.

と付け足しているのだそうで、こんな風に語るってことは立候補に決まっている!
▼あのビル・クリントンも大統領の夫としてホワイトハウスに戻りたがっているのだそうですが、実現するとFirst LadyではなくFirst Gentlemanということになるのだそうですね。それからヒラリー2016をテーマにしたグッズがかなりの数出回っているらしいです。

▼私の知り合いのアメリカ人(女性・ヒラリーと同年代)は民主党員ですが、なぜかヒラリー・クリントン大統領には反対だそうです。

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3)同性結婚法案とキャメロンの政治ギャンブル
 
同性結婚を認める法案Marriage (Same Sex Couples) Billが2月5日、英国下院を通過したことは日本のメディアでは伝えられましたっけ?英国では大変な報道ぶりだった。キャメロン首相も大いに支持していた法案なのですが、賛成400:反対175の圧倒的多数で可決された。ただ英国メディアの話題は法案そのものよりも、これをめぐる保守党の分裂ということに集中していました。下院における保守党の議席数は303ですが、このうち136人が反対票を投じ、賛成議員(127人)の数を上回ってしまった。さらに棄権が40人も出たし、反対票を投じた議員の中には閣僚2人を始めとする幹部級の議員が含まれていたのだから、EUとの関係に続いてメディアが保守党分裂を云々するのも無理はない。

ただ2月9日付のThe Economist(英国内版)は、この問題をいまの英国政治における世代間ギャップとして語っており、その方が保守党分裂云々という「政局記事」より面白い(とむささびは思います)。

議会における投票の前日、世論調査機関のYouGovが行った調査によると、18~24才の英国人の80%が同性結婚の合法化に賛成しているのに対して、60才以上になるとこれが31%に下落する。議会で反対票を投じたある保守党議員は、議決の前に自分の選挙区から賛否両論を主張する手紙を受け取ったけれど、反対が400通を超え、賛成は10通以下であったのだそうです。受け取った手紙にはいちいち送り手の年齢が書いてあるわけではないけれど、反対派の多くが高齢者であることは容易に察しがつきますよね。

The Economistは「年寄りは単なる手紙書きが好きで仕方がないという人々ではない」(The elderly are not just inveterate letter-writers)として、前回(2010年)の選挙における選挙民の年齢について語ります。あの選挙における投票率は64才以上の高齢者で76%、18~24才は44%であったそうです。さらに保守党の党員の年齢も2009年の時点で60%以上が55才を超えている。もう一つ言うと、地方議会の議員の平均年齢も1997年の時点では55才だったのに2010年にはほぼ60才ということになっている。つまり選挙民も党員も年寄りの力が強いということです。昨年9月に行われた保守党大会の会場でも同性結婚反対派の集会がかなりの聴衆を集めていたのだそうです。ちなみに法案に賛成のキャメロンは47才であり、党派別の国会議員の平均年齢は労働党(51.8才)より保守党(47.8才)の方が若いのですね。

The Economistによると、英国の保守・自民連立政権は、政策面でもこのような年寄り層に押され気味です。例えば富裕層対象とはいえ子供手当をカットしたり、若いカップル向け住宅手当もやらない方針である反面、テレビ視聴料金無料化、バスのフリーパス、冬の暖房費の援助など、明らかに年寄り世帯向けと思われる項目の廃止についてはぐずぐずしている。

保守党にも若い活動家党員がいることはいるのですが、多くの活動家が家庭訪問とかボランティア活動のような地道な政治活動よりも、キャリアアップのみに関心を持っている人が多いのだとかで、このまま高齢化が進行すると選挙のときの封筒貼りのような仕事でさえもやり手がいなくなるのではないかと心配されている。

キャメロン党首としては、この同性結婚法案を議員に突き付けて賛成させることで党イメージの若返りを図りたかったのですが、結果として党の分裂を招いてしまったとも言える。ただ、2015年の選挙のことを考えてみると高齢有権者が同性結婚に前向きの労働党に流れてしまうということは考えにくく、彼らは間違いなく保守党支持に回る。となると保守党にとっての課題は如何に若年有権者を惹きつけるかということになる。

そこでキャメロン党首は同性結婚法案に積極的に賛成することで反対派保守党議員に立ち向かうというギャンブルを打った。キャメロンのその姿勢が若年有権者に受け、保守党は嫌だけどキャメロンはいいという票を獲得することに繋がるかもしれない。となると2015年の選挙はやはりキャメロン党首でないと・・・ということになる。この人、案外アタマいいのかも!?

