musasabi journal 156

home backnumbers uk watch finland watch
むささびの鳴き声 美耶子の言い分 どうでも英和辞書 green alliance
2009年2月15日
昨日(2月14日)の関東地方の暖かさは異常でした。5月連休の陽気だった。まだ2月中旬なのに・・・。性懲りもなく、156 回目のむささびジャーナルです。たしか第1号を出したのは、2003年の2月だったと記憶しています。
目次


1)ヒラリーさんの訪日

アメリカのヒラリー・クリントン国務長官が明日(2月16日)からアジアを訪問します。東京→ジャカルタ→ソウル→北京の順で訪問するのですが、2月11日付のThe Economist(電子版)は、ヒラリーさんが最初の訪問国として日本を選んだということで、日本の政府関係者は「傍目にも分かるくらいの喜び」(palpable joy)に浸っている、と伝えています。ただThe Economistの記事はタイトルがTravels first, policies later(まずは訪問、政策は後回し)となっており、日本を最初の訪問国としたことが、どの程度、ヒラリーさんやオバマさんの対日政策を反映したものであるのかは疑わしい、というニュアンスになっています。

The Economistはまずこれまでの日米関係について、小泉=ブッシュ(第一期)時代はきわめて順調であったのが、小泉さんが去って以来、「ちょっとした後退(gentle decay)」時期に入っているとしています。しかもヒラリーさんは、国務長官になる以前に、アメリカの外交専門誌に寄稿したエッセイの中で、中国を最重要の国として挙げ、日本のことなど目にも入らない(gave scarcely a passing nod to Japan while putting China at the heart of American policy)という感じのことを言っていた。それが何故か、長官に就任するときの公聴会では、日米同盟の重要さを強調したということで、日本の政府関係者もほっとしていた。「これで日本も無視されなくて済む」というわけですね。さらになんと、ヒラリーさんは、最初の訪問国にわが国を選んでくれたんだ、というので、palpable joyに浸るのも無理はない。

ただ、日本の政治に詳しいコロンビア大学のジェラルド・カーチス教授は、「クリントン国務長官が自分の外交チームさえも作っていないうちに外国訪問するのは意味がないのではないか(little purpose in Mrs Clinton travelling before her foreign-policy team is in place)」と語っている。例えば新しい駐日アメリカ大使さえも決まっていないのですからね。特に問題なのは拉致問題で、日本ではなんでもかんでも拉致優先ということで、

  • 拉致問題は、右翼勢力(もともと暴力的)によって人質としてとられたようになっていて、主流の政治家たちは彼ら(右翼勢力)との対立を避けたがっている。(the abductee issue is itself hostage to potentially violent right-wing groups that the political mainstream dare not confront)

しかもブッシュ前大統領が日本の対北朝鮮政策への支持を宣言してしまっている。

で、日本政府は、ヒラリー滞日中に、北朝鮮の拉致被害者の家族との面会をお膳立てしようとやっきになっているのですが、カーチス教授はによると、このことによって、対話、外交交渉、ソフトパワーなどを外交姿勢として掲げているアメリカ新政権が、ブッシュの強硬路線外交の踏襲という路線にはめ込まれてしまう(locking the new administration into a continuation of the Bush policies)危険性がある。つまり、拉致問題について、ヒラリーさんのとるべき態度は「良く耳を傾けることだが、余り多くのことを(自分からは)言わないこと」(to listen well and say little)というのが、カーチス教授のアドバイスです。

▼クリントン訪日のニュースが報じられたとき、最初の訪問国として日本が選ばれたことが、アメリカによる日本重視の表れだという報道が数多く見られたように思います。The Economistの記事によると、「政策は後回し」ということで、そうなのだとすると、順番なんて大して重要とも思えない。こんなことに一喜一憂するのは、おそらく外交関係者とメディアだけで、普通の人には全くどうでもいいことですよね。

▼「どうでもいい」と言ったうえで、遊び半分で「東京→ジャカルタ→ソウル→北京」という順序を考えて見ると、後ろへいくほどヒラリーさんにとって重要な訪問になってくるような気がしてならない。日本は、一番良く知っているし、アメリカに盾をつくことは殆どないので、それほど深刻になる必要のない国。インドネシアはイスラムの国だからアフガン、パキスタン、イラン等々、アメリカにとって深刻この上ない問題を抱えている国と付き合っていくうえで、ジャカルタ訪問は非常に重要。韓国・ソウルとくれば北朝鮮ですよね。何せ同じ民族なのだから、これも非常に大切な話し合いになる。北京はいまさら言うまでもなく、「真打ち」というわけです。

