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むささびの鳴き声
020 談合がなくならない理由
日本記者クラブのようなところで仕事をしていると、メディアの細かいことまで妙に気になることがあります。直近の例として、橋梁業界による談合事件で逮捕者が出たことについての新聞記事があります。国が発注する橋の建設工事について有力企業が談合して「うまみを分け合ってきた」(読売新聞)という、あの事件です。

5月26日夜のNHKニュースで、この問題について日本経団連の奥田会長という人が記者会見して「談合はなかなかなくならないだろう」というニュアンスの発言をしているのを見ました。普通この種の事件についての関係者の会見というと「極めて遺憾だ。今後このようなことは二度と起さない・・・」という趣旨の発言があると思うのですが「なかなかなくならない」というクールな?コメントに、ちょっと奇妙な感じがしたわけです。

しかし私がもっと奇妙に思ったのは翌日の新聞記事についてです。朝日・読売・東京新聞の記事は奥田さんの発言について、それぞれ次のように伝えています。新聞記事をそのまま引用します。
読売新聞:「正直言って(談合を)絶滅できるとは思っていない」とも述べ、業界の意識の低さを嘆いていた・・・。

朝日新聞:「(企業不祥事が)すぐに絶滅できるとは思っていない。多少、時間をかけて努力していかねばならない」と不祥事絶滅の難しさも吐露した・・・。

東京新聞:「はなはだ遺憾だ。半面、談合がすぐに絶滅できるとは思っていない」と述べ、談合体制は日本企業にはびこっているとの見解を示した。
三つの記事中のカギカッコ内の奥田さんのコメントを読むと「絶滅できるとは思っていない」というところはそっくり同じですが、前後を読むとかなり違う(ように私には思える)。読売の記事は、業界の意識が低いので、談合はこれからもなくならない、と言っているように見える。朝日の場合は「すぐに絶滅できない」かもしれないけれど、時間をかければ・・・というニュアンスにもとれる。この点は東京新聞も同じ。どちらが奥田さんのメッセージなのでしょうか?

次に読売の記事は、丸カッコの中で(談合を)と言い、朝日のそれは(企業不祥事が)と言っている。前者の場合は奥田さんが具体的に談合という企業不祥事のことを言っているようだし、朝日の記事では、「談合に限らず企業不祥事一般が」と言っているようにも響く。丸カッコは、奥田さんの発言を記者が推測して付け足したものです。東京新聞の記事では丸カッコなしで、談合という言葉を使っているのだから、これは奥田さんご本人がそのように発言したという意味になる。一体、奥田さんは実際には何と言ったのでしょうか?

が、実は私がイチバン奇妙に思ったのは、新聞記事に見る限り(NHKのニュースもそうですが)、奥田会長は何故、談合とか不祥事がなくならないと思うのかを全く語っていないということです。「奥田さんは何を理由に談合や不祥事を絶滅するのは困難だと考えるのか」という点に触れた記事が全くないということでした。NHKの放送における「根絶は難しい」というコメントに私が奇妙な感じを覚えたのはこの点だったのではないかと思います。あの記者会見では、奥田さんに対して「根絶が難しいのは何故なのですか?」という質問は出たのでしょうか?出たのなら奥田さんは何と答えたのでしょうか?誰もその質問をしなかったのだとしたら、何故しなかったのでしょうか?後者については特に知ってみたいですよね。

「そんなアホな(素人みないな)こと質問するな」と言われるかもしれないなどと考えたからではない・・・ですよね。読売の記事は「業界の意識の低さを嘆いていた」とありますが、それはひょっとして記者の推測なのでは?奥田氏が「嘆かわしい」と言ったのでしょうか? 気になりますね、こういうの。