▼同性結婚となると、宗教的な問題も出てくるけれど、法案によると国教会(Church of England)とウェールズ教会(Church in Wales)については同性結婚を提供することは法律で禁止される(would be banned in law from offering same-sex marriages)となっています。

▼現在、同性婚が法律的にも認められている国はオランダ、ベルギー、スペインなど11か国ですが、カナダ、南アフリカ、アルゼンチン以外はどれもヨーロッパの国です。


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4)キャメロン演説の非合理性

 

前号のむささびジャーナルで、デイビッド・キャメロンが行った英国とEUの関係についての演説を紹介しました。今回もこの話題にこだわってみたいのですが、英国がEUに継続して加盟するかどうかの国民投票を2017年末までに行うことを約束したキャメロン演説について、1998年から2005年までドイツの外相を務めたジョシカ・フィッシャー(Joschka Fischer)氏はProject-Syndicateというサイトの中で「きわめて非合理的」(most irrational)であると言っています。

前回のむささびジャーナルでも紹介したとおり、キャメロン首相は、国民投票実施の前にEUと加盟条件についての再交渉を行い、新しい関係に入ったうえで国民の信を問うと約束したわけです。キャメロン自身はEUへの加盟継続を望んでいるけれど、フィッシャー氏によるとキャメロンの希望は二つの幻想に基づいている。
  • 一つには国民投票が(EU加盟に)前向きな結果を生むように出来るとキャメロン自身が信じていること、もう一つはEUが英国との再交渉の結果として、キャメロンが望むような譲歩を与える事が可能であり、その気もあると考えていることだ。
    first, that he can ensure a positive outcome, and, second, that the EU is able and willing to give him the concessions that he wants.
フィッシャー氏によると、「再交渉→国民投票」というコースをとるならば、離脱の動きに妙に弾みがついてしまって、英国自身がその気もないのにEUから離脱せざるを得ないような状況が生まれる可能性もある。そうなるとEUにとっては厳しい後退、英国にとっても「どうしようもない災難」(veritable disaster)になってしまう。もちろん英国はEUを離脱してもそれなりに生きていくけれど、EUの単一市場への自由なアクセスは失われ、金融の中心都市としてのロンドンの立場も危なくなる。しかも英国がこれまで「特別な関係」(special relationship)を誇ってきたアメリカとの関係も変化せざるを得ない。アメリカは英国のEU離れを望んでいない。

そもそもEUが英国との「再交渉」に応じるのかという疑問はあるけれど、仮に応じたとして、英国国民が納得いくような譲歩が得られた場合、同じような条件がほかの加盟国にも当てはめることが必要になる。英国だけ特別扱いというわけにはいかない。そのような「譲歩」はEUそのものの解体に繋がる。EUがそのような危険を冒してまで英国の加盟継続にこだわると考えること自体ばかげている(absurd idea)、とフィッシャー氏は言っている。

フィッシャー氏は、EUで政治的リーダーシップを発揮するためには、自国のみならず加盟各国の利害をも考慮する洞察力が要求されるとして、
  • そのためにはそれぞれの利害を理解する力と相互信頼を基本にした協力精神が必要である。そのことこそがヨーロッパという家族においての当たり前のことにならなければならないのである。
    This, however, requires an adequate understanding of those interests and a willingness to cooperate on the basis of mutual trust, which should be a given within the European family.
と言っています。

フィッシャー氏の記事によると、キャメロンがまだ保守党の党首のみ(首相ではない)であった2009年、保守党の欧州議会議員(MEP)に対して、European People’s Partyという汎ヨーロッパ中道右派の政党から脱退するように命令したのだそうですね。おかげで英国のMEPが欧州議会で影響力を発揮することができなくなってしまった半面、英国・保守党内の反ヨーロッパ派を勢いづかせることになってしまったとのことであります。

