musasabi journal

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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
第53号 2005年3月6日 

目次

@イングリッシュオークの周辺:埼玉県名栗小学校
Aブレアの憂鬱と恐怖
B短信
C続・経済学者が語る「幸せってナニ?」
D編集後記


@イングリッシュオークの周辺:埼玉県名栗小学校
昨年、北海道余市町に行って以来、久しぶりにイングリッシュオークのある町へ行って来ました。と言ってもウチから車で30分もかからないところにある名栗という場所にある小学校の校長先生にお目にかかり、最近話題の「ゆとり教育の見直し」について話を聞いてきました。記事が長いので別のところに掲載しました。ここをクリックしてお読みください。

Aブレアの憂鬱と恐怖
ひょっとするとご存知も関心もないことかも知れませんが、今年は英国の総選挙が行われる年です。投票日は5月5日というのが大方の見方ですが、各党とも選挙目当ての発言やら集会やらをしたりして、すでに選挙モードに入っているそうであります。

ブレアさんにとっては1997年、2001年に次いで3度目の試練というわけですが、おそらく彼の率いる労働党が勝つであろうと言われています。理由は簡単で取って代わる政党がいない。保守党にも自民党にも労働党に代わって政権を担当するような人気はない。自民党は第三の勢力として結構人気が出てきているのですが、どちらかというと「反イラク戦争」という姿勢のみの人気という観がないでもない。

不人気の背景

しかしブレア首相の人気はどうなのかというと、これまたさっぱり芳しくない、と指摘するのがThe Economistの政治コラム、Bagehotです。2月19日付けの同コラムはThe end of the affairというタイトルで首相と選挙民の「仲良し関係は終わった」として、ブレア首相が自分の不人気を心配するのも尤もだ(Tony Blair is right to be worried about his unpopularity)と言っている。

で、何故ブレアが不人気なのかというと(Bagehotによると)理由が二つある。一つは言うまでもなく「イラク」。もう一つはspinだそうです。スピンって何かというと、自分に都合のいいことばかり並べ立てて目をくらませるプロパガンダだと思えばいい。例えばイラク戦争について、ブレアが頻繁に「皆さんが私を批判するのは自由です。しかし私の信念に揺るぎはありません」(You may disagree with me but I do believe I'm doing the right thing)という言い方をした。若き宰相・ニュー・ブリテンの旗手・信念の政治家・・・というわけです。

要するにPR会社がやるような宣伝作戦ということですな。これに長けているとされてきたのですが、ここへ来て国民の間で「もううんざり」というムードが急速に広がっているらしい。

女性に受けない?!

特に女性層の評判が悪い。最近の世論調査では男性は39%がブレアを支持しているのに、女性は33%なのだとか。何故かというと教育の充実とか公共医療サービスの向上など、彼がカッコよく掲げた政策、それも日常生活にかかわる政策が余り実現していない。これに加えて「全く必要のないイラク戦争」です。女性に不人気というのはブレアにとってはいたい。8年前にブレア・ブームを起こしたのはまさに女性の間での圧倒的な人気があったからです。

労働党の選挙担当が密かに怖れているのが、かつてはブレアに入れた女性が今回は棄権か自民党へ流れるかのどちらかではないかということです。「労働党の選挙ポスターからブレアの顔が消えたとしても不思議ではない」とBagehotは言っています。

もう一つの「恐怖の種」は保守党支持者の間におけるブレアに対する並大抵でない反感です。殆ど憎しみに近いとのこと。1997年に彼が首相になった頃とはかなり様変わりしている。あの頃はサッチャーさんでさえも「トニーはやるわよ」などと言っており、保守党支持者の中でも結構受けが良かった。

そのトニーが、あろうことか保守党のお友達であるはずのブッシュと伝道師みたいな顔をして世界を舞台に「自由」の旗手みたいにかっこよく振舞っている。彼らにしてみれば、ブレアは「保守党の衣を盗んだヤツ」として忌み嫌うべき存在となっている。

意外に接戦か

不人気首相という意味では、実はサッチャーさんも評判がよくない面は大いにあったのですが彼女の場合、サッチャーは嫌いでも保守党の政策そのものへの反感とはならなかった。ブレアの場合、彼が獲得してきた人気は労働党への人気というよりも、彼によって象徴される「新しい労働党」(New Labour)の持つイメージ的な人気という側面が強かったけれど、そのイメージそのものが嫌われている。

というわけで、選挙では女性が棄権し、保守党支持者はブレア憎しで積極的な投票行動に走るとなると、選挙も案外接戦になるかも・・・というのがBagehotの結論です。 ちなみに最近(2月25日)の世論調査によると労働党39%、保守党37%、自民党18%の支持率だそうで、いわゆる浮動票が初めて保守党に揺れているという結果が出ているそうです。

B短信
天気予報が外れたら罰金だ!

