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008 福祉国家のこれから

福祉国家のこれから 6月14日付けのThe Economistが北欧諸国(Nordic countries)の特集を掲載しています。北欧というと「白夜」とか「森と湖」などの自然の美と並んで殆ど必ずと言っていいほどに取り上げられるのが行き届いた社会福祉制度で、The Economistの特集でもこの部分にはかなりのスペースが割かれています。

ところで英国という国を語るについても「福祉制度」が取り上げられることがあります。「ゆりかごから墓場まで」(from cradle to graveyard)というスローガンはよく知られています。然るに英国における福祉国家(welfare state)の概念は1980年代初頭のサッチャー政権の登場以来、英国内では殆ど死語になったような気がしないでもありません。事のよしあしはともかくとして、同じヨーロッパでありながら北欧諸国と英国では何故、福祉国家に対する姿勢が異なるのか・・・私としては個人的かつ単なる好奇心としても興味のあるところであります。

北欧の福祉社会

The Economistによると、北欧諸国は20世紀中葉までの150年間、ヨーロッパでも最も貧しい地域とされていたのですが、それがここ約50年の間に最もリッチな国々となってしまった。それにはいろいろと社会的・歴史的な背景があるのですが、北欧における「福祉国家」の基には「人民のコミュニティ」(people's community)という考え方があり、それにはルーテル派キリスト教の文化(弱い者は社会全体で面倒を見ようという考え方)の影響が極めて強いというのがThe Economistの指摘です。

英国における福祉国家の概念は戦後の社会民主主義的な風潮の中で生まれ育ったはずなのですが、何故かそれが労働組合による社会支配に繋がり、それが英国経済の停滞に繋がってしまった。そこで登場したのが敬虔なるクリスチャンであるサッチャー首相で、彼女は「社会福祉」などというものに頼らない「自立した個人」の大切さを訴えた。英国における保守派の評論家として知られるポール・ジョンソンという人は福祉国家という考え方は「道徳的過ち」(morally wrong)であると言い切っています。

アメリカ、英国との違い

同じキリスト教社会であるのに英国やアメリカが「政府からの個人の自立」を原理原則としており、北欧社会では「人民のためのコミュニティ」という考え方を追求している。フィンランドに詳しいジャーナリストの友人はこの点について「フィンランドがつい最近まで非常に貧しい社会であったことを忘れてはならない」と解説してくれました。なるほど・・・これは一理ある。フィンランドのみならずかつての北欧の「貧しさ」(今では信じられませんが)の多くの部分が自然条件によってもいるのでしょうね。何せ一年の半分が冬のようなところなのですから。厳しい自然条件の中で人間が集まって生きて行こうという場合「人民のコミュニティ」という考え方が出てくるのは当然ですよね。

尤も北欧がいつまで福祉国家を謳歌していられるのかについては必ずしも予断は許されないというのがThe Economistの指摘です。言うまでもなく「高福祉」とは「高負担」を意味します。所得の60%もが税金に持って行かれるという状態を国民がどこまで許すのかということです。国内総生産(GDP)に占める税金収入の割合を見るとイチバン高いのがスェーデンで殆ど55%、フィンランドが48%くらい、英国は約38%、アメリカと日本は30%弱という数字が出ています。 フィンランドについて言うと、情報化社会の発展に伴って、情報分野の業界で働いている人々が安定した雇用を謳歌しているのに対して、これについて行けない人々が雇用の面では保護されていないという社会的不平等が広がりつつあると指摘する声もあります。

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