ところで、EUから離脱するのか残るのかについて、ちょっと興味深い世論調査があります。YouGovとSunday Timesがキャメロン演説の約1週間前(2013年1月17日~18日)に行ったもので、「国民投票があったらあなたはどのように投票するか?」(If there was a referendum on Britain's membership of the European Union, how would you vote?)という問いだった。それに対する答えは「残留:40%」、「離脱:34%」、「投票しない:5%」、「分からない:20%」だった。「残留」が「離脱」を上回ったわけです。実は2010年にキャメロン政権が誕生して以来、世論調査では一貫して「50%対30%」くらいで「離脱」が「残留」を上回っていたのだから最近の結果はかなり異常であると言えるわけです。

なぜ急に「残留」が勝ったのか?キャメロン演説がメディアの間でホットな話題として語られ、アメリカ政府が英国のEU残留を望んでおり、労働党のミリバンド、自民党のクレッグ両党首が「残留すべき」という意見を明確にしたということが報道されたりしたことが一つの理由として考えられる。ただ調査を行ったYouGovが過去40年の傾向として
  • 人々のアタマの中でヨーロッパがホットな話題でないときはヨーロッパとの距離をとりたがるが、離脱するかどうかの決定が話題になると英国人は、EUの外側にいる状態の生活のことに思いを巡らし、離脱することは「それほどいいことではないかもしれない」と思い始める。
    when Europe lurks at the backs of peoples’ minds, we would rather keep our distance; but when the talk turns to a decision to withdraw, we start to contemplate the prospects of life outside the EU and fear that this might not be so attractive after all.
ということがあると言っている。

▼要するに普段は移民問題やら何やらでヨーロッパ大陸との付き合いについていまいましい思いをしていても、それでは縁切りにしますか?と言われると「そ、それは・・・」ということになる。私の英国の知り合いで反EU的な考え方をしている人が「日本だって、大陸の中国の支配は受けたくないだろ?」と言っていた。でもブラッセルの官僚に支配されるのと、中国という全くの外国に支配されるのではわけが違いますよね。

▼もう一つ、英国人にEU懐疑論者が多いのは確かであるけれど、大陸のEU加盟国の人々だってそれほどEUを信じているわけではない。加盟国の国民を対象に行ったEurobarometerという世論調査(2012年)で「EUを信用しますか?」という問いに対しては、ドイツ人もフランス人も(もちろんギリシャ人も)否定的な意見の方が多い(但し英国人ほどではない)。EU全体の平均でいうと、「信頼する:38%」対「信頼しない:55%」となっている。英国人の場合、17%:73%で否定論者の方が多い。

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5)先人たちが語った「欧州と英国」
 

何やら微妙な関係になりつつある英国とEUですが、キャメロンの前の英国のリーダーたちはヨーロッパ大陸諸国との関係についてどのようなことを言っていたのでしょうか。彼らの発言を通して、第二次世界大戦以後の英国の歴史も垣間見ることができます。

ウィンストン・チャーチル(1946年9月19日:チューリッヒ大学)
(現代ヨーロッパが抱える問題を解決するためには)ヨーロッパ・ファミリーあるいはそれに極力近いものを再び創造し、ヨーロッパが平和、安全、自由の下で暮らせるような構造を作ることである。我々はヨーロッパ合衆国のようなものを築かなければならない。It is to re-create the European Family, or as much of it as we can, and to provide it with a structure under which it can dwell in peace, in safety and in freedom. We must build a kind of United States of Europe.

諸君を驚かせるようなことを言ってみよう。ヨーロッパ・ファミリー再構築の第一歩はフランスとドイツのパートナーシップでなければならないということだ。こうしてのみフランスはヨーロッパにおける道徳的・文化的な指導力を取り戻すことができるのだ。ヨーロッパの復活は精神的に偉大なるフランスと精神的に偉大なるドイツ抜きにはあり得ないのだ。I am going to say something that will astonish you. The first step in the recreation of the European Family must be a partnership between France and Germany. In this way only can France recover the moral and cultural leadership of Europe. There can be no revival of Europe without a spiritually great France and a spiritually great Germany.

