第9号 2003年6月15日
home backnumbers むささびの鳴き声 美耶子のコラム
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1)ブレア首相の落とし穴:道徳心が命取りに?
2)雷に2度打たれた男

3)アレルギーだらけのボクサー犬
4)二人続けてホールインワンの快挙
5)大当たりの喜びが怒りに?
6)ビールアイスクリーム
7)騒音の悩みいろいろ
8)サメのいる水槽に裸で飛び込む
9)むささびJの受売りフィンランド:サミットで感じたEUナショナリズム
10)むささびMの<「…み」の使える形容詞>
11)編集後記
1. ブレア首相の落とし穴:道徳心が命取りに?

YouGovというインターネットによる世論調査によるとブレア首相に対する国民の満足度がかなり降下しています。そのことに関連して6月7日付けのThe Economistが「ウソつきトニー?」(Tony Bliar?)というタイトルで非常に面白い記事を掲載しています。未だに見つかっていないイラクの大量破壊兵器…これが首相の政治生命にとって「首相本人が考えている以上に」危険要因になっていると分析しています。

アメリカと違って英国の場合、この戦争について世論はかなり懐疑的であったし、有力な閣僚が辞任したりもしたのですが、それをブレア首相は下院における「名演説」で世論を自分の方に引き付けることに成功しました。その当座は首相の説得力・指導力についてマスコミも大いに称賛するという雰囲気でありました。ブレア首相はその演説の中で、サダム・フセインが「45分以内に」大量破壊兵器を発射する能力を有していると言明したのですが、その言明の根拠となったのが英国の諜報筋(MI6)からの情報でした。 然るに戦争が終わっても大量破壊兵器なるものが未だに発見されていない。

そうなると英国やアメリカがイラクを攻撃した行為の正当性にも問題が出てくる。アメリカはともかく英国ではそのような論調が出ています。しかもその諜報筋の関係者までが「首相は我々の報告書の内容を誇張して利用した」とまで言い始めている。となるとブレア首相の「名演説」とはナンだったのかということになる。

The Economistはこの問題がブレア首相の政治生命にとって非常に危険な要素を含んでいるとしているのですが、私が面白いと思ったのは、同誌が何故そのように分析するのかという部分なのです。 政治家が国民の支持を受ける要因の一つに「人柄」がありますね。例えばマーガレット・サッチャーは「信念の人」、ビル・クリントンは「グッド・ガイ」、ジョージ・ブッシュは「(いい意味での)単純細胞」…というわけです。

ブレア首相について言うと、本人は自分を「普通の男(ordinary bloke)」として国民に訴えたいと思っているのですが、国民が彼に好感を持つのは彼が「普通でない男(extraordinary bloke)」であると思われているからなのだ。で、ブレア首相がどう「普通でない」のかというと、彼が高邁なる道徳的信念(deep moral convictions)を持った政治家であるということ。現在のように価値観の薄れたシニカルな時代(cynical age)、しかも英国のように疑い深い国(skeptical country)にあって殆ど宗教的ともいえるほどの道徳心に駆られる政治家が「普通でない」と思われるのは当たり前であるというわけです。

ブレア首相の場合、道徳心が強いというのは単なるイメージではなくて実像もそれに近いとこの雑誌は言っています。"Trust me. I know the right thing to do"(私を信用せよ。何が正しいのかは私が分っている)というのはブレア首相の口癖です。 問題はそこにあります。彼が下院での「名演説」によって世論を説得することができたのも、道徳心の強さが故に信頼されているということがあったらです。それがウソをついたとは言わないまでも、自分の主張を通すために諜報筋機関からの報告書の内容を誇張して引用したとされてしまうと国民のリアクションも非常に大きなものになる。この次にブレア首相が何かの問題についてTrust meと言っても通らないということが出て来るのではないか…というのがThe Economistの結論です。

2. 雷に2度打たれた男

ゴルフのプレー中に2度も雷に打たれて、しかも無事であったというラッキーなんだかアンラッキーなんだかよく分からない人の話。ロンドンから西へ電車で1時間ほど行ったところにあるピーターボローという町でパブを経営するビンセント・フラセラ氏(50歳)がその人で、地元のOrton Meadows Golf Courseでプレー中の14番と17番ホールで持っていた傘に雷が落ちたというわけ。「最初のやつはピカッと来て腕に電流が伝わるのが分かった。2度目のはきつかったな。肩から腕にかけて針でも通したような感じだった」と本人は言っており「別に大したことはない。あれから何も異常はないし…」と案外けろっとしていたらしい。この人はハンディが25らしいのですが「その日のスコア?その話はやめよう。ひどかったんだから」と言いながらも「雷には関係ない」と主張している。ちなみに一人の人間が一生で2度も雷にうたれる確率は300万分の1なんだそうです。

