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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
第57号 2005年5月1日 
こんにちは。ゴールデンウィークですね。私もこの1週間は休みです。むささびジャーナル第57号には、久しぶりにむささびMの「言葉へのこだわり」が復活しています。内容は次のとおりです。

目次

@オンラインの世界に目覚めよ!:R・マードックが新聞業界にカツ
A今の中国は1920年代の日本と似ている?
B久々復活・むささびMの『こういうこと、気付いてました?』
C短信
D編集後記


@オンラインの世界に目覚めよ!:R・マードックが新聞業界にカツ

先ごろ(4月13日)ワシントンで全米新聞編集長会議(American Society of Newspaper Editors)で極めて画期的な演説が行われたそうです。演説を行ったのは、何号か前のむささびジャーナルでも紹介したメディア買収の王様、ルパート・マードック。内容はインターネット時代における印刷媒体としての新聞の将来についてというものだったのですが、The Economist誌は、この演説がマードックのようなメディア界の重要人物によって行われたということで、「新聞業界がようやくインターネット時代の現実に目覚めたことを宣言したもの」だとして「歴史的な演説とも言える」としています。

マードックはオーストラリアのデイリーテレグラフ紙を始め英国のThe Times, The Sunday Times, The Sunなどの有力紙を買収・所有している人物です。アメリカではNew York Post紙のオーナーであるようです。

マードック氏はカーネギー財団が18歳から34歳までのアメリカ人を対象に行った調査を紹介しています。それによると彼らの44%が日に一度はニュースを知るためにインターネットにアクセスしているのに対して、毎日新聞を読むと答えた人はたったの19%に過ぎなかった。新聞業界が「もっと憂慮すべき」(マードック氏)なのは、「新聞が信用できる」と答えた人がわずか9%、「役に立つ」(useful)とする人は8%。そして「面白い・楽しい」(entertaining)にいたってはたった4%なのだそうです。

世界新聞協会(World Association of Newspaper)によると1995年から2003年までの間にアメリカの新聞発行部数が5%減少、ヨーロッパでは3%、日本では2%といずれも減っているのだそうです。

またミズリー大学のPhilip Meyer教授はその本(The Vanishing Newspaper)の中で、現在のような読者の新聞離れが進むと2040年4月を最後に新聞はこの世から消えるのだそうです。ホンマかいな!?

で、マードック演説に帰って、彼によると現代の若者がイチバン嫌うのは、恰も読者を教え諭すような態度の新聞なのだそうです。They don't want news presented as gospelというわけ。マードックは新聞ジャーナリストは読者に対して「上から講義する」のを止めて「対話(conversation)をするべきだ」と言っている。 マードックは古い世代を「デジタル移」(digital immigrants)、新しい世代を「デジタル現地人」(digital natives)と読んでいます。後者にはブログと呼ばれる「オンラインジャーナル」を主宰する人が沢山いるのだとか。

アメリカの若者の44%がブログの愛読者なのだそうです。ブログは主宰者が編集長になっていろいろな人からの投稿などを記事として掲載してジャーナルを作っていくというシステムなのだそうですね(などと今さら言っているのだからむささびがdigital immigrantであることは間違いない)。

また韓国のOhmyNewsというネットジャーナルのように普通の市民を記者にして、彼らから寄せられる情報をニュースとして掲載しているものもある。現在OhmyNewsが抱える記者の数は33,000人で、約50人の本社スタッフが、これらの市民記者から送られてくる情報のチェックなどをやっているらしい。

マードック氏は現在の新聞業界もこうしたネットジャーナルを取り込むような努力をしなければならないと強調している。そうすることによってのみ新聞業界は健全なものになるだろうとして次のように結論しています。
  • It is a monumental, once-in-a-generation opportunity, but it is also an exciting one, because if we're successful, our industry has the potential to reshape itself, and to be healthier than ever before.
マードックが経営者になったことで、あのThe Timesが「読みやすくなった」という人は沢山いますが「質が落ちたよ」と苦虫を噛みつぶす人も結構いる。要するにマードックという人は「エリート嫌い」なのですよね。 彼の演説はマードックという人の新聞業界観を知る上では非常に参考になる読み物だと思います。


