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むささびの鳴き声 美耶子の言い分 どうでも英和辞書 green alliance
2009年11月22日
いきなりですが、ビリー・ホリデーという人の歌を聴いたことあります?1915年に生まれて1959年に死んでいるので、わたくし自身も生で聴いたことはないし、どことなくねっとりまつわりつくような声で、それほど好きな歌手というわけでもないけれど、彼女が歌う「恋人よ我に帰れ」(Lover, Come back to me)という歌だけは淡々とした哀調に富んでいて良かった。
目次

1)盲目のカメラマンがとらえた「決定的瞬間」
2)対アメリカ好感度調査
3)高まる死刑復活論
4)「保守党びいき」The Sunが墓穴を掘る
5)D・キャメロンの研究⑤:地方分権の行方
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声

1)盲目のカメラマンがとらえた「決定的瞬間」

この蝶々の写真、11月18日付のDaily Mailのサイトに掲載されていたものです。写真にカーソルを当ててクリックすると、大きなサイズで見ることができます。ぜひそうしてみてください。

この写真を撮ったのはBrian Negus(62才)という英国人なのですが、この人、殆ど盲目に近いほど目が悪いのだそうです。30年ほど前に視覚委縮(optic atrophy)という病気にかかり、ほとんど視力を失い、趣味していた写真も諦めざるを得なかった。

が、それを救ったのがデジカメの発達だった。メガネの上にさらに虫眼鏡のようなレンズを装着すると、デジカメのスクリーンに写った被写体がそこそこ見えるようになった。それでもまだぼやけて見えるのですが、形と色は分かる程度には見える。撮影した写真を自分のコンピュータに取り込み、ZoomTextという画像拡大ソフトを使ってスクリーンで見るとさらにはっきりするというわけです。

知らなかったのですが、盲目のカメラマンが集うBLIND PHOTOGRAPHERSというネット上のグループがあるんですね。作品を見ると、確かに素晴らしいものばかりです。このグループを作ったのはTimothy O'Brienという38才のアメリカ人。もちろん彼も盲目なのですが、

考えようによっては、BLIND PHOTOGRAPHERSはさらに大きな写真家の世界の一部であると言えるが、普通の写真家たちとは異なったユニークな視点によって特徴づけられているということだ。
In some ways, it is a microcosm of the larger photographic community, only marked by our uniquely different vision.

と語っています。

▼それにしてもBrian Negusの蝶の写真はショックでしたね。スチル写真の世界の「決定的瞬間」を感じませんか?彼によると、カメラを構える位置を決めるのは、影と物音(shadows and noise)ですが、うまく撮れるかどうかは「カンと運」(instinct and luck)によるのだそうです。

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2)対アメリカ好感度調査
アメリカのPew Researchのサイトに世界の人々のアメリカ観についてのクイズが掲載されています。興味のある人はここをクリックして挑戦してみては?私もやってみたけれど、ほとんど当たりませんでした。

そのクイズの一つに次のような設問がありました。

次にあげる国の中で、アメリカに対して最も好意的な見方をしている国はどこか?
Where is the United States viewed more favorably?
1)英国 2)日本 3)ケニア 4)トルコ

分かります?さしたる根拠があるわけではないのですが、私は「英国」が正解だと思っていました。が、それは間違い。ケニアが正解でした。これはPew Researchがいろいろな国の人々を対象に行ったアンケート調査の結果です。それによると、1位はケニアで90%の人々がアメリカに好意的な見方をしている。2位のアメリカ(88%)より高いわけです。

Pew Researchでは2002年以来、この種の調査を行っているのですが、上記の数字は今年(2009年)のものです。つまりオバマさんが大統領であるアメリカに対するイメージということですね。

ちょっと意外なのは、フランス(6位:75%)が英国(8位:69%)よりも高いこと。日本は15位で59%だった。中国は18位で47%・・・ときて、調査対象になった25カ国中、アメリカに対する見方が最も悪いのはトルコの14%で、パレスチナの15%よりも低かった。