この演説を行ったときのチャーチルは保守党の党首ではあったけれど首相ではなかった。1年前の1945年に行われた選挙でチャーチルが率いる保守党はクレメント・アトリー率いる労働党に敗れています。

この演説は1946年に行われていますが、テーマは1949年に設立されることが決まっていた欧州理事会(Council of Europe)を称えるというもので、現在のEUやそれの前身であるEECやECとは関係ないのですが、戦後のヨーロッパ統合への兆しを示すものではあった。何よりも2011年のノーベル平和賞がEUに贈られた際の記念式典でチャーチルのこの演説が紹介されたということが、チャーチル本人の意図は別にしてEUの現在とは切り離せない演説であったということができます。

ハロルド・マクミラン首相(1961年8月2日:議会下院)
私の信ずるところによるならば、英国がいるべき場は自由世界のより大きな団結に向けた動きの先頭しかない。また外側にいるよりも内側にいることによってより良い指導性を発揮できるということである。いずれにせよ、とにかくやってみることだと思う。I believe that our right place is in the vanguard of the movement towards the greater unity of the free world, and that we can lead better from within than outside. At any rate, I am persuaded that we ought to try."

ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、オランダが参加して、1957年に設立された欧州経済共同体(European Economic Community:EEC)への英国の参加を呼び掛けているものです。マクミランはEECという名前の中のEconomicという部分を強調、これがあくまでも経済協力を目的とした機関であり政治とは無関係であることを訴えたものです。EECへの英国の加盟はフランスのドゴール大統領による拒否権の発動で実現しなかった。ドゴール大統領は1967年にも英国の加盟に反対しています。

エドワード・ヒース首相(1972年1月22日:ブラッセル)
加盟国の伝統と個性を尊重する機関を発展させるためには想像力というものが必要だ。しかしそれと同時に拡大された共同体を将来に向かって導いていくための力もまた必要なのだ。Imagination will be required to develop institutions which respect the traditions and the individuality of the Member States, but at the same time have the strength to guide the future course of the enlarged Community.

EECへの加盟のための条約に署名した直後に行ったスピーチ。ヒースは熱心なヨーロッパ主義者で、英国をEECに加盟させることが夢だった人物です。加盟国の個性がEECの全体に埋没してしまうことがないようにと言っているのですが、やはり将来的には政治的な統合も頭に描いていた。

マーガレット・サッチャー首相(1988年9月20日:ブルージュ)
フランスはフランスなりに、スペインはスペインなりに、英国は英国なりに、それぞれ独自の習慣、伝統、主体性を有しているからこそヨーロッパは強くなるのです。各国の独自性を何らかのヨーロッパ人という性格のような型にあてはめようとすることは誤りなのです。Europe will be stronger precisely because it has France as France, Spain as Spain, Britain as Britain, each with its own customs, traditions and identity. It would be folly to try to fit them into some sort of identikit European personality.

サッチャーさんの「ブルージュ演説」には欧州共同体(EC)の肥大化やブラッセルへの中央集権化を警戒する言葉が数多く出てきます。上の部分もその一つ。サッチャーさんはまたヨーロッパの繁栄が経済統合のお陰だという考え方にも反対、ヨーロッパが繁栄し、平和でいられるのはNATOを中心としたアメリカとの関係のおかげであるとして、その強化を訴えています。この「ブルージュ演説」はいまでも保守党内の反EU派にとってはバイブルのような存在になっています。

ただそうは言っても英国がEC加盟国であることに変わりはなく、離脱に言及したりしないところが現実的なサッチャーさんらしく、EC内における英国の立場について次のように強調しています。

英国はEC(欧州共同体)の辺境にあってのん気かつ孤立した存在を夢想することはない。我が国の運命はECの一部としてヨーロッパにあるのです。Britain does not dream of some cosy, isolated existence on the fringes of the European Community. Our destiny is in Europe, as part of the Community.

ジョン・メージャー首相(1991年3月23日:ロンドン)
我々は長続きのする原理原則というものが大事であると思っています。そのような理由により、私は英国をヨーロッパの中心に置きたいと考えています。
It is because we care for lasting principles that I want to place Britain at the heart of Europe.