3. アレルギーだらけのボクサー犬


英国のノーフォークにある犬類保護連盟(National Canine Defence League: NCDL)の施設で飼われているティナという名前のメスのボクサー犬は「英国一のアレルギーの持ち主」であるとされている。草、花、綿などに触れたり、羊肉、白身魚、豆などを食べるとと身体中に赤い斑点が現れる。ということは犬がよくやるように草の上を転げ回るとかソファの上に寝そべるなどの行為が出来ないということでもある。こういう状態なので施設では「彼女を散歩に連れて行くのも非常に注意深く計画を立てる必要がある」と言っている。マネジャーのダイアン・マクレランドさんは「可哀そうですが、でもこの施設では機嫌よく暮らしております。特殊な素材を使ったベッド、スペシャルフード、それに大きな愛情が与えられているのです」とコメントしている。NCDLは英国最大の犬類保護組織で、全国15ヶ所で犬の保護施設を運営している。ちなみに英国では1年間に11,500頭の犬が捨てられたり、迷子になったりしているそうで、その多くがNCDLのRehoming Centreに保護されている。

4. 二人続けてホールインワンの快挙


ペアでプレーをしていたゴルファーが連続して二人ともホールインワンを記録するという信じられないことが起こった。ウェールズにあるゴルフ場3番ホール(192ヤード・パー3)での出来事。リチャード・エバンズとマーク・エバンズという二人がそれで、最初にいれたのはリチャードの方。「15年ゴルフをやっているがホールインワンはやったことがなかったし、やった瞬間はこのホールは私の勝ちと思った」というのは当然だろう。英国のホールインワン・ゴルフ・ソサイエティによると二人が続けてホールインワンというのは過去に例がないという。このソサエティによるとこの種のことが起こる確率は25,000回に1回なのだそうです。ちなみに次のホールでは二人ともロストボールという、これまた信じられないようなプレーであったらしい。

5. 大当たりの喜びが怒りに?


英国のパブに行くとくじ引きでお金があたるというサービス(遊びと言った方がいいかもしれない)を提供しているところがある。サウスヨークシャーのあるパブでジャニス・ウィングという未亡人が50ポンドの賞金を当ててしまった。当然のことながら大喜びで賞金を貰いに行ったところパブから貰ったのはたったの2・5ポンド。というのも彼女の亡き夫がパブに借金をしており、それが差し引かれたというわけ。「ひどいわ、これは。大したお金ではないけれど、物事には筋ってものがある。夫がいくら借金していようとそれは私には関係ない」とかんかんに怒っている。彼女の夫は生前、少なくとも1週間に70ポンドをパブで使っており、キャッシュがないとツケにしていたらしい。「何も死んだ人の借金まで私に負わせることはないじゃありませんか。普通なら死んでしまったのだかチャラにしたっていいくらいなのに・・・」この件についてパブ側はノーコメントを通している。

6. ビールアイスクリーム

ビールの味がするアイスクリームが売り出された。と言ってもニューカッスル地域だけのことであるが、英国のパブで飲まれるエール・ビールの味がするらしい。アルコール度は1%未満。開発したのはドディントンという村で酪農を営むニールとジャッキーのマックスェル夫妻。ビールのブランドはニューカッスル・ブラウン・エールと呼ばれるもので、ニューカッスルのスーパーなどで販売されている。マックスェル夫妻はこのビールを、最近ニューカッスルを訪問した2008年度ヨーロッパ文化都市(ニューカッスルも立候補)の審査委員にもプレゼント、「絶対気に入ってもらった」と言っている。が、結局「文化都市」の資格はリバプールに持って行かれてしまった。しかしビール味のアイスクリームなんて飲む気がしますか!?