A今の中国は1920年代の日本と似ている?
前号のむささびジャーナルで中国の反日デモについてのThe Economistの社説を紹介しましたが、同誌はその次の4月23日号でもこの問題を社説で取り上げています。主見出しがThe China question(中国問題)となっていて、イントロはAsia's real boat-rocker is a growing and undemocratic China, not democratic Japan(アジアの真の不安定要因は成長を続ける日民主国家としての中国にあり、民主国家である日本にあるのではない)としています。

同誌によると、日本はこれまで「何度となく」(countless times)中国やアジア諸国に対して、ありとあらゆる正しい言葉を使って(using all the right words)謝罪してきている。が、日本はそれらの謝罪を自分で台無しにしている(it has undermined those apologies)。それには三つの要因がある。
  • @謝罪の言葉遣いについて相手国に日本のそれを無理矢理押し付けており、それゆえに「渋々謝っている・ご都合主義で謝罪している」という印象を与えている。

    A罪を認めるに際してそれに見合った適切な責任をとっていない。特に日本の残虐行為の犠牲となったアジアの人々対する補償がきちんと行われていない。

    B戦争犯罪人が祀られている靖国神社を首相が参拝を続けている。
というわけですが、私のいい加減な意訳ではなく原文を紹介します。
  • Japan has apologised countless times to China as to its other Asian victims, using all the right words. Its problem is that it has undermined those apologies in three main ways: by forcing recipient governments to negotiate over the phraseology to be used, making the apology feel reluctant and purely pragmatic; by failing to match declarations of guilt with the proper taking of responsibility, in particular through adequate compensation for Asian individuals who suffered from its atrocities; and, since 2001, by its prime minister's visits to the Yasukuni shrine, a private entity that honours war criminals as well as Japan's general war dead.
これらの要因が「日本は正式に謝罪している」という日本政府の主張を弱いものにしている、とThe Economistは指摘しています。日本政府がこれら3つの問題点に取り組む努力を始めさえすれば、いま日本にダメージとなっているpluralism(多元的な態度)も強みに転じるはずであると言っています。

と、ここまでは日本についてです。この社説のポイントは見出しが示すとおり中国を語ることにあります。私がイチバン興味深いと思ったのは次のくだりです。
  • Japan, unlike China, is a democratic and peaceful society in which disputes and even nasty debates can be handled safely. Japan poses no danger to its neighbours. Rather, another country is coming to resemble the Japan of the 1920s and 1930s: one that is developing rapidly, is hungry for energy and other natural resources, and whose nationalist politics sometimes spills worryingly into its streets. That country is China.
特にRather, another country...以下の文章です。「中国は1920年代、30年代の日本と似てきている。急速に発展し、エネルギーを始めとする自然資源を渇望しており、国家主義的政治が時として憂慮すべき状態で街頭にまでこぼれている」ということです。上手い訳でなくて申し訳ないけれど・・・。 「もちろん中国が20世紀における日本の歴史を繰り返すというわけではないが、アジアのみならず世界的な不安定要因(boat-rocker)であることは間違いない」としています。

同誌の社説はThe Japan question will fade. The China question is only going to get louder(日本問題はいずれは消えていく。しかし中国問題はますます大きくなるようだ)という文章で終わっています。原文をご希望の方はおっしゃってください。