▼つい最近、日本記者クラブで講演を行った、ある元外交官は「私なら日本を最後にして欲しいと言ったでしょうね」と言っていました。他の訪問国で何をディスカッションしたのかということを話し合う機会にするということです。現在の順番だと、日本は自分の言いたいことはイの一番に言えるかもしれないけれど、他の国のことは全くわからずに終わるわけですね。


back to top
2)英米「特別関係」への思い入れ

2月4日、ワシントンで英国のミリバンド外相とヒラリー・クリントン国務長官の会談が行われ、その後の記者会見で、ヒラリーさんが英国と米国の「特別な関係」(special relations)を強調したことが英国のメディアでも大きく取り上げられています。

あちらの新聞記事をサイトで読んでいると、英国の政府関係者もメディアも、自分たちの国がアメリカにどのように見られているかを如何に気にしていることが分かって面白い。日本と同じなのですね。

例えば1月中旬、オバマ政権が正式に発足する前のことですが、保守派のTelegraphは、新しく国務長官になるヒラリー・クリントンが発表したステートメントの中で「米英特別関係の重要性を忘れた(Hillary Clinton forgot the Anglo-American Special Relationship) と酷評して、次ぎのように書いています。

  • クリントン氏は(聴聞会の証言で)、英国のことを一度しか触れなかった。それも大西洋を挟んだ関係という広い文脈の中でのみ触れ、しかも英国の名前が出てきたのはフランスとドイツのあとから触れただけなのである。英国よりもメキシコやカナダの方がより注目されている。さらに目立つのは、オバマ次期大統領が主なる演説の中で英国に言及したことが一度もないということであろう。Mrs. Clinton only mentioned the U.K. once, in the broader context of transatlantic relations, and only after France and Germany. Both Mexico and Canada merited greater attention than Britain. Even more strikingly President-elect Obama himself has never mentioned Britain in a major policy speech.

で、2月4日のクリントン・ミリバンド会談ですが、保守派のTelegraphもリベラルなGuardianも、「ミリバンドがクリントンと会談したヨーロッパの最初の外相だった」(Miliband first to meet new US secretary of state)として、

  • 英国外交官たちは、アメリカの新政府と最初に言葉を交わすのが、英国なのかフランスなのかドイツなのかなどということは大したことではないと言っていた。が、ブラウン首相がオバマ大統領と話をした最初の欧州リーダーであり、ミリバンドがクリントンを訪問した最初の外相であったというお手柄について祝賀気分になっている。 British diplomats had played down the importance of whether Britain, France or Germany would be first to speak to the new administration but they were yesterday celebrating twin coups: Gordon Brown was the first European leader Obama called and Miliband became the first foreign minister to visit Clinton.

と伝えています。ただGuardianの方は少し辛口で、

  • アメリカにとって、英国がドイツやフランスよりも大切というようなことはない。アメリカは、他の同盟国の気分を害さないようにすることに気を使っており、(対英関係についても)「非常に特別な関係」(the special relationship)という表現ではなく「特別な関係の一つ」(a special relationship)という言い方をするようになっている。ミリバンド外相との共同記者会見の最後の方で、ヒラリー・クリントンが"the special relationship"と口走ってしまったのは、彼女の未経験を示すものであったのだ。Britain is no more important to the US than Germany or France. Americans, anxious to avoid upsetting their other allies, steer away from referring to "the special relationship" and speak instead of "a special relationship". At least until yesterday, when Hillary Clinton showed her inexperience and, in her final remarks, uttered the words "the special relationship" at a press event with David Miliband.

とコメントしています。

▼英国がアメリカとのthe special relationshipを特に気にし始めたのはサッチャーさんの頃からですね。他の国のことだからどうでもいいことですが、英国の政治家や外交官たちがアメリカとのthe special relationshipを気にする様も、素人目で見て哀しい気がしないでもない。今から約8年も前のことですが、沖縄で開かれたサミットの最終日、普通ならそれぞれの国の首相や大統領が、日本政府の用意した場所で独自の記者会見をやるはずなのに、英国(ブレア首相)はクリントン大統領の宿泊先まで駆けつけて共同会見を実現させた。「ボクたち、アメリカさんがお友達 だもんねぇ!」と尻尾を振っているようで、どこか哀しいですね。


back to top

3)英国の子供たちは不幸だ、と言うな!