ホンマかいなというような話ですが、モスクワの気象予報官たちは天気予報が外れた場合、罰金を払わなければならないそうです。ルシュコフ・モスクワ市長の命令によるもので、その理由として、天気予報のはずれが市当局に極めて大きな財政上の負担を与えるということが挙げられています。特に問題なのが冬場の予報で、この2月には一晩で20センチもの積雪があり、それが予報されていなかったが故に、雪かき車も適切に出動できず市全体が交通マヒに陥ったのだそうです。

市長のいう罰金がいくらになるのかは明らかにされていないらしい。このニュースを伝える英国の通信社PAによると、実はルーマニア気象庁が暖冬を予測したのに、実際には零下36度という新記録の寒さが続き大損害を与えたというので、気象長官がクビになったということにならってモスクワでも・・・というお達しになったらしい。

▼そんな・・・それを言い始めたら日本の予報官なんて何人クビになったか。

結婚式は5月20日に限る

ヨーロッパでは日にちを数字で表わすのに、まず日が来て、月が来て、次に年がくるというのが一般的ですよね。例えば2005年2月23日は23・2・2005という具合。オランダの当局の話しによると、結婚式の日取りとして、今年に限っては5月20日というのが一番人気なのだそうです。何故かというと、この日は数字で表わすと20・05・2005。2005・2005ということで結婚記念日として記憶しやすいので、特に男性には評判がいいのだそうです。

次に評判がいいのが050505となる5月5日なのですが、この日は祝日でお役所が休みなので結婚届が受け付けられないのだとか。 050505でも例外として結婚を受け付ける町もあるらしいのですが、そのためには約12万円もの特別料金を払う必要があるのだそうです。

▼これって結婚届のために12万も払えってことですかね。そのあたりがはっきりしない。それはともかく私(むささびJ)なんか結婚記念日はしょっちゅう忘れて問題になります。1月13日(113)なんて・・・覚えられない。

不潔症(?)で離婚成立か・・・

デイリー・エキスプレスがイランからのニュースとして伝えるところによると、1年間も一切身体を洗ったことがないという男がいて、その奥さんが離婚を求めて訴えています。現在、裁判中なのですが、原告によるとこの男性は「顔さえも洗わない」のだそうです。結婚して8年目なのですが「夫は結婚した当座はシャワーを一日に3回浴びるし、数分間おきに手を洗っていたのに、急に変わってしまって・・・くさくて子供たちも近寄りたがらない」と言っています。イランの場合、女性が離婚を求める場合、夫が妻にひどい仕打ちをしたことを証明しなければならないそうです。

▼顔も洗わないというのは、確かにむさくるしい。潔癖症の反対は何というのでしょうか?不潔大丈夫症!?

C続・経済学者が語る「幸せってナニ?」
前号のむささびジャーナルで、ロンドン大学(LSE)のリチャード・レイヤードという経済学者が書いたHAPPINESSという本を読み始めたと書きました。大ざっぱな斜め読みですが、一応読み終えての読後感を言うと最初は「面白い・分かりやすい」と思い、次に「つまらない」と感じ、その後「やっぱし面白いかもな」ときて、最終的には「つまらない」となってしまったわけであります。

「先進国では50年前に比べて、物質的には飛躍的に豊富になっているにも拘わらず、人々の幸せ感覚は薄い。何故なのか?」というイントロの部分では、面白い・分かりやすいと思ったのですが、「人間は社会的な存在であり、社会とのかかわりにおいてのみ幸せになれる」というあたりで「当り前じゃんか。キレイごとばかり並べやがって、つまらん」と腹がたった。

幸せファクター

この教授によると、人間は本来的に幸せを感じたがるようにプログラムされており、「幸福感」は客観的に定義づけられ得るものなのだそうであります。で、ある国の「幸せ度」を他の国のそれと比較するには次の6つのファクターを比べる必要がある、とおっしゃっております。
  • @「他人を信用できる」と考える人がどのくらいいるか?
    ANPOも含めた社会組織に属している人がどのくらいいるか?
    B離婚率が低い
    C失業率が低い
    D政府の質
    E宗教的な信仰心がどの程度浸透しているか?
先生によると、英国とアメリカにおいて「他人を信用できる」と考える人の割合は1950年代に比べると現在では半分以下なのだそうで、ヨーロッパ大陸の国においてはこのような減り方はないのだとか。教授はこれらの6つの要素を満たすような政策を促進することが大切だとして、例えばEに関連して、小中学校における「道徳教育」の充実などを挙げています。