ご参考までに各国別の対「オバマのアメリカ」好感度の詳細は次のとおりです。

1) ケニア 90%
2) 米国 88%
3) ナイジェリア79%
4) 韓国 79%
5) インド 76%
6) フランス 75%
7) イスラエル 71%
8) メキシコ 69%
8) 英国 69%
10) カナダ 68%
11)ポーランド 67%
12) ドイツ 64%
13) インドネシア64%
14) ブラジル 61%
15) 日本 59%
16) スペイン 58%
17) レバノン 55%
18) 中国 47%
19) ロシア 44%
20) アルゼンチン38%
21) エジプト 27%
22) ヨルダン 25%
23) パキスタン 16%
24) パレスチナ 15%
25) トルコ 14%

最下位5カ国がいずれもイスラム教の国であるということも注目です。インドネシアは別にして、オバマが大統領であったとしてもイスラム圏ではアメリカに対する見方はやはり厳しいということです。

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3)高まる死刑復活論

英国のChannel 4テレビが11月9日に放映したドラマ、The Execution of Gary Glitter(ゲリー・グリッターの処刑)は死刑の良し悪しについての問題提起をする内容のものだったのですが、放映前から話題を呼んでいたとのことです。残念ながら日本ではネットでアクセスしても見ることができないのですが、サイトを見ると、この番組については「子供に見せるには注意を要する」ものとされていた。

主人公のGary Glitterは子供を殺害した人物で、実際にあった事件を題材にしていても、ドラマそのものはフィクション。ドラマに出てくる「想像上の英国」(imagery Britain)では、Gary Glitterによる殺人事件を機にロンドンで百万単位のひとが参加して死刑復活要求のデモをやり、それに押されて議会でも死刑復活法案の審議が行われるにまで至る。Gary Glitterの役を演じたHilton McRaeの演技が余りにも真に迫っていて、この俳優が町を歩いただけで殺人者と間違われるのではないか、と言ったドラマの評論家もいたらしい。

英国では死刑は1969年に廃止されているのですが、Channel 4では、このドラマの放映前に、現在の英国人が死刑をどのように思っているのかについての世論調査を行っています。それによると、70%の英国人が極刑としての死刑の復活を望んでいるのだそうです。また73%が重犯罪に対する刑が軽すぎるということで、政治家や政府に不満を持っており、76%が重犯罪に対する刑のあり方について死刑を含めた議論をするべきだと考えている。

ハロルド・ウィルソン政権の1969年に死刑廃止法案が延々7時間半におよぶ審議の末、下院で可決されたときの票は、廃止賛成が343、反対185で廃止が決まったのですが、この法案は議員による提案だったので党議に縛られない投票だった。労働党のウィルソンだけでなく保守党のエドワース・ヒース、自由党のジェレミー・ソープ党首も死刑廃止に賛成票を投じ、死刑廃止が決まったときの下院は万雷の拍手であったそうです。

尤も反対票も185もあったし、特に保守党内部はこの法案を巡って意見が二分したのだそうですね。つまり英国では死刑廃止はそれほど圧倒的に支持されていたということではない。

世論調査機関のMORIによると、1969年に廃止はされたものの、世論の傾向としては死刑賛成の方が多かったのだそうです。死刑が廃止されてから約40年後の2007年に行われた世論調査では50%が殺人犯に対しては死刑を望むとしており、反対の45%を上回っているのですが、かつてに比べれば死刑復活を望む声は弱くなっていた。

それが今年の調査では、再び7割が死刑復活を望んでいることについての理由が触れられていないのですが、やはり虐待による児童の殺人が相次いでおり、人々がやりきれない思いに駆られているということなのではないか(と私は想像しています)。