7. 騒音の悩みいろいろ

去る6月4日の英国の全国騒音防止日(National Noise Awareness Day)にサフォークという郡の役所が住民たちを対象に日頃どのような騒音に悩まされているかについて調べたところ、いろいろと「同情に値する?」ケースが集まった。「隣の電話機のベルの音がうるさい」「庭の木に鳥が巣を作ってうるさくてイライラする」などはよくあるケース。変わったケースでは、ある夫人が自分の隣に飼われている馬のオシッコの音が大きすぎるというのもあったとか。「女房が怒鳴るのがうるさくてかなわないからとめて欲しい」と苦情を言ってきた男性もあったらしい
。そのくらい自分でやれ!

8)サメのいる水槽に裸で飛び込む

ブライトンにある水族館にあるサメの入った水槽に素っ裸で飛び込んだ男がおり、警察に訴えられている。コメディアンのガイ・ベナブルズ(34才)という人で友人と「サメのいる水槽に裸で飛び込めるか」ということで1ポンドの賭けをしたらしい。その水槽にはサメ以外に亀と普通の魚もいたらしいが、ベナブルズ氏は「サメよりも亀の方が怖かった。巨大だったもんな」とコメントしているが、カンカンなのは水族館で、「全く許しがたい行為だ。現在調査しているが、場合によっては警察に訴える」とコメントしている。ベナブルズ氏はこの賭けを実行するにあたり、テレビカメラのクルーを準備、水槽のある部屋のドアには「現在給餌中につき立ち入り禁止」の看板まで張り出す念のいれかただったらしい。
9)むささびjの受売りフィンランド:サミットで感じたEUナショナリズム

東京のフィンランド大使館に行くと、敷地に旗が2本掲揚されています。1本はフィンランドの国旗で、もう1本はEUの旗。フィンランドはEUの加盟国なのです。加盟したのは1995年。同じようにEU加盟国なのですが英国大使館に行くと敷地の中に掲げられているのは英国の国旗だけ。つまり加盟国だからと言ってEUの旗を掲げることが義務付けられているわけではないのでしょう。

ところで我々日本人にはイマイチよく分らないのが、EU加盟国の人たちにとって「ヨーロッパ」とはどのような存在なのかということであります。私の勝手な推測に過ぎませんが、フィンランド政府は自国がEUの一員であることを非常に大切なことであると思っているのに対して、英国の場合は…(あえて言わない)ということなのでしょうね。ということで最近、フィンランドの日刊紙Helsingin Samonatに掲載された記事の要約を紹介します。この新聞の記者によるエビアン・サミットの取材の一こまです。題して「フランス人を叩かないで!」。

我々北欧の人間は南欧の人々の悪口を言うのた大好きである。特にイタリア人とフランス人のいないところで彼らのバッシングをするのは楽しいのだ。イタリア人ときたら誇大妄想の癖に怠け者で時間通りに物事をやったことがない。フランス人はもっと悪い。誇大妄想にプラスして傲慢であるのだ…という具合である。

エビアン・サミットのプレスセンターでEUのプロディ委員長(イタリア人)と議長国であるギリシャのシミット首相の記者会見が開かれるのを待っていたときのことだ。二人がなかなか現れないのでイライラした二人の北米人記者が会話を始めた。それが私の耳にも入ってきた。一人はアメリカ人でもう一人はカナダ人であった。 「ギリシャ人ってのはこれだからな。何をやらせてもまともにできない」 「でもイタリア人はもっとひどいぜ。彼等の頭には時間割ってものがないんだから」 「しかし最悪はフランス人。奴らの場合はわざと遅れたりするんだからな」 それから二人の会話は会見で使われる言葉の問題に移った。

会見ではプロディ氏はイタリア語を、シミット氏はギリシャ語を使うことになっていた。 「何でまた英語でやらないんだ?その方が簡単なのに…」とアメリカ人記者がつぶやく。 この二人の会話をそばで聞いていたEU諸国の記者団がお互いに目くばせをした。そこにはいわばEUとしての愛国心(ナショナルスピリット)のようなものが存在したのである。普段はEUとしての愛国心などはナンセンスであると思っている我々の間で感じたのである。 正直言って(フィンランド人である)私自身も会見は英語でやってくれた方が楽である。フィンランド語で会見をやってくれというのは無理としてもだ。それから更に正直に言うならば、北米の方がギリシャ、イタリア、フランスよりも物事が時間どおりに進むというのが、北欧人の一致した感想ではあるだろう。