前回のむささびジャーナルで中国の反日デモとThe Economistの社説を紹介したところ、いろいろな人からコメントいただきました。いずれもジャーナリストからのものでした。どうも有難うございます。名前を言わずに紹介させてもらうと・・・。
  • 4月17日から25日まで、天津、洛陽、北京を訪問、本年2回目、秋にまた行きます。反日デモ荒れ狂わず、中国人70代の親友2名、旧一高OBはNHKはケシカランと言っていました。放送枠が大きいので反復、増幅をしているのです。行く前に危ないと心配してくれる友人もいましたが、ぼくは「反日デモの先頭に立つ、小泉罷免、日本政府反対、というプラカードをつくる」と答えました。
  • 私は、20年余り前の韓国の「反日」から現在に至るまでを、なんとなく見ていますが、20年を経て、経済力が高まり、様々な考え方が自由にできるようになれば、「反日」も冷静になります。(領土問題だけは、どこも譲りませんが)。だから、中国の「反日」も、そんなに心配してはいません。別に戦争になるわけでもありませんから。
  • あの侵略を正しく総括せず、中国や韓国など隣国の信頼を得られなかったという点で、自民党の歴代政権の責任は限りなく大きいと思います。戦後60年にして、この有様を目にすると、深い虚脱感に襲われます。かつて、不仲の隣国の代名詞であったドイツとフランスですが、独仏枢軸という言葉さえ生まれ、フランスがドイツの常任理事国入りに反対したという話も聞きません。
  • 中国にも韓国にも言いたいことは多々ありますが、やはり、お互いの節目の年に彼らが嫌がることに日本側があまりに無神経だったということが背景に有ると思います。日本側の外交センスの欠如ですね。殴られた方は絶対にいつまでも忘れないのです。ドイツとポーランドを見れば明白です。ロシア、フィンランド関係も然り。産経や正論諸氏には受け入れられない考え方だと思いますが。勿論、目的がよろしければ手段は何でもありというような、なにやらレーニンの受け売りのようなデモの弁護、大使館や商店の破壊という明白な違法行為を認めない中国政府の態度は厳しく糾弾されるべきです。


B久々復活・むささびMの『こういうこと、気付いてました?』
久しぶりに御目文字させて頂きます。私はまだ日本語と英語に係わり続けています。先日、アメリカのオレゴン州から来たばかりのアメリカ人に、まさに「あいうえお」から教えていた時に気付いて、自分の国の言葉なのに新鮮な驚きを感じたのでお裾分けをしたいと思います。平仮名で小さい「ゃ」「ゅ」「ょ」を付けてまともな音になるのは、イ行の音(き、し、ち、に、ひ、み、り)だけだということ、私今まで気付きませんでした。

カ行でいうと「きゃ、きゅ、きょ」だけで「かゃ」とか「くゅ」とか「こょ」という音の組み合わせはないんですね!こういうことを専門に勉強した人には、別にどうということはないのでしょうが、自分で偶然見つけたような体験をすると、大発見をしたような気になってなんだか嬉しくなってしまうのです。

もうひとつは再発見又は再確認といった方がいいかもしれませんが、人が話しているのを聞いているときの人間の脳は、それが母国語であっても外国語であっても、自分のわかる言葉からキャッチするように働き、わかりにくい言葉は自分でわかる言葉に自動的に置き換えるように働くもののようだ、ということです。その言語がfluentであればあるほど、キャッチ出来る言葉の量が増えていき、完璧に解かる状態の時は、相手の言った内容を相手とそっくり同じ文章で再現することが可能になる仕組みになっているのかもしれません。

子供が大人の話す文章の中から自分のわかる言葉だけはいち早くキャッチしているという経験も、わかりにくい講義を聞いている時、自分のわかる言葉には反応している自分に気付く経験も、よくあることだと思います。お母さんたちの英語をやっていて、よりはっきり人間のこういう脳の働きに気付かされたのは、次のようなときでした。Hearingをしていた時のことです。ある文脈の中で「会社のテニスコートでテニスをした」とある人が言うと、もう1人がWhere are they located?と聞くという設定です。後でストーリーを自分の文章で再現してもらったところ、皆その部分をWhere is it?という文章で表現したのです。聞いたままの文章で残らないときは自動変換するんですね。言葉を聞いてる時の人間の頭の中ってそうなっているんだ・・・と妙に納得して感心してしまいました。 こういう脳の働きを先取りした何か画期的な英語教授法を見つけたいと、つい考えてしまいます。

確かに「あ」に濁音というのはないし、「も」に「ぽ」みたいなマルがついたら面白いでしょうね。どうやって発音するのか?そもそも話し言葉と書き言葉では明らかに前者が最初に登場したのでしょうね。となると「あ"」とか「はゃ」という表現もあってもいいように思える。


C短信
退廃的チョコマッサージって何!?