ところで、英国は他のヨーロッパの国に比べると死刑賛成派が多い国です。いずれも2007年の数字ですが、英国以外の国における死刑賛成の割合はフランス(45%)、ドイツ(35%)、イタリア(31%)、スペイン(28%)などとなっている。アメリカとなると賛成派がぐっと増えて69%、メキシコは71%となっています。

▼ちなみに日本の世論はどうなのかというと、9月21日付の読売新聞のサイトが「読売新聞が今年4月に実施した世論調査では、死刑制度の存続を望む人が81%にのぼる」としています。

▼ものの本によると、英国における死刑廃止論のルーツは19世紀半ばに国会議員をつとめていたWilliam Ewartという人物にまでさかのぼるのだそうですね。当時は家畜を盗んだだけで死刑だったのを1864年にこれを廃止することに成功した。

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4)「保守党びいき」The Sunが墓穴を掘る

11月9日付の大衆紙、The Sunが掲載した記事が、ちょっとしたセンセーションを巻き起こしたことは、日本のメディアでは報道されたんでしたっけ?ブラウン首相がアフガニスタンで戦死した若者の母親と電話で話をした、その内容が一字一句、速記録風に掲載されたものです。それだけではない。同紙のサイトには、電話の会話そのものが音で聴けるような仕掛けがしてあったわけです。

この母親はJacqui Janesという名前で、息子さんが戦死したことについてブラウン首相から手書きのお見舞いの手紙をもらったのですが、その手紙にはスペルミスが25か所も見つかっただけでなく、自分や息子の名前まで間違って書いているということでカンカンに怒っているというのが電話の内容であります。

Jacqui Janes The letter that you wrote to me, Mr Brown ...(あなたが私宛てにお書きになった手紙ですが)
Gordon Brown Yes ...(ええ・・・)
Jacqui Janes I don't want to sound disrespectful here, but it was an insult to my child. There was 25 spelling mistakes ? 25.(あなたに敬意を払っていないかのように響くのはイヤだけど、あの手紙は私の子供に対する侮辱ですよ。スペルミスが25もあったんですからね。25ですよ)
Gordon Brown I did write the letter because I was concerned about the death of your son, and I don't think what I said in it was disrespectful at all.(私が手紙を差し上げたのは、あなたの息子さんの死を憂慮したからです。私が手紙で言ったことは侮辱的だとは思いませんが)
Jacqui Janes I never said it was disrespectful. The spelling mistakes are disrespectful ... the fact you named me Mrs James was disrespectful.(手紙が侮辱的だなんて言ってませんよ。スペルミスが侮辱的だと言っているんです。私の名前だってJamesと書いているんですよ)

この人のファミリーネームはJanes(ジェーンズ)が正解だったのを、ブラウンさんはDear Mrs James(ジェームズ)と書いてしまったわけですが、スペルミスが25もある手紙なんて、戦死した息子に対する侮辱だ、と怒っている。

と、このような調子でブラウンさんを責めたて、首相の方も"Please understand my good intentions"(善意は分かってほしい)とか"My writing is maybe so badly..."(字が下手くそなもんで)とか、タジタジと言った感じがありありとしている会話であったわけです。

そしてJanes夫人が持ち出したのは、アフガニスタンにおける英国軍に対して政府が十分な予算を使っておらず、装備もお粗末、ヘリコプターも足りないという状況のことだった。

Jacqui Janes We do need more troops out there for a start, we do need the helicopters out there. That's a fact.(まず言っておきますが、軍隊を増やすべきなのよ。ヘリコプターが必要なのよ。それは事実なんですよ)

と責め立てたのですが、ブラウンの答えは

Gordon Brown Well, OK, OK ? I don't want to argue with you, because I want to actually pass on my condolences...(ええと、はい、分かりました、分かりました。あなたと議論はしたくありません。私は 息子さんの死に対するお悔やみを言いたかったのであって・・・)