児童福祉の向上をめざす英国のNPOであるChildren's Societyという組織が最近発表した報告書が英国メディアの間でちょっとしたセンセイションを巻き起こしています。35,000人の英国人に面接調査をした結果をまとめたもので、タイトルは「良き子供時代とは」(A Good Childhood)。基本的なメッセージは次ぎの2点に要約されるようです。
  • こんにち(英国の)子供たちが直面する障壁の殆どに関係しているのが、個人にとっての最も大切な義務は、他人のために善いことをするというよりも、自分の人生を自分で切り開くということにある・・・という大人たちの思い込みである。Most of the obstacles children face today are linked to the belief among adults that the prime duty of the individual is to make the most of their own life, rather than contribute to the good of others.
  • 行き過ぎた個人主義が子供たちに様々な問題を引き起こしている。即ち、多くの家庭崩壊、不親切な10代、未熟な性的関心へのコマーシャルな圧力、原則を無視した広告、教育における過度な競争、所得不平等の受容等々である。Excessive individualism is causing a range of problems for children including: high family break-up, teenage unkindness, commercial pressures towards premature sexualisation, unprincipled advertising, too much competition in education and acceptance of income inequality.

報告書のサマリー(要約)はここをクリックすると読むことができますが、要約を要約すると、現代の英国においては、親の離婚率の高いことや働く母親が多いことが子供の精神に悪影響を与えており、性的体験の年令がますます下がり、ろくな食事をせず・・・というわけで、かなり悲観的なことを書いている。

この報告書については、保守派の人々からは「片親とかワーキングマザーを批判している」という好意的な評価があり、一方、左派の方も「貧富の差や子供向けの好ましくない広告を批判している」と好意的な意見が多い。つまり両方とも自分たちに都合のいい部分だけを取り出して「評価」しているわけであります。その点、2月5日付けのThe Economist(英国版)は、保守派も左派も見逃しているポイントとして「11〜16才の子供の70%が、非常に幸せだと答えている」ことを挙げています。

  • 子供たちが非常に困難な状況にあるとするのは大人の見方であり、それに賛同する子供は極めてすくないことは明白だ(clearly, very few children agree with adults that they are in deep trouble)。

というのがThe Economistの意見であります。同誌は英国の児童心理学者であるHelene Guldbergという人による批判的な意見を紹介している。この人によると「子供の精神病が増えている」というのは、何でもかんでも「精神病」というラベルを貼ってしまうからであり、「いじめが増加している」のも「ほんのちょっとした感情的な傷(emotional bruise)」に過ぎないものに「いじめ」というレッテルを貼ってしまうからだ、というわけです。

Children's Societyの報告書は、子供の福祉向上のためには大人たちに「親学講座」(parenting lessons)を与えるべきだと提案しているのですが、Guldbergは

  • すべての親に、親としてのあり方を教える必要があるなどと提案するのは、"親は無能で、子供らは強靭さに欠ける"という思い込みを一人歩きさせることにつながる(Suggesting that all parents need to be taught how to do their job risks creating a self-fulfilling belief in parents’ incompetence and children’s lack of resilience)

と批判しています。「人の悪口を言うと、言われた人にとって一生のキズになる・・・ということを大人が子供に言うことで、本当に一生のキズになってしまうこともある」(if adults tell children that name-calling may scar them for life, then it may)とも言っている。この教授もThe Economistも、社会のいたらない部分だけを大げさに書き立てることの愚かさと危険性を指摘している。

それどころか、子供が危機に瀕していると大げさに言うことで、本当に危機に瀕している数少ない人々の人生がより難しくなることもある。英国内で最近起こっている児童虐待事件などに関連して、社会福祉員のようなソシアル・ワーカーが「何故止められなかったのか」という非難を浴びたりしており、それが故にワーカーのなり手がいなくなっているという問題も起こっているのだそうです。

▼この種の問題は日本でもありますよね。「子供がタイヘンだ」というようなメディアの特集記事などは、全くの善意で書かれているのですが、それが却って「いじめ」を増加させたり、「いまの親は子供の育て方を知らない」という類の思い込みのようなものがはびこってしまうというケースです。

▼Children's Societyの報告書について、英国人ではない私が興味深いと思うのは「行き過ぎの個人主義」が糾弾されているという点です。サッチャー革命以来、英国では「自分のことは自分で面倒を見ろ」という姿勢が主流を占めてきており、それが社会的な絆の喪失や家庭崩壊につながっているというわけです。サッチャーさんの有名な言葉に「この世に社会なんてない(There is no such thing as society)」というのがあるけれど、Children's Societyの報告書にある次ぎの文章は、その姿勢に対するアンチのような気がしてならない。

  • 社会の心臓部において重要な変化が求められている。それは大人たち(両親であれ教師であれ)が、社会の繁栄にとって欠かせない価値観の確立を目指して立ち上がることを、恥ずかしいことと思わないですむという社会ということである。There needs to be a significant change at the heart of society, so that adults, be they parents or teachers, are less embarrassed to stand up for the values without which a society cannot flourish.