しかし…しかしである、ヨーロッパ以外の人間がフランス人のことをとやかく言うのを聞くと不愉快なのである。なんのかんの言ってもフランス人は我々の仲間なのだ。ギリシャ人もイタリア人もである。この二人の北米人の会話がその部屋においてEUの愛国心を醸成してしまったのである。それは彼らが北米人であったからというのではない。日本人とブラジル人がこのような会話するのを聞いても我々の間には同じような感覚が生まれたであろう。いずれにしてもあの瞬間、EUの分裂などはどこかへ消えてしまったといえるのであった。

以上であります。EUがますます大きくなり、ユーロが広がりということで、ヨーロッパ合衆国(United States of Europe)のようなものが誕生するのではないかと言われています。そうなるとフィンランドなどの加盟国はアメリカで言う「州」みたいなものになるってことなんでしょう。ただアメリカと違って人々は祖国を捨てて新天地を求めた人たちではないわけです。つまりアメリカ人のような愛国心は生まれようがないってことなのですよね。これは結構なことです。


10)むささびMの<「…み」の使える形容詞>

私が参加しているボランティアの日本語教室で、最近一つの試みとして、ボランティアが二人で半即興の一分程度の会話をその場で漫才みたいに喋る、ということをやり始めた。ヒアリングの教材として市販されているテープ、CD, ビデオの類はどれも実際の学習者には話すスピードについても内容についても、どこかわざとらしく帯に短し襷に長しであることと、何よりも「ナマ」のものを「現場」で聴いてもらうことが言葉の習得には重要であり、役に立つのではないか、と考えたからである。

ボランティアの人数も学習者の人数も、このような「贅沢」な試みを可能にするのに丁度良い、多過ぎず少な過ぎずであったのは、偶然とはいえ有難かった。 場所と役柄と話題を大体決めておき(つまり半即興)、セリフや言葉遣いは全てアドリブ、学習者に何度か聴いてもらうために、それをその場でテープに録音する、というやり方である。学習者のレベルは、やり始めたばかりの極ビギナーから大体日本語を始めて1年以内という初級者までである。漫才(?)を聴く方にだけでなく、やる方にも適度な緊張感があって(なにしろアドリブだから)結構こちらもやっていて面白いし、人が話す速度というのは話の途中で、実際には微妙に速くなったり遅くなったりするものなのだとか、あの一言が会話を長びかせてしまったとか、テープを聴きなおすと気付かされるのも面白い。

ある時、子供の捻挫のシップ薬を買いに来た主婦と薬局の店員の会話という設定で、「お子さん、痛みはあるんですか?」というセリフが出てきた。学習者から「痛みは痛いと同じ?」という質問が出た。意味するところは同じだが、前者は名詞で後者は形容詞である、という説明では不十分で学習者の応用力に繋がらない。形容詞は語尾を「さ」に変えて名詞にする場合もあるし、「み」を使う場合もある。時には「め」だって付く。

しかも単に意味の違いだけではなく、どんな形容詞にも「み」が使えるとは限らないということを考えると、またまた私は「一体どうやって日本人はこんな使い分けが出来るようになるのだろう、、、」と感心してしまうのだ。そして、こういう使い分けを習得する為の時間を考えたら、頭脳そのものをボタン一つで切り替えられたら、外国語習得もずいぶん楽だろうなあ…とついSFみたいなことを考えてしまう。 客観的な程度概念には「さ」、精神的、主観的な感覚には「み」を使う<違い>までは外国人に説明できても、何故「たのしい」「かなしい」には「み」が使えるのに「うれしい」「つらい」には使えない(但し「うらみつらみ」の時は例外!)のかと訊かれたら、どう説明すればいいのだろう…。

11) 編集後記

★ このジャーナルを日本以外の場所で読んでくれている人も少しいます。ロンドン、バンコク、ニューヨーク、上海などなど。それから関東以外の日本国内で読んでくれている人も沢山おります。その皆様に申し上げますが、このところの関東はばっちり梅雨です。皆様のところはいかがでしょうか?★2002年にやった「日英グリーン同盟」で植えられたイングリッシュオークですが、その後「枯れてしまった」という報告は頂いていません。ということは全員無事ってこと?とにかく非常に雪が深い北海道の余市というところに植えられたオークも、それから鹿児島県種子島に植えられたオークも立派に冬を乗り切って綺麗な葉っぱを付けているようです。わざわざ写真を送って頂いた皆様、本当に有難うございます。