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日英グリーン同盟
三重県海山町

明るいヒノキ林の秘密
名古屋から特急「南紀」に乗って2時間半ほど行ったところにあるのが三重県海山町。最寄駅は尾鷲または紀伊長島。そこから車で20分ほど行ったところに海山町があります。「海山」とはうまいことを言ったもので、素晴らしい海岸と美しい山が一緒にある。新鮮な魚という「海の幸」とヒノキという「山の幸」が共存しています。人口約1万1000人。

その海山町にある引本小学校は開校1875年(明治8年)という歴史を誇っていますが、その校庭に日英グリーン同盟のイングリッシュオークが植わっています。海山町も引本小学校も特に英国と関係があるわけではないのですが、英国大使館として特にお願いをして植えてもらったについては理由があります。この町にある速水林業の森が「環境にやさしい森林経営」ということで国際的な森林保護団体であるForest Steward Council(FSC)の認定を受けた日本では極めて数少ない森の一つであるからです。

速水林業は創業1790年という歴史を誇る経営で、もっぱらヒノキを生産して販売しています。Forest Steward Councilの認定を受けることにしたのが現在の代表である速水亨氏(50才)であり、速水さんは引本小学校の卒業生です。私は2002年3月に行われた日英グリーン同盟の植樹式に参加させて貰ったのですが、「環境にやさしい山林経営」とは何のことなのか?樹木の生産・販売をビジネスとする速水さんが「環境」にこだわる理由は何か?このあたりのことに大いに興味がありました。

明るい森

速水林業の森(Hayami Forestといいます)に連れて行って貰った私にとって強烈な第一印象が、森林全体が非常に明るいということでした。杉林とかヒノキ林というと「昼なお暗い」ものと思っていた私には新鮮な驚きでした。さらに感激的であったのは一本一本のヒノキの美しさでした。直径40cm・高さ20mほどの樹木が地面から直角に、空を突くように伸びている様子は、日本語の「凛として立つ」という表現がピタリの風景でした。 木と木の間に十分な空間がとられていること、ヒノキの間に広葉樹が育っていること、ヒノキの枝打ちが行われていること…これらが森全体を明るくしている要素のようなのですが、それはまた「環境にやさしい森林管理」の賜物であるわけです。

「環境にやさしい森で育ったヒノキと普通の森で育ったものの間には質的な違いはあるのでしょうか?」という私の素朴な疑問について、「ありません。有機農業で育った野菜とそうでない野菜には質的な違いがある。でも樹木の場合は違いはない。どのような森で育てられてもヒノキはヒノキです」というのが明快な答えでした。

「環境」が経営の理念に

「質的な違いがないのであれば、何故わざわざForest Steward Councilの認定を受けたりしたのですか?」と、これも極めて素朴な疑問を発してみたのですが、「そうするのが木にとっても森にとってもいいことだからです」と実にあっさりしたものでありました。なるほど…しかしそれと商売はどのように結びつくのか?と私はまだこだわっていました。速水林業の案内を読むと「豊かな森林を維持し、人類生存のために地球環境(の保全に)貢献することを目標とする」とあります。

速水氏によると現在の世界的な流れとして、木材や木製品のセールスのためには元になる樹木がどのような理念や環境下で育てられたのかが問われる時代になっているそうです。つまりForest Steward Councilの認定を受けた森林で育ったものであるということが売れる条件にもなっているというのです。経営者がどのような理想・理念を持っているのかが問われる時代になっているということです。

速水氏が見せてくれたのは、ここで採れたヒノキを使った木工細工でした。その商品にはFSCのスタンプが押されていました。ごく小さなものでしたが、その注文主が世界的な環境保護団体であったのが印象的でした。例えばアメリカなどではFSCのスタンプが押してある木材で作れらた商品しか売らないという企業もあったりするそうです。

地元に親しまれる森

またHayami Forestの経営方針として「従業員全体の所得の向上と幸福な生活を確立すること」と謳われると同時に「地域社会の安定に尽くす」ということが挙げられています。後者は地場産業としての経済的・社会的責任ということもあるでしょうが、「レクリエーション施設として利用が可能かどうかを検討していく」とも書いてあります。日本の林業は極めて厳しい経済状況にあると聞きます。昭和55年時に比べると、杉の価格は3分の1に下落しているのに、人件費は1・5倍に上昇している(速水林業の資料)そうです。Hayami Forestは、木材生産という基本を守りながら、将来の方向として森林を「観光資源」や「地元の人々が楽しめる場所」として活用しようということのようです。であればなおのこと明るい森、環境にやさしい森林経営が要求されるということなのでしょう。

三重県のHayami Forestを訪問する前に私は長野県にある「環境にやさしい森」を見せて貰ったことがあった。ある熱心な環境保護運動家が「一から作った森」だそうで「森かくあるべし」という理念に貫かれた場所でした。スギやヒノキは殆どなくて広葉樹が生い繁る明るくて実に気持ちのいい森でした。「あれを見ろ」とその人の指差す方向を見ると、小川を挟んでスギとヒノキが鬱蒼と茂る森がありました。そこは林野庁の管理する森だそうで、こちらの森では鳥の囀りが沢山聞こえるのに、あちらの森はただひたすら森閑と静まり返っていた。

私の自宅(埼玉県)にもそのような杉林が沢山あります。薄暗くて気持ち悪いので誰も入って行かない。 「経済森」と「理想の森」 長野の「理想の森」と三重のHayami Forestには、広葉樹の森とヒノキ林という見た目の違い以外に決定的な違いがあります。前者がひたすら理想の森を追求すること自体が目的のように(私には)見えたのに対して、Hayami Forestは、そこで育てたヒノキを売って商売にする「経済森」であり「生活の糧を生む場所」であるということです。しかしこの二つの森には、もう一つ、極めて分かりやすい違いがあった。Hayami Forestでは樹木の間を地元の子供たちが自転車を乗り回して遊んでいたのに対して、長野の「理想の森」の場合は入り口にロープが張ってあったということです。

ところで海山町も人口が減っているとのことで、私が植樹式に参加した引本小学校は生徒数70人。卒業生が7人でしたが、新入生もまた7人であったそうです。教頭先生は「もう少し入学するかと思っていたのですが…」とちょっと寂しそうでした。イングリッシュオ−クは2002年3月の卒業生7人に植えて貰いました。その時の記念写真は大事に保管されています。 (2003年記す)

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