    ▼この文章を読むと、いまの英国において「社会」というような概念を考えたり、語ったりすることが「恥ずかしい(embarrassing)」と考えられていると想像してしまう。サッチャー革命の名残りなのかもしれない。尤もサッチャーさん自身は、敬虔なクリスチャンであり、family valueを大切にすることを訴えたのですが・・・。でも彼女の意図とは裏腹にサッチャリズムのもう一方の側面(自分を助けられるのは自分だという考え方)の方が根付いてしまったのかも。難しいものでありますな。


back to top
4)アメリカ人が進化論を受け容れない理由

今年(2009年)は進化論のチャールズ・ダーウィンの生誕200年、彼の『種の起源』(On the Origin of Species)が世に出てから150年にあたる年で、欧米ではかなりの話題になっています。The Economistの最新号に"Evolution: Unfinished Business"という記事が出ていた。"進化論、未完成の仕事"というわけですが、進化論は科学の世界では受容されているけれど、普通の人々の間となると必ずしもそうではない。『種の起源』が世に出てから150年にもなるのに、ダーウィンが主張した進化論は欧米においては、いまだに物議をかもす話題でさえあるようなのです。私などは、進化論というと、人間は猿が"進化"したものだということで、さして問題もなく受け容れていたように思うのですが・・・。

ダーウィンの進化論(evolution)って何?というわけで、ウィキペディアなどにあたると、非常に長々とした解説がなされているのですが、乱暴にも一言でいうと「地球上の生物(人間も含む)は、すべて自然淘汰(natural selection)によって進化してきた」ということですよね。進化論に反対する考え方として、これもきわめておおざっぱに言わせてもらうと、

  • creationism
    この世の中は過去1万年の間のどこかで神によって創造された」(God created the world sometime in the last 10,000 years)という考え方で、日本語では「霊魂創造説」となっている。
  • intelligent design
    ダーウィンの自然淘汰説だけでは、複雑な生物の発達を説明するには不十分だ(Darwin's theory of natural selection is inadequate in explaining the development of complex life forms)というもので、生物は「神聖なる力」(divine force)がによって発達したということ。

の二つがあるのだそうです。で、2月1日付けのThe Guardianに出ていた英国人(2060人)を対象にしたアンケート調査によると、ダーウィンの進化論が「絶対正しい」(definitely true)という人が25%、「たぶん正しい」(probably true)という人が25%となっている。つまり進化論支持者は半数に過ぎないということです。creationismを支持する人は10%、intelligent designの支持者は12%というわけで、積極的な進化論否定派は二つあわせて22%ということになる。残りは「よく分からない」というものです。

これがアメリカとなると、かなり様相が違ってくる。Pew Researchのサイトに出ていたものの中で、次のサンプルは昨年(2008年5月)に行われたもので、現在のアメリカ人の進化論に対する態度を知るうえでは参考になります。

設問:人間というものの起源と発展に関連して、次のステートメントのうちあなたの意見に一番近いのはどれか?
@人間はかつては遅れた生命体(less advanced forms of life)であったが、数百万年かかって発展したもので、その発展のプロセスは神の導きによるものであった
36%
A人間はかつては遅れた生命体であったが、数百万年かかって発展した。しかしその発展のプロセスに神は全く関与していない
14%
B人間は過去約1万年ほどの間のどこかで、現在の形で、神様が創造した
46%
C分からない
5%

進化論に反対する意見(@とB)が非常に多いということですね。英国の比ではない。ただしアメリカでも科学者は殆どが進化論を「事実」として受け容れているのだそうです。

▼このような数字を見て、アメリカという国が如何にキリスト教の影響が強い社会であるかが分かるなどと解説をする人がいるし、私もそのように考えて済ませてしまいがちであります。しかしダーウィンの進化論に対するアメリカ人の拒否反応についてのPew Researchの説明を読んで「なるほどな」と思ってしまった。すなわち、

  • 多くのアメリカ人にとって、血なまぐさい闘争と絶え間ない変化のパノラマだ、というダーウィンの生命観は、天地創造という聖書の教えに反しているし、自らの創造物に対して愛情を持たれているというキリスト教的な「積極的で愛情に満ちた神」という概念に合わないのだ。For many, the Darwinian view of life -- a panorama of brutal struggle and constant change - goes beyond contradicting the biblical creation story and conflicts with the Judeo-Christian concept of an active and loving God who cares for his creation
  • 賢くて強い動物が生き残って繁栄するという発想(「適者生存」の考え方)こそが、これまでに民族浄化や大量虐殺のような残酷きわまる犯罪を正当化する社会思想家や独裁者らによって利用されてきたのだ。the notion that more resilient animals survive and thrive ("survival of the fittest") has been used by social thinkers, dictators and others to justify heinous crimes, from forced sterilization to mass genocide.