反ヨーロッパのサッチャーを引き継いだメージャーが首相になりたてのころの演説です。明らかにサッチャーと距離を置いています。サッチャーが、ヨーロッパに平和と繁栄をもたらしたのはアメリカとNATOであると言ったのに対してメージャーはEECやEUこそがその恵みをもたらしたと発言したりしています。メージャーはその親ヨーロッパの姿勢がゆえにサッチャーびいきだった保守派のメディアによってあたかもダメ首相であるかのように扱われた人です。

トニー・ブレア首相(2005年6月23日:ブラッセル)
EUは価値観を有し、国家と国民の団結に基づく機関です。それは単に商売を進めるための共同市場というわけではなく、みんなが市民として暮らす共通の政治的な空間なのです。
This is a union of values, of solidarity between nations and people, of not just a common market in which we trade but a common political space in which we live as citizens.

かつてマクミランとサッチャーがEECをあくまでも経済発展を目的とした機関であることを強調したのに対してブレアはEUが「政治空間」(political space)であることを明確に主張しています。そして「英国はヨーロッパにあって指導力を発揮し、ヨーロッパの方向性を形づける国であるべきだ」(We should be leading the way in Europe, shaping the direction of Europe)として、EUにコミットしていくことを明確にしている。

デイビッド・キャメロン首相(2013年1月23日:ロンドン)
このことを軽々しく考えてはいけませんが、EUの最初の目的、すなわち平和を確かなものとするという目的は達成されました。それを可能にしたのはEUやNATOに関係した人々であり、そのことを忘れることはできません。しかし今日の主たる目的、何よりも優先すべきEUの目的はこれとは異なるものです。平和を勝ち取ることが目的ではない。EUの目的は繁栄を確かなものとするということであります。And while we must never take this for granted, the first purpose of the European Union - to secure peace - has been achieved and we should pay tribute to all those in the EU, alongside NATO, who made that happen. But today the main, over-riding purpose of the European Union is different: not to win peace, but to secure prosperity.

終戦直後の1946年、チャーチルが「ヨーロッパ合衆国」を語った演説を行ってから67年、キャメロンはEUの目的としての「平和」はすでに達成されたと言い切っています。そしてEUの目的は「経済」であると言っている。加盟国が経済的に繁栄することが目的であり、そのためには「ヨーロッパ合衆国」のような巨大な政治統合は害あって益なしと主張しているようにも聞こえます。

▼このように見ていくと戦後の英国でヨーロッパの統合に参加することに拒否反応を示したのは実はサッチャーだけであったということになる。戦後復興のことを考えている時期に保守党のチャーチルがUnited States of Europe(ヨーロッパ合衆国)というアイデアを口にしており、それ以外の首相も強弱はあるけれど、将来の英国のいるべき場はヨーロッパしかないと考えていた点では共通しています。キャメロンも基本的には同じです。

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6)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 
vegetarian:菜食主義者

知らなかったのですが、Famous vegetariansというサイトによると、菜食主義者には結構有名人が多いのでありますね。ポール・マッカートニー、ビル・クリントン、スティーブ・ジョブズ(アップルの創設者)あたりまでは察しはつくけれど、マハトマ・ガンジー、アルバート・アインスタイン、フランツ・カフカ、レオ・トルストイ、レオナルド・ダ・ビンチとなると「へぇー」となりますね。ましてやプロレスのコワルスキー(ニックネームは殺人者)、ボクシングのマイク・タイソン(ヘビー級)となると、「ウソだろ?」と言いたくなりません?