私(むささび)はよく分からないのですが、ダイエットを目指す女性にとって最大の難関はチョコレートの誘惑を断ち切ることなんですって?最近、パリのFour Seasons Hotel内に登場した美容スパの売り物はというと「チョコレートの中に飛び込む」(dive into chocolate)なんだそうです。具体的なメニューはというと、チョコレートで身体をこするChocolate Scrub, トフィーで身体を包むChocolate Wrapそれから濃密チョコマッサージ(Deep Chocolate Massage)の3つがある。このスパのセラピストであるイザベル・シュルンバーガーさんによると、チョコレートの原材料であるココアには「年をとらない特性」(anti-ageing properties)があり、「絶対後悔はしません。それどころか治療後は身体全体が満足感の固まりみたいになっております」と申しております。秘訣は「好きなものを食べないで我慢するという通常のダイエットに対するアンチにある」のだそうであります。
  • ちなみに2時間半コースでお値段は英国ポンドで200というから約40,000円ってとこか。 もう一つちなみに言っておくと、このコースの正式名称はDecadent Chocolate Package(退廃的チョコパッケージ)といいます。やるなぁ・・・。
超高級ホテルが一泊7000円!?

デイリーミラー紙によると、ロンドンの高級ホテルが宿泊料金を間違ってインターネットで広告してしまいちょっとした揉め事になったとのことです。ハイドパークの近くにあるLanesborough というホテルがそれで、ウェブサイトで宿泊料金を一泊350ポンド(約7万円)のところを間違って35ポンド(約7000円)とやってしまったところ、一人で「30泊したい」などの予約が殺到してしまったのだそうで、ホテル側は直ちに料金を訂正して予約のやり直しを求めた。当然のことながら揉めてしまったわけですが、仕方ないので「3泊までなら35ポンドで」ということで手を打ったのだそうです。
  • 私なんかには関係ないようなホテルですが、ここは金持ちや有名人の定宿なんだそうです。
縦型埋葬の良し悪し

オーストラリアのメルボルン郊外に間もなく「完成」する墓地はちょっと変わっているそうです。何が変わっているのかというと、遺体の埋め方が縦(つまり横たわるのではなくて立ったような状態・英語ではfeet-first graveyard)であるということ。老人向け新聞であるThe Ageによると、トニー・デュプレという農場経営者が20年前に考えついて構想を練っていたもので、このほどついにお役所から許可がおりたのだとか。墓地は彼の農場そのもの。遺体は燃やされずに土葬されるのですが、棺桶ではなくて「環境に優しいバッグ」(bio-degradable bag)が使われる。デュプレによると埋葬コストは一体あたり600ポンドで、「年間300ないし400人を埋められる」と踏んでいます。
  • このニュースで笑ってしまったのは、発案者のコメントとして「遺体を縦に埋めるから土地スペースの節約になる」と言われていること。横に寝かせるより、縦にした方がスペース節約にはなりますね、確かに。でも何だか疲れるって気がしないでもないな。ずうっと立ちっぱなしなんでしょ?


D編集後記
▼中国の反日デモを見ていて45年前の「60年安保」のデモを思い出してしまった。自分もその中にいたのでありますが、あの時のデモ隊の中には「ヤンキーゴーホーム!」と叫んでいる人もいたけれど、圧倒的に多かったのは「日本の軍国主義復活反対」であったと思います。つまりあれは反日本政府のデモであって、「反米」というように日本の外側に敵を見ているものではなかった。

▼一つだけ共通点があると思うのは「教育の成果」ということ。「60年安保」は戦後の反軍国主義・平和主義教育の成果であり、中国のそれは(報道されていることを信用したとすると)反日教育の成果である。ただ日本の反軍国主義・平和主義教育も怪しくなっていますよね。国が富んで生活が豊かになると「反」の意識は薄くなるのでしょうか。実はむささびジャーナルを受取ってもらっている人々のうち「60年安保」を身をもって体験した人ってかなり数が少ない。

▼ルパート・マードックが新聞ジャーナリストに対して「読者をバカにするような意識を捨てろ」と強調している、ということは(彼の感覚によると)欧米の新聞記者の意識としてそのようなものがあるということなのでしょうね。

▼5月。実は私がイチバン好きな季節は4月初めだからそれはもう過ぎてしまった。けれどやはり新緑はいいですね。今回も長々とお付き合いいただき有難うございました。

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