    ▼つまり理論的・客観的には進化論を受け容れざるを得ないかもしれないけれど、心情的には受け容れられないとなってしまう(同じ「科学」でもニュートンの万有引力の法則には「人間観」の入る余地がない)。このようなアメリカ人の姿勢を「非科学的」ということで、無視し去ってもいいものなんでしょうか?

進化論についていうと、The Economistの2月7日号にも面白いことが出ていたので、最後に紹介します。Phil Zuckermanというアメリカの社会学者によると、生存競争の激しい国(進化論のいわゆる「適者生存」現象が現実のものであるような国)ほど神への信仰心が深く、それほどでもない国では信仰心は薄くなる。前者において進化論に対する拒否反応が強いのは、「適者生存」が日常生活であるからだ、ってことですね。

ちなみにNew Scientist誌が2006年に行った国際調査(欧米19カ国を対象)によると、進化論を最も素直に受け容れた国のトップ・スリーはアイスランド、デンマーク、スウェーデンといずれも北欧諸国、英国は5番目でアメリカは19カ国中の18位だった。19位はトルコであったそうです。

▼ということは、Zuckermanの説にならうと、アメリカは非常に生存競争が激しい国であるってことになりますね。だからこそ、人々は「適者生存」などという冷たい考え方を受け容れたがらないということなのではありませんか?


back to top

5)ケネディ暗殺の長い影

アメリカのジョン・F・ケネディ(JFK)大統領がテキサス州ダラスで暗殺されたのはいまから46年前の1963年11月22日のこと。その5年後の1968年4月に黒人解放運動の指導者だったマーチン・ルーサー・キング牧師が殺され、さらにその2ヶ月後に民主党の大統領候補争いを演じていたロバート・F・ケネディ(RFK)が殺された。

正直な話、ケネディ大統領の暗殺については、ずーっとフォローするほどの関心はなかったのですが、45年も経っているのに、誰が、何を理由に大統領を暗殺するにいたったのかということについては、はっきりした説明がなされていないような気がしていました。同じことが、残りの二つの暗殺についても言える。三つとも、犯人とおぼしき人間が逮捕されたり、射殺されたりしてはいるのに、それぞれの犯行の動機という部分についてはよく分からない。

Legacy of Secrecyという本は昨年(2008年)発行されたという最近のもので、大統領の暗殺事件に関するものなのですが、実はJFK暗殺がキング牧師やRFKの暗殺にも関係があるということが書かれている、というので取り寄せて読んでみる気になった。

この本、700ページもあるので要約などできっこない。で、少々長くなるかもしれないけれど、私なりにはしょりにはしょってまとめてみました。まずは、あのころの年表から。

1959年1月
キューバ革命によりカストロ政権が誕生
1960年6月
キューバ、アメリカ資産の国有化を開始
1961年1月3日
アメリカ(アイゼンハワー政権)、対キューバ国交断絶
1961年1月20日
ジョン・F・ケネディが大統領に就任
ロバート・F・ケネディを司法長官に任命
1962年10月15日
ソ連がキューバに攻撃用のミサイルを設置。米ソ間核戦争の危機に
1963年11月22日
ケネディ大統領暗殺
1968年4月4日
メンフィスでマーチン・ルーサー・キング牧師暗殺
1968年6月6日
ロサンゼルスでロバート・F・ケネディ上院議員(民主党大統領指名候補者)暗殺

1962年のキューバ危機で、米ソ間の核戦争の危機にまで至ったけれど、かろうじてそれは回避できた。とはいえ、キューバは反米社会主義路線を進めており、アメリカはのど元にナイフを突きつけられたような気分になっていた。そこでケネディ大統領(JFK)と弟のロバート・ケネディ(RFK)はカストロ政権打倒のためのクーデターを起こさせることを画策していた。キューバにおける首謀者はアルメイダという将軍で、カストロのナンバー2とされた人物だった。ケネディ兄弟は、クーデターを1963年12月1日決め、極秘裏に準備を進めていた。