政策提言の本

この本は哲学者が「人間いかに生くるべきか」を語るのではなく、経済学者が政府に対する政策提言を意図して書かれたものなのです。「幸せ感」という個人的な感覚の問題としてしか語れない(と私などは思いこんでいる)事柄を、小泉さんとかブッシュ大統領やブレアさんたちに考えさせるための本である。

「幸せ感」という個人的な感覚を通して、世の中のあるべき姿を語り、それを実現するための提言をしている。そうなると「ちょっと変わっている」という意味において半信半疑ながらも「面白い・・・かもね」と思ってしまったというわけです。

本の中でたびたび言われるのは英国やアメリカよりもヨーロッパ大陸諸国の方が、人々の幸せ度が高いということです。後者の方が上に列挙した6つの幸せファクターを比較してみてのことで、ヨーロッパ大陸の国々の方が適者生存・弱肉強食の競争社会ではなく「社会的な落ち着きがある」ということを根拠にしています。

人助けがハピネスを生む・・・か?

この教授は1997年から2001年まで、ブレア政府の政策アドバイザーを務めた人なのですが、そう言われてみると、あの頃のブレアさんは、理想を語る「若き指導者」という感じで「ビジョンがある」などと賞賛されたものですよね。

ただ・・・筆者の語ることに、私としてはどこか納得がいかない。コミュニティ活動・チャリティ精神・貧困救済等など、「人間は他人のために役に立つことをすれば幸福になる」というのは事実かもしれないけれど、ブレアさんがイラクを爆撃すること手を貸したのも、「イラク国民を独裁者から救うのだ」という正義と道徳的信念に基づくものであるとするならば「ブレアさん(とその周辺)の幸せ」のために死んでいった人たちはどうなるのか?

また「アフリカの貧困を救おう」ということで、豊かな先進国の市民たちが募金活動をすれば、彼らの慈善精神は満たされて「幸せ」になるかもしれないけれど、施しを受ける側にいるアフリカの人々の「ハピネス」はどうなるのか?そもそも現在のアフリカの貧困の一因が、英国を含めたヨーロッパ諸国がアフリカ各地で行った搾取にあるかもしれないのに・・・などと考えてくると、やっぱくだらないか、この本は!?

それはともかく、この本には「そういえばそうだな」と思わせるような人間観察がいくつかあります。例えば人間は「現状維持」を好む動物であり、「失うことによる惨め感覚」と「獲得することによる幸せ感覚」の大きさを比べると明らかに前者の方が大きいのだそうです。100ポンド貰って嬉しいと思う感覚と100ポンド失ってガックリする感覚を比べると、後者の方が絶対に大きいのだとか。それは言える。


D編集後記
▼TBSラジオのアクセスという番組で「最近の子供たちはナイフのまともな使い方も知らない」ということについてのディスカッションをやっていた。非常に面白いことを言う人がいました。中学の先生で、その学校ではかつて生徒がナイフで教師を殺害するという事件が起こった。それ以来、その学校では子供たちにナイフはおろか彫刻刀さえも持たせないのだそうです。

▼その先生としては、子供がナイフをまともに使ったことがないというのは、彼らの将来にとって良くないと思って、職員会議で「自分のクラスではナイフを使いたい」と提案してみた。結論から言うと許可されなかったのですが、その時、校長や同僚に言われたのは「そのようなことをして何かあった時にキミは責任をとれるのか?」ということ。
で、その先生は「責任をとれるのかと言われれば黙るしかなかったが、それ(ナイフの使い方を教えるということ)をやらなかったことについての責任は誰がとるのか・・・と思うのですよ」と言っていた。つまり小さい頃に、家庭でも学校でもナイフの使い方を教わらなかった子供たちが大きくなって世の中でナイフに接するようになったときに生ずるかもしれないトラブルのことを言っていたのです。

▼私、その先生が使った「やらなかったことについての責任」というフレーズが大いに気に入ってしまったわけです。うまいこと言うなぁ。そんな責任なんて誰もとらない。結果として日本中にナイフの使い方も知らない大人が増えたとしても、です。つまり「やったことへの責任」ばかり気にして、何もやらないという風潮なのだとしたら情けないですよね。

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