というわけで、夫人と政府の予算について議論する気はないというものだった。

ブラウンさんとJanes夫人との間の13分間にわたる電話のやりとりは、ここをクリックすると一字一句読むことができます。会話の間中、ブラウンさんが"Er, I, I..."とか"I, I, well..."とか"Well, I, I, I'm sorry..."と、言葉に詰まっているような部分まですべて文字になっている。

むささびジャーナルでも紹介したとおり、The Sunは1997年のブレア政権以来ずっと労働党を支持してきたのですが、次なる選挙では保守党を支持すると発表しています。つまりこれもブラウンのイメージダウンをねらった反労働党キャンペーンの一環なのだという意見が多い。

他の新聞の報道によると、Janes夫人が首相からの手紙に腹を立てているということを聞きつけたブラウンさんが夫人に謝罪の電話をすることになった。そしてこの会話をテープにとった夫人が、これをThe Sunに渡してしまったとのことです。

この記事が出た翌日、BBCなどへの反響としては、ブラウンに同情的なものが圧倒的に多く、ブラウンのイメージダウンを狙ったThe Sunの思惑とは違う方向に進んでしまっています。Janes夫人でさえもテレビ局とのインタビューでブラウン首相のことを「まじめな人」だとか言って許す姿勢を見せています。保守党びいきのThe Sunですが、党首のキャメロンにとってはいい迷惑なのでは?

ブラウンさんは、戦死者の家族には必ず手書きの手紙を書くのだそうですが、周囲の人々によると、幼いころにラグビーで片目の視力をかなり失くしてしまったので文字を書くのに往生するらしい。結構スペル・ミスもあるのだそうですが、今回の手紙に関しては、相手の名前を間違えたのはまずいとしても、greatestと書くべきところをgreatstに、condolencescondolencsに、colleaguescolleagusと書いてしまった。何故かeを抜かす癖があるようです。いずれにしても大したこっちゃない。

The Sunのサイトを見て、私が感じたのは、インターネットというものは紙媒体としての新聞を窮地に追い込んでいるだけでなく、テレビやラジオとも競争する存在なのだということです。文字が読めて声も聴けるのですからね。

▼もう一つ。この件について、ある新聞のサイトに投稿した読者が次のようにコメントしています。

Prime Minister isn't paid to have decent hand-writing or spelling. He's paid to run the country. And whether he does that effectively or not is the crunch point for me.(首相というのは手書きがきれいとかスペルミスをやらないということで給料をもらっているのではない。この国を運営するために給料をもらっているのだ。そのことをきちんとやっているかどうかだけが問題なのだ)

▼このコメントを読んで私が思いだしたのは、麻生さんが首相であったころに漢字をまともに読めないということで批判された件です。ある雑誌のコラムニストなどは、未曾有を「みぞゆう」と読む人間は首相にふさわしくない、という趣旨のことを言っていました。本当におかしい、と私は思いましたね。麻生さんは国語の先生ではないんですからね。

▼それからブラウンさんの手書きが下手くそという件。これは私も同じです。自分で書いたメモが読めないんだから、笑ってしまう。友人が手書きの手紙(しかも万年筆!)をくれるのに対して、私はワープロ。羨ましくて情けないとしみじみ思うけれど、こればっかりはどうしようもない。でもブラウンを責める気にはなれない。

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5)D・キャメロンの研究⑤:地方分権の行方


今年(2009年)2月、保守党がControl Shiftと題する政策文書(green paper)を発表しました。「支配権の移行」という意味ですが、英国版の地方分権推進の宣言でもあった。この文書の発表に合わせる形で、デイビッド・キャメロン党首がGuardian紙にA radical power shift(ラディカルな権力の移行)と題するエッセイを寄稿しています。

かつてトニー・ベンは権力と富を労働者に根本的に移行させることを望む、と言った。私もまたその根本的な移行を望んでいる。それは地方の人々や機関への権力の移行という意味である。
Tony Benn once spoke about wanting a fundamental shift of power and wealth to working people. I too want that fundamental shift - to local people and local institutions.