▼この本によると、ケネディ兄弟による反カストロ・クーデター計画は、当時のマクナマラ国防長官、ラスク国務長官らにも知らされていなかった。またケネディ政府は、最初から反カストロ・クーデターを考えていたわけではなく、カストロ政府との平和共存交渉も進めていた。その一方でクーデターをも準備していたということで、硬軟両面作戦をとっていたわけです。このあたりのことについて、この本を書くにあたってインタビューしたラスク元国務長官は「大統領もロバート・ケネディも火遊びをしていた(they were playing with fire)ということだろう」と語ったそうです。

ケネディ兄弟によるクーデーター(カストロ暗殺も含む)計画とは別のところで、カストロ政権の転覆を画策していたグループがあった。カストロ政権誕生以前のキューバで賭博場経営などで儲けていた在米マフィアのグループである。彼らはケネディ以前のアイゼンハワー政権のころからCIAと組んでカストロ暗殺を試みては失敗していた。このCIA=マフィア・チームの先兵としてキューバに送り込まれた下っ端工作員の一人がリー・ハーベイ・オズワルドで、彼はCIAの下級メンバーだった。

ただ当時、マフィアたちにはカストロ以外にもさらに手ごわい敵がアメリカ国内にいた。それがJFKとRFKのケネディ兄弟で、司法長官のRFKを中心とする国内の組織犯罪の撲滅作戦は厳しさを極め、マフィアの親分の中には一時的とはいえ、国外追放までされた人物もいた。彼らにとって直接の敵は司法長官のRFKであるが、暗殺の対象は大統領の方だった。RFKを殺すと兄の方が大統領の権限を行使してマフィアを追い詰めるだろうが、兄の方を殺しても弟の司法長官には、兄ほどの強大な権力はないから、何とか生き延びることはできる、というのがマフィアの計算だった。

▼ケネディ暗殺の「真犯人」ともいえるマフィアのボスは3人いるのですが、そのうちの一人がCarlos Marcello(写真)なる親分です。1910年に生まれ、1993年に死んだそうです。ウィキペディアによると、チュニジアの首都、チュニス生まれ、2才のときにシシリー人の両親とアメリカへ渡ってきた。1947年にはルイジアナ州の賭博ビジネスの親分として君臨していたのだそうです。ケネディ兄弟がまだ上院議員であったころから徹底的に追及されていたので恨み骨髄にまで達していた。

そんなマフィアの親分たちに、ケネディによるカストロ政権転覆クーデター計画の情報が入ってきた。キューバ内部のスパイからの情報だった。彼らにはこれこそ格好のチャンスといえた。クーデター決行予定日の1963年12月1日以前に大統領を殺せば、自分たちへの追及も防止することができる。何故なら、自分たちを追い詰めれば、ケネディのクーデター計画も暴露されざるを得ない。アメリカ政府には大統領が外国でのクーデターを主宰したということがばれるわけにはいかないだろう・・・それがマフィアの読みだった。

12月1日以前にケネディを暗殺するチャンスは3度あった。11月2日のシカゴ、同18日のタンパ(フロリダ州)、そして22日のダラス。ケネディはこの3都市を訪問してクルマでパレードをすることになっていた。しかしシカゴにおける暗殺計画は事前にケネディ側にばれてしまい、クルマのパレードは急にキャンセルされてアウト。タンパでのパレードは実施されたが、マフィアの側に失敗があってアウト。

そして11月22日、ダラス。ここではついに暗殺に成功、オズワルドが犯人として逮捕されたが、二日後にジャック・ルビーの手で射殺されてしまった。オズワルドが何故ケネディを殺したのかについて分からないままに殺されてしまい、ケネディ暗殺はオズワルドの単独犯ということにされてしまった。

▼ジャック・ルビーはダラスでナイトクラブを経営していた人物ですが、CIA=マフィアによるカストロ暗殺に絡んでいたとされていいます。オズワルド殺害4年後の1967年1月に死刑になっているのですが、この本によると、オズワルド殺害はダラス警察の警察官がやるということで、ルビーが手配していた。しかしその警察官が行方をくらましてしまい、ルビーはマフィアから、「お前の責任でオズワルドを消せ」と圧力をかけられていたので、結局自分の手でやらざるを得なかった。

一方、オズワルドが犯人だとされたことで青くなった人物がいた。CIAのヘルムズ長官で、彼はオズワルドが、CIA=マフィアによるカストロ暗殺計画のためにキューバに送り込まれたチンピラであることを知っていた。オズワルド逮捕によって、ヘルムズは、この暗殺がマフィアの仕業であるばかりでなく、それにCIAが関係していることをにおわせる策略であることを悟った。これは何とかして、真実を隠蔽するしかない、とヘルムズは考えた。