フランツ・カフカは厳格な菜食主義者になったのだそうですが、なりたてのころベルリンの水族館を訪れたカフカが水槽で泳ぐ魚たちに声をかけて

Now at last I can look at you in peace. I don’t eat you anymore.
さあこれでキミたちのことを落ち着いて見ることができる。もうキミたちを食べることはないのだから。

と言った(もちろんドイツ語で)のだそうであります。

ドイツ語で思い出したけれど、2月9日付のTelegraphによると、ヒットラーも第二次大戦中のある時期、菜食主義に徹していたらしい。ことし95才になるMargot Woelkというドイツ女性が証言しています。彼女はヒットラーのために働く10人の「毒見係」(food taster)の一人だった。毒殺されることを怖れたナチに雇われたもので、毎日午前11時~正午にかけて、ヒットラーの昼食に供される新鮮な野菜と果物の毒見をしていた。新鮮で味も素晴らしい野菜ばかりだったのですが、

もちろん怖かったわよ。本当に毒が入っていたら、私、今ごろここにはいなかったってことだからね。
Of course I was afraid. If it had been poisoned I would not be here today.

と申しております。

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7)むささびの鳴き声
▼いきなりですが次の二つの文章を比べてみてください。
  • 1) He has two sons who work in publishing.
    2) He has two sons, who work in publishing.
▼最近出版されて、なんと350万部も売れている英文法の参考書に、「関係代名詞の継続用法と限定用法」なるものを説明するために掲載されていたものであります。”work in publishing”は「出版業界で仕事をする」という意味ですね。二つの文章の見た目の違いはwhoという単語の前にカンマが入っているかどうかですよね。この参考書によると、1)は「関係代名詞の限定用法」であり、2)は「継続用法」なのだそうです。で、この参考書は二つの文章を次のような日本語にしている。
  • 1) 彼には出版業界で仕事をしている二人の息子がいる。
    2) 彼には息子が二人いるが、その息子たちは出版業界で仕事をしている。
▼分かります?1) の場合、「出版業界で仕事をしている」息子と説明しておいて、それが二人いるということで、他の業界で働いている息子がまだいる可能性がある。2) の場合、まずは「息子が二人いる」と書いておいて、彼らの仕事は出版であるということになる。と、このようにクダクダ説明するということは、この二つの文章は意味が異なることが私にとっては新発見であったということであります。そしてそのようなことを知らないのは私だけであり、「むささび」をお送りしているような皆さまであれば誰でも知っている・・・と妻の美耶子に言われてしまったのであります。本当でしょうか?

▼「知らないのはアンタだけ」と言われた情けなさも手伝って、私はこの参考書を読みながら半世紀以上も前に苦しめられた「受験英語」のことを思い出して悲しくなってきました。関係代名詞、先行詞くらいまでは憶えなければ仕方ないとして、「限定用法」だの「継続用法」だのとなると、英語よりも日本語が分からないわけです。なぜ1)が「限定」なのですか?この参考書は、それはwho以下の文章が「先行詞」(two sons)を「限定」するからだと言います。どうして?who以下の文章は、二人の息子の職業を「説明」しているのであって限定などしていないのではありませんか?2) が「継続用法」であることについては、説明さえがありませんでした。何を「継続」しているのでしょうか?

▼ちなみにこの参考書の著者は、本の特長として「文法」を「暗記ではなく理解して受け入れる」ことができるように書いてあると言っています。私の場合、この著者の説明を「理解」できない。ということは黙って「受け入れる」しかない。つまり暗記です。だから嫌いになる→嫌いだからできないという循環になるわけです。

▼ところで最初の二つの英文をGoogleの翻訳システムを使って日本語にしてみると次のようになりました。
  • 1) 彼は出版社で働く2人の息子がいます。
    2) 彼は出版社で働く2人の息子を持っています。
▼「2人の息子」の次に来る文章がカンマの有無によって「がいます」と「を持っています」に分かれる。でも意味は全く同じですよね。Googleには「限定用法」と「継続用法」の違いが分からない。むささびと同じである!次に最初に挙げた二つの日本文を英語に直してもらいましょう。
  • 1) There are two sons have been working in the publishing industry for him.
    2) He has two sons work in publishing.
▼両方に共通しているのは、関係代名詞が入っておらず、文法的には意味をなさないということですね。それでは(くどくて申し訳ないけれど)Googleの作ったこの英文を日本語にしてもらおうではありませんか。
  • 1) 2人の息子があります彼のために、出版業界で働いている。
    2) 彼は出版の2人の息子の仕事を持っています。
▼なんだこりゃ!?例によってだらだら失礼しました。

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