という書き出しです。トニー・ベンは労働党左派の指導者的な存在であり、Guardianの読者にもファンが多い。ベンは労働者に権力を、と訴えたのですが、キャメロンは、英国における政治的な決定権を中央政府から地方に移譲せよと訴えているわけです。

キャメロンが言うまでもなく、英国は世界の民主主義国家の中でも最も中央集権的な国であるとされています。Guardianへの寄稿の中でキャメロンが訴えているのは、中央集権(centralisation)の反対でdecentralisation(地方分権)です。具体的には3つある。一つは地方政治に住民が参加するために住民投票(referendums)の制度を確立することで、これには地方税に関する住民投票も含まれている。

次に地方議会にもっと権力と責任を持たせること(to give local councils much more power and responsibility)。地元のことは地元が決めるということで、お金の使い道なのどもそれに入る。

そうすることによって、地方議会は、いちいちWhitehall(ロンドンの官庁街)にお伺いを立てるのではなく、地元住民を相手にしながら方向性を探ることができるようになる。
That way,instead of endlessly looking up to Whitehall for permission, our councils will be looking to local people for direction.

そして3番目は、大都市における政治権力の枠組みを変える(restructuring of political power in cities)こと。具体的にいうと、それぞれの町が民主的な選挙で選ばれた市長を持つということです。英国(イングランドとウェールズ)では、日本やアメリカのように直接選挙で選ばれる首長(州知事・県知事・市長・町長など)というのがほとんどいない。ロンドン市長は選挙で選ばれるけれど、それ以外ではHartlepoolだのTorbayだのといった、殆ど聞いたことがないような町(12か所)だけです。

キャメロンは、すべての自治体に対して首長選挙を強制するつもりはないが、大都市12か所については、この件についての住民投票を義務付ける法案を提出するとしています。

(首長を選挙で選ぶという)この新しい枠組みが(住民投票で)拒絶されない限り、Bristol、Birmingham、Nottingham、Newcastleのような都市は選挙による市長を持つことになるだろう。地方における強いリーダーシップは、英国における権力と責任のバランスを再構築するための方法の一つにすぎないのだ。
Unless they reject the new structure, cities from Bristol and Birmingham to Nottingham and Newcastle will have a mayor. Strong local leadership is just one of the ways we can start re-balancing power and responsibility in Britain.

ブレア政権でアドバイザーをつとめたGeoff Mulganという人によると、英国における地方自治の最先端にある地方政府(local government)がカバーする平均人口は約115,000人、ほとんどの欧米の国の場合はおよそ1万人なのだそうです。つまり一つ一つの英国では地方政府がたくさんの人々を統治しているということですね。その結果、フランスにおいては選挙で選ばれた地方議員の数が人口100人に一人であるのに、英国の場合は3,500人に一人というわけで、地方の住民が地方自治体や議会に対して「自分たちのもの」という感覚が薄い。

さらにPeter Hetheringtonという地方政治の専門家によると、現在、英国の地方政府による歳出の5分の1が地方税からの収入であり、5分の4がロンドンの中央政府からの交付金などで占められているのだそうです。この点でも確かに中央集権ですね。

ただ、キャメロンの地方分権論については、疑問視する声が強い。Hetherington氏などは「地方税の値上げの際には住民投票をというけれど、それは一般受けはするかもしれないが、地方税を決めるのは地方議会であり、それを住民投票にかけるということは地方議会の力を強化するという主張と矛盾する」と言っている。

またThe Economist誌などは

英国人の多くが(この問題には)無関心で、国家(中央政府)に頼ることに慣れてしまっており、新しい力を与えられても、それをどう使ったらいいのかという民主主義のノウハウを知らないかもしれない。
Many Britons may be too apathetic, too accustomed to dependence on the state and too lacking in democratic know-how to use any new power.