ヘルムズとは別に、大統領暗殺がオズワルドの単独犯であることを全く信じていなかったのが、ジョンの弟のロバート・ケネディである。事件後に極秘調査を行った結果、これがマフィアによる犯行であることを確信していたが、ロバートもまた真相を公にするわけにはいかなかった。それをやると、自分と兄が12月1日に計画していた反カストロ・クーデターのことも明るみに出てしまう。そうなると、兄の名前にキズがつくし、自分の政治生命も危なくなる。さらにキューバ国内にいるアルメイダ将軍の立場も危うくなる。何よりも、それによって再び米ソ対立が深刻化して、核戦争にも繋がりかねない。というわけで、ロバート・ケネディもまた真相隠蔽工作に参加することになった。そのロバート自身、兄暗殺の5年後に殺されてしまう。

マーチン・ルーサー・キング牧師暗殺は、直接的にはマフィアの犯罪ではないが、南部の白人優越主義者からの依頼でキング殺しを引き受けたのがマフィアたちだったということです。何故それを引き受けたのかというと、黒人解放運動をやっていたキング牧師もまたケネディ兄弟同様に、組織犯罪反対のようなことを言い始めていたこともあり、この白人優越主義者から30万ドルもらってキング殺害を引き受けたのだそうです。キング殺害を引き受けたマフィアの親分は、ケネディ暗殺にも関係していた人物なんだそうです。

▼これ以上書きはじめると余りにも長くなるので止めておきます。Legacy of SecrecyはLama WaldronとThom Hartmannというジャーナリストの共同著作で、フィクションではなく、いろいろな人物の証言とか、いまになって公開されるようになった秘密書類の類のことがわんさと出て来る。全て事実の羅列です。でもその割には何故か退屈させない。

▼Legacy of SecrecyというタイトルのLegacyは、辞書を引くと「遺産」とか「名残」とかいう意味が出ていますね。「かつてあった出来事が理由・原因になっている現在の状態」ということです。だから日本語のタイトルとしては『秘密主義が遺したもの』などということになるのかもしれません。ちなみにサブタイトルはThe Long Shadow of the JFK Assasinationとなっています。「ケネディ暗殺の長い影」というわけですが、著者たちのメッセージは、ケネディ暗殺にまつわる隠ぺい工作がなかったら(つまりあの時点でマフィアを徹底的に追い詰めていたら)、キング牧師もロバート・ケネディも殺されることはなかったのに、ということだそうです。

▼蛇足ながら、大統領暗殺の6ヶ月前にマフィアのMarcello親分が自分の側近たちに語った言葉が記録として、下記のように残されているのだそうです。

"you gottta hit de top man.....this is somethin' I gotta get some nut for, some crazy guy...but I tell you as sure as I stand here, somethin' awful is gonna happen to dat man..."
ええか、イチバン上のヤツをやるんや。そのためにな、アホが要るんや、アタマのおかしいヤツや。言うといたるで、アイツの身にタイヘンなことが起こるんや。それはもう間違いない。オレがここにこうして立っとるのと同じくらい間違いのないこっちゃ。

▼ギャング言葉を訳すのに下手な関西弁を使うのも妙ですが、なんとなくギャングとくると、私のアタマには関西弁が浮かぶのですよ。カンニンしてつかあさい。あえて英語の解説させてもらうと、gottta hit de top mangot to hit the top manのことですね。dat manthat manです。dethedatthatであることに注目。"th"という発音が面倒で、ついthezaになってしまいません?ザ・ヒットパレードとか・・・。思うにアメリカ人に分かってもらうためには「デ・ヒットパレード」と言った方が手っ取り早いかもしれない。けど、ギャングと間違えらる危険性もある!?


back to top

6)どうでも英和辞書
A〜Zの総合索引はこちら

communism共産主義

毛沢東によると「共産主義は愛ではない。敵を打ち砕くハンマーなのである」とのことであります。ロナルド・レーガンは共産主義者と反共産主義者の違いについて、次のように定義しております(もちろんレーガンは反共主義者です)。

