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むささびの鳴き声
044 「日本は旗を降ろさないで」の不条理

10月20日付けのThe Economistが、日本における「インド洋上給油問題」について「旗を降ろさないで」(Don't furl the flag)という社説を掲載しています。イントロが「日本の兵士たちは政治家によるもっとしっかりしたサポートを期待する資格がある」(Japan's soldiers deserve better support from its politicians)となっているとおり、自衛隊による給油活動の継続を訴える内容になっています。

日本が撤退すれば、タリバンとの重要な戦い(crucial battle against the Taliban)における日本の役割の終わりとなる、として「ひょっとすると昔の日本に戻るということか?すなわち自己中心的で、困難な軍事活動は他人任せにしようという古い日本である(So is this the Japan of old: self-absorbed, unashamed at leaving others to do the hard military tasks?) と疑問を投げかけている。

1991年の湾岸戦争の際に金だけ出して、軍事的な貢献をしなかった「小切手外交」によって、日本は何の影響力ももたず感謝もされなかったという経験があったことと、最近の北朝鮮情勢や中国の軍事的脅威ということもあって、日本は自分の態度を改めて、アメリカと一緒になって、国際舞台でより積極的な役割を果たそうとしてきた。そうすることで、例えば国連の安保常任理事国入りも期待できるという外交目的もあった、ということです。

日本が国際的により鮮明な役割(striking role)を果たし、その軍事力が同盟国や国連にしっかり繋がれているようになれば、中国やロシアの警戒心を起こさずに影響力を強めることができる。そのためにも自衛隊がインド洋から引き揚げるようなことがあってはならない、というのがThe Economistの主張であり、いま「給油」を問題にするのは、政権奪取をもくろむ民主党の利己的な策略(cynical ploy)にすぎないとしています。

つまりアメリカや西側諸国と繋がっている限りにおいて、中国もロシアも(韓国も)日本の軍事的な力に脅威を感じなくて済むから、日本にとっても同盟は大切だ、ということですね。日本ひとりでは危ないということです。そして・・・

日本の兵士たちは世界中で、ますます困難な仕事に取り組んでいるのであり、国内的にももっと支持されるだけの資格があるはずだ(Japan's soldiers do increasingly difficult jobs around the world. They deserve better support at home)

というのが、この社説の結論です。

自衛隊によるインド洋での給油活動は、アメリカなどによるアフガニスタンでの対テロ戦争を支援するために行っているのですが、その対テロの戦い(Operation Enduring Freedom:継続的自由のための活動)自体がどのような状況になっているのか?そのことについて、同じ号のThe Economistが違うページで「アフガニスタン戦争によって西側の軍事同盟が弱ってきている」(The war in Afghanistan is straining the West's military alliance)という記事を載せています。

結論からいうと、かなりの苦戦だそうです。

NATOはとても勝利しているとはいえない。西側の強大な同盟軍よりも、ぼろ服をまとったアフガニスタンの反乱者たちのほうがしっかりした権力を握っているように見える(NATO is far from winning the war, and, the ragged Afghanistan insurgents seem to have more staying power than the West's mighty military alliance)

The Economistによると、10月中旬現在で、アフガニスタンに軍隊を派遣している主要国の兵士の数は次のとおりです。

アメリカ 15,106
英国 5,291
ドイツ 3,155
イタリア 2,395
カナダ  1,730
オランダ 1,516

ところが昨年(2006年)に比べて今年は犠牲者が増加していることもあって「NATOの関心は、兵力を増やすではなく、如何にしてこれらの国が撤退するのを食い止めるかにある(NATO's concern is no longer to increase its strength but to stop some allies from withdrawing altogether)」という状態になっている。

例えばカナダの保守政権は、2009年2月までに撤退しろと主張する野党3党からのプレッシャーに押されているし、ドイツはもう一年だけ現状維持ということで議会の合意を得たけれど、これとても大激論(heated debate)の末の合意であった。イタリアは情報員が誘拐されたりして国内で撤退論が復活している。

つまりアフガニスタンの対テロ戦争は勝利どころではないというわけですが、NATOにとっての希望的観測としては、遅かれ早かれイラクを撤退する米軍と英軍がアフガニスタンに振り向けられるであろうということと、アメリカ寄りの大統領になったフランスが、より積極的に軍事協力をするかもしれないということだそうであります。

▼この2つの記事(日本の給油問題とNATO軍の状況)については、よく分からないことが多すぎますね。「よく分からないこと」というのは、私としては、柄にもなく婉曲的な表現を使っただけで、もっと普通に言うとアフガニスタンでアメリカなどがやっていることはムチャクチャであり、それを「給油」活動で支援している日本も日本だということになる。

▼アメリカや英国などの同盟軍によるアフガニスタン爆撃は、9・11直後の2001年10月7日に始まった。6年も経っているのに、タリバンは、つい最近韓国人を多数誘拐したりして、全然弱っていない。つまり同盟軍は勝っていない。6年やって勝てないものが、これからも勝てるわけがない・・・と考えるのが普通じゃないんですか?給油活動云々は、その負け戦を支援しろというのだから無理というものです。

▼そもそもこの戦争は、9・11の首謀者である国際テロ組織アルカーイダの指導者オサマ・ビン=ラディンを捕まえることを目的として始まったはずなのに、いつの間にかタリバンをやっつける戦争になってしまっているのですね。当時のタリバン政権がビン=ラディンらを匿ったことはあるかもしれないけれど、タリバンが9・11テロをやったわけではない。もちろんロンドンやマドリードでのテロとも無関係。しかもタリバンとアルカーイダやビン=ラディンの関係だって、実は同盟でも仲間でもないことは、いつか紹介させてもらったINSIDE THE GLOBAL JIHADという本でも明らかです。つまり日本が給油で支援している「同盟軍」のやっているのは、対国際テロ戦争でさえないということです。でなきゃ、何なんです?