とも言っています。

▼「小さな政府」(small government)が「強い社会」(strong society)を作るというキャメロンの哲学からすると、地方分権は当然の主張ではあるけれど、英国人そのものがこのアイデアをどの程度支持するのかはよく分からない。ブレア政権でも地方自治体の首長を選挙で選ぶシステムを採用しようとしたけれど、住民投票の投票率が非常に低くて、ほとんど興味を示されなかったはずです。

▼またキャメロンは、ロンドン市長が選挙で選ばれていることについて「民主主義への参加を大いに促進した」(a huge boost to democratic engagement)と言っているけれど、実は英国における中央集権的政治が最も進んだのは、彼の先輩であるサッチャーさんの時代であるといわれています。彼女は、なんとそれまで存在していたロンドン市議会を廃止してしまったのですからね。それが復活したのは、労働党のブレアが首相になってからのことです。皮肉なハナシではある。

▼英国における地方分権については、別の機会に検討させてもらいます。英国の人々がなぜ自分たちの町の長を選挙で選ぶシステムに乗り気でないのか?このあたりを追跡すると英国という国が見えてくるような気がします。


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6)どうでも英和辞書

A~Zの総合索引はこちら
phobia恐怖症

ネットに出ていたphobia listを見ると、世の中には実にいろいろな恐怖症があるんですね。アルコール恐怖症はPotophobia、動物恐怖症はZoophobia、クルマ(乗車)恐怖症はOchophobiaで、動いているクルマを見るのが怖いというのはMotorphobia。中国恐怖症がSinophobiaとくれば、当然日本恐怖症はJapanophobiaで、ロシア恐怖症はRussophobiaとなる。分からないのはAnglophobiaですね。Englishness恐怖症というわけですが、これは自分がイギリス人であることに恐怖を覚えるということなのか、外国人がイギリス人に対して恐怖を感じるというのか・・・。なぜかこのリストには「アメリカ恐怖症」がない。

美人恐怖症(Caligynephobia)って何ですかね。どういうわけかこのリストには「美男恐怖症」というのは出ていない。落語に「まんじゅう怖い」というのがありましたね。饅頭が怖いとウソをついた男に、友だちが「お前、ホントは何が怖いんだ?」と聞くと「こんどは熱ーいお茶が一杯怖い」というオチになるハナシ。饅頭恐怖症は・・・Cakephobiaってか!?


grill詰問する

grillには、バーベキューなどで肉や野菜を焼いたりするという意味もあるけれど、詰問という意味もある。警察が容疑者を質問攻めにする、あれですね。最近、英国のブラウン首相がアフガニスタンで死んだ英国兵士の母親にやられたのは、まさしくgrillですね。PM Brown was grilled by the motherというわけです。

英国では政治家が「詰問」されるのはよくあること。BBCのNewsnightという番組でキャスターをつとめているJeremy Paxmanという人が政治家をgrillingするときによく使うのはWhy should I believe you?という表現です。

またフォークランド紛争のときにサッチャーさんがBBCの番組に生出演して、視聴者からの質問に答えたのは有名なgrillの例であります。このときはある主婦からの質問で、アルゼンチンの戦艦ベルグラーノを英国海軍が撃沈したことについて「あのときベルグラーノはフォークランドから離れようとしていたのですよ。それを撃沈するというのはひどいじゃありませんか」というわけで、あれがなければ戦争には至らなかったはずだ、とgrillした。これに対してサッチャーさんは、ベルグラーノが島から離れようとしていたかどうかには答えず、「英国海軍にとって脅威だったから撃沈したのだ」と自説を曲げなかった。

が、この主婦もさるもので、「あなたの言うことには全く納得いかないわ」と言い張ってやまず、結構気まずい雰囲気のまま番組は終わった。サッチャーさんは、自分をあのような番組に出演させたBBCに対してかんかんに怒っていたのだそうです。