共産主義者: マルクスやレーニンの書物を読む人たち
someone who reads Marx and Lenin
反共産主義者: マルクスやレーニンのことが分かる人たち
someone who understands Marx and Lenin

dinner:ディナー

その昔、私と私の妻が、あるアメリカ人夫妻をレストランでの昼食に招待したことがあります。それほどの高級レストランではなく、どちらかというとファミレスに近いものであったのですが、それなりに楽しい昼食だった。後ほどその夫妻にThank you for the dinnerと感謝されたときにはちょっと戸惑いましたね。食べたのが昼間でもdinnerという言葉を使うんですね。辞書を調べると、dinnerの定義として

main meal of the day, eaten either in the middle of the day or in the evening

と書いてある。昼間でも夜でも、その日の主なる食事とかご馳走のことをdinnerというんですな。ついでにlunchを調べたらmeal eaten in the middle of the dayとなっていた。

uncertainty:不確実性

JK Galbraithという人が1977年に書いた『不確実性の時代』(The Age of Uncertainty)は、当時のベストセラーとなりましたよね。私自身は読んでいないのですが、確か昔からの経済学者や哲学者のことを書きながら歴史を振り返り、今と未来を語る本であったと記憶しています。米ソの冷戦、第三世界におけるさまざまな紛争や貧困等々、1977年当時は、いろいろな変化が起こりすぎていて、文字どおりuncertaintyの時代であったのだろうと思います。でもuncertaintyということでは、現在の方がもっと不確実性の時代のように思えますが・・・。

もう一つ、フランスの数学者・哲学者、パスカルが『パンセ(Pensees)』という書物の中で言った言葉にIl n'est pas certain que tout soit incertain(英訳:It is not certain that everything is uncertain)というのがありますね。「世の中、すべてが不確実である・・・というのも確かなことではない」というわけです。こういうひねくれコメント、私、嫌いでないな。

back to top


7)むささびの鳴き声

▼あるアメリカのサイトを見ていたらマクドナルドとスターバックスの人気比べというのをやっておりました。質問は

マクドナルドが沢山ある町とスターバックスが沢山ある町があったとして、あなたはどちらに住みたいか? Would you prefer to live in a place with more McDonald's or more Starbucks?

▼約2300人の成人を対象にした調査で、性別、年齢別、地域別、思想別等々・・・いろいろな分野での色彩がはっきりしているのがオモシロイ。おそらく日本と同様だと思うけれど、マック・ファンはどちらかというと低所得・保守層、スタバは若い人・高所得・都会的などという色合いの違いが出ています。はっきり分かれる部分をいくつか紹介すると、例えば年齢が65才以上の人は18:48で、断然マックのある町に住みたい人が多い。それと政治的な保守層も28:50でマックの勝ち。ただ政治的なリベラル層では46:33で「スタバのある町に住みたい」方が多い。

▼このうち年齢が65才以上はマック派というのは、私には大いに理解できる。とにかくスタバの場合、何を注文すればいいのかよく分からないのが困るわけさ。私が唯一知っているのはカフェラテだからそれ以外頼んだことがないのです。

▼アメリカにはlatte-drinking liberalという言葉があるんですって?リベラルな政治思想の持ち主は大体においてスタバ好みということです。「ラテリベ」ですね。もう一つ、スタバ派の31%が、生活がベリー・ハッピーと答えているのに対して、マック派の場合はこれが27%と少ないのだそうです。

▼この種の調査を鵜呑みにするのは間違っているけれど、まあ、ヒマなときのハナシのネタ程度に考えると、金融危機の原因を作り出した人たちがスタバ派であり、そのお陰で職を失ってしまったのがマック派ということになる。

▼私が日本で住んでいる町の場合、何故かマックが閉店・退散したのに、駅ビルのスタバは妙に流行っている(ように見える)。なぜマックがなくなったのか?ナゾであります。町の性格からすると・・・マック派でもスタバ派でもない。あえて言えば「牛丼の吉野家」派かな。

▼ハナシは違うけれど、小泉さんが麻生さんについて「笑っちゃう」などと言ってしまって、センセイションを巻き起こしているみたいですね。「実は郵政民営化には反対だった・・・」と言った麻生さんがバカにされている。仕方ないですよね。閣僚だったんだから。しかし、先日のラジオ番組で「実は私は小泉改革には批判的だったんです」というジャーナリストがいたけれど、この人が、あの郵政選挙のときにどのくらい大きな声で「小泉は間違っている!」と叫んだのか・・・私には全く聞こえませんでした。

▼テレビを見ていたら、小泉さんが政治家の会合で「人は私のことを変人とかいうけれど、私自分が全く常識的な人間だと思っている」と言っていた。実はアタイも奥さんから「アンタは、自分で思っているほど常識的じゃないんだから気をつけたほうがいい」とよく言われるのでございます。



back to top

←前の号 次の号→


messages to musasabi journal