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7)むささびの鳴き声

▼11月10日付けの読売新聞のサイトによると、民主党の小沢幹事長が「全日本仏教会」という組織の会長さんと会談した際に「キリスト教もイスラム教も排他的だ。排他的なキリスト教を背景とした文明は、欧米社会の行き詰まっている姿そのものだ」と述べたのだそうですね。

▼会談後の記者団との会話の中では「キリスト教文明は非常に排他的で、独善的な宗教だと私は思っている」とも語ったのだとか。読売の記事の最後の方だけ抜粋すると

小沢氏の発言は、仏教を称賛することで、政治的には「中立」ながら自民党と古くからつながりのある全日本仏教会に民主党との関係強化を求める狙いがあったものと見られる。しかし、キリスト教やイスラム教に対する強い批判は、今後、波紋を広げる可能性もある。
とのことであります。

▼キリスト教やイスラム教が仏教よりも「排他的」かどうかという議論は、私の能力の範囲を超えているので止めにしておきますが、読売の記事を読んで、私が不愉快な気分になったのは「今後、波紋を広げる可能性もある」という部分です。「可能性もある」って誰が言っているのか?この記事を書いた記者あるいは掲載した読売新聞が言っているのですよね。つまり仏教徒の票欲しさにキリスト教批判をやった小沢さんだが、それが日本におけるキリスト教徒やイスラムの人々、あるいは欧米やイスラム世界からの反発に繋がる可能性があるということを言いたいのですよね。

▼「波紋を広げる可能性」と書くと、あたかも客観的な事実を述べているように響く。どんなことにも「可能性」はあるのですからね。けれど、この記事を読むと、あたかも「キリスト教が独善的」と発言すること自体がまずいことのように響く。しかもその理由が「波紋を広げる」ということにある。即ち民主党の幹事長という立場にあるのだから、余計な波風を立たせないように慎重に発言すべきだったと言っているように響くわけです。そしてキリスト教やイスラムの人々に「さあ、波紋を広げよう!」と呼びかけているようにさえ聞こえる。

▼つまり客観性の名を借りて主観を述べているように(私には)響く。卑怯だという気がするわけです。これを書いた記者や編集部の人たちは、キリスト教が独善的であるかどうかは問題にせず、ただ「波風を立てた」ことだけを書きたてている。私にそのように思ってもらいたくなければ、小沢さんの発言についてのキリスト教の世界の人からのコメントを掲載するべきなのでは?それができないのなら、この記事は、「小沢氏はキリスト教が独善的であると思うと語った」で止めておけばよかった。そうすれば私も不愉快な思いをしなくて済んだわけです。

▼読売とは関係ありませんが、政府の「事業仕分け委員会」なるものに外国人が入っているのはおかしいと言った人がいますね。亀井静香さんだったかな?なぜ外国人が入っていたらダメなのでしょうか?「日本の問題なのだから、日本人だけで議論すべし」ってこと?明治維新のころに、日本にはたくさんの外国人がいて、いろいろと西洋のものやり方などを伝授したりしたのですよね。あれもやるべきでなかったってこと!?

▼英国人の英語教師が殺された事件の「容疑者」が逮捕されたことを伝えるテレビのニュース番組を見ていて、レポーターやキャスターといわれる人々が「うれしくて仕方ない」と思っているのではないかと思ってしまった。「世紀の大事件を報道する立場にいられる喜び」という感じ。「悲劇を伝える喜び」ですね。悲劇の当事者(容疑者と被害者)への想いはまったくなし。事件とは無関係の視聴者に対しては「ほーら、こいつが犯人ですよ。ひどいヤツじゃありませんか。ね?見て、見て!」と呼びかけている。で、呼びかけられた私は心底不愉快になってチャンネルを変えてしまいました。このように感じているのは、絶対私だけではないと思います。

▼今日の関東地方は寒いです。完全に冬ですね。南半球のひと、アンタがうらまやしい!寒くてろれつが回らないや!な、長々とお付き合いをいただき有難うございました。

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